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アニメ制作会社、制作部。  作者: 鋭画計画
9/18

第9話

第9話登場人物


『有限会社三鷹プロダクション』

 アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【三プロ】。

 設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。


『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』

 伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。


『午後の城』

 堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。

 通称【ゴゴシロ】。学園もの。


――――――――――――――――――――――――みたかプロ・制作部

伏見  … 女。制作デスク。

堀田  … 男。制作デスク。

本山  … 男。制作進行。ゴゴシロ#14担当。

日比野 … 男。制作進行。新人。ゴゴシロ#18担当。

黒川  … 男。プロデューサー。

藤丘  … 女。設定制作。

中村  … 男。制作進行。マジョスパ#01担当。

岩塚  … 男。制作進行。

八田  … 女。デスク補佐。堀田班に出向中。


みたかプロ・動画部

小野  … 女。動画検査。


――――――――――――――――――――――――

伏見班担当作品スタッフ

白石  … 男。『マジョスパ!』監督。

宮沢  … 男。キャラクターデザイン。プロダクショ

      ン・ゼロ所属。

日吉  … 男。美術監督。

高田  … 女。美術監督補。

梅林  … 女。色彩設計。スタジオリリウム所属。

 

堀田班担当作品スタッフ

豊平  … 男。『ゴゴシロ』監督。

美園  … 男。助監督。

菊水  … 男。キャラクターデザイン。

片倉  … 男。美術監督。背景会社スカイブルー所属。

中島  … 男。本山担当話数の演出。

平岸  … 女。本山担当話数の作監。

広瀬  … 女。スタジオリリウム所属の色指定。

石切  … 男。ゴゴシロ#18担当演出。


――――――――――――――――――――――――

その他

高瀬  … 男。他社制作。本山と同期。

掛川  … 男。急逝した若手監督。

















作画監督【さくがかんとく】とは…通称【作監】アニメーターから上がってくる原画を設定に沿って、統一したり

                動きをチェックしたりする役職。

                 1人で1話数見ることで絵の統一感が出る。スケジュールが圧迫されている

                と作監が半パートごとに分かれたり、半パートを更に分けたりして作監が4人

                以上クレジットされていたりする。

                 エフェクトやアクション、メカなどが得意な人に監修してもらう場合もあり、

                エフェクト作監やアクション作監と呼ばれる役職が作品ごとに存在したりす

                る。ちなみに主人公がパン屋という作品ではパン作監なんてのもあったりした。


















○ みたかプロ・外観

 8話の翌日。

 昼。

 曇り空。



○ みたかプロ・作画部屋

 いつもより静かな作画部屋。

 本山が平岸の席にやってくる。

 机の上のPCでは、掛川監督の作品DVDが流れている。

 平岸が黙々と作監作業をしている。

本山「あれ、朝帰ったんじゃないんですか」

平岸「んー…さすがにちょっとショックで手つかなかっ

   たけど、そうも言ってらんないよね。とりあえ

   ず今日は夜までやってくー。昼型に戻したいし。

   あ、上がりは中島さんの机に置いてある束ね」

 作業の手を止めずに答える。

本山「ありがとうございます。じゃあもらっていきま

   すねー」

平岸「うぃ、よろしゅう」

 本山がカット袋の束を持っていく。



○ みたかプロ・制作部屋

 静かな制作部。

 本山がカット袋を持って戻ってくる。

日比野「今日はやけに静かですね」

本山「そりゃ掛川監督が亡くなってみんなショックだか

   らな。作画部屋も静かなもんだよ」

日比野「掛川監督って若いんでしたっけ」

本山「確か若い…えーと」

堀田「37」

日比野「37歳」

堀田「そう」

日比野「若いですねぇ」

堀田「もう今日仕事する気にならんぞ」

八田「そうは言ってもこのあとコンテ打ちですよ」

 会議室の準備を終えて戻ってきた八田が堀田に言う。

八田「あ、掛川監督の『鉄道』じゃないですか。このあ

   とのシーンいいですよねぇ」

 堀田がパソコンでDVDを見ている。

堀田「そうそう、このあとのシーンは作画も含めてうま

   い。全体的に緻密な画面作りが成功してるのは流

   石だよねぇ」

八田「えぇ。新作が遺作になるとは…もう新作を見られ

   なくなると思うと寂しいです」

堀田「だなぁ」

 2人してため息をつく。

八田「ともかく、コンテ打ち30分後ですからね」

堀田「あぁ」



○ 某所・映画館ロビー

 約1ヶ月後(現在)。

 堀田、豊平、美園がロビーで話している。

 ロビーのスクリーンでは掛川監督の作品が流れている。

 それを眺めている3人。

堀田「惜しい人を亡くしましたねぇ」

豊平「昔、彼が若手だった頃に原画をやってもらった

   ことがあったけど、頭抜けてたもんなぁ」

美園「コンテ集とか見ると、コンテそのままレイアウ

   トとして使えるぐらい緻密でしたもんねぇ」



○ みたかプロ・制作部屋

 昼過ぎ。

 制作部。

 黒川が出勤してくる。

黒川「おはよう」

藤丘「おはようございます。土曜日に珍しいですね」

黒川「あぁ、掛川監督のお別れ会に出るために近くま

   で来たもんだから」

藤丘「あ、今日でしたか。お別れ会」

黒川「うん、今日の夕方、吉祥寺で」

藤丘「もう1ヶ月ですか…あのあとから忙しかったで

   すからねぇ…」

黒川「今日からじゃなかったか?最後の作品」

藤丘「えぇ。夕方の回、予約してあります」

黒川「藤丘だけか?」

藤丘「えぇ、今のところは。堀田さん達は試写会に」

黒川「あぁ」

 黒川がホワイトボードを見る。

黒川「本山もか。大丈夫なのか、あの2人」

藤丘「あの2人が直接揉めたわけじゃないので大丈夫

   だと思いますけど」

黒川「だといいけど」



○某所・映画館

 本山が駆け寄ってくる。

堀田「菊水さん来た?」

本山「今こっち向かってるらしいです。いつも通り、

   あと10分ぐらいで着くって言ってました。多分、

   家出たばっかです」

堀田「相変わらずだなぁ」

本山「今日も忘れてたらしいですよ。着いたら電話くだ

   さいとは伝えておきました」

堀田「とりあえず、舞台挨拶は上映終わったあとだから

   間に合うだろ…」



○ OP



○ みたかプロ・外観

 夕方。

 1ヶ月前



○ みたかプロ・制作部屋

 夕方。

 制作部。

 本山がデータ整理をしている横で日比野が上がりを捌いている。

日比野「そういえば僕、キャラデの菊水さんに一度もお

   会いしたことないですわ」

本山「運が良ければ会えるかもな」

日比野「スタジオに入ってないですよね」

本山「基本、自宅作業だから。あとまぁ多忙な人だし」

日比野「会ったことあります?打ち合わせにも来ない

   ですよね」

本山「1回だけある」

日比野「どんな人でした」

本山「うーん…とりあえず、優しそうなおっさん。だ

   けど、なんか会話は噛み合わない」

日比野「へぇ」

本山「あ、宮沢さんとは違う。もうあの人とは違う生

   き物」

日比野「そこまで!?」

本山「まぁ何か突然打ち合わせに来たいとかいうから、

   その内チャンスはあるんじゃない?」

日比野「会えるといいなぁ。菊水さんが昔キャラデやっ

   てた作品、結構好きだったんですよ」

堀田「本山、試写会に菊水さん来るって」

 堀田が休憩室から戻ってきて本山に声をかける。

本山「ほら、突然だろ。はい、了解です。珍しいですね」

堀田「あの人は気まぐれで動くから、理由は俺にもわ

   からん」

 堀田がそう言って自分の席に向かう。

本山「な」

 本山が日比野を見る。

岩塚「あ、うちのことも載ってるじゃん」

 岩塚が大きな声を出す。

堀田「何が」

岩塚「今、ネットで話題にのコマケットで出た告発本あ

   るじゃないですか」

堀田「あぁ」

八田「そんなんあるの?」

岩塚「その画像がネットに上がってるんですよ」

堀田「ランクは?」

岩塚「Dですって」

堀田「どっかの掲示板のランキングと同じじゃねぇか。

   どうせ『三流(笑)』とか書いてあんだろ」

岩塚「正解です」

 堀田が舌打ちする。

八田「でも、これなんで話題になってんの」

岩塚「名前を伏せて書いてあるんですけど、見る人が見

   ればわかる内容になってまして、何社か内部事情

   が詳しく書かれてるんですよ」

八田「ほお」

岩塚「おそらく、その会社を辞めた奴が腹いせに書いた

   んだろうって言われてるんですけどね」

堀田「ただまぁ問題はその内部事情だな。それが話題に

   なってるんだよ」

八田「どんな内部事情なんです?」

岩塚「給料未払い」

八田「また、しばらく揉めそうなネタですねぇ」

本山「それがどうやら、大分前から揉めてるみたいな

   んですよねぇ」

 いつの間にか混ざっていた本山がつぶやく。



○ 牛丼屋

 前のシーンの2〜3日くらい前。

 昼過ぎ。

 本山と高瀬が並んで座っている。

本山「ここ1週間ぐらい忙しかっただろ」

高瀬「あぁ、掛川さんの件でな。まぁ俺たちは知らさ

   れてなかったけど劇場班はどうやら病状知って

   たみたいだし、準備はしてたみたいだから、う

   ちらテレビ班はそんなにやることはなかったよ」

本山「そうか。まぁひとまず、おつかれ」

高瀬「あぁ」

 牛丼が運ばれてくる。

高瀬「そういや、今ネットで炎上してる告発本の記事

   見た?」

本山「いや、詳しくは見てない。そんなに暇じゃなくなっ

   てきたし」

高瀬「あれにさ、何社か詳しく内部事情が書かれてる

   んだけどさ」

本山「うん」

高瀬「みのっちのスタジオもその中に入ってんだよね」

本山「あー書かれてんのか、何のネタで?」

高瀬「給料未払い」

本山「マジか、今どうしてんだろ」

高瀬「どうやら、あいつ同棲してたらしい。とりあえ

   ずお金の問題はないらしいよ」

本山「あ、そうなの。お前詳しいな」

高瀬「お前が連絡しないだけだろ。一応、就活も始め

   たみたいだし」

本山「アニメ業界?」

高瀬「一般企業だって」

本山「あーまぁ…そうか…。で、箕浦がいたとこ揉め

   てんの?」

高瀬「あぁ。どうも未払いだったのは制作だけじゃな

   くて作画さんもらしい。ここ半年滞ってる人も

   いるらしいから荒れるだろうな」

本山「半年ってよくもまぁ表に出てこなかったな」

高瀬「ずっと内部では揉めてたらしいぜ。おそらく、

   その本に関わってる人にいたんだろ。告発する 

   機会をうかがってた人が」

本山「箕浦も関わってないだろうな」

高瀬「まさか。箕浦の話だと事故ったってのもあるけ

   ど、ずっと上層部と作画さんへの報酬未払いの

   件で闘ってたらしいぜ」

本山「なら、何で尚更辞めたんだ。途中で放り出すよ

   うな性格じゃないだろうに」

高瀬「作画さんに言われたんだと」

本山「何を」

高瀬「君に言っても何も変わらないじゃないか。もう

   忘れたいから二度と連絡してこないでくれ、と。

   で、さすがに心が折れたって」

本山「あぁ…それはきつい」

高瀬「なー」



○ みたかプロ・制作部屋

 数日後。

 夜。

 藤丘と八田が制作部で作業のやりとりをしていると美園がやってくる。

美園「藤丘さん藤丘さん」

藤丘「え」

美園「これ、設定ミスってますよね」

八田「あ、レイヤーミスって改訂稿が決定稿のデータ

   のままですね」

藤丘「おおおおお」

美園「とりあえず、何話か作画進んでますから…作画

   さんにすぐに配布して対応してもらって下さい」

藤丘「わかりました」

美園「気をつけて下さいね」

 美園が制作部を後にする。

八田「えーと、影響あるとすると17話と18話ですね」

藤丘「18話っていうと日比野か…日比野ちょっと」

日比野「はい」

 日比野が2人の元にやってくる。

藤丘「レイアウト戻しどれぐらい終わってる?」

日比野「えーと、3分の1でしょうか。今、キャラデ

   総作監で止まってます」

藤丘「あぁそうだ…菊水さんにも謝らなきゃ。てか、

   菊水さんにもこれ送ったけど何も言ってなかっ

   たな…ほんといい加減だなぁ…いや、今回は菊

   水さんのせいじゃないな…ミスったのは私か。

   とりあえず、設定変更って事で連絡を各所に」

八田「そうですね。17話のグロスにはこちらから送っ

   ておきます」

藤丘「お願い。私はとりあえず社内スタッフに配って

   きます」

八田「わかりました」

 藤丘がプリントアウトした設定をコピー機から取り、作画部屋に向かう。

 日比野が自分の席に戻ってきて隣でパソコンにデータを打ち込んでいる本山に声をかける。

日比野「先輩」

本山「10秒待って」

 待つ日比野。

本山「オッケー。で?」

日比野「先輩、設定変更があったみたいです」

本山「設定変更ってか、ミスだろ。聞こえてたよ。この

   タイミングでか…あー…あー…」

日比野「とりあえず、どうすればいいですかね」

本山「該当するカットを担当している人は?誰と誰?と

   いうか、この設定使ってるカットナンバー全部割

   り出して」

日比野「えーと、ちょっと待って下さいね」

本山「割り出したら教えて」

 日比野がコンテを開きながらカットナンバーを紙に控えていく。

 本山はパソコン作業を再開する。

 しばらくして日比野が割り出しを終える。

日比野「終わりました。結構あります」

本山「該当する原画さんで宅配便組はもう無理だから明

   日として、メールが繋がるならメールで送って…

   えーと、電話繋がる人には電話。というか先にと

   りあえず、電話しよう…えーと、日報貸して」

日比野「はい」

本山「○○さんと○○さん、あとは○○さんにはこっ

   ちから連絡する。とりあえず、作業進んじゃっ

   てるのを直してもらわなきゃだから謝れ」

日比野「わかりました」

本山「低く低くいくんだぞ。じゃ、電話して」

日比野「はい」

本山「あ、ちょっと待て。お前はとりあえず石切さん

   に電話して説明しろ。設定に変更があったから

   原画さんに連絡して対応してもらう、と」

日比野「了解しました」

 2人でそれぞれ電話をかけ始める。



○ みたかプロ・外観

 夜。



○ みたかプロ・制作部屋

 ひと通り、連絡が終わった2人。

本山「とりあえず、連絡は終わったから印刷して深夜

   の便回りで届けて」

 本山が作画部屋に行くために立ち上がるが日比野に呼び止められる。

日比野「あ、それとちょっと質問が」

本山「何?急ぎ?」

日比野「実は石切さんから10話との合わせでカット

   の参考が欲しいと言われてたんですけど…どう

   すればいいですかね」

本山「お前、これいつ質問された?」

日比野「1週間ぐらい前ですかね」

 本山が再び椅子に座る。

本山「あのね、スタッフから質問が来て確認してくれ

   と言われたら放置せず、すぐ確認しないとダメ

   だろ。物が止まってるわけじゃん」

日比野「聞こうと思ったんですけど、忙しかったのと

   先輩に聞くタイミングが…」

本山「あのね、お前さんが物を止めてたら進まないの。

   あと、その言い訳をスタッフ全員に言って回る

   つもりか?そんなだと、落ちるぞ。お前が18話

   の担当なんだからお前が最後まで守らないとい

   けない立場だろ」

日比野「はい、すみません」

本山「とりあえず、カット袋は倉庫だから倉庫から引っ

   張ってこい」

 日比野が倉庫に走って行く。

 がっくりと肩を落とす本山。

本山「しんど」

 椅子にもたれかかる。


○ みたかプロ・外観

 数日後。

 昼。



○ みたかプロ・作画部屋

 伏見が白石の席にやってくる。

伏見「お疲れ様です。これ、頼まれてたコピーです。って、

   何読んでるんです?」

白石「ん、サンキュ。あぁ、これ?」

 白石が例の告発本を読んでいる。

白石「先々週辺りからネットで話題沸騰中の…」

伏見「あぁ例の。好きですねぇ、相変わらずそういうの」

白石「いや、これがまた今回のは中々馬鹿に出来ないよ。

   意外と詳しく書いてあるし、給料未払いの所に関

   しては」

伏見「他の会社はカモフラージュらしいじゃないですか。

   ネットに書いてある情報ばかりだとか」

白石「そう。だから、明らかにこの何社かに恨みがある

   やつが書いたんだろうなぁ」

伏見「もうちょっと他にやり方あると思いますけどねぇ」

白石「よく言うよ、デスク辞めようとしてたくせに」

伏見「私は告発本なんて書きませんよ」


○ みたかプロ・制作部屋

 制作達が打ち合わせや外回りに出払っていて伏見だけがいる。

 白石から借りた本をペラペラと読んでいる。

 昼食から帰ってきた藤丘が声をかける。

藤丘「先輩、珍しいですね」

伏見「珍しい?」

藤丘「例の告発本ですよね、それ。そういうの好きじゃ

   ないと思ってました」

伏見「あぁ、白石さんに一応読んどけって渡されたのよ」

 伏見が藤丘に差し出す。

伏見「パラパラっと目通したけど、大したこと書いてな

   いわよ」

 藤丘が本のページをめくる。

藤丘「あー…揉めてるところは、割と細かく書いてある

   んですね」

伏見「そうみたいね。まぁでも業界内にいたら有名な話

   だったりするじゃない、どこまでホントだか」

藤丘「まぁ裏事情とかネットとか自称業界に詳しいファ

   ンとかは好きですもんね…こりゃ、食いつきます

   わ」

伏見「でも○○(箕浦のいたスタジオ)は閉鎖みたいだ

   ねぇ」

藤丘「あぁ、社長が蒸発したって噂の」

伏見「なんか制作が社内の作画ごと移籍したらしいよ。

   よほどコネがあったんだろうねぇ」

藤丘「あぁ、でも海外出資系の会社でライン増やすた

   めに即戦力を欲しがってたみたいですよ」

伏見「なるほど。お世辞にもあそこ制作のいい話聞か

   ないのによく移籍できたなぁと」

藤丘「悪評多かったですからねぇ」

伏見「でも、この手のお金の問題は定期的に話題にな

   るけど解決出来てないってのが問題よねぇ。う

   ちらも別に高いお金もらってるわけじゃないし」

藤丘「時給換算すると都内の最低時給の半分ぐらいだっ

   たりしたときは絶句しましたわ」

伏見「まぁなんとか生きてるけど、どうしたもんかね。

   もらえるもんはもらいたいし。」

藤丘「お金が欲しかったら一般企業にでも就職したら?

   とか言われるってのも変な話ですよねぇ。一般

   企業ちゃうんかと」

伏見「好きなこと仕事にしてお金も稼げるようになるっ

   て両立しないもんなのかね」

藤丘「ネットとかで見ますよねぇ、好きなことしてる

   んだからお金が少ないのは我慢しろとか」

伏見「そこら辺もうちょい意識というか仕組みという

   か、何か考えないとダメよね。制作会社単位で

   何か稼ぐ的な」

藤丘「うちもカフェやりますか」

伏見「そうねぇ…それもありかなぁ」

 本山が出勤してくる。

本山「おはようございまーす」

伏見「完全に夜型になりつつあるわね」

本山「海外便とかのスケジュールに合わせるとどうし

   ても夜に動きが集中しちゃうんで」

藤丘「日比野の面倒は?」

本山「ちゃんと見てますよ。今、BG色打ちでしょ?

   さすがに朝8時に帰って13時からの打ち合わ

   せはキツいです…八田さんにお願いしました」

 時計は15時を指している。

 豊平が制作部屋に入ってくる。

豊平「あれ、本山は出ないの?」

本山「14話があるんで、ちょっと。あ、監督。BG色

   打ちのあとバラチェックを」

豊平「わかった」

本山「お願いします」

 豊平が会議室へ向かう。

岩塚「本山ー、2番に撮影から電話」

本山「はい、本山です」

 受話器を取る本山。



○ みたかプロ・第1会議室

 八田、日比野、石切、美園、片倉、澄川、広瀬がいる。

 遅れて豊平がやってくる。

豊平「すんません、遅くなりました」

一同「おはようございます」

 豊平が席に着く。

豊平「えーと続けて」

石切「カット133の原図あります?」

日比野「えーと、あ、これです」

片倉「これ、光源どっちからになります?」

石切「こっちからこうですね」

 日比野が必死に食らいついていく。



○ みたかプロ・制作部屋

 夕方。

 制作部。

 本山が撮影監督の福住と電話している。

本山「えぇ、今日の夜中に仕上げ上がりのデータが上

   がってくるんで、広瀬さんには朝までにセル検

   してもらって撮入れは朝にはあるように段取り

   は組んでます。はい。よろしくお願いします。」

 打ち合わせを終えた日比野が戻ってくる。

本山「終わった?」

 本山が受話器を抑えて尋ねる。

日比野「えぇ、今ちょうど」

本山「これから監督達にバラチェックしてもらいます

   から終わり次第、報告します。よろしくお願い

   します」

 受話器を置く本山。

日比野「あとで質問が」

本山「わかった」

 本山が会議室へパソコンを持って移動する。



○ みたかプロ・第1会議室

 チェックのスタンバイが終わっている会議室。

 本山の他に中島、平岸、片倉、澄川、広瀬、小野たちが待機している。

 豊平と美園がやってくる。

本山「じゃあ、揃ったので始めます。25カットありま

   すけど、とりあえず通しで見ちゃいますか?」

 会議室の電気を消す。

豊平「とりあえず、流して」

本山「了解しました。じゃ、カット46」

 ムービーが画面に再生される。



○ みたかプロ・外観

 夜。



○ みたかプロ・制作部屋

 本山達が会議室から出てくる。

本山「とりあえず、再リ出たカットは撮影に連絡したら

   すぐ持っていきますんで」

中島「わかった、席にいるわ」

本山「お願いします」

 自分の席に戻ってきて、パソコンなどを置く。

日比野「この後、外回りでますけど何かあります?」

本山「うーん」

 受話器を取り撮影に電話をする。

 断られてしまい、とりあえず出来る作業をする日比野。

本山「撮影部の福住さんお願いします」

 保留音が流れている。

本山「どこら辺行くの?」

日比野「石切さんの所に寄ってから、○○さんの回収で

   すね」

本山「所沢か」

日比野「えぇ。遠いです」

 受話器の向こうで保留音が終わり、福住が出る。

本山「とりあえず、今んとこ大丈夫。事故るなよ」

日比野「らじゃです」

本山「あ、もしもし。バラチェックですけど終わりま

   して、編集入れオッケーです」

 日比野が車の鍵を持って、制作部屋を後にする。



○ アートノート・外観

 大通りに面した小さなビル。

 1階はコンビニになっている。

 日比野がコンビニの駐車場に進行車を止めて、ビルの中に入っていく。



○ アートノート・入り口

 薄暗い階段を3階まで上がっていく。

 曇りガラスの扉に「アートノート」と書かれている。

 外に置いてある電話の受話器を取る。

電話(OFF)「はい」

日比野「みたかプロ制作の日比野です。石切さん入れ

   回収に伺いました」

電話(OFF)「少々お待ち下さい」

 ガチャリと切れる。

 受話器を置き、しばらく待っていると、扉が開いて石切が出てくる。

石切「お疲れ様」

日比野「お疲れ様です。とりあえず、今日の入れの分

   ですね」

石切「うぃ。これ、上がりね」

日比野「ありがとうございます」

石切「そういえば、予告カットどうなってる?きちん

   と動いてる?」

日比野「予告カット…」

 一瞬表情が曇る。

日比野「えぇ、大丈夫です。レイアウト総作監作業中

   なので大丈夫です」

石切「そう、ならいいけど。とりあえず、今週中には

   作画さんに戻せそう?」

日比野「今のところその予定です」

石切「遅れそうならまた連絡ください」

日比野「はい、わかりました」

石切「じゃ、よろしく」

日比野「お疲れ様です」

 石切が扉を開けて戻っていく。

 日比野が上がりを手にしながら、階段を降りていく。



○ みたかプロ・制作部屋

 週明け。 



○ みたかプロ・制作部屋

 週明け。

 夕方。

 本山が作画部屋から戻ってくる。

岩塚「本山、アートノートの石切さんて人からお前宛

   に電話来てる」

本山「え、日比野じゃなくて俺宛ですか?」

岩塚「うん、本山さんいますかって」

本山「わかりました。出ますわ」

 受話器を取る。

本山「はい、替わりました本山です」

 表情が曇る本山。

 間。

本山「はい、確認して連絡させます。失礼します」

 受話器を置く。

岩塚「電話何だった?」

 給湯室から戻ってきた岩塚が尋ねる。

本山「日比野、どこにいます?」

岩塚「高円寺って書いてあるよ」

本山「戻ってきたら、俺んとこ来るように言ってくだ

   さい」

 プリントアウトした設定をコピー機から取り、再び作画部屋に戻っていく本山。



○ みたかプロ・外観 

 夜。



○ みたかプロ・制作部屋

 日比野が戻ってきて、荷物を捌き終わったタイミングで本山が声をかける。

本山「日比野、ちょっと聞きたいんだけどこの日報合っ

   てるんだよな」

 毎日、日比野が提出している日報を見せる。

日比野「えぇ」

本山「じゃあ、聞くけど予告優先のカットって今どう

   なってんの」

日比野「えーと、ほとんどは今、原画作業中のはずで

   すけど…残りは総作監の所ですね」

本山「菊水さんとこ?」

日比野「えぇ、そうです」

本山「優先かけた?」

日比野「リストは荷物と一緒に渡してあります」

本山「いや、リストは渡してあるけど、入れの時とか

   にメモ入れたり袋分けたりとかしたの?」

 本山が真っ直ぐ日比野を見る。

日比野「あ、最初のうちはやってたんですけど、ちょっ

   とバタバタしてるときは、その…やってません

   でした」

本山「予告優先だからお前、17話と納品一緒だぞ?色

   ついて本撮終わってなきゃいけないんだぞ…そ

   のカットは全部前倒しなんだぞ?わかってる

   か?」

日比野「もうわかんないです」

本山「は?」

日比野「いっぱいいっぱいなんですよ!あれやこれや

   言われても!」

 突然大声を上げる日比野。

日比野「毎日毎日電話して、車運転して行ったり来た

   り、右から左へ原画動かして、スケジュールス

   ケジュール言われたって守んないんですよ!誰

   も!いついつまでにお願いしますねっていって

   るのに平気で2日3日と破ってくるじゃないで

   すか!何なんですか!予告優先!?大人なんだか

   らリストに優先て書いてあるんだから言わなく

   ても優先でやるでしょう!」

 静まりかえる制作部。 

 堀田が立ち上がる。

堀田「本山、日比野ちょっと来い」

○ みたかプロ・第2会議室

 本山と日比野が並んで座り、向かい側に堀田が座っている。

堀田「18話の現状を本山、報告してくれ」



○ みたかプロ・制作部屋

 堀田、本山、日比野の3人が出て行った後の制作部。

 それぞれが机に向かって作業をしながら会話している。

中村「辞めますかね」

藤村「まぁ辞める辞めないは自由だけど、18話を誰が

   引き継ぐのかが問題じゃない?」

 中村が岩塚を見る。

岩塚「俺!?俺は15話回しますから。あと、引き継ぐっ

   て日比野が辞める前提じゃないですか」

伏見「あんたたちみっともないわよ。新人のフォロー

   すんのも先輩の仕事でしょう。爆発するまでほっ

   といた私もあんた達も同罪よ」

 静かになる制作部。



○ みたかプロ・第2会議室

 話を聞き終わった堀田。 

堀田「とりあえず、日比野は現状を整理して報告しに

   来い。本山は明後日原版だからとりあえず、そっ

   ちに集中しろ」

本山「わかりました」

堀田「日比野もわかったな?」

日比野「…はい」



○ みたかプロ・制作部屋

 堀田達が戻ってくる。

 何事もなかったかのように振る舞う伏見達。

堀田「日比野、岩塚と席チェンジ」

岩塚「え」

堀田「一時的にだよ。さっさと交代しろ」

岩塚「うぃ」

日比野「すみません」

岩塚「いいよいいよ」

 岩塚が日比野のいた席に座る。

岩塚「よろしく」

 本山が嫌そうな顔をする。

岩塚「ショック受けるからぞんざいに扱うのやめてく

   れるかしら」



○ みたかプロ・外観

 翌日。

 昼。



○ みたかプロ・制作部屋

 バタバタしている制作部。

 堀田の横で日比野が質問をしている。

 本山は撮影に行っている。



○ みたかプロ・休憩室

 堀田が休憩室にやってくる。

 黒川が先にいて煙草を吸っている。

黒川「昨日、日比野が爆発したって?」

堀田「えぇ」

黒川「みんなで会社を良くしましょうって話し合った

   んじゃないのかよ」

堀田「そのはずだったんですけどね。結局他人事だっ

   たみたいで、頭痛いすわ」

黒川「まぁ起きないに越したことはないが起きちゃっ

   たんだから、これをきっかけに意識を少しずつ

   変えていくんだな」

堀田「えぇ、そうするつもりです」

黒川「とりあえず、明日の原版は予定通りいけそうか?」

堀田「はい、その予定です。本山が今踏ん張ってます」

黒川「あいつもなぁ、もう少し余裕が持てるようにな

   るといいんだけどなぁ」

堀田「周り見えなくなりますからね…」

黒川「それをフォローすんのもお前の役目だろ。お前

   も減点だぞ」

堀田「うぃ、すんません」

 黒川が先に休憩室を出て行く。



○ みたかプロ・外観

 夜。



○ みたかプロ・制作部屋

 日比野がパソコン作業をしている。

 堀田は電話をしている。

 しばらくして堀田の電話が終わる。

堀田「日比野、菊水さんとこ行ってこい。で、上がり

   を受け取ってこい」

日比野「え」

堀田「予告優先のカットだけ先に作業してもらった」

日比野「ありがとうございます」

堀田「優先の物をきちんと優先して作業してもらわな

   いと無理をしてもらうことになるからこれから

   は気をつけろよ。伝達事項は遅れてもいいから

   きちんと伝えること。黙ってても何も始まらん」

日比野「はい」

堀田「というわけで、菊水さんとこ行ってこい。住所

   はこれ」

 メモを渡す。

堀田「着いたら、チャイム鳴らす前に必ず一度こっち

   に連絡くれ。菊水さんに連絡するから」

日比野「了解です」



○ 菊水の自宅・外観

 一軒家。

 自宅前に到着する日比野。

 車を停めて、門の前に立ち堀田に電話をする。

日比野「もしもし、日比野です。堀田さんお願いします」

 しばし間。

日比野「お疲れ様です。はい、今着きました」

堀田(OFF)「じゃあ、連絡するから家の前で待ってて」

日比野「わかりました。待ってます」

 電話を切って、指示通り待つ。

 10分ほど待つが誰も出てこない。

日比野「これ、どれぐらい待つんだ?」

 更に10分ほど待つが反応がないので再び堀田に電話をする。

堀田(OFF)「え、まだ出てこないの。ちょっと待って

   もう一度かけるわ」

日比野「はい、すみません」

 再び電話を切り、待つ。

 すぐに再び電話が鳴る。

堀田(OFF)「今から出るって。5分経っても出てこな

   かったらチャイム鳴らしていいよ」

日比野「わかりました」

 再び10分経過する。

日比野「鳴らしていいって言ったよな…」

 時計を見ると夜の0時を回っている。

 玄関のチャイムを鳴らす。

 再び5分が経過。

日比野「出てこない…家間違えたのかな?」

 不安になる日比野。

 再び、堀田に連絡しようとすると玄関の鍵の開く音がする。

 振り向くと、背の低い優しそうなおじさんが顔を覗かせている。

日比野「あ、夜分遅くにすみません。みたかプロの日比

   野です。回収に伺いました」

菊水「あぁ、みたかプロの人。どうぞ」

 玄関に案内される。



○ 菊水の自宅・玄関

 玄関に通される日比野。

 菊水の姿は見えないが、声がする。

菊水「予告優先のカットだよね。18話の」

日比野「えぇ、そうです」

菊水「今やってるんだけどさ。あと10分ぐらいで終わ

   るからちょっとそこで待ってて。外寒いでしょ」

日比野「あ、はい。よろしくお願いします」

 玄関をぐるりと見渡すと、北海道土産でよくある木彫りのクマの置物と同じポーズをした木彫りのパンダが鮭を咥えた置物が置いてある。

日比野「パンダ?」



○ みたかプロ・仕上げ部屋

 仕上げ作業をしている広瀬の後ろに本山がいて、愚痴をこぼしている。

本山「結局の所、どこか他人事なんですよねぇ」

広瀬「何が」

本山「ネットで炎上してる未払いの問題だって、うち

   の制作環境だって。未払いに関してはうちは起

   こしてないってだけで、同じ業界内では起きて

   るわけですよ」

広瀬「そうだね」

 検査作業を淡々と進めていく広瀬。

 それを後ろから眺めている本山。

広瀬「こうやって、毎度毎度ギリギリまで深夜シフト

   になってくると疲れる」

本山「あぁ、すみません」

広瀬「なんなんだろうね、みんなが少しずつ時間を前

   倒してくれれば、最後の方が深夜作業にならな

   い気もするんだけども」

本山「でも、海外仕上げとかは夜中に届きますし、撮

   影は朝イチから動いてるんで仕上げ検査はその

   間に入る工程としては仕方…」

広瀬「仕方なくない。ギリギリのスケジュールだから

   無理矢理、間に入れなきゃならないだけで、余

   裕があれば夜中に届く、翌日仕上げ検査、翌々

   日に撮影で組めるでしょう。仕上げ検査に時間

   くれたら、もう少しリテイク減らしたりクオリ

   ティの底上げは出来るよ」

本山「ですよねぇ」

広瀬「まぁ、終盤24時間動いてる制作進行もいるから

   責めないけどさ。でもそれだって、さっき言っ

   てた業界内の他人事だと思ってる意識の1つだ

   と思うよ〜」

本山「そうかぁ」

広瀬「でも、みんな良くしようとも思ってるんだけど

   ね。現実は上手くいってないけど。なんとかなっ

   ちゃってるから、今」

本山「何とかなっちゃってるのはみんな少しずつ無理

   をしてるからですよね。誰かが睡眠時間を削っ

   たり、安いお金で仕事したり」

広瀬「そう。だから、それを逆に出来ると良いね…いや、

   しよう、か。私も他人事だなぁ」

本山「結局、本当にピンチになってからでは遅いです

   もんね」

広瀬「そうね。とりあえず今は家帰って寝たいわ」

本山「同じく」

 時計の針は3時半を指している。



○ 菊水の自宅・玄関

 相変わらず玄関で待たされている日比野。

 さすがに、廊下に腰を下ろしている。

 携帯を見ると3時半を回っていて既に玄関で3時間が経過している。

日比野「これ、俺忘れられてないよな」

 ぼそりとつぶやく。

日比野「あのー、すみません」

 意を決して声をかける。

菊水「はい」

 廊下から顔を出す菊水。

日比野「もうちょっとかかりますか?」

菊水「そうだね、あと10分くらいかな」

 嘘つけ、と心の中で思う日比野。

日比野「お手洗い借りてもいいですか?」

菊水「どうぞ。そこの角の扉です」

 そういって、引っ込む菊水。

日比野「じゃあ、お借りしまーす」



○ 菊水の自宅・作業部屋

 作業部屋のソファーで座って待っている日比野。

 部屋には古いロボットアニメのフィギュアと一緒に最近の美少女アニメのフィギュアなどが並んでいるが綺麗に陳列されている。

 キョロキョロと見渡す日比野。

 黙々と作業する菊水の鉛筆の音とたまに鉛筆を削る音が響く。

菊水「君はさ、ラーメン好き?」

日比野「え、あ、なんですか?」

 急に菊水が喋り始めて動揺する日比野。

菊水「ラーメン」

日比野「ラーメンがどうかしましたか?」

菊水「好き?」

日比野「えぇ、まぁ好きですね」

菊水「まぜそばとかつけ麺とかじゃないよ」

日比野「中華そば的なのとかですか?」

菊水「そう。そういうの」

日比野「好きですよ。中華屋さんとかに行くと頼みます」

菊水「そうなんだ」

 そう言って会話が途切れる。

 日比野が困惑した表情を浮かべるが菊水は黙々と総作監作業をしているため気付かない。

菊水「新人さんだよね」

日比野「えぇ、今年の4月に入社しました」

菊水「やっぱり。疲れた顔してるもの」

日比野「ホントですか」

菊水「この業界、変わった人多いでしょ」

日比野「まぁ」

 思わず心の声が出そうになるが堪える。

菊水「でもさ、制作さんたちはその変わった人達をま

   とめ上げて作品を作るわけだ。大変な仕事だと

   思うよ。そりゃ疲れる」

日比野「そうですね、大変っちゃあ大変ですね」

菊水「僕みたいな変わり者も相手してくれるのは制作

   さんぐらいなもんだよ。こうやって家に籠もっ

   てずっと絵を描いて生きてられるのも制作さん

   が仕事を回してくれるからだし。信用してくれ

   るから僕も信用して仕事を受けられるんだ」

 日比野が黙って聞いている。

菊水「僕はこの業界長いけど、広くは知らない。でも

   信用でなり立ってると思うよ。新人の君にはま

   だ難しいかもしれないけど、周りを信用してご

   らん」

日比野「信用ですか」

菊水「不味いだろうと思ってラーメンを頼む人はいな

   いでしょ?」

日比野「えぇ」

菊水「裏切られると思って仕事を頼まないのと同じだ

   よ。美味しいラーメンを食べたいと思って注文

   してごらん。きっと仕事が楽しくなるよ」

 日比野が菊水の言葉を聞いて、考え込む。



○ みたかプロ・制作部屋

 本山が机の下で仮眠を取っているとドサッという音がする。

 机の下から顔を出すと広瀬が立っている。

本山「お疲れ様です」

広瀬「とりあえず、手持ちは全部捌けたよ」

本山「あざます」

 のそりと机の下から這い出して立ち上がり、伸びをする。

 時計を見ると朝5時を回っている。

本山「えっとじゃあ、これでひとまずリテイク分の撮

   入れは終わりですね。あさイチから撮影しても

   らって、夕方18時から原版ですね」 

広瀬「うぃ。まぁ作画系のリテイクはきちんと直って

   るから大丈夫だと思うけど。とりあえず、原版

   までには入って待機してるわ。それより前にな

   んかあったら電話くだされ」

本山「わかりました」

広瀬「じゃ、帰るわ」

本山「お疲れ様でした」

堀田「お疲れっした!」

 休憩室から戻ってきた堀田も挨拶する。

 広瀬が制作部を後にする。

本山「まだ残ってたんすか」

堀田「あぁ、日比野が戻ってこないからな」

 ホワイトボードの日比野の欄には外回りと書いてある。

本山「あれ、まだ戻ってきてないのか。ちょっと顔洗っ

   たら撮入れしに行ってきますわ」

堀田「うぃ。それでリテイク撮入れ切り?」

本山「えぇ」

堀田「おつ」

本山「いえ、まだあと少しです」

 顔を洗いに制作部屋を出て行く。



○ 菊水の自宅・作業部屋

 作業部屋のソファーで座ってウトウトしている日比野。

菊水「終わったよ」

 ハッと目を覚ます。

日比野「あ、ありがとうございます」

 菊水が立ち上がり、修正作業済みのカットの束を日比野に手渡す。

菊水「気をつけて会社に戻りなさい」

日比野「はい」

菊水「今度、美味しいラーメン屋さんを教えてあげるよ」

 菊水がにっこりと笑う。




○ みたかプロ・制作部屋

 朝7時過ぎ。

 疲れ切った顔をした日比野が菊水の所から戻ってくる。

日比野「戻りましたー」

堀田「お疲れ」

 本山が寝る準備をしてお手洗いから戻ってくる。

本山「今戻ってきたのか」

日比野「えぇ。結局、家の中に上げてもらってずっと待っ

   てました」

 日比野が堀田と本山の両方を見る。 

日比野「一昨日はすみませんでした。納品まで頑張り

   ます。まだまだご迷惑をおかけするかと思いま

   すが、よろしくお願いします」

 頭を下げる。

 驚く2人。

本山「どうした急に」

日比野「色々、考えを改めました」

堀田「菊水さんに何か言われたのか」

 少し考える日比野。

日比野「ラーメンの頼み方を教わりました」

堀田「は?」

本山「なに?」

日比野「とにかく、よろしくお願いします。これ捌い

   て今日は帰りますね」

堀田「おぅ」

本山「お疲れ」

 本山が仮眠を取るべく机の下に潜る。

日比野「あ、先輩」

 日比野がしゃがみ込んで本山に声をかける。

日比野「この時間にやってる美味しいラーメン屋さん知 

   りませんか?」

本山「ねーよ。寝る」



○ 某所・映画館

 現在。

 上映が終わりる直前の先行上映会。

 本山と堀田がロビーで菊水を待っている。

本山「相変わらず時間にルーズですねぇ」

堀田「だなぁ」

本山「あと10分が長いんですよねぇ」

堀田「そうなんだよ、あの人の口癖」

本山「日比野は5時間ぐらい待たされたらしいですね」

堀田「上がったって連絡があったから行かせたんだけど、

   上がってなかったんだよ。まぁ日比野が張り付い

   ていたおかげで何とか上がったけどな。とりあえ

   ず週明けから、改めて18話頼むぞ」

本山「えぇ」

 しばし間。

 会場の方から大きな拍手が聞こえる。

堀田「1話の反応も上々だな」

本山「…そうですね。まぁ頑張った甲斐がありました」

堀田「お疲れ」

本山「デスクもお疲れ様でした」

堀田「まだ、これからが本番だけどな。お、アレじゃ

   ないか」

本山「来ましたね」

 菊水が到着する。

 2人が菊水の側に向かう。



おわり


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