第6話
第6話登場人物
『有限会社三鷹プロダクション』
アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【 三プロ(さんぷろ)】。
設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。
『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』
伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。
『午後の城』
堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。
通称【ゴゴシロ】。学園もの。
―――――――――――――――――――――――――
みたかプロ・制作部
伏見 … ふしみ。女。制作デスク。
堀田 … ほりた。男。制作デスク。
本山 … もとやま。男。制作進行。
日比野 … ひびの。男。制作進行。新人。
黒川 … くろかわ。男。プロデューサー。
藤丘 … ふじおか。女。設定制作。
中村 … なかむら。男。制作進行。OAD+マジョスパ#01担当。
岩塚 … いわつか。男。制作進行。ゴゴシロ#01担当。
八田 … はった。女。デスク補佐。スタジオアルファから堀田班に出向中。
みたかプロ・動画部
小野 … おの。女。動画検査。
二条 … にじょう。女。動画マン。
動画A … 男。動画マン。
みたかプロ・総務部
曽根 … そね。女。総務のおばさん。
総務部長… 女。総務部の部長。
―――――――――――――――――――――――――
伏見班担当作品スタッフ
白石 … しらいし。男。『マジョスパ!』監督。
宮沢 … みやざわ。男。キャラクターデザイン。プロダクション・ゼロ所属。
森 … もり。女。プロップデザイン。
日吉 … ひよし。男。美術監督。
高田 … たかだ。女。美術監督補。
梅林 … うめばやし。女。色彩設計。スタジオリリウム所属。
八乙女 … やおとめ。男。撮影監督。
堀田班担当作品スタッフ
豊平 … とよひら。男。『ゴゴシロ』監督。
美園 … みその。男。助監督。
中島 … なかじま。男。本山担当話数の演出。
平岸 … ひらぎし。女。本山担当話数の作監。
―――――――――――――――――――――――――
その他
高瀬 … たかせ。男。他社制作。本山と同期。
箕浦 … みのうら。女。他社制作。本山と同期。
吉野 … よしの。女。日比野の専門学校時代の同期。スカイブルー所属。
―――――――――――――――――――――――――
動画管理【どうがかんり】とは…社内に動画部を抱えているスタジオの窓口である担当者のこと。もしくは仕事内容のことを指す。社内動画部の動画の仕事確保やスケジュール調整などを行う。社内作品がなく手空きになりそうな場合は、担当が各スタジオに電話をして動画の仕事を調達する。また、その際に単価やスケジュールの交渉なども行う。スタジオによっては動画検査が兼任している場合もあるが制作部がある場合は、大体制作が動画管理を担当している。自社作品でトラブルが発生したときは社内動画部に大抵、泣きつくことになるので動画管理は社内作品の状況を常に把握しておく必要がある。
○ みたかプロ・外観
昼。
本山と岩塚が出勤してくる。
○ みたかプロ・制作部屋玄関
下駄箱で靴を履き替えながら本山と岩塚が話をしている。
本山「1話どんな感じです?」
岩塚「とりあえず、半分ぐらい進んでる感じ」
本山「レイアウト上がりきった感じです?」
岩塚「まだ8割かなぁ。演出手持ちはほぼ捌けてるけど作監総作監で止まっちゃってる」
本山「でも、動画入れも発生はしてるんですよね」
岩塚「PV先行とかもあるからね」
本山「あぁ1話ですもんね」
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
本山と岩塚が入ってきてタイムカードを押す。
岩塚「とりあえず、残りの2割のレイアウト集めないと。あと作監」
本山「よくもまぁあんだけじゃじゃ馬で有名なアニメーターさん達から原画集められますね」
岩塚「神経が図太いからね」
岩塚が笑う。
Tシャツの背中には「ごーまいうぇい」と書かれている。
日比野「おはようございます!」
本山「おはよう。朝から元気だな、おい」
日比野「いつも通りです」
本山「あっそ」
○ みたかプロ・第1会議室
昼。同時刻。
藤丘、宮沢、二条の3人が打ち合わせをしている。
宮沢「じゃあ、とりあえすこんなところかな。また何かあったら直接聞きにきてください」
二条「わかりました」
藤丘「では、お疲れ様でした」
○ みたかプロ・会議室前廊下
藤丘が資料を抱えて会議室から出てくる。
待っていた二条が話しかける。
二条「藤丘さん」
藤丘「あぁ、お疲れ様でした」
二条「なんで私なんですか?」
藤丘「なにが?」
二条「設定のクリンナップは小野さんがやってたじゃないですか。何で急に私に…」
藤丘「やりたくないの?」
二条「いや、そういうわけじゃ」
藤丘「宮沢さんがうちの動画部の線を見た中で二条さんにお願いしたいと思ったんですって。理由はそれだけ」
二条「宮沢さんが?あぁ…確かにうちの動画上がり見てたなぁ…」
藤丘「じゃ、とりあえずクリンナップよろしくね」
二条「はい」
藤丘が制作部に向かって歩いて行く。
後ろを二条がついていく。
○ みたかプロ・作画部屋
カット袋が積まれている動画部。
二条が戻ってきて荷物を片付けていると中村がやってくる。
中村「小野さーん」
小野「何?またリテイク?」
中村「いやいや、今ある分は全部撮影に入れ切りましたよ。作画系は多分大丈夫。なんで今日はもうバラシでオッケーです」
小野「バラシでオッケーってあんた、ゴゴシロもマジョスパも入ってんだからこんな昼間っから帰れるわけないでしょ。あんたのマジョスパ1話の先行カット後回しにして良いの?」
中村「あ、それは困る」
小野「大体、OADの原版が近いから仕方ないとして、ゴゴシロやらマジョスパの設定とか時間がある作品の動画入れが雑すぎる。スケジュールどんかぶりじゃん。擦り合わせしてないでしょ」
中村「あはは…中々忙しいもんで」
小野「忙しいのはこっちだって同じだっつーの。社内のスケジュールの擦り合わせは制作の仕事でしょ」
中村「はい、すみません」
本山がカット袋を抱えて入ってくる。
本山「小野さーん」
小野「ほらまたきた」
本山「2話のBANK描き足しカットの動画入れなんですけど…ってどうしたんすか」
カット袋から小野に目を向けるとムスッとした表情をしているため驚く本山。
そっと中村がその場を去る。
小野「ムスッともするわさ」
本山「え?え?」
小野「で?」
本山「これなんですけどね…」
本山がカット袋を見せる。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
本山が動画部から戻ってくる。
日比野が八田にコピー機のインクの換え方を教えている。
本山「八田さん、生意気なことを言ったら、しばいて大丈夫ですよ」
八田「いやいや」
日比野「でも八田さん自分と同い年なのにすごくしっかりしてますよ」
本山「そりゃこの業界に3年もいるからな」
日比野「へ?」
本山「確か高卒で、そのまま業界に入ったんですよね?」
八田「そうなんですよ。知り合いにアニメーターさんがいて、その人の紹介でアルファに。でも私、絵描けないんで元々制作志望でしたし、習うより慣れろって言われて専門には行かなかったんですよ」
日比野「あれ?てことは?」
日比野が本山を見る。
本山「俺の1年先輩。俺2年目だし」
八田「私、3年目です」
日比野が驚く。
本山「この業界、年齢はあんまり関係ないしね」
八田「年齢不詳の人も多いですよね」
本山「多い多い。ま、見た目で人を判断すると失敗するから気をつけた方がいいぞ」
八田「ホントに」
本山「というわけだから、先輩に失礼のないようにね、新人くん」
本山が日比野の肩をポンと叩く。
日比野「はい」
肩を落とす日比野。
くすりと笑う八田。
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
夜。22時頃。
藤丘が設定や原作を抱えて戻ってくる。
藤丘「今日の打ち合わせマラソンおわりましたー」
伏見「おつかれー」
藤丘「お疲れ様です」
伏見「あ、設定ラフだけどメーカーからオッケー出たよ。メール転送しといたけど」
藤丘「ありがとうございます。打ち合わせ中にメール確認しました。清書スケジュール組み直します」
伏見「よろしく」
岩塚「藤丘さーん」
離れたところから岩塚が藤丘を呼ぶ。
岩塚「プロップの森さんから戻ってきたら電話くれって電話ありましたよ。今日は夜通し作業してるから夜中でも良いから電話くれって言ってました」
藤丘「はいはーい…ちょっと休憩したらかけるわ」
岩塚「お願いしまーす」
岩塚がカット袋を抱えて、制作部を出て行く。
堀田「藤丘」
藤丘「なんですか?」
堀田「監督から。ほら、設定でないとこの写真参考」
堀田からプリントアウトされた紙を受け取る。
藤丘「あーあーはいはいはいはい。了解です」
堀田「じゃあ、よろしく。データはメールで送ってあるから」
藤丘「あ、はい、確認しました」
堀田が自分の席に戻っていく。
設定やら資料が山積みのままの藤丘の机。
藤丘「あかん、疲れた。甘いもん買ってこよう」
財布を手に制作部屋を出て行く。
八田「堀田さん、頼まれてたコピーです」
八田がコンテのコピーの束を抱えて歩いてくる。
堀田「あ、ありがとう。えーと、リストにある作画さん達には配ってきちゃって。これ、作画部屋の席順と配布リスト」
書類を八田に渡す。
八田「了解ですー」
○ みたかプロ・作画部屋
八田が作画部屋に入ってくる。
配布リストを見ながらコンテを配っていく。
演出の中島と雑談している本山。
時計を見る本山。
本山「さて、俺そろそろ上がりますよ」
中島「うーい。こっちも終電で上がるわ。明日作監打ちだから、平岸さんの作業分は出しとかないとまた怒られる…」
本山「そうですね…お先です」
中島「おつかれー」
本山「お疲れ様です」
再びヘッドホンをつけて作業を再開する中島。
本山が作画部屋を出て行こうと動画部の前を通ると岩塚が小野に怒られている。
小野「ちょっと、だから、昨日のはいつまでなのよ!こっち急ぎって持ってきたってこんな時間に対応出来るわけないでしょ!大体、いきなり降って湧いたわけでもないでしょうが!外に出して。無理」
岩塚「いや…でも…」
コンテを配り終え出て行こうとする八田も足を止める。
本山と顔を見合わせる。
○ みたかプロ・外観
夜。
自転車をこぎ出す本山。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
八田が戻ってくる。
自分の席に着くと隣の席でパソコンを見ながらカップ麺をすすっている堀田に話しかける。
八田「上で動検さんと揉めてましたよ、岩塚さん」
むせる堀田。
イヤホンを外す。
堀田「またか」
八田「そういえば、動画管理ってこのスタジオいないんですか?」
堀田「あー今年の頭まではいたんだけど結婚して辞めちゃって、そのあと引き継いでた奴も辞めちゃってそれ以降いないね…今は小野さんが動検やりつつかなぁ」
八田「お言葉ですが、これからテレビシリーズが2本同時に動いていくんであればちゃんと立てた方がいいと思いますよ」
堀田「そうだよねぇ。考えてはいるんだけど…」
電話が鳴る。
他の制作が電話中のため、八田が取る。
八田「はい、みたかプロ」
会話が途切れる。
八田「堀田さん、○○(スタジオ名)の○○さんからです」
堀田「あ、おぅ」
考えていた堀田がはっとして、電話を取る。
○ 牛丼屋
本山と高瀬が並んで食事をしている。
高瀬「もう両方とも動いてんだっけ」
本山「うん、ゴゴシロもマジョスパも動いてる。ただまぁマジョスパは1月番だからそんなに急ぎで動いてないけど」
高瀬「どうせどこの作品もスケジュールがキツキツになるんだから、早く動かしとくに越したことはないわな」
本山「まぁねぇ…」
高瀬「こっちも4月番の後半ひどかったもん。原画期間2週もなかったぜ…」
本山「うわぁ…よくまぁ最後まで走り抜けたなぁ」
箕浦が入ってきて高瀬の隣に座る。
箕浦「チーズ牛丼大盛り、あと温玉」
高瀬「お、久しぶりじゃん」
本山「えらい疲れた顔してるな…瘦せた?」
箕浦「先々週に事故って、そっからてんやわんや」
本山「えっ」
高瀬「何?事故ったの?怪我は?自損?」
箕浦「自損。怪我はないけど車が修理中。寝不足でガードレールにガガガガと」
高瀬「あーあるね。寝不足でふらふらしてるときギリギリになることあるもんね」
箕浦のところに牛丼が運ばれてくる。
箕浦「いただきます。そっから運転禁止になってもう自分の話数大変よ」
本山「あれか、深夜回収とかか」
箕浦「そ、運転できないから他の制作とか先輩とかに頼み込んでお願いするけど結局、お願いしといて帰るわけにもいかないじゃん。何するわけもなくただ待機。もう寝不足」
高瀬「帰りゃいいじゃん」
箕浦「雰囲気がねぇ。それに、そこまで図太くはないわよ」
高瀬「いやぁ、帰りづらい雰囲気とか会社が作ってるのも問題だと思うけどね。だって、運転禁止にしたのは会社側なんだし」
箕浦「でも事故ったのは私だからなぁ…」
本山「うちらもいつ事故るかわかんないし、気をつけるしかないなぁ」
高瀬「うーん…とりあえず、寝不足はなんとかしたいよなぁ…睡眠時間が削られていくというか」
本山「だなぁ」
○ 牛丼屋・外観
3人が別れる。
本山と高瀬が箕浦の後ろ姿を見送る。
高瀬「みのっち、大分疲れた顔をしてたな」
本山「あれはこの業界で何度も見たことがある人間の顔だ」
高瀬「辞める直前のな」
本山「でも事故って参ってるだけじゃなさそうだけど」
高瀬「そうなんだよね。ちょっと、みのっちんとこのスタジオの仕事してる作画さんに探り入れてみるよ」
本山「おぅ」
○ 本山のアパート・外観
本山が帰宅し、ポストを覗くと封筒が入っている。
送り主の欄に『桃谷ゆり』と書いてある。
○ 本山のアパート
玄関の扉を閉め、明かりをつける本山。
封筒を開けると手紙が入っている。
中身を眺める本山。
本山「あぁ。この前、頼まれて送った小物のお礼か…」
手紙には小さな可愛らしい文字で感謝が書かれている。
読み終えると簞笥の上に置いてある箱に入れる。
箱の中には同じような封筒が何通も入っている。
本山「遠距離はなぁ…今更なぁ…」
○ みたかプロ・外観
深夜。0時過ぎ。
動画部の人間がゾロゾロと帰っていく。
○ みたかプロ・制作部屋
深夜。0時過ぎ。
ちらほらとまだ制作部に人が残っている。
帰り支度をしている藤丘。
伏見がコンビニから戻ってくる。
伏見「あ、上がり?お疲れ」
藤丘「今週、ずっと打ち合わせで拘束されっぱなしで疲れますわー」
伏見「明日も昼から打ち合わせだしねぇ。疲れるよねぇ」
藤丘「ですねぇ。明日も頑張ります」
伏見「そうね。私もメール捌いたら帰る」
藤丘「お疲れ様です。お先です」
伏見「おつかれー」
伏見がおにぎりを取り出しつつパソコンに向かう。
堀田が帰り支度済みの岩塚を呼びつけ話をしている。
堀田「何で小野さん怒らしたわけ?」
岩塚「いや、急ぎの物が入りまして」
堀田「急ぎったってスケジュール把握してたら急ぎの物が出るとかコントロールとかいくらでもやりようがあるだろ」
岩塚「はい」
堀田「はい、じゃなくて。何でもかんでも社内に突っ込むなよ、しかも全部急ぎとか言っておきながら締め切りハッキリしてないしって小野さんもブチぎれてたぞ」
岩塚「…」
おにぎりを食べながら聞き耳を立てている伏見。
堀田の説教が終わり、岩塚が帰っていく。
伏見「何、また小野さんと揉めたの?」
堀田「あぁ。もうホント勘弁して欲しい。さっきめっちゃ怒られた。動画管理ちゃんと立てなきゃなぁ」
堀田が椅子に深くもたれかかりため息をつく。
時計が0時を回っている。
コピーを取っている中村を見る。
伏見「(中村…いや、うちの班の制作頭だからこれ以上、仕事を増やせない…)」
目の前の藤丘の席を見る。
伏見「(ありえない)」
伏見が椅子に深くもたれかかる。
堀田も同じように制作部内を見渡している。
本山と日比野や制作達は帰っている。
堀田「うーむ」
堀田も椅子に深くもたれかかる。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
二条が1人残って設定のクリンナップを進めている。
○ みたかプロ・外観
翌日。昼。
○ みたかプロ・制作部屋
昼。
制作部。
日比野が荷物を抱えている。
日比野「じゃあ、お昼の外回り行ってきますねー」
一同「うーい、よろしくー」
日比野が出て行く。
本山が会議室から歩いてきて、書類をコピーし始める。
中村「作監打ちあとどれぐらかかりそう?」
中村が本山に話しかける。
本山「今Bパート入ったところだから…そうだなぁ、あと30分くらいは」
中村「うーん、作打ち15分くらい遅らせた方が良いかねぇ」
本山「そうしてもらえると助かりますね。他の部屋埋まってます?」
中村「埋まってる。朝からずっとマジョスパで藤丘さんが使ってる」
ホワイトボードを見る本山。
本山「なるほど。とりあえず、これ以上遅れないように頑張ります」
中村「頼むわ」
○ みたかプロ・第2会議室
本山担当話数作監打ち。
中島と平岸が向かい合って座っている。
本山が戻ってきて中島の隣に座る。
本山「えーと、ラフですけど音楽室の設定はコレですね…」
先ほどコピーしてきた書類を机に広げる。
平岸「あー、ちょっと段差があるんだ…。奥に行くほど上がってるというか」
中島「ホントだ、平坦じゃない。コンテと違うし」
本山「…ちょっと待って下さい。あれ?いつ変わったんだ?ちょっと藤丘さんに確認してきます」
中島「お願い。とりあえず、先に進めますか」
平岸「ほい」
本山が立ち上がり、部屋を出て行く。
○ みたかプロ・会議室前廊下
第2会議室から出てくる本山。
隣の部屋の第1会議室の扉をノックする。
○ みたかプロ・第1会議室
美術設定打ち合わせをしている伏見や藤丘、白石、日吉、高田たち。
扉を開けて顔を覗かせる本山。
伏見達が注目する。
本山「藤丘さんちょっと」
藤丘「私?…ちょっと、失礼します」
藤丘が席を立つ。
○ みたかプロ・会議室前廊下
本山が手にした設定を見せる。
本山「ここってコンテだと平坦になってて、設定だと段差がついてて奥に行くほど上がってるんですけど、いつ変わりました?設定に合わせれば良いんです?」
藤丘「あ、ごめん…前話数の時の打ち合わせの時に段差ありになって」
本山「となるとコンテの内容少し変わりますよね。こっちで段差にあわせてレイアウト変えてオッケーです?」
藤丘「あー…」
本山「監督今日いないですよ」
藤丘「ちょっと、電話で確認する…」
本山「止めといた方がいい感じですね…」
藤丘「ごめん」
藤丘が慌てて、制作部に走って行く。
○ みたかプロ・第1会議室
本山が戻ってくる。
中島「どうだった?」
本山「監督確認になりました」
平岸「ちょ…場合によってはレイアウト止めないとマズくない?」
本山「まだ、そこの音楽室のシーンの一連は作打ち前なんで大丈夫っちゃあ大丈夫です」
平岸「え、まだ作打ち前なの?…それはそれでスケジュール大丈夫なのか」
本山「○○さんなんで、早いっちゃ早いですし」
平岸「あー…早いと言うけど粗いからね…あの人」
本山「でも、上手いですから」
平岸「原画までちゃんとやってもらってよ?2原じゃあの人の線は拾えないからね」
中島「一度、ひどかったもんなぁ」
平岸「で、どうすんの?とりあえずここ以外進める?」
本山「そうですね、ここ飛ばしましょう」
中島「じゃあ、打ち合わせ終わり」
本山「え?終わったんです?」
中島「うん」
平岸「おつかれー」
本山「なんか確認しとかなきゃいけないことあります?」
中島「特になし」
平岸と中島が立ち上がる。
本山「とりあえず、なんかあったら教えて下さい」
中島「あいよ」
本山「お疲れ様でした」
中島「お疲れ様でした」
平岸「お疲れちゃん」
○ みたかプロ・会議室前廊下
資料を抱えて第2会議室から出てくる本山。
制作部から戻ってきた藤丘。
藤丘「ごめん、本山。監督電話に出ない…って打ち合わせは?」
本山「とりあえず、そこの部分だけ保留で終わらせました。また結果教えて下さい」
藤丘「わかった、ごめんね」
本山「いえいえ」
藤丘が第1会議室に入っていく。
本山「忙しそうだなぁ」
○ みたかプロ・第1会議室
美術設定打ち合わせ。
藤丘が戻ってくる。
伏見と藤丘、白石、日吉、高田の5人がいる。
机には原作やシナリオの束が広げられている。
藤丘の前には大量の写真集もある。
藤丘「すみません」
伏見「とりあえず、原作にある部分は大体打ち合わせ終わった感じ。今は魔法を発動させたときのBGの色替えとかの話を…」
日吉「うーん、発動後のシーン全部BG色替えとなると中々に大変だなぁ…」
高田「原図入れをきちんと守ってくれたら可能ですけどね。せめて作業期間1ヶ月は余裕で欲しいですよ。BG先行逃げ切りぐらいのスケジュール」
白石「だって」
白石が伏見を見る。
伏見「努力します」
渋い顔の伏見。
日吉「無理なスケジュールの場合、無理って突き返すからね」
伏見「はい」
日吉「じゃあ、監督。とりあえずイメージボード出しますね」
白石「あざっす」
藤丘「どれぐらいのスケジュールで進めましょう」
カレンダーをモニターに表示させる。
日吉「そうだねぇ」
日吉の隣で高田が手帳を取り出し開く。
○ 走行中の車内
外回り中の日比野。
カーステレオからラジオが流れている。
○ スカイブルー・外観
スカイブルーの建物の前に車を止める。
カット袋を抱えながらビルの中に入っていく。
○ スカイブルー・玄関
扉が半分開いているが、チャイムを鳴らす。
日比野「お疲れ様でーす、みたかプロでーす。ゴゴシロの原図入れでーす」
中から返事が聞こえる。
しばらくして、中から吉野が現れる。
吉野「あ、おつかれー」
日比野「おぅ、おつかれ。これ、原図入れね」
吉野「りょうか〜い。どう?最近」
日比野「昨日も会っただろ」
吉野「冷たいなぁ。彼女と別れたから気を遣ってあげてるんでしょ」
日比野「何故それを」
吉野「同期中に知れ渡ってるよ」
日比野「マジか…」
吉野「うん」
○ みたかプロ・作画部屋
豊平と美園、堀田と八田が打ち合わせをしている。
豊平「とりあえず、コンテのスケジュールは順調なわけね」
堀田「はい、遅れが出ているとしたら衣装設定ですかね…まぁ予想の範囲内ですけど」
美園「あー文化祭辺りか」
堀田「そうなんですよ、演劇部の衣装が大変で」
豊平「まぁあそこは山場だし頑張ってもらうしかないよね。優先はかけてあるんでしょ?」
堀田「えっと…」
八田がスケジュール表を見せる。
堀田「そうですね。コンテに影響するキャラからやってます、ちゃんと。リョーコのスケジュールだと…明後日ラフUP予定すね」
豊平「了解。とりあえずスキャンしてメールで送ってくれれば、すぐタブレットで見ちゃうから」
机の上に転がっているタブレット端末をコンコンと指で叩く。
堀田「うぃす」
美園「僕もタブレット買おうかなぁ」
堀田「ノートパソコンあるじゃないですか」
美園「いや、パッと出せるじゃないですか、タブレットだと」
八田「最近、多いですよね。タブレットで作業してる演出さん。コンテとかスタートからフィニッシュまでやられている方もいらっしゃいますし」
豊平「でも写植は結局パソコンなんだよなぁ。ラフコンテはタブレットで全然イケるんだけど」
美園「やっぱ書き直しが楽ですか。デジタルは」
豊平「それもあるけど一番は荷物が減らせるところかな。原作本とかコンテとか」
美園「はいはい」
豊平「コンテとかも全話数持ち歩くとすげぇ量だし紙だから重いじゃんね。PDF化しとけばこれ1台に全部入るし」
美園「あ、それ羨ましいかも」
豊平「便利な時代になったもんだよ。おまけに書き込めるしね」
堀田「そう考えると普及も納得ですね」
豊平「演出にとってはすごくいい」
美園「帰りにカドバシ行って見てこよう」
豊平「買っちゃえ買っちゃえ」
○ みたかプロ・給湯室
小野と二条がコーヒーを沸かしている。
小野「ホント岩塚腹立つわー」
二条「動画入れ滅茶苦茶ですもんね」
小野「自社の仕事だから優先かけてるけど嫌になるわ、このままじゃ」
二条「これから先もっとスケジュールがヤバくなっていくわけですからね」
小野「でしょ?アニメ作ってて後半スケジュールが巻き返すことなんてほぼないじゃん。奇跡、奇跡だよそりゃ。だってこの後リテイクもあるんだぜ、むむむ無理無理」
お湯が沸く。
二条「早く設定の作業抜けられればいいんですけど」
小野「だめだめ。手を抜いたらダメだぜ。せっかくのご指名なんだから」
二条「全力なんですけど、宮沢さんの線を捉えるのが難しくて…」
小野「あー。設定のクリンナップは最初は大変よね。使う頭違うよね」
二条「えぇ。勉強にはなってますけど」
小野「それは良かった」
二条「でもなんで私なんだろう」
小野「ん?」
二条「宮沢さんからいきなり名指しですよ」
小野「何かあったんじゃない?少なくとも嫌がらせで指名をするような人じゃないんでしょ?そうネガティブになる必要はないんじゃない?」
二条「だといいんですけど…」
○ みたかプロ・制作部屋
夕方。
制作部。
制作達が作業をしている。
日比野が戻ってくる。
日比野「戻りましたー」
一同「おつかれー」
ぞろぞろと回収物を漁り始める制作達。
打ち合わせの終わった伏見達も戻ってくる。
黒川が伏見と堀田を呼ぶ。
黒川「制作会議、どうする?19時?20時?」
堀田「19時半」
伏見「…じゃあそれで」
黒川「了解。じゃ、伝えといて」
堀田が手を叩くと注目する制作達。
堀田「制作会議、19時半から。以上」
一同「うーい」
それぞれが作業に戻っていく。
白石が戻ってくる。
手にはUSBメモリ。
白石「これ、さっき打ち合わせで言ってた写真参考のデータ。よろしく」
藤丘「あざます」
白石「何か確認しとくものある?なきゃ、スタジオ移動するけど」
伏見に尋ねる。
伏見「あ、メーカーからあの返事来てるんで見て欲しいです。問題なければすぐ返しちゃうんで。印刷して席にすぐ持って行きますわ」
白石「いいよ、ここで見るよ」
伏見「あぁ、すみません。今、印刷かけます」
伏見が印刷をかけてコピー機に取りにいく。
ドカッと伏見の席に座る白石。
バタバタとしている制作部を見渡す。
白石「まだ全然これからなのに何でこんなにお前達バタバタしてんの?」
中腰でパソコンをいじりながらデータを確認している藤丘。
藤丘「え?」
白石「まだゴゴシロも3話動き始めたぐらいだろ?」
藤丘「えぇまぁ」
白石「このままだと絶対バテるぞ」
伏見「何がです?」
伏見が印刷した書類を手に戻ってくる。
白石「スケジュールきつきつでも妥協しないかんなって話」
伏見「いつものことじゃないすか」
白石「ばか。手綱ちゃんと握ってるの確認しとけよ」
伏見「???」
白石「それ?」
伏見「あぁ、これです」
伏見が書類を渡す。
○ みたかプロ・作画部屋
作画部。
中島のところに本山が上がりを回収に来ている。
中島「はい、演出上がり」
本山「うす」
中島「とりあえず、今日はこの後打ち合わせだから移動しちゃうけど明日って入った方がいい?」
本山「明日の夕方から深夜回収が何件かありますけど日中はそんなに数ないんで明後日でも大丈夫ですよ」
中島「うぃ。そういや、総作監打ちは?」
本山「あー…デスクと相談してますけど、ちょっとまだ日程が組めてないです」
中島「でも、平岸さんもう作業入ってるんでしょ?」
中島が隣の席を見る。
机の上に作監修正が散らばっている。
本山「そうなんですよね…ちょっと、うまく調整がつかなくて」
中島「遅くとも来週頭にはやっちゃいたいなぁ…せっかくレイアウトは順調に上がってきてるわけだし」
本山「もう一度相談してみます」
中島「よろしく」
演出上がりを受け取り、去る本山。
○みたかプロ・制作部屋
制作部。
本山が戻ってくる。
演出上がりをチェックし、パソコンに打ち込んでいく。
日比野「あ、先輩。制作会議用に日報下さい」
本山「ちょっと待って、今回収してきた上がり分だけ打ち込むわ」
日比野「了解です」
本山が打ち込み終わったレイアウトの束に視線をやる。
日比野「これ見ても大丈夫です?」
本山「いいよ。ただ順番元通りにしといてね」
日比野「はい」
日比野がレイアウトを取り、パラパラとめくる。
動き出す原画。
日比野「これどなたですか?」
本山「えーと…それは○○さん。ほら、スタジオ○○にいるおじさん」
日比野「あーあの人。すごく物腰の柔らかい」
本山「そうそう。性格と同じで作画も丁寧で柔らかい」
日比野「この人、子ども向けとかやったら上手そうですね」
本山「やってるよ」
日比野「あ、そうなんですか」
本山「毎年劇場版だけだけど猫型ロボットのやつ」
日比野「おぉ」
本山「子ども向けのキャラって線が少ないから意外と大変みたいよ」
日比野「そうなんですね」
本山「はい、今1部印刷した。コピーよろしく」
コピー機から日報が出力されている。
日比野「了解です。あざます」
日比野がレイアウトを戻し、コピー機に向かう。
伏見「さっき監督なんであんなこといってたの?」
藤丘「なんか制作部がバタバタしているかららしいですよ。ちゃんと話を聞いてなかったんで覚えてないですけど」
伏見「バタバタねぇ…」
中村「デスク」
伏見「はい?」
伏見のところに中村がやってくる。
中村「OADのリテイクなんですけど、ちょっと遅れが」
伏見「えー」
中村「動画リテイクで直したんですけど結局、余計目立つ感じになったので今、作監さんに原画修入れてもらって再動画しなきゃいけないカットがいくつか出てきまして」
伏見「カットいくつ」
伏見が机の上に置いてあるコンテを取る。
中村「カット31と79、184です」
ペラペラとコンテをめくる。
伏見「あー…これか…微妙なサイズで枚数多いしねぇ…そうか動画修じゃダメだったか…え、他は大丈夫なん?」
中村「とりあえず、他は諸々予定通りなんですけどそのカットだけ遅れてる感じですね」
伏見「なるほど」
中村「で、社内に動画やってもらいたいんですけど…なんかやたら社内に動画入ってません?小野さん超イライラしててすごく頼みづらいんですけど」
伏見「うちでそんなに動いてないでしょ、動画…。OADと…いうてゴゴシロもまだ3話だし…なんで?」
中村「いや、何でって言われても」
伏見「とりあえず、小野さんと相談するしかなくない?OADの原版近いわけだし」
中村「そうなんですけどねぇ…」
伏見「いってらっしゃい」
中村「えー」
伏見「ほら、制作会議控えてるんだからとっとと抑えてこい」
中村「…」
中村が恨めしそうな目で見ながら去って行く。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
中村がそっと顔を出す。
人数が少ないが残っている動画部の人間は作業している。
小野の席に向かう。
中村に気づき、イヤホンを外す小野。
小野「なに」
不機嫌な小野に身構える中村。
中村「昼間に話してたリテイクの動画なんですけどね」
小野「おぅ」
低い声で返事する小野。
更に身構える中村。
中村「今、原画修してもらってまして…12時ぐらいには上がりそうなんですよ」
小野「ほぉ、予定通りっちゃ予定通りだね」
中村「えぇ、予定通りなんですよ」
小野「で?」
中村「朝までに何とかなりませんかね」
小野「…」
沈黙。
小野「まぁ事前に話を聞いてたしね。とりあえず、何人か一時帰宅して夜には戻ってきてもらうようにしてあるから始発までには終わるかもよ」
中村「さすがです、姐さん」
小野「てか始発で帰りたい…」
中村「上がったらすぐに回収してきます」
小野「よろしく」
小野がイヤホンを装着し作業に戻る。
中村が動画部屋を出て行く。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
中村が戻ってくる。
電話をしている伏見と目が合う。
中村が手でオッケーマークを見せる。
伏見が頷く。
○ みたかプロ・第1会議室
夜。20時過ぎ。
制作会議。
黒川を始め制作達が全員集まっている。
黒川「とりあえず、今日のところは以上かな。えーと、最後に俺から。みんな作品が動き出して作打ちとかが、かぶり始めるのはわかるけど会議室には限りあるから上手いこと話し合って調整して。無理なときは休憩室使うとかしていいから。あと、動画入れが雑だって動画部からも不満でてるぞ。なんなのみんな、忙しくなってきたら急に連携がとれなくなってきたじゃないの。このままだと後半もっと忙しくなったら地獄だぞ。みんな頼むよ」
一同「はーい」
黒川「じゃあ、以上」
一同「お疲れ様でしたー」
まばらに立ち上がって制作部に戻っていく制作達。
黒川「あ、伏見と堀田はこっち来て」
堀田「はい」
伏見「はい」
黒川「座って」
黒川の近くの席に着く2人。
黒川「小野さんから言われたんだけどね、動画管理どうなってる?ひどいって言われたんだけど」
伏見「はぁ…ひどい、ですか」
黒川「なんか急ぎだっていわれたやつが全然取りに来ないとか、締め切り伝えないでしれっと机に朝来たら置いてあるとか滅茶苦茶らしいな。な、堀田」
堀田「あー岩塚ですか」
黒川「わかってんなら注意しろ。小野さん相当怒ってるぞ。このままだと自社作品やりたくないって言い出すぞ」
伏見「それはまずいですね…」
黒川「お前達、2人が一番忙しいのわかってるけど、まだスタートしたばかりだからな、とっとと軌道に乗せて楽しろ。とにかく、問題山積みだぞ」
○ みたかプロ・休憩室
夜。21時前。
堀田が煙草を吸っている横で伏見が缶コーヒーを飲んでいる。
伏見「なんか全然上手く回ってないわ。こんなんだっけ…テレビシリーズ」
堀田「いやいや、1年近く準備かけて、しかも1月番のくせに弱音吐くの早すぎるだろ」
伏見「いやぁ…連日打ち合わせまみれで疲れちゃって」
堀田「どんだけだよ。まだ音響周りも始まってないし、1話も納品してないのに」
伏見「だよねー。言ってみただけですけどー」
堀田「俺だってまだてっぺんで帰れてるだけ全然楽だわ」
伏見「でも、動画部に迷惑かけてるのは事実よね。交通整理しないとマズいね」
堀田「会議室もパンパンだしなぁ…」
伏見「とりあえず、擦り合わせするしかないよねぇ」
堀田が煙草の火を消す。
堀田「やりますか」
堀田と伏見が立ち上がる。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
岩塚がカット袋を抱えて小野と話している。
小野「もう頭にきた!お前いい加減にしろ!」
バンと机を叩き、立ち上がり岩塚を押しのけて作画部屋を出て行く。
立ち尽くす岩塚。
小野の剣幕に驚いている動画部の人間達。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
堀田と伏見が戻ってくる。
制作達が仕事をしている。
制作部の扉をノックする音。
入り口に小野が立っている。
明らかに不機嫌。
小野「ちょっと、伏見と堀田きて」
伏見と堀田が顔を見合わせる。
ついにきたか…との表情。
○ みたかプロ・第2会議室
会議室。
机を挟んで伏見と堀田、小野が2対1で座っている。
小野「岩塚どないなっとんねん!」
伏見「動画入れの件ですよね」
伏見がおそるおそる口を開く。
小野「わかってるやん。なんとかして。あんたら、デスクやろ?」
堀田「岩塚には言ってるんですけども…」
小野「じゃあ、今動画入れどうなってんのかわかってる?」
堀田「それは…」
小野「OADは原版が近くてリテイク中だから臨機応変な対応になるのは仕方ない。でもね、岩塚の話数はゴゴシロ1話とはいえ2クール目よ、流れも出来上がってるし、新人じゃないんだからスケジュールぐらい立てられるでしょ!」
堀田「えぇ」
小野「あんたら制作が擦り合わせせんから、こちとら振り回されとんのじゃ。何でもかんでも入れよってからに。ざけんじゃないわ」
バンと机を叩く。
ビクッとなる伏見と堀田。
小野「うちの動画ちゃん達は休み無しで働かされて倒れてもええってことやな」
堀田「いえ、そういうつもりじゃ」
小野「こないな状況でテレビシリーズ2本を走りきれるわけがないやろ!このあとリテイクも入ってくるのに、無理やわ。無理。突っぱねるで、容赦なく。何とかせい」
小野が立ち上がり、会議室から出て行く。
取り残される2人。
伏見「怖かったぁ…」
ほっとする伏見。
涙目の堀田。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
小野が戻ってくる。
動画A「どうでした?」
小野「ガツンと言ってやった」
一同「おー」
小野「少しはマシになるといいけど」
動画A「ですねー」
作画部。
二条は宮沢に上がりをチェックしてもらっている。
後ろに藤丘。
宮沢が改善点を伝えている。
二条「ありがとうございます」
二条がお辞儀をして自分の席に戻っていく。
宮沢「若いっていいね。新しいことをどんどん吸収していく」
藤丘「何いってんすか、充分若いじゃないですか」
宮沢「年齢がってだけじゃないよ。知識とかもだよ。余計な知識や技術が身についてないから、すんなり入っていく。それに戦力少しでも増やしておかないと」
藤丘「そうですね」
宮沢「伏見さんちゃんとサポートして上げないと倒れるよ。あと、スタッフの確保をもうちょっとペース上げないと…」
藤丘「はい」
宮沢「藤丘さんももうちょっと意見が欲しいなぁ」
藤丘「またその話ですか」
宮沢「一線を越えるぐらいの気迫を持ってるくせに発揮しないのは勿体ないよ」
藤丘「だから私は前にも話をしましたけど、このスタンスでやってるんです」
宮沢「勿体ない」
藤丘「なんと言われようと変えませんよ。いいからとっとと溜まってる設定上げてください。このあと総作監入れとか始まるんですから」
宮沢「はい、頑張ります。でも勿体な…」
藤丘がにらみつける。
宮沢「やりまーす。設定描きまーす。やりまーす」
藤丘がため息をつく。
藤丘「じゃあ、よろしくお願いします」
藤丘が一礼して去って行く。
宮沢「気迫ありすぎるだろ」
○ みたかプロ・外観
夜。23時過ぎ
制作部と作画部屋の明かりだけがついている。
○ みたかプロ・制作部屋
夜。23時過ぎ。
制作部。
ホワイトボードに岩塚や本山達は『帰』マグネット、中村の欄には『回収』と書かれている。
八田と藤丘が作業をしている。
無言の2人。
パソコンのキーボードを叩く音だけが響いている。
八田がチラチラと藤丘の後ろ姿を見ている。
藤丘「あの、八田さん」
八田「は、はい」
藤丘「何か用です?」
八田「え?あ…」
藤丘が振り返る。
藤丘「電源入ってないタブレットに写り込んでるもんで…」
八田「あぁ…」
八田が顔を赤くする。
八田「えっと!」
八田が勢いよく立ち上がる。
八田「あの!その鞄についてるキーホルダー!銀色(女性に人気の乙女ゲー)のですよね!しかもイベント限定の!」
藤丘の机にかかっている鞄を指さす。
藤丘「へ?あ、これ?」
八田「ほら」
八田も鞄を見せる。
同じキーホルダーがついている。
八田「私も!藤丘さんも好きなんですか!?銀色!」
藤丘「えっと…八田さんもこのイベント行ってたの?」
八田「はい!昼の部と夕方の部両方!」
藤丘「私も!」
八田「マジっすか!うわー!」
盛り上がる2人。
電話が鳴る。
藤丘が電話に出る。
藤丘「はい、みたかプロ。えぇ、はい、私です」
残念そうな八田。
電話が鳴る。
八田「はい、みたかプロ」
○ みたかプロ・休憩室
煙草を吸っている堀田とその横で缶コーヒーを手にしている伏見。
堀田「で、どうする」
伏見「参ったね」
堀田「お前、動画管理できる?」
伏見「悪いけど、無理。音響周りも入ってくるから毎日スタジオに入れるわけじゃないし」
堀田「だよなぁ。俺は俺でいっぱいいっぱいだし…動画周りまで手は回らんよ、正直」
伏見「…」
堀田「…」
2人揃って、ため息をつく。
八田がやってくる。
八田「あの、堀田さん。さっき、スタジオ○○から電話ありましたよ。なんか教室の小物設定が見当たらないとかで」
堀田「えーちゃんと渡したはずなのに」
八田「とりあえず、データをメールで送っておきました」
堀田「さっすがー。やるじゃん」
八田「いえいえ」
伏見が八田を見つめている。
八田「あの伏見さん、何か?」
伏見「八田さん」
八田「はい」
伏見「そういえば、アルファで動画管理とかしてなかったっけ」
八田「あー動画管理とまではいかないにせよ、一通りは出来ますよ」
堀田「伏見、お前まさか」
伏見「背に腹は代えられないわよ」
堀田「それもそうか」
八田「へ?」
伏見「八田さん、動画管理を頼まれてくれない」
八田「はい?」
堀田「君にしか出来ない」
伏見「私たちを助けると思って」
ずずいっと八田を壁際に追い詰める堀田と伏見。
八田「ちょ、ちょちょっと待って下さい、説明を求めます!」
八田「なるほど…事情はわかりました。お力になれるかどうかわかりませんけど…」
堀田「引き受けてくれるか」
八田「あ、でも条件があります」
伏見「条件?」
八田「ほら、私まだ出向してきて数日しか経ってないですし、ゴゴシロの間しかいないじゃないですか」
伏見「そういえばそうね」
八田「ですから、動画部の人たちも突然知らない人でしかも短期間しかいない人が動画管理と言われても戸惑うと思うんです」
伏見「ふむ」
八田「なので、堀田さんが動画管理でその補佐を私が引き受けるという形でどうでしょうか?」
堀田「えっ」
八田「もちろん堀田さんは建前上で構いませんよ。実務は全部こちらで引き受けますから。ただ、そうですねぇ、動検さんとの交渉だったり社内はしばらく堀田さんがやり取りしていただけると助かります。頑張ってその間に顔と名前を覚えてもらえるようにしますから」
伏見「よし、それでいこう」
堀田「えっ、えっ」
八田「よろしくお願いします。頑張りますね」
伏見「よろしく!」
堀田「マジで?」
伏見「何か良い代案がある?」
堀田「ないです」
伏見「じゃあ、決定で」
八田「堀田さん、とりあえずこれから現状整理しましょう」
堀田「わかった…1本吸ったら制作部に戻るわ」
八田「了解です」
伏見「じゃ、八田さん行こうか。缶コーヒー奢るわ」
八田「わーい」
出て行く伏見と八田。
堀田「あー」
ぷかーと煙を吐いて肩を落とす堀田。
○ 牛丼屋・外観
自転車がもたれかかっている。
○ 牛丼屋
本山と高瀬の目の前に牛丼が運ばれてくる。
本山「どうした、気になることがあるって」
高瀬「昨日、みのっちが事故ったって言ってたじゃん、やっぱりそれ以降、あいつ会社に居場所ないらしいのよ」
本山「まぁ事故って数日は肩身狭いだろうね」
高瀬「それがまた、事故をきっかけに社内いじめのターゲットにされたらしくてね」
本山「なにそれ」
高瀬「ろくに仕事させてもらえないらしい。うちの仕事もしてる作画さんに聞いたら、なんかそういう事が起きてるらしいよ、って」
本山「フリーの作画さんが言ってるって事はほぼクロだねぇ」
高瀬「昨日会ったときひどかったもんな…表情が暗いというか」
本山「だな。どうしたもんかな。うちらと違って女の子だしな」
高瀬「扱いに困る。ただ、見捨てるわけにはいかん」
本山「とりあえず情報収集だな…ほんとにいじめなのか」
高瀬「あぁ」
○ みたかプロ・外観
深夜。0時半頃。
進行車がビルの前に止まっている。
○ みたかプロ・動画部屋
動画部。
作業をしている小野達。
カット袋の束を抱えて走ってくる中村。
中村「小野さん、お待たせしました!」
小野がイヤホンを外し中村から束を受け取る。
中身を取り出し修正を確認する。
中村「とりあえず、全修は避けられそうですよ」
小野「…」
小野がペラペラとめくった後、机にカットを置き動画素材と原画修正を確認する。
小野「ふむ」
中村「どうですかね、時間かかります?」
小野「ちょっと枚数減ったし修正キッチリ入ってるから始発までには終わると思うよ」
中村「あざす!おなしゃす!」
小野「あいよ。みんなー来たよー。」
動画部の人間がわらわらと小野のところに集まってくる。
中村が一礼して動画部を後にする。
○ みたかプロ・外観
深夜4時。
新聞配達のバイクが通り過ぎる。
かごは空。
○ みたかプロ・制作部屋
深夜4時。
中村だけの制作部。
ほとんどの電気を消しており、薄暗い。
椅子にもたれて、寝ている。
制作部の扉が開く。
中村が目を覚まし扉の方を見る。
小野「目つき悪っ」
中村が眼鏡をかける。
中村「あぁ、小野さん…目つきのことは言わないでください。気にしてるんですから」
小野「ごめんごめん」
小野が中村の机にやってくる。
中村「帰りの荷物を持っていると言うことは…」
小野「ほい」
カット袋の束を渡す。
中村「やったー!」
受け取る中村。
時計を見る。
中村「4時過ぎじゃないすか!始発より早ーい!さすがー!」
小野「帰るよ」
中村「何時ぐらいに入ります?」
小野「15時ぐらいかなぁ…でも、もうOADは動画リテイクないでしょ?」
中村「えぇ。問題が起きなければ」
小野「起きたらそっちで対処しといて」
中村「電話します」
小野「電源切っとくわ」
中村「お願いしますよー」
小野「帰るわ」
中村「お疲れ様です」
小野「お疲れー」
小野が制作部屋を出て行く。
中村が受話器を取り電話をかける。
中村「いつもお世話になっております、みたかプロの中村です。○○さんいらっしゃいます?あ、どうも。えぇ、リテイク仕上げ入れの件ですけど動画が今上がりまして、これからお届けに上がります、えぇ、はい」
○ みたかプロ・外観
夜明け。
○ みたかプロ・外観
昼。
○ みたかプロ・制作部屋
昼。
制作部。
相変わらずばたついている。
出勤した制作達から集めた日報を広げながらデータにしていく堀田と八田。
堀田「とりあえず、今動画部に入ってるはずのデータはこれで全部かな」
八田「じゃあ、堀田さん動画部で付け合わせお願いします」
堀田「え、やっぱり俺?」
八田「私が動画部うろちょろしてたら不審に思われるじゃないですか。」
堀田「そこまではなくない?」
八田「いいから早く行ってください。小野さん出社してきますよ?」
堀田「うぃー」
堀田が諦めて動画部に向かう。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
動画部の人間に断りを入れて、動画入れ伝票やカット袋をチェックする堀田。
○ みたかプロ・制作部屋
制作部。
本山がコンビニから戻ってきてホワイトボードの『外出』を消す。
岩塚の欄と伏見、藤丘の欄が打ち合わせになっている。
中村は一時帰宅、日比野は外回りと書かれている。
本山「八田さん、デスクは?」
八田「今、動画部に行ってます。動画部に入ってるカットの数を確認しに」
本山「あ、さようで」
八田「もうじき戻ってくると思いますよ」
本山「了解ですー」
自分の席に座り、おにぎりを食べ始める。
○ みたかプロ・仕上げ部屋
伏見と藤丘、白石、宮沢、八乙女、梅林が揃っている。
モニターにはマジョスパ!の作成中の色見本が表示されている。
白石「あー原作っぽいねぇ」
梅林「とりあえず、日吉さんとこから本番ボード来ないとちゃんとしたのは出せないですけどこんな感じですかね、髪の毛の処理とか瞳のグラデとか」
白石「そうだね、でもあれでしょ髪の毛と瞳のグラデって撮処理だよね」
八乙女「そうですね、グラデ処理は撮影で」
藤丘「仕上げ注意事項にもきちんと書いておきます」
宮沢「ここの衣装のライン、潰れちゃいますかね?」
梅林「あーミドルサイズになると厳しいかもしれないですね」
宮沢「監督、ここのライン取っちゃっても大丈夫です?」
白石「うーん」
宮沢「藤丘さん、紙ある?」
藤丘「どうぞ」
藤丘が裏紙と鉛筆を渡す。
受け取った宮沢がサラサラと描き始める。
その様子を見ている一同。
宮沢「こんな感じ」
白石に描いた紙を見せる。
白石「あー、いいんじゃない?」
一同が紙を回していく。
藤丘が最後に受け取り伏見と見る。
藤丘「確かにラインよりこっちの方が潰れにくいですね」
白石「伏見、とりあえずメーカーに確認取って。これでよければこっちに変更で」
伏見「わかりました」
白石「何か言われたら俺直接言うわ」
伏見「了解です。とりあえず、これちょっと預かりますね」
白石「うぃ」
藤丘「じゃあ、次のキャラに…」
梅林「はーい」
モニターチェックを再開する。
○ みたかプロ・制作部屋
15時過ぎ。
制作部。
中村が出社してくる。
中村「おはようございまーす」
タイムカードを押す。
本山「中村さん、○○から仕上げ上がったって連絡来ましたよ」
中村「あ、意外と早かった。回収行かなきゃ」
本山「大丈夫ですよ。日比野に連絡して回収してもらってます。さっき吉祥寺って言ってたんでもうじき戻ってくると思いますよ」
中村「助かるわー。データはなんて言ってた?」
中村が机に荷物を置く。
本山「FTPに上げてあるって言ってましたよ」
中村「らじゃ。ありがと」
中村がパソコンを立ち上げて、サーバーをチェックする。
中村「あったあった。えーと…」
携帯を取りだし、電話番号を確認する。
受話器を取り、携帯を見ながら電話をかける。
中村「あ、もしもーし。中村でーす。そうですそうです、上がりましたー。とりあえず、データだけ先に送っちゃいますねー。5分後ぐらいにFTP覗いてくれればアップ完了してますんで。そうです、残りの3カットです。セル検お願いします。あ、素材入ります?いらない?了解です。じゃあセル検データ受け取ったら撮入れしちゃいますね。えぇ。明後日です。明後日原版。はい、よろしくですーって、今上がりました。FTPに。えぇ、今日の日付のフォルダです。はーい、電話待ってます。失礼しまーす」
電話を切る。
本山「終わりそうですか?」
中村「なんとかねー。とりあえず問題が起きなければ…あ、撮影に連絡しなきゃ…」
再び、電話をかける中村。
堀田と八田が書類とパソコンモニターを交互ににらめっこしている。
八田「岩塚さんのゴゴシロ1話がわけのわからない入り方してますけど他はまぁ整理できますね」
堀田「てか、岩塚なんでこんなわけのわからない入れ方してんだよ」
八田「さぁ?」
堀田「とりあえず、岩塚の話数は入れたタイミングとか〆切の伝え方がマズいだけで入ってる数とかは大したことないな…」
八田「むしろ、このまま行くと社内動画来週手空きになりますよ。OADの作業終わってますから」
堀田「だねぇ…マズいね」
椅子にもたれる堀田。
中村の方を見ると電話が丁度終わった様子。
堀田「中村ー」
中村が振り返る。
中村「はい」
堀田「小野さんて今日何時に帰った?」
中村「始発前すね、朝4時ぐらい。15時ぐらいには入るって言ってましたよ」
堀田「お、マジ?」
時計を見ると15時を回っている。
堀田「入ってるかな?」
八田「とりあえず、状況表印刷かけちゃいますわ」
堀田「話しに行くかぁ」
八田が印刷をかけた書類を取りにいく。
堀田も立ち上がる。
○ みたかプロ・作画部屋
動画部。
小野が丁度、出社してきており荷物を置いている。
堀田と八田がやってくる。
堀田「小野さーん」
小野が堀田に気づく。
堀田「ちょっとお話ガー」
小野が近づいてくる。
小野「何?」
八田「社内動画にご迷惑をかけているので、対策を考えましてその件でご相談を」
堀田が詰まっているので八田が話し始める。
八田「お時間ちょっとだけいただけますか?」
八田がにこりと笑う。
○ みたかプロ・休憩室
小野と向かい合う形で堀田と八田が座っている。
小野が状況表を見ている。
小野「つまり、動画管理をやっとこさ立てるって話だよね」
堀田「はい、そういうことです」
小野「やっと重い腰を上げたわけだ」
堀田「ご迷惑をおかけしました」
八田「小野さん的にはどうです?」
小野「私?私は全然文句ないよ。制作の方で動画管理立ててくれたらあたしの負担減るわけでしょ。むしろずっと立ててくれって言ってたわけで」
堀田を見る。
目をそらす堀田。
八田「じゃあ、先ほどお話ししたようにしばらくは窓口として堀田さんが立ちますが段々慣れてきたら私の方で動画管理をやらせていただきますので」
小野「はーい」
堀田「なんか、すんなり話がまとまりましたけど小野さん、八田さんと面識あるんです?出向してきた人ですよ、動画管理任せていいんですか」
小野「面識はないけど八田さんのことはアルファにいる同期から聞いてるから問題ないよ。ほら鈴木っているでしょ」
八田「え、あ、鈴木さんと同期なんですか!?」
小野「そうだよ。だから、鈴木から八田さんのことは聞いてるし、うちとしては動画管理立てるの別に断る理由ないし、むしろ堀田が動画管理するわけじゃないなら万々歳だし」
堀田「俺が動画管理じゃないなら万々歳ってどういう意味ですか」
小野「そのまんまだよ」
しゅんとする堀田。
小野「とりあえず、まぁ、よろしく。動画部のみんなには伝えておくわ」
八田「お願いします」
小野「制作部はあんたがちゃんとしなさいよ」
堀田「はい」
小野「じゃあ、そういうことで」
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
夜。
制作部。
堀田「はい、注目」
堀田と八田が立っている。
堀田が制作達の視線を集める。
堀田「えーと、とりあえず、今後社内の動画部の窓口として動画管理を立てます。窓口は俺。他社から動画入れの電話が来たら全部こっちに回して。あと、社内に動画を入れる際は必ず俺を通すこと。赤伝は小野さんに青伝はこっちに必ず渡してくれ。で、補佐に八田さんが付きます。というかしばらくは俺が窓口だけど動画管理をするのは八田さんに徐々にスライドしていきます。たった今からね、よろしく」
八田「よろしくお願いします」
八田がお辞儀をする。
一同「了解でーす」
堀田「じゃあ、各自作業に戻って。岩塚ー」
岩塚「はーい」
堀田「ちょっとこっち来い」
岩塚を呼びつける。
岩塚「はいはい」
堀田「お前、なんであんな動画の入れ方したの。調べたら量はそんなに入ってないじゃん、話の仕方の問題じゃん、ぶっちゃけ」
岩塚「あー」
堀田「いや、あーじゃなくて」
岩塚「小野さん苦手でして」
堀田「それは知ってるけど、余計に自分で自分の首を絞めてるのわかる?」
岩塚「はい」
堀田「とりあえず、今後はきちんとこっち通してから動画入れしてくれ。また怒られるのかなわん」
岩塚「了解しました。迷惑かけてすみません」
岩塚が自分の席に戻っていく。
堀田「あ、八田さん明日の演打ち用にこれコピーしてもらってもいいです?」
八田に資料を渡す。
八田「何部刷ります?」
堀田「えーと…監督、美園、俺、藤丘、八田さん…グロス会社の演出と進行用で7部かな」
八田「了解しました」
堀田「よろしくー」
八田が資料を受け取りコピー機に向かう。
本山がコンテを手にしながら制作部屋に戻ってくる。
本山「藤丘さん。今、演出の中島さんから質問が出たんだけど。この美術室に出てくる小物って設定化されます?」
藤丘「いや、出る予定ないよ」
本山「写真参考でオッケー?若干、BGにも絡むけど」
藤丘「うーん、確認するからとりあえず写り込むカットナンバーをリストアップしておいてくれる?」
本山「了解です」
藤丘「うぃ」
藤丘が自分の机に資料を置く。
伏見が入り口から入ってきて藤丘に声をかける。
伏見「藤丘ー。ごめん明日の15時からのコンテ打ち16時からに変更。監督が遅れるって。○○さんには連絡済み」
藤丘「了解です…って、私18時からゴゴシロの演打ちなんですけど」
伏見「あー…マジか」
藤丘「2時間で終わります?」
伏見「うーん…堀田ー」
堀田に問いかける伏見。
堀田「無理ー。監督後ろがあるから時間ずらすのは無理ー」
堀田がパソコン画面から目を離さずに答える。
伏見「30分だけでも?」
堀田「…出だしはいいよ、俺がやっとくから。終わり次第合流で」
藤丘「あざーす」
日比野「外回りから戻りましたー」
日比野が入り口を開けて入ってくる。
手提げの紙袋にパンパンのカット袋が入っている。
本山「お疲れー」
日比野「お疲れ様です。あ、○○さんの上がりありましたよ」
本山「お、ありがとう。机の上に置いておいてくれる?ちょっと中島さんとこにいるから」
日比野「了解です」
本山がコンテを手に制作部屋を出て行く。
カット袋を取り出し、各制作の机に配布していく日比野。
日比野が上がりを中村の机に置く。
中村「えー本当ですか…はい、ちょっと相談してみます。えぇ」
電話の受話器を置く中村。
中村「伏見さーん」
中村が立ち上がり、伏見に声をかける。
電話中の伏見。
中村「あっ」
伏見「1分待って」
中村「うす」
隣の机で藤丘がパソコンに向かって作業している。
中村「あ、マジョスパの桃ちゃん?」
藤丘「ん?そうそう。今日修正案が出てメーカーチェックに回すんだけどね」
中村「宮沢さんの線、男とは思えないほど細いねぇ」
藤丘「性格は繊細じゃないけどね」
中村「言うねぇ」
藤丘「もうね…振り回されっぱなし」
中村「藤丘さんと相性良さそうな気がするけどね」
藤丘「どうだか」
藤丘、モニターの電源を落とす。
藤丘「ご飯買いに行ってくる」
藤丘が財布を持って立ち上がる。
伏見「中村ー。電話終わったわよ」
藤丘が制作部を出て行く。
伏見が電話を終えて中村を呼ぶ。
中村「あ、はい。OADのリテイクなんですけど明後日の原版ずらせません?」
伏見「ずらせません」
中村「午後イチをなんとか夕方とかに…」
伏見「なんで」
中村「作画系とかは全部終わって撮影に入れ切ってるんですけど撮影の処理が間に合わなさそうで」
伏見「入れきってるんでしょ?おまけにリテイクだから大丈夫じゃないの?」
中村「それが今絶賛他社の作品がヤバくて手つけられないらしいんですよ。今夜遅くにV編とかでまだ本撮300カット中、半分近く残ってるらしくて」
伏見「はぁ?なにそれ。」
中村「だから明日朝イチから演出と撮影に缶詰なんですけど間に合わなさそうなんですよ」
伏見「で、夕方にしてくれと」
中村「撮監の○○さんはカット数が多いわけではないから夕方までには何とか終わるからって頼まれました」
伏見「わかった…編集に連絡しておくわ。18時?」
中村「はい、お願いします」
伏見「りょーかーい」
再び受話器を取る伏見。
中村が自分の席に戻っていく。
SE 受話器の音
伏見が慌ただしく動いている制作部を眺めつつ、椅子にもたれかかる。
肘掛けに肘を置こうとしたら滑ってバランスを崩す。
伏見「わぁ」
何人か伏見の方を見る。
電話(OFF)「はい、○○」
伏見「あ、みたかプロ制作の伏見と申します。○○さんにお繋ぎいただけますでしょうか」
顔を真っ赤にしながらも平然を装い用件を伝える伏見。
おわり