お見舞いにきたけれど
「学園長を怒らせてしまった」
あの後、なぜか呆然としたローダスの元から帰ってきたルースは、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「子孫には子孫なりの悩みがあるというのに。ああもう、ローガンもローガンだ。俺を殺したことを黙ってればよかったのに……っと、いけません。ニアさんのお見舞いに行くのに、こんな顔をしていては、病人を不安にさせてしまいます」
ぱん、と両頬を叩いて、そのまま、ルースは表情を柔らかくしようと努めた。
今は、担任のオービルに教えてもらったニアの家に行く最中。成金貴族が大大貴族様のお見舞いに、という考えはもう捨てた。
ニアの家に近づくにつれて、ルースは異変に気付いた。家の前が、騒がしい。
「あ、あの。ここって、ニアさんのお宅です、よね?」
家の門は、がっちりと閉まっていた。ルースは、門の前にいる人たちの一人を捕まえて、そうやって聞いた。
「君は、ああ、ニア様のご学友かな」
制服を着てきてよかったと、ルースは思った。
「そうです。風邪をひいたと聞いて、お見舞いに来ました」
「気持ちはありがたいが、ニア様から伝言を申しつかっていてね。うつるといけないから会えない、心配しないで、とおっしゃっていたよ」
「……そうですか。わかりました。ありがとうございます」
ルースは頭を下げて、とぼとぼと帰り道を歩き出した。
「今のは?」
「ニア様のご学友だ。風邪というのを信じて、見舞いに来てくれたらしい」
「そうか、心苦しいな」
「ああ、早く、ニア様を見つけなければ……」
「なるほど」
と、ルースはロイエンターレの敷地内で小さく呟いた。
あからさまに怪しいので、裏に回って先端の尖ったフェンスを超えて、壁を登って屋敷の屋根の上に上がってまた降りてみたのだが、どうやら、ニアは風邪ではなかったらしい。
ーーどうやら、行方不明みたいですね。さらわれたのか、自発的に姿を消したのかはわかりませんが……。
いずれにせよ、早く見つけた方が良いだろう。レンドン派の一件から、ニアは弱ってしまっているみたいだから。
「……ニアさんを、探さねばなりませんね」
「……お前、はじめて会った時と、ずいぶん変わったなぁ」
「それは、良い意味でですか? 悪い意味でですか?」
「良い意味で。って、俺も人のこと言えねえか。まさか、拾ったガキ養うために、国家の犬になっちまうとは。次は貴族でも目指してみよっかなぁ。さすがに権力持てばモテるようになると思うんだけど。どう思う?」
「あはは。それは、まあ、あるかもしれないですね。はい」
「ほんっと、お前変わったわぁ。まじで傷ついた」
「良い意味で変わったんでしょう。それを言うなら、ランゼス様だって。僕が最初で最後じゃなかったんですか?」
「いやぁ、俺、今までやってきたことで、信頼度くっそ低いからさぁ、なんか良いことしといて、貴族への道を切り開いておきたいじゃん?」
「だから助けたんですか、その人」
「あわよくば、俺に惚れてくれないかなぁってさ。あ、起きた。よっ、気分はどうだ嬢ちゃん」




