クロエの子孫
「何者、とは?」
「……どうして、学園長がローガンの子孫だって知ってるの?」
「あっ」
そうか、とルースは口を覆った。ローガンの子孫がローダス。そういう前提で、レンドン派の男と喋ってしまったけど。
ーーもしかして、一般的には、ローガンの子孫が学園長ってこと、知られてなかったり? クロエの姓は伝わってるのに?
下手なことは言えない。ルースは少し考えた末に、口から手を離して。
「ふっふっふ、よくわかりましたね。何を隠そう、俺はブリーゼル派なのです!」
嘘を吐くことにした。
「ブリーゼル派……?」
「そう、ブリーゼル派です」
もう少し、詳しいことを母に聞いておけばよかった。人の名前だということしかわからないが、レンドン派と並び立つ危険な派閥らしいし、ローガンの姓を知っていても不思議ではないのでは?
「ブリーゼル派、ブリーゼル派かぁ」
編み込まれた髪を揺らして、ニアは、ぶつぶつと呟いていた。理知的な瞳が、どこかで見た真剣さと被る。
「それは、まあ、あるかもしれないよね。うん」
ーーあ、なんか強引な納得の仕方してるな。
処世術を覚えたばかりの、小さな子みたいだ。なぜかそう思った。
「それにしても、ブリーゼル派かぁ、はじめて、見たかも」
「そうですよね、人口少ないですからね」
適当なことを言いながら、ルースは果たしてブリーゼル派とは何なのかを考える。
ランゼス派は、魔法資源強奪。レンドン派も似たようなものだとすると、ブリーゼル派も魔法資源関連の悪事を働いていたりするのだろうか。
「主な活動内容としては、魔法資源を解放することです」
「わぁ、すごく悪役っぽい」
ニアの生ぬるい視線が刺さってきて、ルースは縮こまるしかなかった。はたと気付く。
「い、いや。ちょっと待ってください。それを言ったら、どうしてニアさんも、ああいう聞き方をしたのですか? それでは、まるで」
まるで、ローガンの子孫は学園長だと、確信しているかのような。
「あ、気付いちゃった? それはね、私が、とある人間の子孫だからだよ」
「とある人間?」
「クロエ・アランシール」
その名前を聞いて、ルースは、大きく瞳を見開いた。
「クロエ…………って、あの、ランゼス派の筆頭とかいう?」
「うん、そう。苗字は変わっちゃったけど、私の先祖はクロエなの。あっ、他の人には言わないでね。色々面倒くさいから」
なんということだ、クロエは結婚していたのか。
「うん、言わないよ。よかったね、よかったなぁ……」
「な、なんで泣いてるの?」
そうは言われても。ランゼスは、クロエのことが心配だったのだ。結婚式には行けなかったけれど、こうしてクロエの子孫に会えて、とても感激している。
「よかったなぁ、よかったなぁ」
「変なの」
ニアがぼそっと傷つくことを言ってくるが、ルースの涙は止まらなかった。
ーー戦場から帰って、幸せな家庭を築いたのですね。良かった、良かった……。
そう思いながら、ふと、顔を上げる。
「それだったら、ランゼス派を名乗っているクロエとは、一体誰なんでしょう」




