呪いと化け物
結局のところ、誰が何のためにやっているのか、まるでわからなくなってしまった。
「クロエは、俺が死んだ後に結婚して子供を産んでいる。子孫がいるってことはそうなんだろうな」
たぶん、ランゼスのことなんて忘れて、幸せに暮らしていたんだろう。それで良い。ランゼスの最期なんて知ったら、自惚れではないが、クロエは復讐に走るだろうから。
「と、すると、誰がクロエの名を騙り」
ランゼスの名を騙っているかである。
「まっったくわかりません」
両親に号泣された後、夕食を食べ終え、風呂に入ったルースは、ばたんとベッドに倒れた。
「もういっそ、俺がランゼスですって言ってしまいましょうか……」
気でも狂ったかと思われるだろうが、果たして過激派組織らしいブリーゼル派を名乗るのと、どちらがデメリットがあるだろうか。
「それもこれも、王城に引きこもってる偽ランゼスのせいです。っていうか、偽ランゼスって何のために王城にいるんですか?」
それこそ、レンドン派が言っていた、化け物の角でできた杖……魔法資源目当てだったりするのだろうか。
「これが一番ありそうな気がしてきましたね」
つまり、レンドン派が学園を襲ったのと同じように、杖のある本拠地・王城を襲おうというわけだ。
「……ローガンもまた、あの化け物のことについて知っていた。だから、倒してはいけなかったのかもしれません……それならそれで、言っておいて欲しいものですが」
倒した後に言うのは、なんというか、後出しすぎないだろうか。殺されただけに、なんとなくもやっとした感じを覚える。
「整理するに、この現状」
がばっ、とベッドから飛び起きて、ルースはキメ顔をした。
「百パー俺のせいですね」
ランゼスが、化け物を退治したからこそ、杖が生まれた。そしてその杖を狙って、いろんな派閥が暗躍しているというわけだ。
「とんでもない時代に生まれ直してしまった……」
どうせなら、もっとこう、全てが解決した時代に生まれたかった。
「呪いというのは、一代限りではないんだ」
がしゃ、がしゃ。
震える王を前に、彼はそう言った。
彼が王城を占拠してから、いく日も経つ。身体を鎧で覆い、まったく姿の見えない彼は、かろうじて声で男だとわかる。
彼はいつも王城にいるわけではない。だからといって、王族が、この城から出られるわけでもなかった。
なぜかといえば。
ひた、ひた。
爪が生えているわけでもない、だから足音にそんなに存在感があるわけでもない。だが、その姿は、見る者全てを恐怖に落とし入れる。
この化け物がいる限り、王族は、外に出られない。この化け物に食い殺されて、騎士も大臣も、みんな、死んでしまった。今では、城に寄り付く者は誰もいない。
王は、この化け物に見覚え……聞き覚えがあった。角の生えた化け物。伝聞で知っている、英雄ランゼスが討伐した化け物の外見にそっくりだ。
それが、鎧を着た男に身体を擦り付けていた。
「わかるか? 呪いというのは、一族郎党、すべてに掛けるものなんだ」
一見、懐いているようだがそうではない。視覚なんかロクに機能してなさそうなこの化け物は、男の持っている“それ”に反応しているだけ。
「俺を裏切った人間は、末代まで死んでもらう」




