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悪霊

「岡本家は、代々、この世にとどまっている未練の塊を祓う役目をしてきました。俺は、簡単に言えば、優秀な兄に対してのおちこぼれ。霊力もあんまりなかったので、下級の幽霊しか祓えませんでしたね」


黙り込むクロエとローガン。それを確認して、ルースは続ける。


「あと、俺はなぜか、不良と呼ばれる素行のよろしくない学生に喧嘩を売られていました。ランゼスとしての記憶があり、鈴成の肉体も優秀だったので、霊力を使わなくても倒せてましたけど……で、俺が十四歳の頃。中学校に通ってる時に再会したのが、ようこ先生でした。ようこ先生は、俺が小さい頃にお世話になった人で、実は岡本家と同じく、幽霊を祓う名家の出身だったのです」


その出会いが、落ちこぼれだった鈴成を変えた。ようこ先生は、鈴成の兄と同じく将来を嘱望されていたが、幽霊を祓うことで心を病んでしまい、霊力を失っていた。だが、彼女は持ち前の知識と幼稚園教諭の洞察力で、鈴成の問題点を看破したのだ。


「俺が不良に喧嘩を売られるのは、本来溜めるべき霊力を外に発散してしまっているからだと教えてもらい、霊力を溜める修行をしました。俺の体はどうやら、霊力をたくさん貯められる体質だったらしく、そこからは兄に負けないくらいに強くなりましたね。あと、ちょっとしたすれ違いから、兄とは本気の喧嘩をしましたが、最終的に納豆トーストを食べることで和解しました。あ、納豆というのは……」


あの喧嘩はとても良い経験だった。岡本家と諸々を巻き込んでしまったが、密かに持っていた“殺さなければなんとかならない”という概念をひっくり返された。殺さなくても、なんとかなったのだ。


「実は兄は、俺のことを各界から守ろうとしてくれてることがわかったんです。俺の強大な力を悪用されないように、と。不器用な兄は、トーストを食べながら俺に言いました。“何が欲しい?”と。悪役かよと思いましたが、あれが兄の精一杯の誠意だったんでしょうねーーそれで俺は答えました。面白半分、真剣さは結構あったかな。“そうだな、城が欲しいな”って。次の朝、起きたら近所に城が建っていました」


あんぐりと口を開ける鈴成の肩に手を置いて、いつもは無表情な兄が、してやったりという顔をしていたのを覚えている。


「お前は岡本家の庇護下にあるから狙われるんだ。ならば、お前はお前として、一勢力になれ、と。はい、終わり。えーと、要するにですね」


ルースは、あの時の自分のようにあんぐりと口を開けているローガン、何やら考え込んでいるクロエに向かって、できるだけ穏便になるように、柔らかな口調で言った。


「一度目の転生で、俺は自分の城を持つっていう目標を達成してるので、そんなに城に未練がないんです。いやぁ、自分の城っていいですよね、Wi-Fi完備だし」

「わいふぁ……? でなくて、ランゼス様」


ローガンが、ようやく口を閉じて、ランゼスの肩を揺さぶる。


「どうして、これが、幽霊だと?」


これ、と指差したのは、いつの間にやらルースの近くにいた獣である。ルースは、獣の顎を撫でた。獣は、頑張って目を閉じようとしたけれど、眼窩と眼球がうまく嵌まっていないので、代わりに喉を鳴らした。きぃきぃ、がたがた。


「それは、岡本鈴成としての経験ですね。この子は霊力……は相応しくないな、魔力だけでこの世に顕現している。その証拠に、俺が触っても感触がない」


ランゼスの時に切り落とした角が存在する。幽霊というのは、生前、自分の最も理想とした姿で現れる。


「だが、それは、私の臣下を殺したのだぞ!?」


突然飛んできた声の方を向けば、王が、がたがたと震えながら、獣を指差していた。


「ただの幽霊ならば、人間を殺せるはずがない」

「そうです。だからこの子は、悪霊なんです。何らかの未練があって、人に危害を加えてしまう。ね、クロエ、ローガン。その未練こそが、俺たちなんでしょう?」


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