魔力の蓄積
「ご家族も心配してますよきっと。なぜなら俺の家がそうだからです。帰りが遅くなったら寸劇が始まりますから」
入り口にいた少年は、あっという間に、ローダスとニアの間に割って入った。ニアの手をとって、ローダスに背を向けながら。
ローダスは、その背中に向かって言葉を投げつける。
「忠告するぞ、ルース・タイアード。今すぐに、城から出て行け。さもなければ殺す」
ここでようやく、ルースはローダスの方を振り向いた。彼にしては不敵な笑みを浮かべる。
「そちらこそ、俺の学友を傷つけようとしましたね? 城から出て行け? 出ていくのは、学園長の方では?」
「話にならないな」
ローダスは、迷わず杖を振った。紫電が杖の先から迸り、ルースの眉間を貫くーー
「完ッ全に殺す気だったな!? 殺す気でしたね!?」
とは、ならなかった。なぜなら、ローダスの前から、ルースとニアが消えていたからだ。
少し離れた場所に、目にも止まらぬ速さで移動した。ニアを抱えながら、喚いている。
「る、ルース君下ろして」
「いいですか、ニアさん。貴方がクロエのことで悩む必要はありません。なぜならクロエは、幸せに死んだからでーーわっきゃぁ!」
ルースが素っ頓狂な声を上げながら、それでも、踊りでも踊るように、ローダスの魔法を避けていく。
ーー手練れだ。
ただ闇雲に逃げているのではない、王族や、レンドン派といった足手まといを、電撃に当てないように、逃げる場所すら調節している。
その動きは、明らかに人間離れしているもので。
ローダスは、彼の故郷のことを思いだした。
「なるほど、君の体は、魔鉱石の恩恵を受けているのか」
ルースの故郷は、ラタゴニア。彼の実家では、魔鉱石が大量に採掘されたという。彼の類まれなる身体能力の理由は、それだろう。
すなわち、魔鉱石による魔力の蓄積。本来外付けの魔力を、人間の体内に溜め込んでいるのだ。
そんなことが、果たして可能だろうか? 答えは、是である。
王族や、レンドン派が逃げないように、始原の獣に見張らせながら、ローダスはルースと距離をとり、杖を、構えた。
「……」
ルースは、ローダスを見て目を見開き、ニアを床に下ろした。
ーー間接的に恩恵を受けた人間と、直接受けた人間、どちらが強いかは明白だ。
外付けの魔力は、発動が遅い。となれば、体内に蓄積した魔力を使うまで。
ローダスとルースは、同時に床を蹴った。
ルースはローダスの膝目がけて足払いをしようとし、ローダスはルースの眉間を狙って、剣のように杖を突きつける。
だが、それはあくまで囮だ。意識をそちらに向けられればそれで良い。ルースの足払いを跳躍して避け、本命の一撃を……
「ーー俺も、なるほどって言っていいですか?」
瞬間、ローダスを襲ったのは、恐怖だった。顔を上げたルースが晴れやかに笑って。
「貴方は小柄なんだから、敵の懐に潜り込めって教えましたよね? 空中は身動き取れないからやめろって。ていうか」
力を溜めたルースが床を蹴り、ローダスの顎に、一気に拳を叩き込む。
どさりと倒れたローダスの頭を踏みつけて、ルースは「はぁあ」と溜め息を吐いた。
「俺の真似しても強くなれないって、何度も言ったはずなんだけど。なぁ、クロエ?」




