貴方に追いつけますよね
「結界は、やはり内側から破られていたよ」
翌日。
ルースとニアは、学園長室に呼ばれて、調査結果を知らされた。
「よほど優秀な生徒か……もしくは、教師でなければ、それはできないだろうね」
ローダスの言葉に、オービルが重々しく頷く。
「というか、教師の面が濃厚だ。学園に張られた結界が、そんなに簡単に破られてたまるか」
「そういうことだよ。君たちは不安になるだろうが……伝えておいた方が良いと判断した。こんなこと、言いたくはないが、教師には充分気をつけてくれ」
「は、はいっ」
「はい、わかりました」
「ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」
学園長室から出た後。ニアがルースの袖を掴みながら、ぽつりと言った。
「私が、中庭に出なければ、人質に取られることもなかったのに」
「そんな、悪いのは、レンドン派ですよ。あと、彼らをここに招き入れた人物です。ニアさんが気に病むことはありません」
ルースは、力強く、かといって大声でも言えないので、囁いた。ニアが顔を上げる。ガーネットの瞳が揺れていた。
「ルース君って、不思議な人だよね。敬語で気持ち悪いと思ってたけど、いざとなったら勇気があるし」
「ありがとうございます」
「私の知ってる人みたいで、安心する」
花が綻ぶように、ニアは笑みを浮かべた。雨に打たれて、冬を耐え忍んで、ようやく咲いた花みたいに。
「だからもう、これ以上は巻き込めないかな」
はじめ、ルース・タイアードは復讐の駒だった。ニアと一緒に行動して、ニアと一緒に、ランゼスの真実を知るための。
そのために、学園に馴染めない成金貴族はちょうど良かったのだ。
だからこそ、ニアはーー内側から結界を破り、レンドン派を招き入れた。わざとローガンの話をさせた。
誤算だったのは、ルースがローガンを知っていたこと。
ニアは、ぎゅ、と服の胸のあたりを掴んだ。
暮れゆくロイエンターレの前庭を眺めながら。あの日の炎のように、真っ赤な。
「ルース君、知らないでしょ。貴方が所属しているブリーゼル派ってね、私が作ったんだよ」
すべては、この時のために。
「魔法資源の解放。それを謳ってやれば、食いついてくると思ったんだ……『神代の森派』が」
王族。ローガン・アルフリートの一族。『神代の森派』。それら全てを、殺してやりたくて、終わらせたくて。
「そうすれば」
とろけるような笑み。ニアが見ていたのは、昔日の思い出だ。
「貴方に追いつけますよね、ランゼス様」




