第8話
第8話登場人物
『有限会社三鷹プロダクション』
アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【三プロ】。
設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。
『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』
伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。
『午後の城』
堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。
通称【ゴゴシロ】。学園もの。
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みたかプロ・制作部
伏見 … 女。制作デスク。
堀田 … 男。制作デスク。
本山 … 男。制作進行。ゴゴシロ#14担当。
日比野 … 男。制作進行。新人。ゴゴシロ#18担当。
黒川 … 男。プロデューサー。
藤丘 … 女。設定制作。
中村 … 男。制作進行。マジョスパ#01担当。
岩塚 … 男。制作進行。
八田 … 女。デスク補佐。堀田班に出向中。
みたかプロ・動画部
小野 … 女。動画検査。
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伏見班担当作品スタッフ
白石 … 男。『マジョスパ!』監督。
宮沢 … 男。キャラクターデザイン。プロダクショ
ン・ゼロ所属。
堀田班担当作品スタッフ
豊平 … 男。『ゴゴシロ』監督。
美園 … 男。助監督。
片倉 … 男。美術監督。背景会社スカイブルー所属。
中島 … 男。本山担当話数の演出。
平岸 … 女。本山担当話数の作監。
広瀬 … 女。スタジオリリウム所属の色指定。
石切 … 男。ゴゴシロ#18担当演出。
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その他
掛川 … 男。来月公開の劇場作品の監督。
田辺 … 男。ボックスプロジェクト制作デスク。
桜坂 … 男。プロダクション・ゼロ制作デスク。
演出【えんしゅつ】とは…監督とは違い、各話ごとに立てられる役職もしくはその役職者のこと。監督や制作達と演出打ち合わせ(演打ち)と呼ばれる打ち合わせを行った後、担当話数の演出面でのチェックをしていく。制作出身や作画出身の演出でそれぞれ得意な部分が顕著に表れたりする。
スケジュール管理や作画的なカバーなどなど。制作と二人三脚で担当話数を納品まで持っていく重要なポジションであり、制作としては演出と友好な関係を築かないと仕事が成り立たない。
○ みたかプロ・休憩室
携帯で通話をしながら煙草を吸っている。
堀田「とんでもない写真参考?あはは、そいつ馬鹿だろ。いやぁ、うちは大丈夫だよ。さすがに常識はあるよ。お前んとこの育て方の問題だろう。おう、また飯でも。じゃ」
通話を切って、煙草の火を消す。
○ みたかプロ・制作部屋
昼過ぎの制作部。
制作達が慌ただしく動いている。
堀田が、休憩室から戻ってくる。
堀田「日比野、頼んどいた車の写真参考できてるー?」
日比野「出来てますよ」
堀田「くれ」
日比野がプリントアウトしたら写真参考を持ってくる。
堀田「え?なんで軽なの」
日比野「え?コンテで特に指定なかったんで」
堀田「いやまぁ、車種指定しなかったんだけど何で全部、軽なんだよ。おい、本山!」
本山「ちょっと待って下さい」
日比野が持ってきた写真参考は全部、軽自動車。
堀田「人んところ笑ってらんないや…あのさ、軽の他にもあるだろ?こんなのとか」
描いてみせる。
日比野「あータクシーとかあーゆー。え、こういう車の写真参考ですか?」
堀田「いや、こういうのじゃなくて、なんで全部、軽なの?」
本山「何かありました?」
堀田「何かありました?じゃなくて、チェックしろよー、お前なー」
本山「だって、車の写真参考か何パターンか出すやつでしょ?」
本山も日比野が持ってきた写真参考を見る。
本山「あーこれお前ダメだよ。軽自動車ばっかじゃん。こういうのもあるでしょ」
ステップワゴンとか描く。
日比野「あー」
堀田「とにかく、これじゃ写真参考として使えねぇよ」
日比野「どうします?」
本山「てか、車種とか決まってないんですか?」
堀田「あ、監督だ。もういいや監督に聞こうぜ」
監督の豊平が制作部を通りがかる。
堀田「かんとくー」
豊平「はい」
本山「車といえば?」
豊平「スーパーカー」
本山「え?なに?」
豊平「スーパーカー」
日比野「ちょっとよくわからない」
豊平「スーパーカーってのはこういう…」
本山「あーはいはい」
豊平「えーイマドキってそんなもん?」
日比野「あまり興味ないですからねぇ。だって都内、車要らなくないです?日常生活で」
豊平「あー」
日比野「駐車場高いし。進行車も軽で良いですし。まぁ車に乗る必要があったらレンタカーで良いし…」
豊平「そういう時代かぁ」
堀田「なんだかなぁ」
美園も通りがかる。
美園「なにしてんです?車?車と言えば…こんなの」
紙に描く。
本山「あー見たことある」
美園「あとこんなんとか」
更に紙に描く。
一同「はいはい」
美園「ぼく、免許持ってないですからね。基本、アニメとか漫画で出てくるのしかわからないんですよ」
藤丘「何の話です?」
堀田「あ、写真参考で〜」
藤丘「その回の車、原作に乗ってますよ。原作参考でいいんじゃないです?」
豊平「あれ?そうだっけ?」
堀田「で、車種は?」
藤丘「車種?」
堀田「そう。車種」
全員が藤丘を見る
藤丘「ハイブリッドのアレ。名前忘れた」
豊平「あーそうきたか…」
美園「あーまぁ売れてますしねぇ」
藤丘「え?なんなの?」
日比野「僕もその車なわかりますよ」
本山「じゃあ、解散でいいですね?」
堀田「そういう時代かぁ…」
豊平「デザインより燃費だよなぁ」
美園「ですねぇ」
男達がそれぞれの感情を抱きつつ解散。
置いてきぼりの藤丘。
藤丘「え?何この空気!もう!」
○ OP
○ みたかプロ・外観
夜。
制作部屋と作画部屋の灯りがついている。
○ みたかプロ・制作部屋
23時頃。
本山が広瀬と電話をしている。
本山「あ、今日泊まりなんですか。あぁ上がり待ち。え?仕上げ入れ?あるわけないじゃないですか、作打ち終わったばっかですよ」
八田が本山の会話に気付いて、日比野の肩を叩く。
日比野「はい」
八田「誰と喋ってる?」
日比野「セル検の広瀬さんだったかな、確か」
八田「おっけー」
本山「一度帰っちゃったらどうです?」
八田が本山の肩を掴む。
本山「え?」
本山が振り向く。
八田「帰らせちゃダメ。あるよ、仕上げ入れ」
本山「ちょっと待って下さいね」
本山が電話を保留にする。
八田「リテイク動画の仕上げ入れ。あるよ。枚数少ないけど数はあるよ」
本山「相談してみます。カット袋ください」
八田「すぐ持ってくる」
本山「お願いします」
八田がカット袋を取りに、本山が電話の保留を解除する。
本山「あ、もしもし?仕上げ入れあるみたいですよ。リテイク動画上がりがいくつか」
八田からカット袋の束を受け取る。
本山「えーと、部分修とかですね。あーあとパーツ抜け。そんなに大変なのはないけどカット数はある感じ。えーと」
八田「出来る分だけでいいから」
本山「出来る分だけでもいいのでやって欲しいみたいです。あ、ホントですか?じゃあ、このあと持っていきますわ。はい、よろしくお願いします。ではではまたあとでー」
受話器を置く。
八田「ありがとー」
本山「なんか上がり待ちで朝まで待機みたいなんでやってくれるらしいです。とりあえず、この束持っていって現地で伝票切りますわ。全部は無理かもしんないですけど」
八田「全然良い、全然。お願いしてたとこがちょっとダメになっちゃって。急ぎじゃないんだけどリテイクだからねぇ、あんまり放置しておくのも気持ちいいもんじゃないし」
本山「まぁ手元に動かせるカット置いとくの気持ち悪いですよね。じゃあ、とりあえず預かっておきますね。これ仕上げ終わったやつはどうします?撮入れしておきますか?」
八田「あ、撮入れは明日こっちでやるから、上がりは机に置いておいてくれればいいよ」
本山「了解です」
八田「ホント助かります」
八田が自分の席に戻っていく。
本山「というわけで、日比野。俺はこれから外に出るけど諸々終わったか?」
日比野「えーと、はい、あとは書類の確認だけですね」
本山「あーじゃあそれ終わったら、もう今日は帰れ。明日演打ちで寝られたらたまらん」
日比野「らじゃです」
本山「じゃあ、お疲れ」
日比野「お疲れ様です」
本山「あ、リリウム方面行きますけど入れ回収とか何かあります?帰りは未定です」
制作部に声がけをする本山。
○ スタジオリリウム・外観
大通りに面した小さなビル。
入り口はオートロックになっている。
インターホン「はい」
本山「みたかプロでーす」
オートロックが解除される。
○ スタジオリリウム・仕上げ部屋
エレベーターを上がって3階に到着する。
廊下にリリウムが関わった作品のポスターが飾られている。
本山「お疲れ様でーす」
広瀬「おつかれー。こっちこっち」
本山「あい」
広瀬が手招きしている。
本山「お疲れ様です。仕上げ入れでーす」
広瀬「うぃ、お疲れ」
本山からコンテとカット袋を受け取る広瀬。
広瀬「あ、隣の人のイス使っていいよ」
本山「あざます。上がりは朝方なんです?」
広瀬「一応、朝方って話なんだけど、前倒しになるかもしんないから待機。予告優先なんだって」
本山「なるほど」
広瀬「とりあえず、こんだけだったら2時間もあれば終わるんじゃない」
本山「2時間か…待とうかなどうしようかな…」
広瀬「別に誰もいないから待っててもいいよ。やることあるなら戻ってもいいだろうし」
本山「いや、戻ってまたすぐこっち来るのめんどくさいんで待ちます」
広瀬「じゃあ、適当にそこら辺で待ってて」
本山「あ、だったらなんかコンビニでコーヒーでも買ってきますわ。ブラックでいいですよね」
広瀬「お、ありがと。あとでお金渡すわ」
本山「いいですよ。じゃ、ちょっと行ってきます」
○ スタジオリリウム・外観
深夜。
大通りをたまに通過する車。
○ スタジオリリウム・仕上げ部屋
広瀬がリテイク仕上げを淡々とこなしていく。
仕上げ作業をする広瀬の後ろでぼーっとコーヒーを飲みながら眺めている本山。
広瀬「おとなしいね」
本山「え?」
広瀬「いや、ぼーっと眺めてるから」
作業の手は止めない。
本山「あ、気になります?」
広瀬「いや、見られてるのは気にならないけど、今日はおとなしいなって思っただけ」
本山「あぁ」
広瀬「あぁって」
本山「たまにこうやって仕上げ作業とか他の部署の作業を見てるとやっぱりすごいなぁって思うわけですよ。白紙の所から始まって今こうやって色がついてるわけじゃないですか。この後は動いた映像になるわけで、なんか普段、物を動かしているだけだとわかんないですけどアニメってすごいですよね」
広瀬「なに新人みたいなこと言ってんのよ」
本山「いやぁ、毎回佳境に入って撮影上がりとか見る度に思いますよ。おー動いてるって」
広瀬「でも確かにすごいよね。こんだけ手間のかかる作り方してるのに毎週のように何十本と新作がオンエアされてるんだから」
本山「ホントそう思います」
広瀬「データはFTPに上げておけばいい?」
本山「え?あ、はい」
広瀬「もうすぐ終わるよ」
本山「ホントですか。伝票切りますわ」
時計を見ると2時を回っている。
伝票を切り始める本山。
広瀬「データ上げとくから、もうカット袋持って帰ってもいいよ。眠たそうだし」
本山「あーわかります?」
広瀬「そりゃあ、何度もあくびを我慢してるし。はよ会社戻りな」
本山「お言葉に甘えて、そうしますかねぇ」
広瀬「そうしな、そうしな」
本山「今日はありがとうございました。助かりました」
広瀬「いいよ、待ちで退屈してたしね。私もちょっと仮眠するかな。この分だと朝まで来なさそうだし」
本山「じゃあ、お疲れ様でした」
広瀬「お疲れ〜」
本山がカット袋を持って部屋を後にする。
○ みたかプロ・外観
昼。
雨が降っている。
○ みたかプロ・作画部屋
本山が中島と喋っている。
本山「今日、演打ちにくっついて出てるんで何かあったら制作部にいる誰かに声かけて下さい」
中島「うぃ。来週月曜のCTさ」
本山「はい、ダメですよ」
中島「まだ何も言ってないだろ」
本山「コマケットでしょ?」
中島「そう、それ。やっぱり俺行くことに」
本山「行っても良いですよ」
中島「あれ、いいの?」
本山「どうぞ。日曜、撮影お休みですもん。金曜日中に入れた分を土曜日に出てきて撮ってくれますけど日曜日は嫌だっていわれましたもん」
中島「本撮どんなもんになるの?」
本山「半分くらいといったところでしょうか」
中島「状況そんなによくねぇな」
本山「うーん…原画作監で止まっちゃってますからねぇ」
中島の隣の席を見る。
束になっておかれているカット袋。
本山「劇場版の原画作業が先週抜けるはずだったんですけど、昨日まで引っ張ったみたいで」
中島「そうか…DB差しできるんだっけ?」
本山「一応、DB差しオールカラーの予定ですけどね。実質、DB差しが本CTですよ」
中島「あぁそうか、月曜PVのCTも一緒にやるんだっけ」
本山「えぇ。PV優先は全部本撮になってるんでまぁなんとか」
中島「あとはどんだけ差せるかかぁ。平岸さん次第だなぁ、今日入るの?」
本山「一応、夕方から入って今日からガリガリやってもらう予定です。手は早いですから」
中島「まーねー」
○ みたかプロ・制作部屋
伏見が電話をしている。
伏見「え?あーもう公開してるんですっけ?一昨日から?あーじゃあどっかで時間作ってみてきますよ。どこのパートやってるんですか?」
バタバタとしているいつもの制作部。
伏見「はい、じゃあよろしくお願いします。また電話しますー」
電話を切る。
藤丘「○○さん、劇場版参加してたんですか?」
パソコン作業をしつつ伏見に話しかける藤丘。
伏見「えぇ。なんかワンシーンまるまるやってたみたいよ」
藤丘「あーテレビシリーズにも参加してましたもんねぇ。コンテは頼めそうですか?」
伏見「うーん…あの反応は推せばやってくれるかもね」
『コンテ候補者リスト』と書かれたメモを眺める。
藤丘「で、見に行くんですか?」
伏見「何を」
藤丘「映画」
伏見「週末にでも見てくるわよ。何故か前売り券がここにあるからね」
引き出しから前売り券を取りだして見せる。
藤丘「桜坂さんですか」
伏見「よくわかったわね」
藤丘「だって、それゼロの作品じゃないですか」
伏見「あぁそうか」
藤丘「私は来月公開の掛川監督の新作が楽しみなんですよねー」
伏見「私だってどっちかつーとそっちの方が見たいわよ。こっちのテレビシリーズ見てないんだもの」
藤丘「貸しましょうかブルーレイ?」
伏見「持ってんの?…って噂をすれば桜坂から電話が」
電話を受け取る。
伏見「はいもしもし」
本山が作画部屋から戻ってくる。
本山「準備できたか?」
隣で書類の束を確認する日比野。
日比野「えーと…えーと…はい」
本山「いいから、一旦落ち着け」
日比野「はい」
本山「会議室の準備はしてあるんだろ?」
日比野「設定とかも置いてあります」
本山「その束は?」
日比野「自分のコンテとかです」
本山「とりあえず、それを置いてこい。演出は?何時に来るの?」
日比野「えっと、14時です」
時計は13時45分を指している。
本山「まだ時間あるからとりあえず、それ置いてこい」
日比野「はい」
日比野がバタバタと会議室へ向かう。
制作部屋の入り口を見ると小柄な男性がキョロキョロとしながら立っている。
伏見「お久しぶりです!」
電話を終えた伏見が男性に近づいていく。
石切「おぉ、伏見ちゃん」
伏見「石切さんお元気でしたか?いやぁ変わらないですね」
石切「ははは、またまた。そっちも変わらないねぇ」
伏見「一応、これでもデスクなんですよ」
石切「あーじゃあ大変そうだ」
伏見「えぇ毎日大変です」
石切「いやいや、伏見ちゃんの下についてる進行達がだよ」
伏見「ちょっと、それどういう意味ですか」
石切「そのまんまだよ」
伏見「むぅ。演打ちでしたっけ」
石切「そう、14時からの演打ちで」
伏見「あ、スリッパどうぞ。本山、日比野」
伏見が本山と日比野を呼ぶ。
伏見「演出の石切さんいらっしゃったわよ」
本山と日比野が寄ってくる。
伏見「制作の本山と日比野です。では、石切さんよろしくお願いしますね」
石切「いえいえ、こちらこそ」
伏見が自分の席に戻っていく。
本山「初めまして、制作の本山です。どうぞ、こちらへ」
本山が石切を会議室へ案内する。
後ろを日比野がパタパタとついていく。
○ みたかプロ・第2会議室
演打ちの準備が終わっている会議室。
石切がリュックを置く。
本山「改めて、制作の本山です。よろしくお願いします」
名刺を渡す。
日比野「あ!名刺!ちょっと取ってきます!」
本山「準備しとけって言っただろ」
日比野が慌てて、制作部に戻っていく。
石切「石切です。えーと名刺名刺…あったあった」
石切がポケットから名刺を取り出す。
日比野が名刺を持って戻ってくる。
本山「で、今回、こっちにいるのが話数進行を担当する日比野です。新人で初話数ですが僕の方が補佐としてつきますので何かありましたら、僕の方に連絡を入れていただければと思います」
日比野「日比野です。新人でご迷惑をおかけすることも多々あると思いますが、何卒よろしくお願いいたします」
石切「よろしく。日比野さんに本山さんね」
本山「じゃあ、監督お呼びしてきますのでもうしばらくお待ち下さい」
本山が出て行こうとすると日比野もついてこようとする。
本山「何」
日比野「え、監督呼びに行くんですよね」
本山「準備終わってるんだろ?お前は演出さんと話でもしてなさい」
日比野が小声で答える。
日比野「だって初対面ですよ」
本山「お前、何言ってんのこれから納品まで一緒にやるんだから仲良くなっときなさい」
本山が出て行く。
日比野が振り返ると石切がリュックからコンテや筆記具などを出している。
石切が日比野に気付く。
日比野「へへ」
変な笑い声が漏れる日比野。
○ みたかプロ・制作部屋
本山が戻ってくる。
本山「堀田さーん、八田さーん、演出来ましたんで始めますよー」
八田「はーい」
堀田「うーい。第2?」
本山「第2です。監督と助監呼んできます」
堀田「うーい」
堀田はコンテと鉛筆1本、八田はコンテと筆箱、設定の束を持って会議室へ向かう。
本山は作画部屋へ向かう。
○ みたかプロ・作画部屋
豊平、美園、白石、宮沢がパソコンを囲んで話している。
パソコンでは映画の予告が流れている。
本山「お疲れ様です。あ、掛川監督の新作ですか?」
豊平「そう、来月公開の」
白石「いやぁこの人の作品は悔しいけど気になるよねぇ」
宮沢「僕ら若い世代が目指す目標の1人ですよ」
美園「ほんとほんと」
豊平と白石が美園と宮沢を見る。
白石「もちろんお2人もですよ」
美園「そうそう」
豊平「ありがとう」
白石「気を遣わせてしまったな」
美園「いやいやいやいや、ホントですよ」
本山「あ、豊平さん、美園さん演打ち行きましょう」
豊平「そうだな」
豊平が立ち上がりコンテを取りに行く。
美園も後を追う形で自分の席に戻っていく。
○ みたかプロ・第2会議室
日比野、堀田、八田、石切の4人が座っている。
堀田「あ、あの作品やってたんですかー」
石切「えぇ、あの時は大変でしたよ。ほら毎週衣装が替わるでしょ」
堀田「えぇえぇ、見てました見てました」
堀田と石切が会話している中、日比野は黙って聞いている。
八田は設定を準備している。
扉が開き、本山と豊平、美園が部屋に入ってくる。
豊平「お待たせしました」
全員が立ち上がる。
本山「えー、こちら今回18話の演出をお願いする石切さんです」
石切「よろしくお願いします」
本山「監督の豊平さんと助監督の美園さんです」
美園「よろしくお願いします」
豊平「ご無沙汰してますー」
堀田「あ、お知り合いなんですか?」
豊平「あぁKPの時にやってた作品で何回かグロス演出をしてもらった」
石切「いやぁ、3年ぶりぐらいですかね」
豊平「もうそんなになりますか」
豊平と石切が盛り上がる一方で、おとなしい日比野の様子に気付く本山。
本山「どうした、体調悪いのか?」
日比野「いえ、緊張しているだけです」
本山「あ、そう」
日比野「話題に加わった方が良いんですかね?」
本山「とりあえず、話してる内容メモったり覚えとけばいいから。打ち合わせで話してたことを忘れないようにさえすればいい」
日比野「はい。あとKPってどこです?」
本山「コクブンジピクチャーズ」
日比野「あぁ」
堀田「監督、そろそろ演打ち始めましょうか」
豊平「おぉそうだそうだ。えーと、18話だっけ?」
堀田「えぇ」
豊平「石切さん、原作はご存じ?というか、見てました?」
石切「えぇ、オンエア見てました。あと原作も実は持ってます」
豊平「あ、そうですか。なら話は早い」
石切「教室のシーン多いですよねぇ…アレって作画です?」
豊平「作画の部分もありますが大体、CGで置いてます。便利になりましたよねぇ」
石切「じゃあ、セルが絡むとこは作画でって感じですか」
豊平「そうですね。またここは作画でとかCGでとかはその都度お伝えします」
石切「よろしくお願いします」
豊平「じゃあ、カット1から」
演打ちがスタートする。
○ みたかプロ・制作部屋
中村が休憩から戻ってくる。
伏見が電話をしている光景を見て藤丘に話しかける。
中村「今日ずっと電話してんね」
藤丘「昨日の本読みで一気にシナリオOK出たからね」
中村「あ、そうなの。あとで読んどかなきゃ。サーバーに上がってる?」
藤丘「上がってる上がってる」
中村がパソコンを操作していると、伏見が電話を終える。
中村「あ、デスク」
伏見「はいよ」
中村「さっき宮沢さんと話してたんですけどね、ゼロの先輩がマジョスパやりたいって言ってたみたいですよ」
伏見「え、ホント?」
中村「とりあえずデスクに伝えときますわって言っておきましたよ」
伏見「作画部屋にいる?」
中村「多分」
伏見「ちょっと行ってくるわ」
○ みたかプロ・作画部屋
宮沢が作業をしている所に伏見がやってくる。
伏見「お疲れ様ですー」
宮沢が気付いてイヤホンを外す。
宮沢「お疲れー」
伏見「どうです、総作監作業」
宮沢「まだ中々うまくいかないね。でも中村くんが集めてくれた原画マンがうまいから、助かってる」
伏見「それ、○○さんのラフ原です?」
宮沢「見る?」
伏見「じゃ、ちょっと失礼して」
伏見が受け取って、パラパラとめくる。
伏見「はー。やっぱりうまいっすねぇ」
宮沢「原図も丁寧に書いてくれてるし、中々、仕事がしっかりしてる人だよね。中村くんはいいスタッフを知っているよ」
伏見「あとで宮沢さんが褒めてたって言っておきますよ」
宮沢「ははは。ところで、何の用だった?」
伏見「中村から聞いたんですけど宮沢さんの先輩がマジョスパやりたいらしいとか」
宮沢「あぁ、その件か。えっとね、○○さんて人なんだけど」
伏見「○○○さん?」
宮沢「そう。知ってる?」
伏見「連絡先は一応。何度かお願いしようとしたんですけどタイミングが合わなくてですね」
宮沢「昨日電話で話したんだけどね。相変わらず忙しいらしいんだけど、なんか手伝おっかって言ってたからお願いできるならお願いしたいなぁと。コンテとかもう撒ききった感じ?」
伏見「コンテやってもらえるんです!?」
宮沢「演出は無理だろうけど」
伏見「いやいやいや、贅沢は言いませんよ」
宮沢「ちなみに何話とかある?」
伏見「どういう系得意です?」
宮沢「そうだねぇ、エフェクトとかアクション得意だよ。7話とかどう?」
伏見「あー変身回ですか。確かに7話、魔法とか変身とか出てきますしね」
宮沢「7話で話しちゃっていい?」
伏見「えぇ。あとでシナリオとか設定とか一式用意します」
宮沢「了解。連絡入れとくね」
伏見「ありがとうございます」
○ みたかプロ・第2会議室
演打ちの途中。
豊平「えーとカット57はBANKか、これ何話だっけ。抜けてるわ」
美園「あー14話ですね、確か」
本山「14話のカット78ですね」
豊平「あぁそうか本山か。14話」
本山「えぇ」
日比野「先輩」
日比野が小声で本山に尋ねる。
日比野「えーっと、BANKって事はここは作画さんにお願いしなくていいんですよね」
本山「そう。14話の撮影が終わったらそれを18話でも使うの」
日比野「なるほど」
本山「この前、コンテ見ながらBANKリスト作っただろ。それを石切さんに確認してもらって撮影に渡せば終了」
日比野「ふむふむ」
豊平「まぁわかんなかったら、そうやってその都度先輩に聞くんだな。続けていいか?」
日比野「あ、はい。すみません」
豊平「気にするな。じゃあ58ですが…」
○ みたかプロ・制作部屋
人の少ない制作部。
真ん中で藤丘と岩塚がいる。
岩塚が竹刀を持って、構えている。
藤丘がそれをデジカメで写真を撮っている。
藤丘「そうそう、ちょっとそのまま動かないで」
岩塚「はい」
コンコンと開いている扉をノックして制作部に入ってくる宮沢。
宮沢「伏見さんいる?」
藤丘「あ、今コンビニに行ってますよ。多分もうじき戻ってくるはず。何か伝えておきます?」
宮沢「いや、待つよ。何してんの?」
藤丘「写真参考撮ってるんです」
宮沢「何の」
藤丘「竹刀を握って構えたときの腕の感じが知りたいんですって」
宮沢「ふーん」
伏見の席に置いてあるアニメ雑誌を座ってペラペラとめくる。
岩塚「一旦、腕下ろしていいすか?」
藤丘「あぁ、いいわよ」
岩塚が腕を下ろす。
大きく息を吐く。
藤丘「大げさね」
岩塚「いや、意外と辛いっすよ」
藤丘「さっさと残り撮っちゃうわよ。さ、さっきのポーズ」
岩塚「はい」
岩塚が再び竹刀を構える。
伏見「ただいまーってあんたたち何してんの」
伏見が戻ってくる。
藤丘「写真参考です」
岩塚「です」
伏見「あ、そう。制作部狭いんだから振り回さないでよ」
伏見が自分の席に向かうと宮沢がいる。
伏見「お疲れ様です」
宮沢「あ、お疲れ。待ってたんだよ」
伏見「ひょっとしてコンテの件?」
宮沢「うん、とりあえずシナリオ読んで決めたいから今夜中にスタジオに届けといてくれって」
伏見「ゼロでいいんですっけ?」
宮沢「いいよ。ロッカーでOK。読んだらまた僕の所に連絡くれるって」
伏見「了解です。じゃあ一式送っておきますね」
宮沢「よろしく」
伏見「何見てるんです?ってあぁ、献本で送られてきた今月号ですか」
宮沢「○○さんの作品載ってるや」
伏見「あぁ、宮沢さんがやるはずだった」
宮沢「そう」
宮沢が記事を眺める。
宮沢「秋番か…」
伏見「みたいですねー。さ、ご飯食べるんで席空けてください」
宮沢「あぁ、ごめん」
宮沢が立ち上がり、伏見が椅子に座る。
伏見「宮沢さんと私は共犯っての忘れないで下さいね。少なくとも1人で戦ってるんじゃないですから、安心して下さい。いただきまーす」
親子丼を食べ始める伏見。
宮沢「僕もお腹空いたな。ご飯食べに行ってくるよ」
伏見「裏通りにスープカレーのお店がオープンしたんで感想待ってます」
宮沢「スープカレーかぁ」
伏見「えぇ、スープカレー」
宮沢「じゃあ、そこに行ってくるよ」
伏見「いってらっしゃい。ちょっとあんたたち、それ写真参考にホントに必要!?」
藤丘と岩塚が盛り上がって、調子に乗って勇者パースっぽい写真を撮っている。
○ みたかプロ・第2会議室
演打ち中盤戦。
豊平「あれ、これでAパート終わり?」
美園「ですね」
八田「じゃあ、ちょっと休憩入れますか。えーと15分後ぐらいにしますか。16時再開で」
豊平「うぃー」
石切「ここ、喫煙所ってあります?」
堀田「あ、ありますよ。自分も吸うんで案内します」
本山と日比野、八田が残る。
本山「ふぅ…おい、おとなしいな」
日比野「いやもうなんか何が必要で何が必要じゃないのかわからないので全部メモってますよ…追いつかないです」
本山「んなもん、慣れだよ慣れ。まぁ全部メモってるならまだいいんじゃないか」
日比野「ですかね。さすがに監督が運動会で保護者リレーでぶっちぎりで優勝したとかいらないですよね。一応メモりましたが」
本山「お前、それ18話に全く関係ないだろ」
日比野「いらないですね、はい」
八田「設定関係はこっちで把握してるからそんなに気負わなくていいよ。みんな出てるわけだし」
日比野「ありがとうございます」
八田「そんなかしこまらなくていいのに」
日比野「なんか急にプレッシャーが」
本山「まぁ緊張するのはいいけど、まだ後半もあるんだから程ほどにしとけよ。ちょっとトイレ行ってくるわ」
日比野「はい」
本山が出て行く。
○ みたかプロ・制作部屋
本山が制作部に戻ってくる。
岩塚「あ、回収してきた原画上がり置いといたぞ」
本山「ありがとうございます」
岩塚「長いね、半パート終わったとこ?」
本山「えぇ。今回、初参加なので丁寧めに打ち合わせしてます」
岩塚「なるほど」
本山「あぁこれ中島さんに回しとくか」
本山が上がりを手早くチェックしていく。
○ みたかプロ・外観
昼。
○ みたかプロ・第2会議室
演打ち風景。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部の風景。
○ みたかプロ・外観
夕方。
○ みたかプロ・第2会議室
18時半過ぎ。
演打ちが終わる。
豊平「じゃあ、もろもろよろしくお願いします。またなんかあったら制作経由で質問下さい」
石切「わかりました。お疲れ様です」
豊平「お疲れ様でした」
美園「お疲れ様です」
豊平と美園が出て行く。
片付けをしている石切。
本山「えーと、石切さん、一応スタジオに席は用意してありますけど、作業はどこでやられますか」
石切「あー、基本アートノートで作業してるけど、ゴゴシロはこっちで作業するよ。特に指示がないときは上がりはこっちに置いておいて」
本山「わかりました。作業時間帯とかあります?」
石切「年取ってきて夜が辛いから基本徹夜はしない。大体昼から22時ぐらいまで作業かな。なので、その時間帯なら電話は出られるよ。作打ちはどうする?」
本山「えぇ、作打ちなんですけど明後日辺りからご相談できればと思うんですけど、ご都合どうですか?」
石切「ちょっと今週いっぱいは都合が難しいかな。週明けからならこっちに合わせるよ。作打ち進めたいだろうし」
本山「わかりました。週明け月曜日から作打ち出来るよう段取りしますね。ある程度、予定組めたら連絡します」
石切「うん、よろしく。あ、設定とかはアートノートに届けてくれればいいから」
本山「了解です。じゃあ日比野、席ご案内して」
日比野「あ、はい。こちらです」
日比野と石切が出て行く。
堀田と八田も書類を片付けている。
堀田「不安だなぁ」
本山が苦笑いする。
八田「そうです?」
堀田「あんなに緊張するもんかねぇ」
八田「私もいざ自分が担当するってなったときはちょっとパニクりましたよ」
堀田「うーん、不安だ。てか、本山。お前、月曜日CTだろ」
本山「あ」
堀田「あ、じゃないだろ。あ、じゃ」
本山「火曜日からですね…作打ち」
堀田「うーん、やっぱり不安だ」
本山「俺んときも言ってましたよね」
堀田「そうだっけ」
本山「不安だ不安だ…って。堀田さん大丈夫だろって言ってた同期はみんな辞めましたけど」
八田「じゃあ、日比野くんは辞めないね」
本山「そういうことになりますね」
○ みたかプロ・制作部屋
会議室の片付けが終わった本山が制作部に戻ってくる。
本山「うへぇ、もうすぐ19時か」
荷物を机に乱雑に積み電話をかけ始める本山。
本山「もしもし、みたかプロの本山です。えぇ、えぇ、そうです、ゴゴシロです。あ、ありますか上がり。じゃあ、この後夜の便回りで回収伺います。はい、引き続きよろしくお願いします」
受話器を置かずに、通話を切る。
本山「えーと、次は…と」
パソコンで日報を開き、確認していく。
本山「あ、もしもしー」
伏見がケータイを見ている。
伏見「藤丘、今日私この後、外に打ち合わせに行ってそのまま直帰するわ」
藤丘「直帰ですか」
伏見「なんか、確認系あったっけ」
藤丘「いや、珍しいなと思っただけです」
伏見「だって、ぼちぼち電話出来ない時間帯じゃない」
藤丘「あーまぁ印象悪くなりますよね」
伏見「夜型の人間多いのに、夜遅い時間に電話かける
と嫌がられるのよね」
藤丘「作業に集中したいんじゃないんですか?」
伏見「まぁそれもあるかもねぇ」
中村「伏見さーん、電話。3番。○○さんからです」
伏見「お、コンテやってくれるかな?」
受話器を取る。
日比野が戻ってくる。
丁度、電話を終えた本山が尋ねる。
本山「あれ?石切さんは?」
日比野「ちょっと荷物置いたら帰るって言ってました」
本山「鉛筆とか備品の場所教えた?」
日比野「えぇ。あ、会議室片付けしてきますね」
本山「終わってるよ」
日比野「ありがとうございます」
日比野が机に置かれた書類の束を整理し始める。
再び、電話をかけ始める本山。
本山「お疲れ様ですー、本山です。どうですか状況。えぇ、はい」
日比野がごちゃまぜになった設定書類を整頓していく。
しばらくすると、コンコンと開いている扉を叩く音がする。
入り口を見ると石切が立っている。
日比野「あ、終わりました?」
日比野が入り口まで歩いて行く。
石切「とりあえず、今日はこれで失礼するよ」
日比野「わかりました」
本山「あ、次回までにカードキーご用意しておきますので」
電話を終えた本山もやってくる。
石切「お願いします」
本山「お疲れ様でした」
日比野「お疲れ様でした」
石切「お疲れ様」
石切が帰るのを見送る2人。
○ みたかプロ・外観
石切が階段を降りて出てくる。
○ みたかプロ・制作部屋
席に戻る2人。
本山「さて一旦、休憩。飯食ったら、諸々終わらすぞ」
日比野「了解です」
本山「何食う?」
日比野「あーコンビニ行こうかなと」
本山「よし、カレーだな。カレーにしよう。ほら新しく出来たとこ。奢っちゃる」
日比野「マジすか」
堀田「ラッキー」
日比野「え」
本山「デスクは自腹ですよ」
堀田「えー」
本山「えーじゃないですよ」
日比野がホワイトボードに『食事』と書き終わると制作部屋を出て行く3人。
○ みたかプロ・制作部屋
21時頃。
本山達が戻ってくる。
本山「とりあえず、週明けから作打ちが組めるように
したいけど電話はもう遅いから明日。演打ちで
出た確認系をとりあえず整理して」
日比野「了解です。なんかデータにした方が良いです
か?」
本山「日報のファイルにシートを追加してそこにメモっ
て」
日比野「わかりました」
本山「あと、足りない設定とかを再確認。写真参考は
まとめたら演出確認」
日比野「はい」
本山「基本こっからは演出と二人三脚。細かいことで
も演出に確認」
日比野「はい」
本山「じゃ、何かあったら聞いて」
本山、外回りから回収されてきた原画を捌き始める。
中島「平岸さんまだ来てねぇぞ」
中島が上がりを持って本山の席にやってくる。
本山「え」
時計を見ると21時を回っている。
本山「ちょっと電話してみます。ありがとうございます」
中島「とりあえずこれ上がり。一応手持ち分は全部捌
けたから何かあったらメールちょうだい。明日
はKPの方に入ってるから」
本山「了解です。お疲れ様です」
中島が制作部屋を後にする。
電話をかける本山。
○ ボックスプロジェクト・外観
雑居ビル。
2階と3階部分に制作会社、ボックスプロジェクトが入っている。
○ ボックスプロジェクト・制作部屋
入り口の扉を開けて、顔を出す伏見。
伏見「お疲れ様です。みたかプロです」
制作達が伏見を見る。
田辺「おう。時間通りだな。制作はやはり時間通りじゃ
ないとダメだな」
伏見「時間通り来たことない人がよく言いますね」
田辺「とりあえず中入れよ」
伏見「失礼します」
制作部屋を通って、パーティションで区切られた奥の打ち合わせスペースに通される。
壁にはゲームや遊技機などのポスターが多く貼られている。
制作達が伏見をじろじろと見る。
伏見「女性はいないんですか、ここ」
田辺「いない。いや、昔はいたんだけどね。いつの間
にか男だらけになっちゃって」
伏見「うわ、危なっ」
廊下の隅で寝袋にくるまっている制作を踏みそうになる。
田辺「どうも男だらけになるとよくないよな。帰れっ
て言ってんのに。どう、うちに転職する気ない?」
伏見「田辺さんの部下には二度となる気はありません」
田辺「ははは、だろうな。ここで少し待ってて。監督
呼んでくるわ」
伏見「はい」
部屋を見渡す伏見。
○ ボックスプロジェクト・外観
田辺と伏見がビルの入り口で話している。
伏見「じゃあ、後日、打ち合わせの日程が決まり次第、
連絡します」
田辺「おう。どう?これから飯でも」
伏見「いえ、今日は帰ります。明日も早いんで」
田辺「残念」
伏見「それでは」
田辺「おつかれ」
伏見が一礼して去って行く。
見送る田辺。
○ みたかプロ・外観
23時頃。
進行車がハザードランプを焚いて止まっている。
○ みたかプロ・作画部屋
本山と平岸が入ってくる。
平岸の席に向かう。
平岸「いやぁ、起きられなかったねぇ。さすがに無理だっ
たわー」
本山「まぁ大変だったのはわかりますけど」
平岸「夕方に入るっていったのはこっちだったから
ねー。迎えに来てもらって悪いね」
本山「だって、迎えに行かなかったら電話の後二度寝
する気だったでしょ」
平岸「バレてたか。まぁ始発まで頑張るよー、うん」
本山「お願いしますよー」
平岸「あーい」
荷物を下ろしながら返事をする平岸。
車を駐車場にしまうために作画部屋を後にする本山。
机の上に束になっているカット袋から原画を取りだしパラパラと鋭い目付きで眺める平岸。
原画を置く。
平岸「よし、やるか」
ふん、と鼻を鳴らす。
○ みたかプロ・制作部屋
1時過ぎ。
制作部屋には本山の他に中村、藤丘、八田達が残っている。
平岸がやってきて、コピー機を使う。
本山「進捗どうです?」
平岸「始発までにはなんとか全部終わるんじゃないか
なー」
本山「よろしくお願いします」
平岸「何、帰んの?」
本山「あと少ししたら帰りますよ」
平岸「いーなー」
本山「平岸さんまだ来たばっかじゃないですか」
平岸「私も帰ろうかな」
本山がじとーっとした目で見ている。
平岸「冗談よ」
本山「冗談でもやめて下さい」
コピーを終えた平岸が制作部屋を後にする。
本山「あ、八田さん18話の不足設定リスト更新して
おきました」
八田「はーい。あとでチェックします…ん?」
本山「どうしました」
八田「なんで18話?」
本山「あぁ、日比野が作ったやつのチェックをしたので」
八田「なるほど」
本山「よろしくです…さてと」
パソコンの電源を落とす本山。
本山「帰るか」
本山が帰ろうとすると藤丘がパソコン画面を見ながら首をかしげる
藤丘「ん?んん?」
中村「どうしたんすか」
向かい側の席にいる中村が尋ねる。
藤丘「ちょっとこれ見て」
中村の他に本山、八田も近づいていき画面を見る。
つぶやきサイトのとある制作会社プロデューサーのつぶやきが表示されている。
平岸「本山!掛川監督が亡くなったってネットに情報
が出てる!」
平岸が携帯電話を握りしめながら、制作部屋に駆け込んでくる。
本山「今それ見てます。これホントです?」
藤丘「掛川監督新作の制作会社ってこのプロデューサー
んとこじゃなかったっけ」
中村「このつぶやきのあと、つぶやいてないですね…」
八田「あー何人かつぶやいてますね…ホントだったら
ショックだなぁ…」
平岸「ホントかどうか誰か確認出来ないの。制作でしょ」
藤丘「制作でしょって言われたって、掛川監督と関わ
りがないですもん…」
平岸「ここに電話かけてよ」
藤丘「んな無茶な」
本山「あ、同期いますわ」
平岸「はい、電話。今すぐ電話」
本山「えー…夜中ですよ」
全員が本山を見ている。
観念する本山、携帯をいじり高瀬に電話をかける。
本山「もしもし?夜中にすまんな。ちょっとネットで
見たんだけど」
高瀬(OFF)「掛川監督だろ!?ホントだよ!今日の
午前中にはスタジオのHPに記事が上がるから
…詳しいことはそっちで…。すまん、ちょっと
バタバタしてるからまた連絡する」
ブチッと電話を切られる。
平岸「で?」
本山「事実みたいです。掛川監督亡くなったみたいです。
午前中にHPに記事上がるみたいです」
それぞれが近くにある椅子に脱力して座る。
藤丘「マジか…」
おわり