太刀筋と態度
見紛うはずもない。戦場で、何度も見てきた太刀筋だ。
さきほど、ローダスがルースを狙って繰り出した杖の軌跡・体捌き、間違いない、それは、クロエのものである。どこの流派でもなく、ランゼスが手ずから教え、教えた本人よりも綺麗な太刀筋になってしまった。
「あ、ぇ、へ? ……ぁ?」
思考停止、とでも言うのだろうか。ルースが頭から足をどかすと、ローダス(と言っていいものか)は、一文字しか喋れなくなっていた。
「え? あ、ら、ランゼス、さま?」
「そーだよ。そういうお前はクロエであっ」
言い終わる前に、ローダスがルースに飛びつく。体格差を考えてほしい。したたかに頭をぶつけたルースは、強引にローダス、というか、クロエを剥がした。
「説明してくれるよな、クロエ」
ひた、ひた、と歩く化け物が、自分に鼻先を擦り付けてくるのを感じながら。ルースは、クロエの話を聞いた。
「私がクロエだった頃の記憶を思い出したのは、物心ついた時です。アルフリートの家系に生まれ、既に“魔法資源”のからくりを知っていた私は、とても歓喜しました。そして、少しだけ、神とやらを恨みました」
クロエは、自らの右手を見ていた。
「生まれ変わり。到底信じられませんでしたが、これは好機だと思いました。なにせ、私が転生したのは、ローガンの子孫だったのですから」
右手を、ぎゅっと握り。クロエは、獰猛に笑った。
「私は、クロエとして死ぬ直前に誓いました。どんな手を使ってでも、貴方を裏切った者たちを殺してみせる、と。一族郎党、子孫に至るまで」
どん、と胸を力強く叩いて。
「それは、ローダス・アルフリートも例外ではありません」
「なるほど。ローガンの子孫の名誉も汚せるしで、一石二鳥というわけですね」
「一石……?」
「俺の敵討ちと、ローガンの名誉の失墜。両方できるってことです」
「というか、ランゼス様、口調が……」
「おっと」
ルースは、むにょむにょと頬を手のひらで揉んだ。気を取り直すように、ぱん、と手を叩く。
「それで、こんなことを考えちゃったわけですね。で、自分の子孫を巻き込んだのは?」
「敬語で統一されちゃった……」
「そっちの方が今の俺は楽なんで。ニアさんも、一族郎党に入っているということなんですか?」
「それ、なんですけど、ランゼス様」
もはや口調には言及せずに、クロエは、なぜか壁際に座り込んでいるニアを指差した。
「あれは、私の子孫なんかではありません。そもそも、私は、子を成していません」
「……へ?」
今度は、ルースの思考が停止する番だった。
「あれ? よくわからなくなってきました。幸せ、なのはともかく、結婚したのでは?」
「…………諸事情により、私は結婚しませんでした。貴方が亡くなったその後に、ローガンに直ぐに殺されたので」
「じゃあ、ニアさんがここにいる理由は?」
ルースがニアの方を見ると、ニアが、さっと目を逸らした。編み込んでいる髪を揺らして。
そのあからさまな態度に、ランゼスは大いに見覚えがあった。初めて会った時とは真逆で、長い年月を過ごしていくうちに、彼はいろいろな感情を見せてくれるようになった。
『あはは。それは、まあ、あるかもしれないですね。はい』
ルースがブリーゼル派だと言った時の、ニアの強引に納得したような反応。理知的な横顔。クロエの子孫じゃないのに、ローガンの姓を知っている。そして、クロエが殺そうとしている人物……そこまで考えて、ルースは大きく息を吸った。
「いや、お前がローガンかよ!?」




