岡本鈴成
ランゼスが慕われていたことはわかったのは良いが、状況が最悪すぎる。
「そうです。いっそ、王位を奪ってしまいましょうか。吟遊詩人にでも、ランゼス様の英雄譚を語らせて」
「ランゼス様の命の上に立つ王国です。当然の権利ですね」
右から左から。暴走する部下たちの言葉が飛んでくる。ルースは、「ストップ」と言って、部下二人の手を振り払った。そんなに、大いに傷ついた顔をしないでほしいのだが。
がしがしと自分の頭を掻き、隅っこでぶるぶる震えている人たちを指さす。
「結論から言いますね、俺は復讐を望んでいません。本人がダメって言ってるんです。クロエ、ローガン、この人たちを解放しなさい」
「お断りします。ランゼス様の夢を奪った王家や、『神代の森派』を許すことなどできません」
「私が奪った貴方の夢を、お返ししたいのです。ここを、貴方の城にしましょう」
ランゼス以上にランゼスに取り憑かれている二人。ルースは、「困った」と呟いた。本当に困ってしまった。
「どうして貴方たちは、俺の夢にこだわるんですか?」
「どうしても何も。それが、ランゼス様の悲願でしょう!」
「望まぬ貴族になったのも、私が、僕が貴方を殺そうと思ったのも、それが原因です」
こういうのを、あちらの世界では何と言ったか。ああ、そうだ。
「いや、重。こんなに重かったっけ、俺の部下たち」
感情表現が殺伐としすぎているのは、この世界故か。冷めた反応をするルースに激昂寸前な二人。
「ランゼス様! ランゼス様は、悔しくないのですか!? やっと、自分の城を持てるという時に殺されて」
「僕にもずっと、うんざりするくらいに語ってましたもんね。城が欲しいって!」
「あー、城、城ね。たしかに、欲しかったですけどぉ。今は別に」
ルースがそう言った途端。風切り音がしたかと思えば、クロエが王族に杖を向けていた。
「お前たちは、ランゼス様の夢を奪った。死んで詫びろ」
「僕も死のうっと」
「軽やかに殺害予告したり、死のうとするのやめてくれませんか……あー、わかりましたわかりました。それなら俺も、ランゼスとルースの間にあったことを話します」
こうなればヤケである。ルースは、とうとうあのことを話すことに決めた。
「実は、俺も転生は二度目なんです。といっても、二人のようにこの世界にもう一度生まれたわけじゃなくて、地球っていう星の、日本という国に生まれたんです」
「ち、ちきゅう?」
「にほん……」
初めて言葉を覚える幼子のように、噛み砕ききれていない表情をする二人。それはそうだろう、ルースだって、こんな話をされたらそんな顔をする。
「その時の俺は、岡本鈴成という名前だったんですけど、そこで俺は、人は簡単に殺してはいけない、物を盗んではいけない、人が不快になることはしてはいけないというモラルを学びました。今思えば、クロエ、結婚の話ばかりしてすみませんでした。ローガン、仕事ばっかさせてごめん」
ルースは二人に頭を下げた。クロエとローガンは、顔を見合わせて、二人同時に溜め息を吐いた。
「や、やっぱり謝るの遅いですよね……えっと、続きいいですか? それで、前の世界にも学校というものは存在していて、俺は学業のかたわら、落ちこぼれなりに家業を手伝っていました」
「いえ、私たちが溜め息を吐いたのは、そういうことではなく……家業、ですか?」
クロエが首を傾げる。ルースは頷き、のっしのっしと歩く、角のある獣を指差した。
「はい、家業です。主に、この子のような、幽霊を祓うんです」




