獣の目的
「どうやら鈴成君の中には、霊力とは違う何かがあるみたいね。その力が、霊力を拒んでいるみたい」
ようこ先生の言葉に、鈴成は首を傾げ、そして、なんとなく納得した。異世界産である自分の魂が、岡本鈴成という器に、何か支障をきたしているのかもしれない。
そこで鈴成は、一旦ランゼスを忘れてみることにした。チャンネルを切り替えて、周波数を変えて。ようこ先生に力を出すコツを教わりながら、この世界の“霊力”へと、魂を適合させていったのだ。
「さて、そこで俺は考えました。岡本鈴成の霊力を拒んでいたのは、というか、もともと中に入っていたのは、どんな力かーー答えは歴然としています。霊力にも匹敵する、この世界の力。魔力です」
クロエが、何かを言おうとしている。それでも、ルースは、口を閉じることは許されないのだ。
「俺がランゼスとして生きていた頃、魔力は発展途上の力でした。いいえ、言い直さなければなりませんねーー俺がそこの獣を倒した時から、魔力というものは現れました」
「ランゼス様」
クロエは恐れている。ランゼスがクロエから、復讐の手札を全て奪ってしまうのを。ランゼスは、クロエの頭を撫でた。ローダスの時にはできなかったことだ。
「人々を食い荒らしていた獣を、俺が殺したことで魔法資源が生まれた。この因果関係は明らかです。魔法資源は、元を辿れば人だった、というわけですね」
だから時の王様は、ランゼスに殺させるだけ殺させておいて、ランゼスがそれに気付く前に始末したのだ。
「そもそも、俺たちが獣を殺せると思っていなかったのかもしれません。俺たちは、獣の餌だったのかも」
それが、ランゼスが獣を倒してしまったものだから、王様は慌てふためいただろう。
「人を食べれば食べるほどに魔力を溜められる獣。だけど、貴族でもない俺が、獣を殺してしまい、予定より少ない魔力が、地下の鉱物や、森の木に染み渡ってしまった……血液という形で」
ランゼスとクロエ、そしてローガンは、獣を倒した時に、獣の血を浴びている。
「もしもそれが、魔力の塊だったら? そう考えると、今までのことに納得がいきます。血を浴びた俺たちは、獣の魔力の恩恵を密かに受けていた。だから王様は、いつか俺たちが、魔力のカラクリに気付くかもしれないと思って、殺すことに決めた」
「……ランゼス様じゃないから、頭が良いですね」
「喧嘩なら買うぞローガン? 俺の言ったこと、正解ですか?」
ローガンは、こくりと頷いた。三つ編みを指でくるくると巻いては解き、巻いては解き。
「ええ、それが正解です。付け加えるなら、ラタゴニアで魔鉱石が採れたのは、ランゼス様の魔力によって普通の魔鉱石が変質したからでしょうね。僕たちは王都にいたから、異変を異変だと思わないでいましたが」
「まあ、俺たちがこの子を殺した場所が、王都だったわけですからねぇ」
初めて王都の地を踏んで、懐かしいと思った。ああ、ここで、化け物を殺したんだっけ、と。
「王都は別のところだったはずですが、このために遷都したわけですか」
ちら、と王様の方を見ると、王様は、ばつが悪そうな表情をしていた。当たりらしい。
「まあそれは、別にどうでもいいです。俺が言いたいのは、この子の未練」
この子、というには邪悪すぎる獣である気がしないでもないが、鈴成を経験しているルースとしては、ランゼスの時とは別の方法を探りたいのである。
ーーあの時、荒れてた俺を救ってくれたようこ先生みたいに。
「この子は生き返るために、俺たちに魔力を返してほしくて、こうやってぐるぐる部屋を回っているわけです」




