子孫の苦悩
「ニアさーん、ニアさーん」
どうやら、ロイエンターレの関係者は極秘でニアのことを探しているようなので、ルースもこそこそとニアを探すことにした。
「ニアさーん、どこですかー?」
学園から離れて、ルースは思いつく限りのところを探していた。けれど、ニアは見つからない。
いくら王都が広いとはいえ。
「報告します、東地区を探している部隊よりーー」
「こちらにもいない。一体、どちらに」
ーーロイエンターレの関係者がしらみつぶしに探しても見つからないっていうのは、変ですね。
時折遭遇しそうになるロイエンターレと思われる関係者を避けながら、ルースは路地裏で考えた。
ーーローラー作戦でも見つからない。ということは、民家とか、店舗の中、それから。
ルースは、ちらっ、とそちらの方向を見た。青と橙が混じり合った空。まさしくあの日の光景のように、聳え立つは王城である。
「……建築技術は、あんまり進化しなかったんだなぁ」
「ええい、山勘だ」
異世界人が絶対に理解できない言葉を呟きながら、ルースは家家の屋根を飛び移る。目指すは王城。
何の根拠もないが、強いて言えば、彼女はランゼスのことが気になっているクロエの子孫だ。
ローガンの苦悩を見ても分かる通り、この世界で、血のつながりというのは、祝福であり呪いである。貴族の世襲性がある一方で、身分の低い人間や、犯罪者の子孫に生まれてしまった人間は、浮き上がるチャンスすら与えてもらえない。
ーーそれをひっくり返したのが、“魔法資源”なんですけどね。
ランゼスの時には、それがどのような意味を持つのかはわからなかった。だが、四百年経った今、魔法資源は、たしかに、人間社会の構造を変える劇物であり、薬であったのだ。
「あの時、魔法資源がもっと国に広まってれば、俺も違う生き方をできたのかもなぁ。なんて」
ルースは、柄にもなく自分の手を見た。
「前世の記憶があるっていうのも、難儀なものですね。殺した人たちの記憶が消えないや! いやぁ、きっつ……」
ランゼスの時はなんとも思っていなかった。途中で良い人になるなんて、簡単だと思っていたのに、余計なところを経由したばっかりに。
「じゃなくて」
ルースは、ばちんと頬を打った。もうすぐ丘の上にある王城に着く。土を盛り、木や鉄屑を寄せ集めている様は、侵入者を阻もうとしているというより、中にいるものを出さないようにしているみたいだ。
「学園長同様、ニアさんもまた、子孫であることに苦悩しているのかもしれません」
それらを踏みつけて登りながら、ルースは、ぎゅうと拳を握った。
ーークロエは頑固なところがあったけど、真っ直ぐな子でした。彼女の太刀筋は、一度見たら忘れられないほどに綺麗でしたし。
ニアが背負う必要はないのだと、ルースは伝えたい。
偽物のランゼスを支持するクロエのことなんて、気にする必要はないのだ。
「学園長には、俺の言葉は通じなかった。だからーー」




