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アニメ制作会社、制作部。  作者: 鋭画計画
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第4話

第4話登場人物


『有限会社三鷹プロダクション』

 アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【 三プロ(さんぷろ)】。

 設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。


『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』

 伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。


『午後の城』

 堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。

 通称【ゴゴシロ】。学園もの。


―――――――――――――――――――――――――

みたかプロ・制作部

伏見  … ふしみ。女。制作デスク。

堀田  … ほりた。男。制作デスク。

本山  … もとやま。男。制作進行。

日比野 … ひびの。男。制作進行。新人。

黒川  … くろかわ。男。プロデューサー。

藤丘  … ふじおか。女。設定制作。

中村  … なかむら。男。制作進行。

岩塚  … いわつか。男。制作進行。


みたかプロ・動画部

小野  … おの。女。動画検査。

二条  … にじょう。女。動画マン。

動画A … 女。動画マン。


みたかプロ・総務部

曽根  … そね。女。総務のおばさん。

総務部長… 女。総務部の部長。


―――――――――――――――――――――――――

伏見班担当作品スタッフ

白石  … しらいし。男。『マジョスパ!』監督。

宮沢  … みやざわ。男。キャラクターデザイン。プロダクション・ゼロ所属。

 

堀田班担当作品スタッフ

中島  … なかじま。男。本山担当話数の演出。

広瀬  … ひろせ。女。スタジオリリウム所属の色指定。

―――――――――――――――――――――――――

その他

高瀬  … たかせ。男。他社制作。本山と同期。

箕浦  … みのうら。女。他社制作。本山と同期。

田辺  … たなべ。男。制作会社、ボックスプロジェクトのデスク。

部下  … 男。田辺の部下。

友人  … 女。二条の専門学校の同期。

生駒  … 男。制作会社、アートノートのプロデューサー。伏見の元上司。

―――――――――――――――――――――――――




動画とは…作画工程における最終工程。原画をトレスしクリンナップしたうえでシートの指示に従い原画間の中割りなどを描いていく。新人アニメーターが基本、最初に配属される部署である。ある程度経験値や年数を積むと、動画検査か原画マンに上がっていく。ただし例外もあり最初から原画を教える会社もある。現在、国内の動画マンが少なく国内撒きよりも海外撒き(海外発注)が主流になっている。最終的に画面に出るのは動画の線なのでとても重要なセクションであり、繊細で緻密な作業が求められる。



○ みたかプロ・作画部屋

 午前中。

 作画部の中にある動画部スペース。

 何人かが机に向かって動画を描いている。

 二条が出勤してくる。

二条「おはようございます」

 何人かが返事をする。


二条(OFF)「私はアニメーターになった。入社して3年、ずっと動画を描いてきた。専門学校時代の同期で動画マンのままなのは私を含めて数えるほどだ。ほとんどが原画マンになったか、アニメ業界を辞めたかのどちらかだ。もちろん、過酷な労働環境に耐えられず辞めていった同期の数の方が多い。アニメーターになりたかったはずなのに、生活ができないという理由で何人もがこの業界を去った。私も日々、生活費を切り詰めている。同世代の女子と比べたら悲しくなる生活。それでも私はアニメ業界にいて、動画を描いている」


 二条、机に荷物を置く。

 隣の席の動画Aがイヤホンを外して挨拶をする。

動画A「あ、二条さんおはようございます」

二条「おはよう」

動画A「ここ最近、○○のリテイク動画ばっかですよねー」

二条「自社作品だからね」

動画A「それはわかるんですけど違う作品もたまにはやりたくなると言うか」

二条「ま、とりあえずそこの束を片付けてからじゃないと難しいんじゃない?」

 動画部の入り口にある“入れ”の札が付いた棚を見る。

 棚に山積みの堀田班の作品のリテイク動画。

 自分の机の棚からカット袋を手に取る。


二条(OFF)「今日も私は動画を描く。いつか報われる日が来ることを信じて」


×××

(回想始まり)


○ アートノート・制作部屋

 数年前。

 制作会社、アートノートの制作部。

 みたかプロに伏見が所属する前の会社。

伏見「よろしくお願いします。失礼します」

 今より少し若い伏見が受話器を置く。(20代前半)

 ※髪の長さはセミロング。髪を後ろで束ねている。

伏見「生駒さん、ももコン(作品名)のCTの件ですけど」

生駒「えーと…なんだっけ、あぁ、みたかプロのグロスの件か。何か問題?」

伏見「いえ、その逆です。明日のCT予定通りで大丈夫です。一部動撮で他全て原撮まで持って行きました」

生駒「おぉ、あのスケジュールでよく立て直したな…えーとじゃあ、明日は任せた」

伏見「了解です」

 受話器を取り電話をかけ始める。

伏見「もしもし、アートノートの伏見です。はい、○○さんお願いします。はい」

制作「伏見ー」

 受話器を耳から外し、声のした方を見る。

伏見「電話中です」

制作「大泉いくけど、荷物ある?」

伏見「あ、あります。ちょっと待って下さい。はい、もしもし伏見です」

 電話に出る伏見。

 机の上に置いてある伏見の携帯が鳴る。


×××

(回想終わり)


○ 伏見の自宅

 現在。午前中。

 携帯電話が鳴っている。

 寝ていた伏見が起きる。

 ※髪の長さはセミショートぐらいの長さ

伏見「…最悪」

 携帯を見る。

伏見「はいもしもし?」

 電話に出る。

伏見「何?母さんどうしたの?」

 母親からの電話。

伏見「この前送った封筒?」

 床の隅に置いてある封筒を引っ張り出す。

伏見「だからお見合いなんてする気ないって、だーかーらー」

 しばらく電話で口論する伏見。


 電話を切り、時計を見る。

伏見「あー…行かなきゃ」

 ベッドから立ち上がり洗面所に向かう。



○ みたかプロ・外観

 昼過ぎ。

 制作が出勤してきている。



○ みたかプロ・総務部

 昼過ぎ。

 総務部で伏見が総務のおばちゃん、曽根に愚痴っている。

伏見「もう朝からうんざりですよ」

曽根「まぁお母さんも心配してるんでしょ。ほら、生活不規則だし」

伏見「私まだ結婚する気ないですし。お見合いなんて言われても」

曽根「あら、あっという間に周りが結婚しだして気づいたら婚期逃してるなんて、よく聞くわよー」

伏見「う…結婚できなかったら出来なかったでいいんです」

曽根「寂しいこと言うわねぇ。結局お見合い行くの?」

伏見「断りましたよ。あ、お見合いの話、制作部には内緒で」

曽根「はいはい」

伏見「じゃ、書類よろしくお願いしますねー」

 伏見、総務部を出ていく。

 パーテーションの奥にある簡易応接間でコーヒーを飲んでいる総務部長と黒川の姿。


 

○ みたかプロ・制作部屋

 午後。

 制作部に人がまばらに出勤している。

本山「おい、鬱陶しいぞ」

 机に突っ伏したままの日比野。

 顔だけ本山の方に向ける。

日比野「ふっ」

 鼻で笑う日比野。

 イラッとする本山。

本山「彼女にフられたぐらいでウジウジしてんじゃねぇよ。仕事しろ仕事」

日比野「5年も彼女がいない人にはわからないですよねー」

本山「あ?」

日比野「あー辛いわー辛いわー」

 コーヒの入ったマグカップを手にした伏見と藤丘が通りがかる。

伏見「何、日比野どうしたの?」

本山「なんか日曜日にフられたらしいですよ」

伏見「あぁ、専門時代から付き合ってるって言ってた彼女?就職先アニメ業界だっけ?」

日比野「…一般企業です」

藤丘「そりゃ生活サイクル合わないね」

伏見「あとは一般企業でいい男を見つけたか」

藤丘「アニメ業界にいる男は…ねぇ」

 首にタオルを巻いた堀田がカット袋を抱えて制作部屋に入ってくる。

 一同、堀田を見る。

 気づく堀田。

堀田「何?」

 一同、ため息。

伏見「日比野、諦めなさい。生活サイクルも給料も一般企業のいい男には敵わないって」

日比野「いや、他に男ができたと言ってなかったす」

本山「じゃあ、なんで振られたんだよ」

日比野「最近、ほら忙しくてデートも行けなかったですし、たまの休みにあっても寝不足でウトウトしてて…仕事と私どっちが大事なの?って聴かれて、即答できず悩んでたら別れを切り出されまして…うっ…うぅ…」

 涙ぐむ日比野。

藤丘「仕事と私って言い出す女はろくなやつじゃないわ。別れられて良かったじゃない」

伏見「仕事と恋愛は別よねー」

本山「そうすねー。やっぱ仕事をある程度理解してくれる女性じゃないと長続きしないですからねぇ…」

伏見「確かに進行だと難しいわ。酷いときには24時間拘束されるし」

藤丘「進行同士で上手くいってる人少ないしねぇ」

本山「でも、でもですよ?上手くいくとしたら同じ業界ですよねぇ…共通の話題も多いし」

伏見「そうねぇ。そうなるわねー」

日比野「…仕事辞めたらより戻してくれないカナー」

 日比野がぼそっとつぶやく。

藤丘「はい、解散ー」

伏見「馬鹿言ってないで仕事しなさい」

本山「これ10部コピー取っといて」

 机の周りに集まっていた一同解散。

日比野「うわ…みんな冷たい」

 日比野の机の横に堀田がカット袋を置く。

堀田「日比野、わりぃ。これ伝票切って仕上げ部に持ってって」

日比野「はい」

 身体を起こし、返事をする日比野。

本山「あんまし別れた女のこと引きずってると堀田さんみたいになるぞ」

日比野「仕事します」

 書類を持ってコピー機に向かう日比野。



○ みたかプロ・休憩室

 休憩室で煙草を吸っている堀田。



○ みたかプロ・作画部屋

 午後。

 伏見と藤丘、白石と宮沢がキャラ表チェックをしている。

 宮沢の机の足下に大きな鞄がある。

宮沢「ここどうしましょう」

白石「うーん、もう少し細身でも良いかなぁ」

宮沢「こんな感じですか?」

白石「そうそう、そんな感じ」

 宮沢が修正を入れていく。

 後ろでそのやり取りを見ている伏見と藤丘。


 給湯室でコーヒーを入れてきた二条がそのやりとりを眺めている。


 動画部スペースに戻ると動画の人たちがノートパソコンを囲んでいる。

 流れているのは新作アニメのPV。

 各々、反応したり感想を呟いている。

「○○さんキャラデかー」

「ここのアクション、○○さんぽいね」

「うわ、線多いよこの服」

「あ、今のキャラ可愛い」

「動画やりたいなー」

「マジ?」

「内容は面白そー」

「二条さんはどう?」

 最後列で立って眺めていた二条に話が振られる。

二条「さすがだよね、キャラデの○○さん」

「ですよねー。いいですよねー」

 

 自分の席に座り、ヘッドホンを装着し動画作業の続きを始める二条。

 電動鉛筆削りで鉛筆を削る音。

 ヘッドホンのボリュームを上げる二条。



○ みたかプロ・制作部屋

 夜。

 夕方の宅急便回収が終わり、夜の便回りも送り出し落ち着いた制作部。

 のんびりしている。


 本山と日比野がコーヒーを入れに行く。

 伏見が黒川に書類を提出する。

伏見「はんこお願いしまーす」

黒川「なるほど…ふーむ。カードキー、総務に言って増やして貰わないとなぁ」

伏見「ですね、これからもっと増えますからね」

黒川「そういや、お見合いどうすんの?」

 書類に目を通しながら、うっかり喋ってしまう黒川。

 驚く伏見と制作部一同。

伏見「プロデューサー…どこでその話を」

黒川「あ、内緒だったっけ?」

伏見「一体どこでその話を…」

中村「伏見さんお見合いするんすか?」

岩塚「お、お見合い?」

 沸き立つ制作部

伏見「ちょ、違うから!違うから!お見合いしないし!」

黒川「伏見、ごめん。あ、これはんこ」

 黒川から書類を奪い取る伏見。

 怯える黒川。

 戻ってくる本山と日比野。

本山「どうしたんすか、急に騒がしくなって」

中村「実はだな…ごにょごにょ」

日比野「えぇ!?伏見さんお見合いするんですか!?」

 伏見を見る2人。

伏見「おまえら落ち着け!」

一同「やいのやいの」

本山「あれ?そういえば、お見合いするって事は伏見さんて彼氏いないんです?」

伏見「私の恋愛事情はどうでも良いでしょ」

藤丘「今ってか、私がみたかプロに入ってから多分、いないはず」

本山「藤丘さんいつこっち来たんですっけ」

藤丘「えーと…」

伏見「あ、こら計算するんじゃない!」

本山「とすると…」

伏見「話を聞け話を!」

黒川「昔はイケメンと付き合ってたよな…前の会社で…」

 ぼそりと黒川が言う。

 再びザワッとする制作部。

 更に沸き立つ。

伏見「あーもうプロデューサーちょっと黙って!コンビニ行きますよ!」

黒川「え?ダッツ?」

伏見「わかったから、何でも良いから早く!」

黒川「ラッキー」

 ざわついてる制作部から黒川を引っ張って逃げ出す伏見。



○ 牛丼屋・外観

 夜。

 いつもの牛丼屋の前に本山の自転車が停めてある。

 窓越しに見える本山、高瀬、箕浦の3人の後ろ姿。



○ 牛丼屋

 夜。

 本山と高瀬、箕浦の3人が並んで食事をしている。

高瀬「お前、そういやあれどうなった」

本山「あれ?」

高瀬「ほら、元カノとより戻すとか戻さないとか」

箕浦「何その話」

 話に食いつく箕浦。

高瀬「何か実家帰ったときに同窓会で元カノと再会したらしい」

箕浦「何で別れたの」

本山「えーと」

箕浦「なんで」

本山「あーもう」

 高瀬をにらむ本山。

 知らんぷりを決め込む高瀬。

本山「中学高校と一緒だったんだけど高校ん時に付き合い始めて、俺が大学で名古屋に出て1年ぐらいして連絡の頻度が落ちてそのまま自然消滅」

箕浦「ふーん。で、より戻すの?」

本山「いや、そんなこと考えてないよ」

高瀬「うそだー」

本山「いや、仮に、仮にだよ。よりを戻してもまた遠距離だし」

箕浦「でも、嫌われてるわけじゃないんでしょ。戻しちゃえば良いじゃん」

本山「うーん…」

 悩む本山。

箕浦「あれか、広瀬さんのことも気になってるやつか」

本山「は!?」

高瀬「おぉ、なんだなんだ」

箕浦「なんか広瀬さんと2人で食事行ったんだって?」

本山「おまっ、どこからそれを」

箕浦「秘密〜」

高瀬「広瀬さんて誰?」

箕浦「スタジオリリウムの色指定さん。本山と何回か組んだことあるらしいのよ。ほら、制作と色指定さんくっつくこと多いじゃない」

高瀬「はー。モテますなぁ。2人で食事かぁ」

本山「いや、だからそれは誤解で」

箕浦「近場の女か初恋の女か悩んでるわけねー」

本山「ちょっと、変なこと言うんじゃない。違うって」



○ みたかプロ・作画部屋

 早朝。

 人が少なく静かな作画部屋。

 二条が出社すると宮沢が動画部の上がりの棚からカットを出して中身を見ている。

 宮沢が二条に気づく。

二条「おはようございます」

宮沢「ねぇ、この動画、誰が描いたかわかる?」

 カット袋を見る二条。

二条「えっと…私です」

宮沢「そう、君が。…名前は?」

 ぱらぱらと動画をめくる。

二条「二条です。京都の二条と同じ、二条」

宮沢「ありがとう」

 動画をカット袋に戻し、二条に手渡し去って行く。

 


○ みたかプロ・外観

 お昼。

 人通りがある。



○ みたかプロ・作画部屋

 昼過ぎ。

 版権のラフチェックをしている白石。

 そのチェックを待つ伏見。

 隣の席の宮沢は帰っている。(鞄がない)

白石「お見合いするんだって?」

伏見「はーーーーーーーーーーーーー」

 深いため息をつく伏見

伏見「だから、お見合いしませんって」

白石「なんで?いい機会じゃん」

伏見「まだ仕事忙しいですし、結婚する気もないですし」

白石「1回くらいは結婚、経験しといた方が良いぞー。ま、俺は2回目だけど」

伏見「笑えませんから」

白石「あっはっはっは」

 修正用紙を重ねて、修正指示を入れていく白石。

 伏見と会話しながらも手は動かしている。

白石「そうそう、宮沢くんだけどさ」

伏見「はい」

白石「結構ズバズバ物言うじゃんね。若いのに物怖じしないというか。お前もだけど」

伏見「ははは。宮沢さんがどうかしました?」

白石「昨日知り合いから聞いたんだけどさ、ゼロで○○さんいるじゃん?」

伏見「はいはい、あの○○さん」

白石「○○さんと衝突して、内定してたキャラデ下ろされたらしいよ」

伏見「…あー」

白石「しばらくゼロに居づらいから、放牧に出したって事みたいよ」

伏見「…まぁ何かあるだろうなぁとは思ってましたけど…そんなことが」

白石「なんせ宮沢君、ゼロの次世代を担うアニメーターとか言われてたしねぇ」

伏見「ほとぼり冷めるまで、うちでってことですかね。まぁ桜坂が考えそうなことですね」

白石「それが事実だとしても、ふてくされて手を抜くような性格じゃなさそうだけどね」

伏見「ですね」



×××

(回想始まり)


○ プロダクションゼロ・ロビー

 数年前。

 ゼロのエントランス。

 伏見と作監の女性が立ち話をしている。

 ※伏見の髪の長さはセミロング(束ねてはいない)

伏見「では、今日の入れはこれで終わりです。あと残り数カットですね…えーと」

 カット袋から進行表を取り出す。

伏見「5カットで…ただちょっと重めのカットなんで明後日のアップ予定ですね」

作監「りょーかい」

桜坂「お、ふっしーじゃん」

 桜坂が後ろから声をかける。

作監「じゃまた連絡して」

伏見「あ、了解です。お疲れ様です」

 作監が去る。

桜坂「あー、ももコン?どうよ、状況?」

伏見「ぼちぼち。若干遅れてきてるけど。そっちは?今なにやってんの?」

桜坂「○○(作品名)」

伏見「ご愁傷様」

桜坂「上手い原画さん紹介してよ。人手が足りないんだよ…そうだなぁ…アクションは足りてるから日常芝居が…あ、ただアクション上手い人がいらないってわけじゃないからね、教えてくれるんだったらそれは拒まないよ?」

伏見「じゃ、あたしはスタジオ戻らなきゃいけないから」

 伏見が出入り口に向かって歩いて行く。

桜坂「え、スルー?マジで?」

伏見「良い原画さんいたら教えてね」

 扉の前で振り返りウィンクする。

 手でしっしっと追いやる桜坂。

 扉を開けて出て行く伏見。


×××

(回想終わり)



○ みたかプロ・制作部屋

 現在。午後。

 作画部屋から戻ってきた伏見に藤丘が話しかける。

 藤丘「あ、ボックスさんたちいらっしゃいましたよ。準備はオッケーです」

 伏見「了解。ありがとう、すぐ行くわ」

 


○ みたかプロ・第2会議室

 グロス会社の担当者、2人が既に座っている。

 伏見と藤丘が荷物を手に入ってくる。

伏見「すみませーん、お待たせいたしました」

 荷物を置き名刺を取り出す。

伏見「改めまして、みたかプロダクションの伏見と申します」

田辺「私、有限会社ボックスプロジェクトでデスクをやっております田辺と申します…って伏見?」

 名刺を受け取った田辺が伏見を見る。

 伏見も改めて田辺を見る。

 気づく伏見。

伏見「先輩!?」

 固まる伏見と驚きの表情の田辺。

 状況が飲み込めない藤丘と田辺の部下。


 仕事の話をしているが、どことなく落ち着かない様子の伏見。


×××

(回想始まり)


○ アートノート・制作部屋

 数年前。

 伏見がカット袋の束を抱えて戻ってくる。

伏見「ただいま戻りましたー」

 束を机にどさっと置く。

田辺「もうちょっとそっと置けないのか」

 電話をしている田辺がぼやく。

 伏見がにらむ。

田辺「あ、いや、こっちの話です。えぇ、がさつな新人がいるもんでして」

伏見「悪うございますね」

 伏見がどかっと座り、カット袋の束を捌き始める。



○ アートノート・休憩室

 煙草を吸っている伏見。

 田辺がやってくる。

田辺「煙草止めろって言っただろ」

伏見「先輩だって吸ってるじゃないですか」

 伏見と同じ煙草を取り出し、火をつける田辺。

田辺「俺はいいの。女の子が吸うもんじゃないよ」

伏見「がさつ扱いしたり女の子扱いしたり、どっちなんですか」

田辺「新人をからかうのは先輩の特権だろう」

伏見「もう2年半です。いつまでも新人扱いしないで下さい」

 田辺の方に向かって煙を吐く伏見。

田辺「お前の後に入った新人全員辞めただろ。…そういえば、お前まだ動画会社抑えきれてないだろ」

伏見「うっ…なんとかなりますよ」

田辺「お前、1週間前に何とかしたところでリテイクはどうすんだよ。時間のあるときに次の手を打っておくのが…」

伏見「制作の仕事でしょ。わかってますよ」

田辺「いーや、わかってないね。大体、この前の話数だって原画もう少し上手く動かせただろ」

伏見「あれは作監さんが他の作品で手一杯で」

田辺「スケジュールが落ちて被るのは予想できただろ。スケジュール滅茶苦茶だって情報は入っていたんだから。だったら先読みして先に原画入れしておくことも出来たんじゃないのか?優先かければ…」

伏見「そうだ、電話かけなきゃいけなかったんでした」

 伏見が立ち上がり煙草の火を消す。

田辺「あ、こら」

伏見「では」

 伏見がサッと部屋を出て行く。

 

×××

(回想終わり)



○ みたかプロ・会議室前廊下

 現在。

 打ち合わせ終了。

 荷物を抱えて扉を開けて出てくる伏見。

 中から藤丘達も出てくる。

 制作部の方に歩いて行く一同。

 部屋を覗いて忘れ物などを確認する伏見。

 田辺が伏見を待っている。

 扉を閉める。

 藤丘達より少し離れて歩き出す。

田辺「伏見、今夜空いてるか?」

伏見「え…えーと、空いてはいますけど」

田辺「じゃあ、○時に○○(店の名前)で待ち合わせで」

伏見「え、あ、はい」



○ みたかプロ・作画部屋

 動画部スペース。

 動画検査の小野が二条に声をかける。

小野「二条ちゃん、ちょっといい?」

 作業の手を止め、ヘッドホンを外す二条。



○ みたかプロ・給湯室

 コーヒーが湧くのを待っている2人。

小野「最近、どうしたん?悩み事でもあるの?」

 心配する小野

二条「…」


 しばらくして口を開く二条。

二条「このままアニメーター続けていっていいのかなぁ、と」

小野「あー、そういう悩み」

二条「えぇ」

小野「辞めたいと思ったら辞めれば良いと思うよ−。無理してやらなきゃいけない仕事じゃないし」

 コーヒーが湧く。

 ポットから自分のと二条のマグカップにコーヒーを注ぐ。

小野「アニメーターになったあとは自分で目標を決めるしかないじゃん。上手い動画マンになるのか。原画を描きたいのか。それを決めるのは自分だから、辞める前に、自分がどんなアニメーターになりたいのかを考えてからでも遅くないよ」



○ みたかプロ・作画部屋

 動画部スペース。

 休憩から戻ってくる二条。

 隣の席の動画Aが原画を見ながら唸っている。

二条「どしたの」

動画A「二条さーん、今日入ってきた外の仕事のこの原画見てくださいよー」

 原画を受け取る二条。

二条「どれどれ…うわ」

動画A「わかります?」

二条「これ作監さんもがっつり修正入れてくれてるけど…原画酷いね。枚数多いし」

動画A「酷いですよね…」

二条「大変だね…これ」

動画A「えぇ…。この人の原画、ほとんどこんな感じなんです…二条さん今手持ちどれぐらいあります?」

二条「えーと、あとそんなに重くないのが1カットかなぁ…そのカット貰おうか?」

 自分の棚のカット袋を見る。

動画A「…お願いしても良いですか」

二条「いいよ。アップ日ていつ?」

 動画Aから原画とカット袋を受け取る。

動画A「今夜いっぱいです。枚数は少ないけどこの人のカット、まだ2カットあるんです…」

二条「うーん…朝までかかりそうだねぇ。了解」

動画A「ありがとうございます」



○ みたかプロ・外観

 夜。



○ みたかプロ・制作部屋

 夜。

 制作部。

 時計を気にしている伏見。

 それに気づいている藤丘。

藤丘「先輩、いまいま急ぎの仕事って持ってます?」

伏見「うーん…いまいま急ぎってのはないなぁ」

藤丘「じゃあ、そのまま直帰すれば良いですよ」

伏見「へ?」

藤丘「飲んできて良いですよ、お酒」

伏見「いやいや、一応仕事あるから戻ってくるわよ」

藤丘「今、急ぎのはないって言ってたじゃないですか」

伏見「いや、急ぎのはないけど仕事はあるわよ」

藤丘「せっかく男性と飲みに行くんですから気兼ねなく飲んできてください」

伏見「あのね、別に田辺さんとは昔の会社で一緒だっただけで」

藤丘「言い訳はいいから」

伏見「はい、お言葉に甘えます」



○ 都内・居酒屋

 夜。

 居酒屋のカウンターに並んで座っている田辺と伏見。

田辺「どうよ、アニメ作ってて楽しいか?」

伏見「まぁ、それなりには」

田辺「彼氏は」

伏見「いませんよ」

田辺「いい女なのに惜しいねぇ」

伏見「振った男がよく言いますね」

田辺「あれ?怒ってる?」

伏見「怒ってませんよ。でもまぁよく顔出せましたね」

田辺「伏見がいるってわかってたら他の班に任せてたよ。黒川さんめ」



伏見「アートノート辞めたあと、どうしてたんすか」

田辺「辞めて、知り合いのゲーム会社で働いて去年の年末かな、今のスタジオに転職したのは」

伏見「ずっとゲーム会社にいれば良かったのに」

田辺「いや、まだ発表してねぇけど○○って漫画知ってる?」

伏見「えーと少年○○で連載中の?まさかアニメ化すんの?」

田辺「そう。あれのテレビシリーズと劇場版うちでやるの。で、今のPに誘われたわけ」

伏見「うわー…監督は?」

田辺「○○さん、キャラデザは○○さん」

伏見「おぉ。それは期待…」

田辺「だろ?」

伏見「いつ番なんです?」

田辺「来年の秋予定」

伏見「あぁ、だからうちのグロス回してスタッフの準備を」

田辺「そうそう」

伏見「なるほどねぇ…○○さんキャラデかー。今度紹介してくださいよ」

田辺「やだ」

伏見「いやいや、ちょっと借りるだけですから」

田辺「貸さねーよ」

伏見「じゃあ、○○さん(監督)にコンテ演出やってくださいって言っといてくださいよ」

田辺「あーコンテだけだったらいけるかも」

伏見「よし、明日コンテ打ちやろう」

田辺「急すぎるわ。やるとも言ってねぇし」


 笑いながら酒を飲む2人。


 田辺が煙草を取り出し、火をつける。

伏見「1本もらえます?」

田辺「あぁ」

 田辺が差し出す。

田辺「辞めたんだ、煙草」

伏見「この臭い嗅ぐと昔のこと思い出すんで」

 田辺が苦笑いしながら、ライターをつける。

 伏見、煙を吐く。



○ みたかプロ・制作部屋

 藤丘が残って作業をしている。

 伏見班は藤丘だけ残っており、堀田班は堀田たち数人が残っている。

 作画部屋から本山が戻ってくる。

本山「あれ、藤丘さんまだいたんすか」

藤丘「もう帰るよ」

本山「お疲れ様です」

藤丘「そっちは?まだなんかあるの?」

本山「中島さんの上がり待ちですね。上がり受け取ったら作監入れして帰ろうかと。中島さん終電までしか今日作業できないんで、あと1時間ぐらいですし」

堀田「じゃ、お先」

本山「おつかれすー」

藤丘「お疲れ様ですー」

 堀田がタイムカードを押して出て行く。

本山「そういや、今日来たグロスのデスク、伏見さんの元カレなんだって?」

藤丘「らしいねぇ。今その人と飲みに行ってるけど」

本山「おー」

藤丘「人のことはともかくあんたはどうなのよ。広瀬さんと」

本山「なんでそこで広瀬さんが出てくるんですか」

藤丘「広瀬さん可愛い人じゃない。ほら、セル検さんとくっつく制作多いんだから。とっととくっついちゃいなさいよ」

本山「いやいやいやいや、一緒に仕事しづらくなるじゃないですか…」

藤丘「あぁ確かにあんた不器用そうだもんね」

本山「どゆことですか」

 電話が鳴る。

本山「はい、みたかプロ」



○ 都内・居酒屋前

 夜。

 田辺と酔っ払ってる伏見。

田辺「じゃあ、○○さんに話してみるわ。また連絡するよ」

伏見「宜しくお願いします」

 お辞儀する伏見。

田辺「おまえ、ちゃんと帰れるの?送っていこうか?」

伏見「いえ、結構です。家すぐそこですから」

 田辺の携帯電話が鳴る。

田辺「ホントに大丈夫?」

 電話が鳴り続けている。

伏見「ほら、電話出て」

田辺「わりぃ」

 電話に出る田辺。

田辺「もしもし?うん…うん」

 少し離れる田辺。

伏見「先輩!」

 田辺が振り返る。

伏見「お疲れ様でした!」

 お辞儀する伏見

田辺「気をつけて帰れよ!」

 敬礼する伏見。

 伏見歩き出す。

田辺「あ、うん。大丈夫」

 煙草を取り出そうとポケットに手を突っ込むが見当たらない。

田辺「あれ?店に忘れてきたか?いや、こっちの話。で?」

  再び電話の相手と話し始める田辺。


 

○ 大通り(みたかプロ近く)

 自家用車を運転している堀田。

 歩いている伏見を見つける。

 伏見に声をかける。

堀田「よ」

伏見「あぁ、誰かと思った」

堀田「送っていこうか?」

伏見「助かる」



○ 走行中の車内

 堀田の車。

 運転する堀田と助手席に座っている伏見。

 ラジオが流れている。

堀田「相手のデスク、昔の男だったんだって?」

伏見「誰から聞いたのよ」

堀田「プロデューサー。安心しろ、まだ広まってない」

伏見「まだ…ね」

 窓の外を眺める伏見。


×××

(回想始まり)


○ アートノート・制作部屋

 数年前。昼。

 まだ数人しか出勤していない制作部。

伏見「おはようございまーす」

 出勤してくる伏見。

 ホワイトボードにはほとんどの制作が休暇と書かれている。(※田辺の名前はない)

 伏見が自分の欄に休暇と書かれていた文字を消す。

 机に荷物を置いて異変に気づく。

伏見「ん?」

 隣の田辺の席が片付いている。

伏見「あれ?私が休みの間に席替えしました?」

制作「何言ってんの、田辺さんなら先週で辞めたじゃん」

 伏見の向かい側に座って作業している制作が答える。

伏見「は?」

制作「あっ」 

 制作がしまったという顔をする。

伏見「誰の差し金?」

制作「いや、その」

伏見「誰?」

 制作に迫る。

生駒「伏見、ちょっと」

 入り口に立っていた生駒が伏見を呼ぶ。



○ アートノート・会議室

 伏見と生駒が部屋に入ってくる。

 扉を閉める生駒。

伏見「どういうことですか!」

 バンと机を叩く。

生駒「田辺から口止めされてたんだよ。伏見には教えないでくれって」

 怯えている生駒。

伏見「どこまで知ってたんですか。スタッフは全員知ってたんですか」

生駒「…」

伏見「私だけ…ですか、知らなかったの」

生駒「お前、田辺と付き合ってただろ。てっきり田辺から直接、話をするもんだと思ってたんだ。タイミングを見て」

伏見「何も聞いてないですよ」

生駒「みたいだな」

伏見「辞めてどこ行ったんですか」

生駒「それは俺たちも聞いてない」

伏見「アニメ業界も辞めたんですか」

生駒「それすらも」

 伏見が会議室を飛び出す。

生駒「あ、待て伏見!」



○ アートノート・外観

 スタジオを飛び出していく伏見。



○ 田辺のアパート

 ボロボロのアパート。

 1階奥の部屋の扉の前で息を切らして立っている伏見。

 ドアノブに入居者の方へと書かれた水道のチラシがぶら下がっており既に引っ越した後。

 肩をふるわせて立っている伏見の後ろ姿。



○ アートノート・制作部屋

 伏見が戻ってくる。

 制作達が伏見に気づき、気まずい空気が流れる。

 自分の机に向かい、引き出しを開けてヘアゴムを取り出す。

 長く伸びた髪の毛を束ねる。

 そのまま、生駒の机の前に歩いて行く。

 身構える生駒。

 沈黙が流れる制作部。

伏見「仕事下さい」

生駒「…」

伏見「何でも良いんで」

生駒「いや、お前も知ってるとおり、今は他の作品の準備してるし、DVDリテイクぐらいしか…あ、そういやグロスの話が合ったな」

伏見「じゃあ、そのグロスの話受けて下さい。やります」

 詰め寄る伏見。

生駒「でも、お前もう少し休んだら?」

伏見「自分で勝手にグロスの仕事取りますよ?」

生駒「わかったわかった、ちょっと電話するから」

伏見「ちなみにどこのグロスです?」

生駒「コクブンジの秋番とか言ってたな。席で待ってろ、今からかけるから」

伏見「わかりました」

 自分の席に戻っていく伏見。

 電話をかけ始める生駒。


(回想終わり)

×××


○ 走行中の車内

 現在。

 運転している堀田。

 ポケットから煙草を取り出す伏見。

伏見「吸って良い?」

堀田「あれ?珍しい」

 助手席の窓が開く。

伏見「今日だけよ今日だけ」

 煙草に火をつける。



○ みたかプロ・制作部屋

 翌日。

 土曜日の昼間。

 薄暗い制作部。

 誰もいない。

 ホワイトボードに「休み」や「19時〜」と各自の出勤状況が書かれている。



○ みたかプロ・作画部屋

 土曜日の昼間。

 作画部。

 ぱらぱらと原画マンが作業してるが平日に比べると少ない。

 宮沢が黙々と作業をしている。


 動画部スペース。

 毛布にくるまって動画マンが何人か寝ている。

 机に突っ伏していた二条が目を覚ます。

二条「あぁもうお昼か…帰って寝よう…。つら」

 帰り支度をして作画部屋から出ていく二条。



○ みたか駅前

 昼。

 駅前ではっと立ち止まる二条。

二条「あ、返却するDVD忘れた…。明日までだから…明日取りに戻るか…。ねむ」 

 再び歩き出す。



○ 二条の自宅

 遮光カーテンが閉まっており薄暗い部屋。

二条「ただいまー」

 玄関からベッドに直行する二条。

 着替えもせずに倒れこむ。



○ なかの駅前

 翌日。

 日曜日の昼。

 人通りがある中、二条と友人が合流する。



○ 都内・カフェ

 二条と友人がカフェでお茶している。

友人「最近どう?」

二条「昨日徹夜だったわー」

友人「マジか。相変わらず大変そうね」

二条「そっちは?」

友人「まぁぼちぼちかなー」

二条「ぼちぼちかー」

 

 他愛もない会話で盛り上がる2人。

 時間が経ち、しばらくして友人が黙る。


二条「どうした?急に黙って」

友人「あのさ」

二条「うん?」

友人「今月いっぱいで辞めるんだ」

二条「え?」

 驚く二条とうつむく友人。

二条「今の会社を?」

 動揺する二条の問いに対し首を横に振る友人。

友人「アニメーター」

二条「ホントに?」

友人「うん」

二条「業界辞めなくてもいいんじゃない?ほら別のスタジオに移るとか、なんならうちのスタジオ紹介しようか」

友人「ありがとう。でもね、もう限界だわ、精神的に。アニメを嫌いになる前に足を洗うよ」

二条「アニメを嫌いになる前に、か…」

友人「うん…」



○ なかの駅前

 駅前に到着する二条と友人。

二条「じゃあ、また落ち着いたら連絡してね」

友人「うん、ありがと」

二条「じゃ!」

 改札をくぐる二条。



○ みたかプロ・外観

 夕方。

 二条が階段を上っていく。



○ みたかプロ・作画部屋

 夕方。

 薄暗い作画部屋。

 DVDを鞄にしまう二条。

 帰ろうとすると宮沢の机のライトが点いているのに気づく。

 宮沢は帰っている。(鞄がない)

 電気を消すために近づく。

 足下のゴミ箱に大量の没ラフ。

 1枚拾い、広げてみる。

 何枚も拾っては広げて見る二条。


 物音がする。 

 驚いた二条がゴミ箱に紙を戻して、作画部屋を出ていく。



○ みたか駅前

 駅へ向かって歩いている二条。

 スーパーの袋(中身は雑貨)を下げた小野と会う。

二条「あれ、どうしたんですか」

小野「いや、うち近所だし。相変わらず浮かない顔してるねぇ」

二条「そうですか?」

小野「よし、飲みに行こう」

二条「え?」

小野「さぁ行くぞ」



○ 駅近くの居酒屋

 おでんを食べながら酒を飲む二条と小野の2人。

小野「専門の同期が辞めたかー」

二条「もうほとんど残ってないですよ専門時代の友達」

小野「私もそうだよー。そんなもんだって」

二条「そんなもんですかねぇ」

小野「仲良しこよしでやっていけるわけじゃないんだからさー。仕方ないじゃんよ」

二条「結構、キツいですね」

小野「自分らだっていつダメになるかわかんないしさー」

二条「そうなんですけどー」

小野「大体、二条ちゃんもこの前から続けていくべきかどうか悩んでるじゃん」

二条「その自分が今日、友達を引き留めようとしましたからね…自己嫌悪ですよ」

小野「あはは、そりゃ自己嫌悪にもなるわ」

 ポテトサラダが運ばれてくる。 

小野「あ、生2つ追加で」


 酒が進んでいる二条。

二条「あー画力が欲しい。なんでこう私の手は思い通りに動いてくれないんだ…ってなるんですよ」

小野「ま、焦ったってしょうがないよ。地道に頭使って描いていくしかないんだから」

二条「それで大丈夫なんですかね」

小野「さぁ?でも、自分たちは自分の仕事を信じてやるしかなくない?」

二条「自分の仕事を信じる…ですか」

小野「そ。アニメなんて1人で作ってるわけじゃないじゃん。そりゃあもう、ものすごく多くの人が関わってるわけじゃん。その中の1人だよ、うちら。自分の仕事がこの作品を良くしてるんだって思わないとやってられないよ」

 小野の話を聞く二条。



○ みたかプロ・外観

 朝。



○ みたかプロ・作画部屋

朝。9時ぐらい。

静かな作画部。

二条が出勤してくる。

宮沢と伏見が話しているのに気づく。

立ち止まって、話を聞く二条。

机に向かって作業している宮沢。

後ろに座っている伏見。


宮沢「もうぼちぼち耳に入ってるとは思うけどさ」

伏見「何がです?」

宮沢「ゼロで○○さんともめた話」

伏見「…」

 無言の伏見をちらりと見るが、すぐに作業に戻る。

宮沢「やっぱり知ってるね」

伏見「噂程度では」

宮沢「噂通り、決まってた作品下ろされたよ」

伏見「…」

宮沢「理由はともかく、自分の仕事を否定されてまで素直にハイハイと話を聞いてられるほど、僕はお人好しじゃない」

 伏見の方を向く。

宮沢「伏見さんたちには悪いけど、僕は僕の仕事を貫くことで見返してやる。まずはこの作品を良い物にする。それがここでの僕の仕事」

伏見「良いと思いますよ。私も良い作品が作りたいですから、理由がどうであれ、この作品を良くする結果に繋がるなら。ただ、宮沢さん、1人でこの作品を作り上げるんじゃないんです。たくさんの人間が関わるんです。宮沢さんの目的のために作品を利用しても構いませんが、私も作品のためにあなたを利用します」

宮沢「言うねぇ。桜坂くんの言うとおりだわ」

伏見「桜坂と違って私は手強いですよ?」

宮沢「宜しく頼むよ」

伏見「こちらこそ」

 作業を再開する宮沢。

 しばらくして、宮沢が呟く。

宮沢「ま、この業界、自分の仕事を信じなきゃやってらんないよね」

伏見「ですね。わがままな人ばかりですから」


 荷物を置いて自分の机に向かう二条。

 自分の机の棚からカット袋を取る。

 ヘッドホンをして作業を始める。



○ みたかプロ・給湯室

 昼。

 小野と二条がコーヒーを湧かしている。

二条「昨日はありがとうございました」

小野「いやいや、こちらこそ。少しでも息抜きになったのならよござんす」

 二条が冷蔵庫にもたれかかる。

二条「もう少しこの仕事続けて、答え探しますよ。どんなアニメーターになるのか、もしくは辞めるのか」

小野「お、続けてくれるなら私は歓迎だよ」

二条「いつまでかはわかんないですよ」

小野「先のことは私だってわかんないよ」

 コーヒーが湧く。

小野「今ある仕事をこなしていくしかないよね」

 自分のマグカップと二条のマグカップにコーヒーを注ぐ。

二条「そうですね。ありがとうございます」

小野「ま、お互い頑張ろう」



○ みたかプロ・作画部屋

 動画部スペース。

 給湯室から戻ってきた小野と二条。

 自分の机に向かう二条。

 ヘッドホンを装着する。

二条「さて」

 カット袋から原画を取り出す。

二条(OFF)「今日も私は動画を描く」

 電動鉛筆削りで鉛筆を削る音。



おわり




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