拾われた日の思い出
「うっひょー、お宝ざっくざく!」
燻った臭いが、鼻を麻痺させはじめていた。耳までおかしくなったかと思ったら、声はどんどん大きくなっていって、しまいには、大柄な男が見えるようになった。
「ん、なんだぁ、ガキか。生きてるか? おーい」
なんだ、火事場泥棒か。僕は、男を見て、顔を伏せた。もうどうでもいい。どうにでもしてくれ。
暗闇の中、どうしてこんな目に遭わなければいけなかったんだろうと思って……顔を上げる。
「お、起きたかガキ」
「……なんで、僕を助けたんですか」
「なんでって、お前知らねえの? あの村の周りには、死体目当てで、獣が集まってきてたんだぞ」
「それが、どうしたっていうんですか」
「どうしたっていうんだろうなぁ」
なんだそれ。僕を助けた理由を説明しようとした男は、途中で説明を放棄した。僕は、男の背中から降りようとしたけれど、男の腕力に敵うはずもなかった。
「お前の考える通り、俺は悪い奴だから、死体から金品を拝借しようって思ってあそこに行った。お前、家族は?」
「死にました」
「それは辛かったなぁ」
「死体漁りに来たくせに」
「あのな、確かに死体漁りはしたけどさぁ、悪人がいつでも悪人やってると思ったら大違いだぞ」
呆れたような声が返ってきて、僕は、自分が諌められているのだとわかった。こんな男に。
「悪人だって、たまには良いことをしたくなるんだ。いつでもどこでも、蟻を踏み潰すことを考えてるわけじゃねえの。悪を貫くことができる奴なんて、この世に数えるほどしかいねぇだろうよ」
善を貫くことも同じだと、知ったような口をきく。
……今思えば。
僕は、私は、あの時、死んでいれば良かったのだ。
そうすれば、ランゼス様を裏切ったあの男は、ずっと賢君でいられたのに。
そうすれば、あの恋心を抱いていた優しい少女は、血濡れた地面をかき集めなくて済んだのに。
そうすれば、焼け跡で拾われた少年は、夢を見ることはなかったのに。
……置いていかれる恐怖を、味わうことはなかったのに。
「そもそも、お前は、ローガンの子孫だろうがッ」
苦し紛れに吐かれた言葉に、ローダス・アルフリートは溜め息を吐いた。
「それが?」
と、檻の中の男たちに、極寒の視線を向ける。
「私は確かにローガンの子孫です。ですが、ローガンと思想を同じくはしていない」
「アルフリートの面汚しめ」
「……ローガンが汚したのは、アルフリートの面ではありませんよ」
椅子から立って、檻の中の男と、目を合わせる。
「ローガンは、ランゼス様の夢を汚したんだーーさて」
穏やかな笑みを浮かべたローダス。彼が懐から取り出したのは、象牙にも似た質感の、小さな杖である。
「お前、それは」
「“始原の獣”のーー」
言葉は続かなかった。なぜなら、檻の中の彼らは、もういなくなっていたからだ。代わりにいたのは、形容したがたい化け物である。
檻の隙間からぬるりと這い出た化け物は、立て付けの悪い戸を引くような声を出して、皮膚とも毛並みともわからない体を、ローダスに擦り付ける。ローダスは、憎悪の籠った瞳を歪めて笑った。
「せっかく、『神代の森派』を滅ぼしたのに、後発組織が出来ていたとは思わなかった。やはり、やるなら徹底的にやらなければ」




