知りうるはずのない情報
ルースに杖を突きつけている男は、くっ、と口の端を持ち上げた。
「なかなか見る目があるじゃないかお前」
「当たりですか」
「ああ、なにせーー」
隙だらけだ。男が喋っている最中、ルースは床に手をついて、男の首に、左から蹴りを当てようとした。左腕で防ごうとする男、を確認し、杖を持っている右手に噛み付く。
「いっっ、でぇっ!?」
からん、と音がして、ルースは縛られた腕ごと杖に飛びついた。これは、おそらく魔鉱石と同じ魔法資源。授業でやったように……ニアが教えてくれた通り、炎を出した後は、燃えるなと強く念じる。
思うに、この魔法というのは、制御しようという方が間違いなんだろう。炎は、燃えるか消えるか。極端な思考でなければ、魔法は応えてくれない。
焦げ臭い匂いがして、ルースの腕を縛っている縄が切れる。
「形成逆転、ですね」
狼狽えた男の膝目がけて蹴ってやると、簡単に床に転んでくれる。ルースは、杖を制圧した男に向けながら、入り口に立つ男に目を向けた。
「それで、貴方達の仲間は? どこにいるんです?」
「……はっ、お前の考えもしないところさ」
「学園長とでも言うつもりですか?」
「ああ。そうだ」
「嘘ですね。彼がローガンの子孫だとしても、ロイエンターレ家のお嬢様を巻き込むのは、理に適っていません」
この男達が、どうせ口封じするならと考えてローガンのことをぺらぺら喋るにしても、そして、ニアとルースを口封じできたとしても。大大貴族の娘が死んで王国を敵に回すデメリットに比べれば、口封じできたことのメリットが少なすぎる。
ーーつまり、この人は、俺の話に乗っただけ。黒幕は他にいる。
ルースは、少し安堵した。
「……なんなんだ、お前」
対して。男は、目に見えて動揺した。
「なんで……っ」
「は?」
その時だった。入口の男が急に背後から倒れ、男のいた場所には、ローダス学園長と、担任のオービルが立っていた。
「雷の魔法。これは三年次で習うぞ」
見たこともない、おそらく水晶のようなものを持ちながら、オービルが言った。
「内通者の可能性、か。あるかもしれないな」
ルースが思ったことを伝えると、オービルが頷いた。
「この学園には、結界が張ってある。外からは絶対に壊せない結界だ。ああ、結界というのはーー」
「結界というのは、“解く”前提で作られた魔法なんだ。そしてこの学園の結界は、一部を解いただけでは全てが壊れないようになっている。門番たちを回避した方法としては、結界の一部を内部から破壊、ということになるだろうね」
長くなりそうだったオービルの講義を遮って、ローダスが爽やかに教えてくれる。
ルースと、ニアの頭をぽんぽんと叩く。
「内通者探しは、私たちに任せて。怖い思いをさせて悪かったね」
「化け物の杖ですか。魔法資源というのは、無限大の可能性を秘めていますね」
両親の迎えを待つ間。オービルとローダスが廊下で話し込んでいるので、ルースとニアは二人きりだった。
「ニアさん?」
ニアは、じっと黙ったまま。ルースは居心地の悪さを感じながら、皿に盛られたお菓子を食べた。
「あ、このお菓子美味しいですよ」
「……」
「……」
気まずい沈黙。ルースが菓子を咀嚼する音が、部屋に響いた気がした。
「あの、ニアさ」
「ルース君」
ニアが、やっと口を開いた。髪色とは対照的な、ガーネットの瞳を、ぞっとするほどに醒めさせて。
「貴方、一体何者なの?」




