第18話
第18話登場人物
『有限会社三鷹プロダクション』
アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【三プロ】。
設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。
『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』
伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。
『午後の城』
堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。
通称【ゴゴシロ】。学園もの。
――――――――――――――――――――――――みたかプロ・制作部
伏見 … 女。制作デスク。マジョスパ担当。
堀田 … 男。制作デスク。ゴゴシロ担当。
本山 … 男。制作進行。堀田班。
黒川 … 男。プロデューサー。
藤丘 … 女。設定制作。
中村 … 男。制作進行。伏見班。
岩塚 … 男。制作進行。動画管理補佐。堀田班。
砂田 … 男。制作進行。中途入社。
みたかプロ・動画部
小野 … 女。動画検査。
二条 … 女。動画マン。
東野 … 男。動画マン。
みたかプロ・総務部
曽根 … 女。総務のおばちゃん
――――――――――――――――――――――――
伏見班担当作品スタッフ
白石 … 男。『マジョスパ!』監督。
宮沢 … 男。キャラクターデザイン。プロダクション・ゼロ所属。
梅林 … 女。色彩設計。
広瀬 … 女。フリーの色指定。
日吉 … 男。美術監督。
高田 … 女。美術監督補。
堀田班担当作品スタッフ
豊平 … 男。『ゴゴシロ』監督。
美園 … 男。助監督。
福住 … 男。撮影監督。
部下 … 男。撮影部。
中島 … 男。本山担当話数の演出。
平岸 … 女。本山担当話数の作監。
――――――――――――――――――――――――
その他
本田 … 男。#14に出てきた原画マン
山波 … 男。#14に出てきた原画マン
本山母 … 女。本山のお母さん。
アニメ情報誌【あにめじょうほうし】とは…アニメージュ、アニメディア、Newtypeなどなど、声優専門雑誌など多岐にわたるアニメに関する情報誌のこと。最新情報はネットで集められる時代になったが、雑誌の書き下ろしピンナップなどアニメーターの収入になるので雑誌はある方が良い。あと形に残る状態で記録されていくことが大事だと思う。どうでもいいが、某声優養成所の広告がいつまでもNさんのままなのだが、いつまであのままなのだろうか…たまにテレビCMも当時のまま流れていて深夜に驚いたりする。謎。
○ みたかプロ・給湯室
伏見と藤丘が2人チョコを並べている。
伏見「えーと、今年の制作部の分は、こっちであってるのよね」
仕分けられた包装済みのチョコを指さす。
藤丘「そうでーす」
藤丘はチョコを小分けにした袋にどんどんとリボンを結んでいく。
伏見「で、今作業してるのが作画部分よね」
藤丘「ですです」
伏見「毎年のこととはいえバレンタインとかほんとめんどくさいわぁ」
藤丘「いいじゃないですか、これで少しでも原画の上がりが出るなら。それに、男性陣も気にしてない振りしてても意識してますから、もらえなかったって落ち込まれても、ね」
伏見「ほんと、それ。興味ないですとか言っておきながらもらえなかったって落ち込むのよねぇ。あ、今年の美味しいじゃん」
藤丘「あ、ですよね。今年はいつものとこの新しいのにしたんですけど、こっちの方が美味しいですよね」
伏見「あ、忘れないうちに。はい、今年の」
伏見が包装にくるまれたチョコを藤丘に手渡す。
伏見「今年は東京駅のデパートで買って参りました。お納めください」
藤丘「じゃあ私のも」
お互いのチョコレートを渡す。
藤丘「私はいつもの所のですが」
伏見「いやいや、これすげー美味しいから嬉しいわよ」
藤丘「ホントです?よかった。よし、出来た」
伏見「ご苦労様。じゃ、配るかぁ」
藤丘「どっちから行きます?」
伏見「作画部屋から先に行きましょう。万が一足りなくなっても嫌だし」
藤丘「らじゃ」
○ みたかプロ・外観
本山が自転車を止めていると着信がある。
本山「はい、どうしたの母さん。え、東京にいる?なんでまた、あぁ、へぇ、うん」
知り合いの個展を見に上京してきた母親から
○ 東京駅
本山母が本山に電話をかけている。
○ みたかプロ・外観
本山「え、宿は?あ、日帰りなのね?夜ご飯かぁ…どうだろうなぁ…ちょっとあとでまた連絡入れるわ。うん」
電話を切る。
本山「前もって言ってくれればいいのに…今日、何があったっけな」
OP
○ みたかプロ・制作部屋玄関
下駄箱に靴をしまっている本山。
伏見と藤丘がやってくる。
二人の手には大きなバスケット。
本山「なんすかそれ」
伏見「でた、分かってて聞いてるよ」
藤丘「絶対分かってるよ」
クスクスと笑う二人。
バスケットからチラリとチョコレートが見える。
本山「あぁバレンタイン」
伏見「ほら」
伏見がバスケットから1つ取り出し、手渡す。
本山「もらえるんですか?」
伏見「あるよ」
本山「わーい」
受け取る本山。
藤丘「もうちょい感情込めなさいよ」
本山「わははーい」
制作部屋に入っていく本山。
○ 制作部屋
本山が制作部屋に入ってくる。
本山「おはざまーす」
一同「おはようございます」
荷物を置いて堀田の席の所に行く。
本山「堀田さん今日、俺なんですけど…」
堀田「あ、本山、ゴゴシロのDVDリテイクのラッシュ、撮影でやることになったから。よろしく」
本山「え、まじすか。じゃあ、もうぼちぼち出発しないとじゃないすか」
堀田「んんー、あ、そうか13時からか。」
時計を見ると12時を回っている。
慌てて出発の準備に取りかかる本山。
本山「こりゃ早退むずかしそうだな…」
車の準備をしに制作部屋を出て行く。
本山の携帯「東京駅広いわ。出口分からなくて駅員さんに聞いたけど、表に出たら、さらにわからん」
母親からのメールが届く。
○ みたかプロ・作画部屋
伏見と藤丘がチョコを配り歩いている。
適当に原画マン達と雑談している。
#14で出てきた本田と山波コンビもいる。
伏見「本田さんと山波さんも今日ぐらいはちゃんと原画上げてくださいよ」
本田「BGオンリーでいい?」
伏見「原画って私今言いましたよね?」
本田「わかってますってー」
伏見「よろしくです」
山波「じゃ、ランチでも行きますか」
本田「そうだね」
伏見「全然分かってませんよね?」
藤丘「平岸さんも、はい」
平岸「え、私にもくれるの?ちょっとやだ、すっかり忘れてて何も用意してないのよー」
藤丘「いやいや、ホワイトデーにお待ちしてますから」
平岸「あ、う、その手があったか…」
すすすと藤丘に返却使用とする平岸。
藤丘「返却不可です。この前、写真上げてたオムライスのお店連れてってくださいよ」
平岸「あ、あれね」
藤丘「めっちゃ美味しそうだったんで気になってるんですよ」
平岸「いやぁあれここ最近のNo.1だよ。めっっっっっっっっちゃ美味かった」
藤丘「ですよねー」
平岸「よし、連れてってあげよう。あれは美味いよ〜」
話が盛り上がる二人。
○ 制作部屋
中村が出社してくる。
中村「おはようございます」
砂田「あ、同じ服だ。お泊まりですか?」
中村「ん?ちょっとね」
岩塚「砂田君、よく見たまえ、昨日と同じ服だがきちんと洗濯、ジャケットに至るまでアイロンがかかっている。我々のような会社にお泊まりとは違うのだよ」
砂田「え、彼女の家にお泊まりって意味で聞いたんですけど」
岩塚「え」
本山「はい、こっち見ない」
岩塚「我々アニメ業界のお泊まりといえば、机の下に頭突っ込んで床の上で寝ることではないのかね」
砂田「…違いますね」
中村「違うな」
本山を見る。
本山「俺もそっちよりですが、認めたくないので否定させて頂きます」
岩塚「なんでじゃああああ」
岩塚が机に突っ伏して泣く。
伏見達が戻ってくる。
中村「あ、デスク。おはざます」
伏見「おはよう、って、またお泊まり?」
中村「バレンタインなんで呼ばれちゃって」
伏見「モテる男は大変ねぇ…。あ、はい、男性陣」
男性陣にひょいひょいとチョコの包みを投げていく。
伏見「はい、堀田行くよー」
堀田「うぉ」
急に死角から飛んできたチョコをキャッチする。
藤丘「はい、もらってない人いないですねー?」
伏見「今年のバレンタインチョコでした。さ、今日一日それで頑張ってくださいまし」
中村「お、○○のチョコじゃないですか。奮発しましたね」
藤丘「ね、中村は分かるっていったでしょ」
伏見「さすがだわ」
岩塚「有名なんですか?」
藤丘「最近有名になりつつあるとこなのよ」
岩塚「へー」
物珍しげにチョコを眺める。
本山「じゃリテイクしに撮影行ってきます〜」
堀田「行ってきます」
一同「よろしくお願いします」
車出発前、本山母からのメールが届く。
本山の携帯「タクシー乗った。ビルが高くて空が低いね」
○ 車内
本山が運転して堀田が助手席に座っている。
後部座席には段ボール2つに入ったカット袋。
本山「監督達は直行なんですよね」
堀田「うん。一応さっきメール入れたら返事来たから起きてるよ」
本山「うぃ」
しばし沈黙。
窓の外を見ている堀田が口を開く。
堀田「今頃、日比野なにやってんのかねぇ」
沈黙。
今度はゆっくりと本山が口を開く。
本山「さぁ?意外とまたアニメ業界かもですよ」
堀田「制作?」
本山「メーカーP」
堀田「俺より上じゃねぇか」
本山「顎で使われますよ。堀田君さぁちょっとあの、アレ用意しといてよ、アレ」
堀田「アレじゃわかんねーよ」
本山と堀田が笑う。
本山「まぁどこにいるかは知りませんけど元気に生きてるんじゃないですか?」
堀田「そうねぇ」
本山「俺の希望としては迷惑かけられたんであと半年は凹んでて欲しいですけどね」
○ 撮影会社・外観
建物横の駐車場に進行車を止めてある。
○ 撮影会社・エレベーター
段ボール2つを抱えている本山と堀田が乗っている。
エレベーターが狭い。
堀田「本山狭いよ」
本山「我慢してください」
堀田「セマイヨゥ」
本山「我慢」
扉が開く。
撮影監督の福住が台車を用意して待っている。
福住「なんだ、言ってくれれば下まで取りに行こうと思ってたのに」
本山「いえ、若いんで大丈夫です」
本山が段ボールとともにエレベーターから降りる。
その際、堀田が潰れる。
堀田「モトヤマ、セマイヨゥ、イタイヨゥ」
○ 撮影会社・撮影部
豊平と美園が既に到着している。
本山「おはようございますー」
豊平「うす」
美園「おはようございます」
段ボールを下ろし、カット袋を準備していく。
本山「久しぶりっすね」
美園「今スタジオ入ってないもんね」
本山「春番順調ですか?」
美園「ノーコメント。あ、芝居うまいアニメーターいたら教えて」
本山「高いですよ」
美園「くぅ〜」
美園が嘘泣きのフリをする。
福住「じゃ、みなさまこちらへ」
福住が作業スペースへ誘導する。
福住が作業してる横のモニターをみんな見ている。
福住「ここどうしましょう。作画は直ってきてるんですけど、一応指示通りに。ただ、このままだと足りないと言うね」
豊平「あぁセルバレしてるんだ」
福住「というかセルバレしてたのをこの前撮影で調整してるんですよ。だからこのまま直したところで結果は同じという。動きは良くなってるけどバレるっちゃバレる」
美園「あーなるほど」
豊平「じゃあ、前回同様撮影で切ってもらうしかないのか」
本山が同じカットを取り出す。
確かに描き足されていないことを確認する
堀田「いいですかね、それで」
豊平「まぁ前回とカットサイズ変わらないならいいよ」
福住「わかりました。じゃ、これ前回と同じ感じで差し替えをお願い」
福住が撮影部の部下にカット袋と指示をして渡す。
部下「はい」
福住「えーと、次はこれなんですけど」
リテイク作業が進んでいく。
○ みたかプロ・外観
昼。
○ みたかプロ・制作部屋
伏見達がお昼ご飯を食べている。
岩塚「でも、バレンタインとかは女性制作にとっては良い口実ですよねぇ」
藤丘「なにが」
岩塚「男性アニメーターが原画上げてくれるじゃないですか」
藤丘「そういうこといってるとセクハラでそのうち訴えられるわよ」
中村「まぁでも言わんとしてることはわかるね」
岩塚「でしょう?」
中村「でもまぁ、そういうイベントごとは制作として使ってなんぼじゃないですか。お互い気持ちよく持ちつ持たれつで」
岩塚「そういうもんか」
藤丘「そんなこといったら、うちの会社でちゃんとお返しくれてるのプロデューサーと中村だけだからね。文句言うならホワイトデーに返しなさいよ」
岩塚「うっ」
藤丘「もらうもんだけもらっといて文句言うのはフェアじゃないわ」
岩塚「すみません」
砂田「鮮やかに決まりましたね」
藤丘「岩塚ごときに負けません〜」
砂田「ライジングは逆に禁止でしたねぇ。やるならこっそりやってくれって」
藤丘「ほう」
砂田「スタッフが多すぎて、誰に配ったとか誰が配ったとか他の班まで出てくるなとか一時期ややこしかったらしく。で、最終的に恋愛関係のもつれで揉めたんで、公には禁止に」
中村「まぁ一時期話題になったよね。ネットに相手のこと恨み辛み書いてて」
砂田「えぇ。最終的に制作女子とアニメーターの2人ともクビですよ」
藤丘「え、その制作はチョコあげただけでしょ?アニメーターの逆恨みじゃないの?」
砂田「それがアニメーターはとっくの昔に別れてて復縁迫ってただけみたいなんですけど、制作女子は他にスタジオ内の演出やら他のアニメーターなど三股しててそれがなんか発覚しちゃって泥沼」
藤丘「あらぁ」
砂田「もうめんどくさいってことで乱暴ですけど制作女子をクビにして、ついでにアニメーターが見せしめに…」
藤丘「三股の相手は?」
砂田「まだ働いてますよ。来期の監督とかもいますし。あ、名前は伏せますね」
藤丘「うわー」
中村「ま、やるならバレないようにやらないとね。じゃ、仕上げ部屋準備してきます」
藤丘「あ、そうだ。このあとチェックだった。よろしく」
○ みたかプロ・仕上げ部屋
伏見、藤丘、中村、白石、宮沢の他、美術監督の日吉、助手の高田、そして色彩設計の梅林、色指定の広瀬がひしめき合っている。
画面上に映し出されているイメージBGを見ている。
梅林「なんというかさ」
高田「はい」
梅林「狭くない?」
広瀬「やっぱりそう思います?」
日吉「高田君、足踏んでる」
高田「あ、すみません」
梅林「狭いよねぇ」
広瀬「狭いですねぇ」
日吉「ねぇ高田君、足」
高田「すみません」
梅林「やっぱ監督の顔がでかいのかなぁ」
白石「俺は標準サイズだよ」
宮沢「うーん、ここもうちょっと明るくても良いと思うんですよね、雰囲気的に。潜在意識に潜り込むんですけどパキッと明るいせいで影の落ち方もはっきりしているというか」
広瀬「これぐらいですか?」
宮沢「うーん」
白石「ねぇ?おれ標準だよな?」
伏見「多分」
梅林「あのさっきのファイル開いて、あれの4番目ぐらいの」
広瀬「あー分かりました」
後ろからひしめき合ってモニターを見ている光景を見ている。
中村「これ、毎回思うんだけどモニター小さいって。いや、作業するには十分なんだけど」
藤丘「チェック用のモニター買ってもらうかぁ」
中村「昭和のテレビ見に集まってる人たちみたいだもん」
○ 撮影会社・外観
昼。
○ 撮影会社・撮影部
引き続きリテイク作業をしている。
福住「そういえば、お昼とか食べました?」
豊平「いえ、これ終わってから食べようかなと」
美園「自分も同じく」
福住「最近知ったんですけど、○○が出前やってくれるみたいなんですよ」
美園「え!?あの○○」
豊平「どこそれ」
堀田「この近くで有名な中華料理屋なんですよ。昼間とか結構並ぶんです」
福住「で、この時間帯だと空いてるから出前やってくれるんですよ」
美園「なんと」
豊平「うまいの?」
堀田「油そばがうめぇです」
豊平「食ったことねぇなぁ」
堀田「もったいない」
豊平「大げさなんだって」
福住「いや、監督。ここのはマジで食べたことがないのもったいないです」
豊平「そんなに?え、じゃあ、何?出前でも取る?」
一同が頷く。
○ 撮影会社・外観
岡持を持った中華料理屋のお兄さんが帰っていく。
○ 撮影会社・撮影部
机の上に並んだどんぶり。
豊平「うま」
老眼鏡が曇る。
○ みたかプロ・外観
夕方。
○ みたかプロ・作画部屋
二条と小野、東野が話をしている。
小野「えーと、リテイクがここから来るとして、他の社内手持ちがこれくらいなので…」
東野「これ制作みたいにデータ化しますか」
小野「出来るの?」
東野「簡単になら。少なくともここにあるものの把握は簡単になりますよ」
小野「お願いして大丈夫ならとてもありがたい」
二条「あ」
小野「何か思い出した?」
二条「勝手に引っこ抜かれていく場合もあるなぁと」
東野「さすがにそのパターンは把握できないですね」
小野「もうそれは私が制作に言っておくしかないわよ。必ず持っていくときは声かけろって…って今でも言ってるんだけど」
二条「ちょうど人がいないタイミング狙ってきますからね」
東野「もう空き巣じゃないですか」
小野「それに近いものはあるよ、制作」
○ みたかプロ・制作部屋
岩塚がくしゃみをしている。
岩塚「あ、ネットがざわついてる」
砂田「アニメ関係ですか?」
岩塚「ボックスがどうも破産したみたいで」
砂田「ボックスプロジェクト?あれ?今、自社でオリジナル作ってませんでしたっけ?」
岩塚「作ってるよ。あとなんなら、あそこと最近揉めたばっか」
砂田「あぁ、マジョスパ引き上げたんですっけ」
岩塚「そう。プロデューサー、ボックスがネットに上がってますけど何か聞いてます?」
黒川に声をかける。
黒川「知らなーい。ホントに潰れたの?」
岩塚「みたいですよ」
黒川「じゃあ、どっかが作品だけ引き上げるんじゃないか。メーカーが急いで」
岩塚「マジョスパ引き上げといて良かったですね」
黒川「あれは伏見の英断だったな」
岩塚「きっかけは俺ですよ」
黒川「そうだっけ?」
岩塚「鯛焼きで手を打ちましょう」
黒川が渋々、財布からお金を出す。
黒川「言っとくけど、これは別にお手柄だとか思ってるわけじゃないからな。勘違いするなよ。うちだっていつ何時どうなるかわかんないんだから。とりあえずこれでみんなの分でも買ってきなさい」
岩塚「了解しました。鯛焼き買いに行くけど砂田君も行く?」
砂田「あ、じゃあお供します」
岩塚「おっけー」
ホワイトボードに買い出しと書く岩塚。
制作部をあとにする二人。
○ みたか駅前・中央通り
鯛焼き屋の列に並んでいる岩塚と砂田。
砂田「前から気になってはいたんですよね」
岩塚「ここ有名なんだよね。1個ずつ手焼きだから時間はかかるけど味は折り紙つき」
砂田「毎回並んでるんですよね…」
岩塚「並ぶ価値はあるよ。日によっては売り切れたりしてるからねぇ」
砂田「人気なんですねぇ」
岩塚「ですです。夏はかき氷が美味い」
砂田「はー、かき氷」
何故か自信満々の岩塚。
○ 撮影会社・外観
夕方。
○ 撮影会社・撮影部
休憩中。
本山が携帯を確認している。
結構な量のメールが来ている。
本山の携帯「個展良かった。本人にも会えたし。今、近くの喫茶店で休憩中。なんとかふらぺちーっての飲んでる。冷たい」
本山の携帯「仕事夜までかかりそう?お母さん適当に観光して帰ります」
本山の携帯「浅草」
本山の携帯「金のうんこ」
本山の携帯「平日なのにどこ行っても混んでるから飽きた。東京駅戻る」
本山の携帯「東京ばな奈が見つからない」
本山の携帯「人多い」
作業に詰めていたので返事を返し損ねる。
福住「お、レンダリング終わりそうだ。ラストのカットチェックできますよ〜」
本山「あ、はい。監督呼んできますね」
福住「よろしく」
本山が喫煙室にこもっている監督達を呼びに行く。
母親に一言だけメールを返信する。
本山の携帯「ごめん、今日ちょっと無理そう」
携帯をしまい撮影部から休憩室に向かう。
○ 撮影会社・廊下
休憩室に向かう途中。
本山の携帯が鳴る。
母親からの返信。
本山の携帯「了解」
本山「ん〜〜〜…」
仕方なく携帯を閉じる。
監督達を呼びに行く。
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
伏見達が仕上げ部屋からぞろぞろと戻ってくる。
伏見「あれ?鯛焼き?たかねのだ」
岩塚「プロデューサーのおごりです」
伏見「珍しい」
岩塚「ボックスが潰れました」
伏見「は?」
岩塚「破産ですって、夕方からニュースになってます」
藤丘「あ、ほんとだ」
伏見が藤丘のパソコンをのぞく。
藤丘「ボックスから引き上げて正解でしたね」
伏見「たまたまよ、たまたま」
鯛焼きをかじる伏見。
○ 撮影会社・外観
夜。
○ 撮影会社・撮影部
夜。
リテイク作業が終わっている。
雑談をしている。
福住「デジタルで何でも出来る時代ではあるけど、これはお金もらわないとってことが増えていくんだろうなぁ。だって、デジタルでちょっと書き足すとかやってることアニメーターと変わらんわけよ。デジタルになってソフトで出来るようになってるから見よう見まねでやってる部分あるけど」
美園「わざわざ本人にリテイクで戻して『ここちょっと線足して』にしても時間がかかりすぎますからねぇ」
福住「そうなの。時間の問題。本来なら本人に戻すべきなのよ、本人のミスなんだから。時間があれば戻すんだけど、撮影の作業してるときには時間がないのよ。だから、戻せない。作画はミスってるとか気付かないわけ。ミスが戻ってこないから」
堀田「仰るとおりで」
福住「いや、堀田んとこだけじゃなくてアニメ界全体の話だから気を悪くしないでよ?反省はして欲しいけど」
ガハハと笑う。
豊平「フルCGやんないの?」
福住「え、CGの話する?」
本山の携帯が鳴る。
本山の携帯「帰ります。また来たときタイミング合ったら観光案内よろしく」
母親のことを失念していた本山。
本山「ちょっと、失礼します」
本山が廊下に出て行く。
○ 撮影会社・廊下
本山が母親に電話をかけている。
繋がらない。
メールの返信をする。
本山の携帯「ごめん、まだ仕事中。気をつけて帰って」
メールの送信を確認して携帯を閉じる。
○ 撮影会社・撮影部
豊平達が雑談をしている。
堀田「じゃ、ぼちぼち帰りますか」
福住「うぃす。じゃあお疲れ様でした」
一同「お疲れ様でした」
本山「監督達はこのあとどうされます?スタジオ入ります?」
豊平「いや、俺はここから直帰する」
本山「了解です。美園さんは?」
美園「ぼくも電車なんで大丈夫です」
本山「了解です。じゃ、行きますか」
立ち上がる一同。
撮影部をあとにする。
○ 車内
みたかプロに戻る車内。
本山「今日、母親が上京してきてたみたいなんですよねぇ」
堀田「え、言ってくれれば良かったのに」
本山「そうは言うと思いましたけど、代わりいないじゃないですか」
堀田「今日かぁ…事前にわかってたん?」
本山「いや、今朝わかりました」
堀田「事前に分かってたら何とかできたけど、いや、別に当日でも何とでもなるか。代わりがいないなんて事はないぞ、本山」
本山「どういうことです?」
堀田「いうても会社だから何とかするように出来てる。日比野が急に辞めたあとだって別に何か破綻してるわけではないし」
本山「そりゃ、残ってる人間が尻拭いしてますからね」
堀田「あぁ、そうなんだけど、だからこそお前さんも会社っていうのをうまく使えるようになった方がいいかもね」
本山「ん?どゆことです」
堀田「休みたいときは休みたいと主張しろって事。何とかなるときはなんとかしてやるから。遠慮すんな」
本山「やだ、かっこいい」
堀田「お前なー」
本山「いや、でもあざます。次からは遠慮なく」
堀田「おう」
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
堀田が鯛焼きを食べている。
本山「じゃ、上がりますんで」
堀田「おつかれー」
本山「お疲れっした」
本山が制作部屋を出て行く。
伏見が作画部屋から戻ってくる。
伏見「チョコも食べなさいよチョコも」
堀田「チョコは日持ちするでしょ。てか、誰よ、机の上にティッシュ1枚敷いて鯛焼き置いておいた奴。せめて紙皿か何かに…机ベッタベタだよ。鯛焼きにティッシュくっついてるし」
伏見「ふーん」
堀田「聞けよ!」
伏見「ごめん、忙しいんだ」
堀田「失礼いたしました」
伏見がメールを打っている。
堀田も再びパソコン作業に戻る。
伏見「あのさぁ」
堀田「忙しいんじゃないの」
伏見「もう、そういうとこだぞ」
堀田「で、なに」
お互いそれぞれの作業をしながら会話を続ける。
伏見「ボックス潰れたらしいじゃんね」
堀田「あー、さっきネットニュースで見た。らしいね」
伏見「6話引き上げたじゃん?」
堀田「うん」
伏見「あれはさ、私がああいう状況だと引き上げるってわかってたから、そういう風に仕向けられてたのかな」
堀田「どうなんだろ。それって向こうが引き上げて欲しいって思ってたって事?」
伏見「会社的には引き上げたくないでしょ?お金入らなくっちゃうから」
堀田「まぁそうね」
伏見「会社が潰れる手前までいってたとしたら経費節減でガッツリ海外撒きして経費抑えて少しでもお金を残そうとするもんね。だからあの行動は会社の指示としては正しい?」
堀田「正しいかどうかは分からねぇけどまぁあり得るよな。指示としては」
伏見「で、それに表立って反抗するわけにはいかないから、ああいう状況を作り出して私に引き上げさせた的な」
堀田「でも最初に気付いたの岩塚だぜ?たまたまでしょ?」
伏見「あーまぁそうなんだけど」
堀田「別に昔の男をかばいたい気持ちも分からんでもないけどね」
伏見「そういうわけじゃないわよ」
堀田「お前さんがどう思いたいかは自由だけど、結果としては会社1個無くなってるからね。アニメ業界からしたら損失よ」
伏見「そうね…」
堀田「うちらも明日は我が身ですよっと、終わり」
堀田が立ち上がる。
堀田「そっちは?」
伏見「ん?もう終わるとこ」
堀田「じゃ、飲みに行くか」
伏見「え」
堀田「こんなとこで愚痴なんか聞けるかぁ、たわけ。ほら、さっさと行くぞ」
堀田がそう言いつつ出る準備をしている。
慌てて、作業を片付ける伏見。
伏見「ちょ、ま」
堀田「はーやーくー」
○ 本山の自宅・外観
夜。
部屋の灯りが点く。
○ 本山の自宅・部屋
本山が帰宅。
本山「ただいま」
玄関の灯りを消して、部屋の灯りを点ける。
本山「カレー?」
リビングのちゃぶ台の上にチョコレートの包みと手紙が置いてある。
本山「まさか」
手紙を見ると母親の文字。
キッチンに向かうと鍋にカレーが作り置きしてある。
冷蔵庫を開けると地元のお土産と常備菜がつくって入れてある。
よくよく部屋を見るとベッドは綺麗に、洗濯物もたたまれている。
台所もシンクがピカピカになっている。
手紙を読むと最後にこう書いてある。
本山母「なんとか生きてるようで安心したわ」
本山、部屋の時計をチラリと見る。
携帯を開き、実家に電話をかける。
本山「あ、もしもし母さん?ごめんね夜遅くに…」
おわり