最後まで
「筋書きとしては、こうだ」
ローダス・アルフリートは、柔和な笑みをかき消して、神経質な瞳で、各々を見回した。
彼らや彼女らは、ローダスが自ら招待した客人である。
王族を杖で指し示し。
「ローガンと共に、ランゼスを裏切った王族は、密かに“始原の杖”を所有していた。ああ、始原の杖はご存じですね? これの角からできる杖です」
これ、とローダスが目線で示したのは、地にも海にもいない、この世にたった一匹の獣である。獣もまた、眼窩からずれている眼球を動かして、ローダスを見た。
ローダスは、獣の顎を撫でた。もっとも、これが顎であるかはわからない。
「それを不満に思っているのが、四百年前、王と結託していた『神代の森派』。今はレンドン派と名乗っている、そこのクズども。けれど、クズにはクズなりの使い道があった。さきの事件で、王族が杖を秘匿しているという情報を広めてくれた」
杖を向けられて、レンドン派の幹部は身をすくませた。だが、勇気あるものが一人。
「クズどもだと? アルフリートの面汚しが、我らの悲願を理解できないとは」
「黙れ」
ローダスは、杖を一振り。発言者の眉間を正確に電撃で撃ち抜いた。どっ、と後ろに倒れる男は、陸に上がった魚のようによく跳ねた。
ぱん、と手を叩いた。教室内の生徒を静かにさせるような仕草だ。
「本当に貴方たちは、私の神経を逆撫でするのがお上手だ。皆決まって同じことを言う。アルフリートの面汚し。家門に泥を塗りたくったのは、他ならぬローガンだというのに……」
憎々しげに呟いて、ローダスは、強引に顔の筋肉を緩めた。
「さて、お話の続きです。結論から言えば、これは、呪いの物語です。ランゼスの死に関わった人間はみんな死ぬ。彼の亡霊に殺されて。そのために、偽ランゼスというものも作り上げた」
部屋の片隅に立てかけてある鎧。それのそばに歩み寄り、ローダスは、そっと撫でた。
「さて、皆さん遺書を書きましょうか? 私たちは、愚かな血と愚かな意志を受け継いだ、どうしようもない人間です、と。ああ、貴方もですよ、お姫様」
幼い姫君は、妃に縋ってぶるぶると震えていた。『私は大きくなったら、貴方の学園に入る』などと言ってくれたお姫様だ。
ローダス・アルフリートとして言うならば、ローダスは、このお姫様が好きだった。だが、ローダスでないとするならばーー反吐が出る。
姫君の前に、ローダスは跪いた。
「四百年後、私は教訓を得た。何だと思う?」
「わか、わかりません」
「君のような可愛らしい子でも、奴らと同じ血が流れているということさ」
「で、でも、“始原の獣”の血は、この国を豊かにして、それは、独占しちゃいけなくてッ」
「ほら、こんな小さな子でも、間違ったことを平気で言う」
ローダスは、姫の隣にいる王に笑いかけた。無理に作った笑顔ではなく、心からの、憐憫の笑みだ。
「だから、お前たちはかわいそうなんだ」
ローダスは立ち上がった。
「この虐殺が終わったら、私は城の外に出て、“これ”に自分を食い殺させる。そして、ランゼス様の呪いは完成するんだ」
ニアの喉元に、杖を突きつける。
「そして、記念すべき一人目がお前だ。地獄で喜べよ。前とは逆だ、私は最後まで見届けてから死ぬ」
ニアは、じっと、ローダスを見つめた。
「さようなら」
ローダスがそう口にした、その瞬間。
どごぉぉぉん!!
この玉座の間を揺らす大音響。次いで、重厚な扉が勢いよく吹っ飛び、聞こえたのは。
「あれ? なんか、思ったより人が多いな?」
呑気な声。煙に紛れて現れたのは、無責任なことを口走った、成金貴族の少年である。
ルース・タイアード。今のこの状況に怯えることなく、彼はニアを見つけ。
「あっ、ニアさん! 探しましたよ、一緒に帰りましょう!?」
あっけらかんとした笑みで、手を振りながら言ったのである。




