第11話
第11話登場人物
『有限会社三鷹プロダクション』
アニメーション制作会社。通称【みたかプロ】もしくは、【 三プロ】。
設立数年の暗黒時代を知っている人は三流プロダクションという意味を込めて、三プロと呼んでいる。
『マジョスパ! ~魔法少女温泉街~』
伏見班の冬番組。通称【マジョスパ】。魔法少女もの。
『午後の城』
堀田班の現在進行形の作品。分割2クール。
通称【ゴゴシロ】。学園もの。
――――――――――――――――――――――――
みたかプロ・制作部
伏見 … 女。制作デスク。マジョスパ担当。
堀田 … 男。制作デスク。ゴゴシロ担当。
本山 … 男。制作進行。堀田班。
日比野 … 男。制作進行。新人。堀田班。
黒川 … 男。プロデューサー。
藤丘 … 女。設定制作。
中村 … 男。制作進行。伏見班。
岩塚 … 男。制作進行。動画管理補佐。堀田班。
八田 … 女。デスク補佐兼動画管理。スタジオアルファ所属で堀田班に出向中。
みたかプロ・動画部
小野 … 女。動画検査。
二条 … 女。動画。
みたかプロ・総務部
曽根 … 女。総務。
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伏見班担当作品スタッフ
白石 … 男。『マジョスパ!』監督。
宮沢 … 男。キャラクターデザイン。プロダクション・ゼロ所属。
堀田班担当作品スタッフ
豊平 … 男。『ゴゴシロ』監督。
美園 … 男。助監督。
中島 … 男。本山担当話数の演出。
平岸 … 女。本山担当話数の作監。
広瀬 … 女。本山担当話数のセル検。
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○ カラオケ店・外観
冬。(8日目)
夜中。
○ カラオケ店・部屋
本山が部屋にぼーっとして座っている。
モニターからは宣伝が流れている。
○ みたかプロ・外観
数日前。(1日目)
昼過ぎ。
○ みたかプロ・総務部
総務部奥の応接間で座っている伏見、堀田、そして曽根。
書類に目を通している伏見と堀田。
曽根「年賀状の送り先リスト〆切過ぎてんだから早く出してよ」
伏見「はい」
堀田「うぃ」
曽根「とりあえず去年のリストから今年は送らない人とか喪中とかの人とかチェック漏れないように」
堀田「うちの班最終話作業真っ最中なんですけどね」
曽根「それはそれ、これはこれ。どっちも会社として必要なんだから文句言わない」
堀田「ですよねー」
伏見「そういや、今年は年賀状のイラストどうしましょう」
去年の年賀ハガキを見ながらつぶやく。
曽根「今年も作画部にお願いするでしょ?」
伏見「えぇ。あ、いや、絵柄の話」
堀田「好きに描いてもらえば良いんじゃね?で、プロデューサーに決めてもらおうぜ。これも例年通り」
曽根「じゃあ、年賀状はひとまずそういうことで」
伏見「もう年末かぁ…」
堀田「やばいなぁ」
伏見「色々ヤバいなぁ」
ため息をつく2人。
曽根「あとこれ、八田さんの書類。渡しといて」
堀田「八田さん?」
曽根「年内まででしょ、八田さん。手続き関連の書類」
堀田「あぁ…そうかその問題もあった…」
曽根「送別会やんないの?」
堀田「とりあえず最終話終わんないと」
曽根「いや、それじゃ遅くない?忘年会シーズンだよ。お店の予約とか取れないよ」
堀田「幹事の問題もありますから」
伏見「いや、そこはあんたでしょ」
堀田「俺忙しいんですけど」
伏見「お世話になっといて、それはないわ。薄情者」
堀田「ですよねー。頑張って段取りします」
伏見「そういや、今年は会社の忘年会どうするんですか?」
堀田「伏見班も動いてますし、見送りですかね」
曽根「いやぁやった方がいいって。総務的には大変だから、無しでも良いけど、そういうイベントに関しては黒川さんうるさいし」
堀田「まぁスタッフ交流の場だものなぁ」
伏見「年に一度だしねぇ」
曽根「それに、黒川さんに聞いたら絶対にやるって言うのわかってるし」
伏見&堀田「ですよねー」
○ みたかプロ・制作部屋
八田「あれ、堀田さん達は?」
本山「年末前、恒例の総務で会議中です」
八田「ふーん?」
本山「何かあったら起こして下さい。ちょっと仮眠取ります」
八田「わかったー」
本山「おやすみなさーい」
電話が鳴る。
八田「はい、みたかプロ。あぁ、はい。了解です。少々お待ちを」
保留にする。
八田「本山くーん、1番に広瀬さん」
本山「ですよねー」
本山が電話に出る。
本山「はい、代わりました」
○ OP
○ みたかプロ・外観
昼。
○ みたかプロ・仕上げ部屋
広瀬が仕上げ上がりをチェックしている。
本山がその後ろでウトウトしている。
本山「なんか嫌な予感がする」
広瀬「嫌な予感?」
本山「ここらでなんかしわ寄せとかきそう」
広瀬「23話の?」
本山「あと、マジョスパの」
広瀬「まぁ多少のしわ寄せは大丈夫なんじゃないの」
本山「多少なら、ね」
広瀬「ところで、セル検時間かかるよ」
仕上げ上がりの束をぽんと叩く。
広瀬「暇なの?」
本山「いや、暇ではないんですけど」
広瀬「でしょうね。じゃあ仕事に戻ろうか」
本山「うぃ」
本山が立ち上がり部屋を出て行く。
広瀬が作業を続ける。
○ みたかプロ・制作部屋
本山が戻ってくる。
日比野「あ、先輩どこ行ってたんですか」
本山「ん?仕上げ部屋でセル検お願いしてた」
日比野「あー仕上げ部屋かぁ」
本山「で、なに。何か用?」
日比野「あ、スタジオ○○が仕上げ受けられるって連絡がありまして」
本山「繋がってる?」
日比野「いえ、戻ったらまたかけ直すって言っておきました」
本山「何枚出来るって言ってた?」
日比野「えーと明日だけでとりあえず200〜250ぐらいは」
本山「明日だけ?」
日比野「よくわかんないですけど、そう言ってましたよ」
本山「わかった、ちょっと電話してみるわ」
日比野「お願いします」
電話をかける本山。
堀田と伏見が総務から戻ってくる。
堀田「岩塚、23話のリテイクの状況は」
目の下にクマを作っている岩塚。
岩塚「今朝、動仕リテイク出し切ったところです。あと社内動画中のが数カットす。あとは撮影とかBGリテイクは諸々進行中です。ギリす」
堀田「今日、監督と一緒に18時から原版に出ちゃうからな。監督チェックあるならその前までに言ってくれよ」
岩塚「はい。とりあえず、今のところはチェックしてもらう物はないです」
堀田「わかった。本山…は電話中か。日比野」
本山が電話中だったので日比野に声をかける。
日比野「はい」
堀田「電話終わったら、こっち来させて」
日比野「わかりました」
丁度、電話が終わる。
日比野「終わりました」
堀田「本山」
本山「はい」
堀田「リテイクの状況は」
本山「昨日のオールでカラタイだった部分でリテイク無しのものは今本撮にしてます。とりあえず、動画リテイクは社内動画で仕分け中ですね」
堀田「色ついてない奴は」
本山「今夜、協会便で戻ってきます」
堀田「それで全部色つくのか?」
本山「1発目はそれでオールカラーです」
堀田「撮影入れ切りは?」
本山「明日、セル検すると考えて夜には入れきれるかと」
堀田「わかった。撮影に伝えとく。あ、てか一応伝わってんだよな」
本山「伝えてはありますよ」
堀田「ん」
堀田が受話器を取り、撮影に電話をかける。
堀田「お疲れ様です、みたかプロの堀田です。福住さんお願いします」
藤丘が作画部屋からカット袋の束を持って戻ってくる。
藤丘「中村。宮沢さんの修正上がり」
中村「ありがとうございます。結構直し入ってる感じです?」
カット袋の中身を取り出しながら尋ねる。
藤丘「ほとんど、部分修でいけそう。ただ、今まだ宮沢さんとこにある奴は全修で時間かかりそう」
中村「あー、まぁしょうがないっすね。とりあえずこの分だけでもリテイク進めます」
藤丘「よろしく。多分次の上がりは明日かな」
中村「了解です」
藤丘「あ、先輩。監督呼んでましたよ」
伏見「私?」
藤丘「えぇ」
伏見「上にいる?」
藤丘「ついさっき来たんで、いますよ、多分」
伏見「わかった」
伏見が作画部屋に向かう。
○ みたかプロ・作画部屋
白石のもとにやってくる伏見。
原作片手にノートパソコンでOPのチェックDVDを流している。
伏見「お疲れ様でーす」
白石「おう」
伏見「何でした?」
白石「ほいこれ」
封筒に入ったコンテの束を受け取る伏見。
白石「5話」
伏見「ありがとうございます!」
白石「うぃ。あ、やっぱり」
伏見「やっぱり?」
何かに気付いた様子の白石。
白石「OPのさぁ、ここなんだけど」
OPのチェックDVDを巻き戻し、止める。
ちょうど、魔法を発動する際の手の動きの場面。
伏見「えぇ、ここがどうかしました。動きは問題ないですよね」
白石「今朝なんか違和感を感じて、今見直してたんだけどさ」
原作の魔法発動シーンのコマを見せる。
白石「手、逆だわ」
伏見「は?」
口をぽかんと開けたまま固まる伏見。
原作を伏見に渡し、DVDプレーヤーを操作し再び該当シーンを流す。
白石「ほら」
伏見「ほんとだ…え、ちょっと待って下さい。コンテは?」
白石「コンテは合ってる」
コンテを取りだし、見せる。
伏見「てことは原画?」
白石「だろうな。ちょっとカット袋持ってきて」
伏見「すぐ持ってきます」
白石「よろしく」
制作部屋に走って行く伏見。
宮沢「伏見さん急いで走って行きましたけど、何かあったんですか?」
宮沢がやってきて、白石に尋ねる。
白石「これ」
宮沢「なんでしょう」
流れる該当シーン。
そして、原作を渡す。
宮沢「あ、逆だ」
白石「そう」
宮沢「あちゃー、気付かなかった!ボクのミスですわ。すみません」
白石「まぁ俺も作打ちの時に注意しなかったし、この際みんなのミスで良いんだけど、直さないとマズいよねぇ」
宮沢「そうですねぇ、OPですからねぇ」
白石「さてさて、修正で何とかなるかしら」
宮沢「アップは無理ですけど引きは手の部分修でなんとか」
白石「いけるかねぇ」
宮沢「原画見てみないことにはですけど。あ、なるほど。だから走って行ったんですね」
白石「そう、今取りに行ってる」
○ みたかプロ・制作部屋
伏見がバタバタと戻ってくる。
中村「どうしたんですか、そんな慌てて」
伏見「OPのカット28と29、それから31、32のカット袋どこにあんの!」
中村「OPのですか?今撮影の所ですけど」
伏見「すぐ回収!」
中村「え、撮処理のリテイク中ですよ」
伏見「それもストップ!」
中村「理由説明して下さいよ」
伏見「藤丘、ちょっとOPのチェックV流して」
藤丘「あ、はい」
藤丘のパソコンモニターを取り囲む。
流れるOP。
伏見「はい、ストップ」
中村「ん?」
伏見「はい、これ見て」
伏見が原作を中村に渡す。
画面と原作を交互に見る中村と藤丘。
藤丘「あ」
藤丘が気付く。
伏見「そう」
中村「え、藤丘さん気付いたんですか」
藤丘「あー気付かなかった…」
伏見「監督が気付いて良かったわ」
中村「え、どれ」
中村だけ気付いてない。
藤丘「手」
中村「手?」
目をこらして交互に見る。
中村が気付く。
中村「あ、逆っすね」
伏見「逆っすねじゃないわ。私もだけど何でみんな気付かなかったの!」
中村「いやぁ、みんなスルーしちゃいましたねぇ。こりゃ、やばいっすね。すぐ回収します」
中村が自分の席に戻る。
伏見「よろしく」
藤丘「あぁ完全に逆だわ」
藤丘は該当シーンを再生して確認する。
伏見「一生の不覚」
中村が受話器を取り、撮影に電話をかける。
伏見が作画部屋に戻っていく。
中村「お世話になっております、みたかプロの中村です。八乙女さんお願いします。えぇ、はい」
制作A「撮影の近く行きますけど、寄った方が良いです?」
中村「頼む」
制作A「了解です」
中村「あ、お疲れ様ですー。中村です。えっと取り急ぎ、カット28、29、31、32のリテイク止めて貰えますか。えぇ、問題発生しまして。これからカット袋そっちに制作が回収に行きますんで準備お願いします。いや、実はですね」
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・作画部屋
宮沢の席に伏見、中村、藤丘、宮沢、白石の5人が集まっている。
宮沢「やっぱりアップは全修ですね。引きはまぁ予想通り部分修でいけますけど」
白石「じゃあ、それでいくか」
中村「了解です」
宮沢「とりあえず、これから修正入れちゃうね。こっち先でいいよね、藤丘さん」
藤丘「はい、撒くのも考えたらこっち優先で」
宮沢「あ、それなんだけど」
藤丘「はい」
宮沢「ある程度ラフ入れるから二条さんにそのまま動画入れじゃマズいかな」
藤丘「なるほ…ど?」
白石「まぁ時間短縮にはなるな」
伏見「なりますけど」
藤丘「ちょっと動画部の状況を確認しないことには…」
白石「じゃ、確認」
藤丘「あい」
藤丘が走って行く。
○ みたかプロ・制作部屋
藤丘が作画部屋から戻ってきて、入り口から八田を呼ぶ。
藤丘「八田さん、ちょっといい?」
八田「はーい」
八田が入り口にいる藤丘の元へ行く。
藤丘「ご相談が。一緒に来て」
八田「わかりました」
再び作画部屋に戻っていく。
○ みたかプロ・制作部屋玄関
作画部屋に戻りつつ説明していく。
藤丘「マジョスパのOPで魔法発動シーンのリテイクなんだけど」
八田「えぇ。夕方に出たリテイクですよね」
藤丘「引きは部分修で、手のアップは全修になるのね」
八田「なるほど。原画からです?」
藤丘「そう」
八田「じゃあ、結構大変ですね」
藤丘「そうなの。そこで社内の動画の状況を聞きたくて」
○ みたかプロ・階段
八田「ゴゴシロもヤバいですけどOP外出せないですもんね。納品来週末でしたっけ」
藤丘「宮沢さんが修正入れたものに直動でリテイク修正お願い出来ないかって言ってるんだけど、どう?それは現状可能?」
八田「直動ですか」
藤丘「うん。どのみち動画は社内でやってもらうリテイクにはなるんだけど、原画を撒き直す手間省けるから時間短縮になるっていう話なんだけど」
八田「問題は動画部の誰がやるのかって話ですよね」
藤丘「ご指名があって二条さんにお願いしたいらしいのよ」
八田「二条さんですか」
藤丘「そう」
八田「小野さんがなんていうか」
藤丘「そこだよねぇ」
○ みたかプロ・作画部屋
動画部に寄って、小野と二条に声をかける。
八田「小野さん、ちょっといいですか」
小野「10秒待って」
八田「はい」
藤丘「あと二条さんも」
二条が不思議そうな顔をする。
小野「いいよ」
八田「ちょっとこちらへ」
小野と二条を連れて、宮沢の席に向かう。
藤丘「連れてきました」
伏見「ありがとう」
小野「なんです、勢揃いで…あぁ、さっき出たリテイク」
伏見「そうなのよ。アップは全修、引きは部分修で何とかなりそうなんだけど、そこで1つご相談が」
小野が八田を見る。
八田「私も今聞いたばかりなんですよ」
宮沢「ボクが修正入れるから、直動でお願い出来ないかな。ホントはボクが動画の線引ければ良いんだけど、ちょっとこの枚数はさすがにブランクがありすぎてね」
小野「直動ですか?原画撒かないんですか」
宮沢「時間短縮出来るかなぁと。あと二条さんにお願いしたくて」
二条が自分の名前を呼ばれて戸惑う。
小野「いやぁ原画撒いてもらって動画に回してもらったら社内の人間で出来ますから再リのリスク減りますよ」
宮沢「二条さんだったら直動でも大丈夫でしょ」
小野「大丈夫だとは思いますけど、現状マジョスパとゴゴシロのリテイクの物量が多くて手が足りない状況なんですよ」
小野が八田に加勢しろと合図をする。
八田「確かに。ちょっと二条さんがそれにかかりっきりになると多少なりとも厳しい気がします」
宮沢「でも、これは社内でやってもらわないといけないカットだし、どのみちリテイクするカットだよ。手を付けるのが早いか遅いかの違いしかないよ?」
八田「それは、まぁそうですけど」
小野「おい」
宮沢に流されそうな八田を引き止める小野。
八田が再び喋ろうとしたときに伏見が口を開く。
伏見「とりあえず、確認したいのは2つ。二条さんがやってくれるのかどうか、と二条さんを借りても大丈夫なのか。まずは二条さんが引き受けてくれるかどうかよね」
全員が二条を見る。
慌てる二条。
二条「えっと、どのみちやらなきゃいけないカットなんですよね」
伏見「えぇ」
二条「じゃあ…やります」
伏見「ありがとう」
二条「…それに」
伏見「それに?」
二条「そのカット、動画やったの私なんで部分修するにしても私がやった方が良いと思います」
藤丘がカット袋を見る。
動画の欄に二条のサインがある。
伏見「じゃあ次の確認…の前に、宮沢さん」
宮沢「なんだい」
伏見「修正どれぐらいで終わります」
宮沢「これから作業して明日のお昼までには終わらせたいかな」
伏見「了解です。二条さんが明日の昼以降に作業入るとして3日程度借りる事は可能?」
八田「えーと」
小野「2日なら、と言いたいところだけど二条ちゃんが担当したカットだったんならどのみち彼女がやることになるでしょうから、その条件呑むわよ。本人もやるって言ってるし」
伏見「じゃあ、決まりですね」
宮沢「そうだね」
伏見「ではよろしくお願いします」
それぞれ解散する。
動画部に戻った小野と二条、八田。
小野「今持ってる分で今日中に終わる分以外はこっちで引き取るから」
二条「すみません、わがまま言っちゃって」
小野「いやいや、わがままを引き受けただけなんだから、こっちは」
八田「急な流れですみません」
小野「ま、変則的な動きだけどリテイクが片付くならいいわよ。ただ次からは思いつきで動くのは勘弁ね、八田さんのせいじゃないけど」
八田「よく言っておきます」
小野「よろしく」
八田が動画部を後にする。
○ みたかプロ・制作部屋
伏見、藤丘、中村が制作部に戻ってきている。
藤丘「何とかなりましたね」
伏見「とりあえずはね。中村、もっかいOPと1話のV見てチェックし直して。こっちも一応するから。藤丘も」
中村「らじゃ」
藤丘「了解です」
伏見「これ以上、凡ミスは避けないと」
伏見がチェックDVDを再生し始める。
○ みたかプロ・制作部屋
深夜12時前。(2日目)
伏見を始めとして制作達のほとんどが残っている。
堀田が戻ってくる。
堀田「おつかれー」
一同「お疲れ様です」
八田「原版は無事に?」
堀田「なんとか。とりあえず、今V編中」
八田「お疲れ様です」
堀田が自分の席に荷物を置く。
日比野「外回り出ますけどもう荷物大丈夫ですかー?」
日比野が制作部に確認をする。
一同「オッケーです」
日比野「じゃ、出ます」
一同「よろしくー」
ばらばらと声がする。
日比野が荷物を抱えて制作部屋を出て行く。
堀田「で、こっちの状況は」
堀田が状況を確認し始める。
藤丘「とりあえず、私帰るから。中村は?泊まり?」
中村「いや、荷物出しちゃったんで残り捌いたら今日は帰ります。撮入れしないといけないんでお昼には入りますけど」
藤丘「寝坊したら連絡ちょうだい。宮沢さんの上がり二条さんとこに回しておくから」
中村「了解です」
藤丘「じゃ、お先です」
伏見「お疲れ」
一同「お疲れ様です」
藤丘が制作部屋を出て行く。
○ みたかプロ・外観
翌日。
午前中。
○ みたかプロ・制作部屋
藤丘が出勤してくる。
本山が作業をしている。
藤丘「あれ、泊まり?」
本山「いや、帰りましたよ」
藤丘「にしては早くない?」
本山「朝イチに撮入れがあったんで。そっちのリテイク出て、24話の動画止まったので帰りました」
藤丘「あぁ、そうなのか。ごめんね」
本山「いえ。色んなとこのしわ寄せが来てるんでマジョスパだけじゃないす。手の動き逆だったんですって?」
藤丘「まさかのね。私含めて誰も今まで気付かなかったなんてショックだわ」
本山「1回スルーしてるのに、よく監督気付きましたね」
藤丘「ほんと、なんで気付いたんだか」
本山「気付いただけ良いじゃないですか」
藤丘「まぁねぇ」
藤丘が作画部屋に向かう。
○ みたかプロ・作画部屋
人気が少ない作画部屋。
動画部屋では何人かが泊まりで作業しているため寝ている人などがちらほらいる。
静かに宮沢の席に向かう。
藤丘「おはようございます」
宮沢が椅子にもたれて寝ている。
藤岡の声で起きる。
宮沢「ん」
時計を見る。
宮沢「しまった、寝過ぎた」
藤丘「どこまで進みました?」
宮沢「部分修の2カットは終わった。手のアップはまだ半分と1カット」
藤丘「じゃあ、2カットは先に二条さんに渡しますね」
上がっているカットを受け取り中身を確認する。
ラフどころかきちんと線が拾える原画になっている。
宮沢「うん、よろしく。なんか質問あったら聞きに来るように言って」
藤丘「いやまぁこんだけきちんと入ってたら大丈夫だと思いますけど」
宮沢「そう?」
藤丘「えぇ。一旦家に帰ります?」
宮沢「残りはこれからやるよ。夜には終わるかなぁ。終わったら帰る」
藤丘「了解です。とりあえず風邪引かないようにして下さい。作画部屋、底冷えするんで」
宮沢「ホントだよ。足下寒いし、乾燥はするし」
藤丘「制作部屋も似たようなもんですよ。じゃ、下にいますんで」
宮沢「いや、どこのスタジオも似たようなもんだな。了解」
藤丘が上がりを受け取って宮沢の席を後にする。
宮沢が両手を挙げて固まった背筋を伸ばす。
宮沢「さて、昼には終わると言った手前遅れを取り戻すかぁ」
○ みたかプロ・制作部屋
藤丘が戻ってくる。
中村「おはようございます」
丁度、出勤した手の中村が藤丘に気付く。
藤丘「とりあえず、部分修の2カットの方は上がったよ」
上がりを渡す。
中村「お。全修の方はどうです?」
受け取った上がりの中身を確認する中村。
藤丘「まぁ夜には上がるかなぁ」
中村「了解です。また状況教えて下さい」
藤丘「あいよ」
中村「動画部って人いました?」
藤丘「何人か泊まりでいたよ。二条さんはいなかったはず」
中村「了解です。そういや、こういう時って単価どうなるんすかね」
藤丘「あー、先輩出勤してきたら確認しておいた方が良いかもね」
中村「うぃす」
中村がカット袋を持って作画部屋に向かう。
○ みたかプロ・外観
夕方。
すっかり暗くなっている。
○ みたかプロ・制作部屋
入力作業をしている本山。
机の上にはセル検上がりの束。
本山「よし、終わった」
日比野「うぃす」
本山「じゃ、撮入れ頼んだ」
日比野「了解です」
日比野が束を紙袋にしまい、車の鍵を手に制作部を出て行く。
○ みたかプロ・制作部屋玄関
休憩に出ようとしている本山と作画部屋から戻ってきた中村が顔を合わせる。
中村「これから飯?」
本山「えぇ」
中村「どこ行くん?」
本山「特に決めてないですけど」
中村「じゃあたまには一緒に食おうぜ」
本山「え」
中村「ちょっとこれ置いてくるから下で待ってて」
本山「あ、はい」
中村が制作部屋に入っていく。
○ みたかプロ・外観
外は真っ暗で息が白い。
入り口で待っている本山。
現れる中村。
駅の方へ歩いて行く2人。
○ ハンバーグ屋
こぢんまりとした店内奥のテーブル席に座る本山と中村。
中村「奢るから好きなの食えよ」
本山「いや、大丈夫すよ」
中村「いいって」
本山「じゃ、遠慮なく。この雷ハンバーグ一番大きいので。あとご飯大盛り」
中村「お、おう。じゃあ、俺もそれで」
店員「かしこまりました」
店員が注文を確認して下がる。
中村「ホントに遠慮しねぇな」
本山「中村さんが好きなの食えって言ったんじゃないですか」
中村「昼飯に2人で四千円弱かぁ…」
本山「それに、そっちのリテイクの割食ってこっちは止まってんですから」
中村「誰も気付かなかったもんなぁ。まぁでも前と違って八田さんのおかげで動画管理これでも上手くいってる方なんだから」
本山「そりゃまぁそうですけど」
中村「2ライン動いてるし、頭と終わりがかぶってバタバタすんのはしょうが無いって。動検の小野さんがまだキレてないだけマシかと」
本山「確かにまだキレてないですね」
中村「そのうちキレるだろうけど」
本山「もう慣れましたけど、キレた後は進行に当たりが強くなるから嫌なんですよねぇ」
中村「少しでもストレス減らせるようにスケジュール維持するしかないわな」
本山「動検1人は中々キツいですよね」
ハンバーグが届く。
中村「ま、とりあえずこれ食ってお互い乗り切ろうや」
本山「いただきます」
中村「いただきます」
鉄板の上でハンバーグが焼ける音が響く。
○ みたかプロ・制作部屋
小野「これ、どこに撒いたの」
小野が岩塚を問い詰めている。
岩塚「スタジオ○○っすね」
小野「これリテイク内容伝えたの?」
机の上にそこそこの厚みがあるカット袋が置いてある。
それを小野は指さしている。
岩塚「え、髪の毛全修ですよね」
小野「おうおう、質問の意図伝わってないな。リテイク内容伝わってないから私は聞いとんのじゃ」
岩塚「どゆことです」
小野「勝手に動画部分修して戻してきてんの!直ってねぇじゃねぇか!」
岩塚がカット袋から中身を取りだしチェックする。
小野「なんで、使えない動画とめてねぇんだよ。てか、全修って伝えたんか」
岩塚「あ、ほんとだ。勝手に部分修で対処してきてる。いや、でも伝えましたよ。ちょっと確認します」
小野「時間ないのに無駄なことしないで」
岩塚「すみません」
小野が制作部屋を出て行く。
小野「何よ」
入り口にいた本山と中村の2人とすれ違う。
○ みたかプロ・休憩室
堀田がたばこを吸っている。
伏見がコーヒー片手にやってくる。
堀田「俺のは」
伏見「自分で買いなさいよ」
堀田「ちぇ」
伏見「小野さん怒ってたわよ」
堀田「え」
伏見「岩塚がリテイク指示を撒き先にちゃんと伝えてなかったから全修のところが部分修で戻ってきたっぽい」
堀田「何やってんだあいつは…」
伏見「早めに岩塚のフォロー入れといた方が良いと思うけどね」
たばこの火を消す。
堀田「また今日も帰れねぇのか」
伏見「あ」
堀田「なんだよ、まだ何かあるのか」
伏見「22話納品お疲れ」
堀田「ありがとよ」
伏見と堀田が立ち上がり休憩室を後にする。
○ みたかプロ・制作部屋
堀田が戻ってくる。
堀田「なに、やらかしたんだ」
岩塚「リテイク指示がちゃんと伝わってなかったみたいで、これからもう一度入れ直してきます」
堀田「ちゃんと説明しろよ。てか、他のカット大丈夫だよな。直ってるよな」
岩塚「大丈夫…のはずです。行ってきます」
堀田「うぃ、寝不足だから気をつけて」
岩塚「了解です」
岩塚が車の鍵とカット袋が入った紙袋を持って出ていく。
堀田「…のはずです、じゃあ困るんだけどなぁ」
リテイク状況表とカレンダーを眺める堀田。
○ みたかプロ・作画部屋
翌日、早朝。(3日目)
動画部。
小野「これで今ある分の動検終了」
岩塚「あざっす!」
岩塚がカット袋の束を持って去って行く。
小野が固まった背筋を伸ばしていると、まだ作業中の二条に気付く。
二条が後ろで作業を眺めていた小野に気付く。
二条「お疲れ様です」
小野「お疲れ」
二条「動検終わったんですね」
小野「今日の分はね。そっちはどう?」
二条「この分だとお昼には終わりそうなんですけど、
まだ宮沢さんのところにあと1カットあります
から」
宮沢(眼鏡姿)が作業をしている。
二条「同じフロアにいてこんだけ近いのに、全然背中
も見えないんです。やっぱりすごいですね」
小野が宮沢が入れた修正を見ている。
ラフではなく、ほとんど原画として使えるような綺麗な線の修正が何枚か入っている。
二条「手の質感というか柔らかさ、しなやかさがここまで出るのかっていうぐらいの線でいて、しかも勢いは死んでない。もちろん元の原画の人も相当上手いんですよ。上手いけど更に上の次元にいっているというか」
小野「確かに。悔しくなるよりも先にため息が出るぐらい上手いね」
二条「ですよね。とにかく、おかげで線を取るのが超大変です。でも、動画で勢い死んだって言われたくないですから、頑張りますよ」
二条が笑う。
○ みたかプロ・制作部屋
夜。
二条「中村さん」
中村「はい?」
二条が中村に声をかける。
二条「これ、小野さんの検査も終わってます。遅くなってすみません」
中村「あざます!」
中村が上がりを受け取る。
二条「じゃ、失礼します」
中村「お疲れ様でしたー」
二条「お疲れ様です」
二条が制作部屋を出て行く。
中村「八田さーん」
八田「はーい」
中村「OPのリテイク全部動画抜けました」
八田「わかりましたー」
八田が作画部屋に向かう。
中村「仕上げ、仕上げっと」
中村が受話器を取り、電話をかける。
○ みたかプロ・外観
昼。(4日目)
○ みたかプロ・制作部屋
死屍累々の堀田班。
机に突っ伏していたり、机の下から足が出ていたり。
曽根「地獄絵図ね」
総務の曽根がやってきて、転がっている制作達を踏まないように奥へ進んでいく。
曽根「あらぁ、八田さんまで…」
八田の机の下から足が出ている。
堀田の机までたどり着く。
曽根「堀田君、堀田君」
しゃがんで、机の下に巣を作って寝ている堀田を起こす。
堀田「はい」
曽根「寝てるとこ悪いんだけど」
堀田「1分下さい」
曽根「わかった」
曽根が立ち上がり、部屋を改めて見渡す。
至る所で山積みの書類に、カット袋。
椅子にかかっているパーカーやカーディガン。
机の上に溜まっている栄養ドリンクの空き瓶、缶コーヒー。
曽根がため息をつく。
堀田「はい、なんでしょう」
堀田が何とかして起きる。
曽根「忙しいとこ悪いんだけど、年賀状の送り先リスト。今日の夕方までにちょうだい」
堀田「あー去年と同じで」
曽根「そういうわけにいかないでしょう」
堀田「明日じゃだめっすか」
曽根「そう言ってるとずるずるいくから。今日の夕方」
堀田「…わかりました」
観念する堀田。
曽根「それと、今年のイラスト、マジョスパの版権でいいんじゃないのって黒川さんが」
堀田「イイと思います。今動画部に余裕ないですから」
曽根「わかった。今日の夕方までだからね」
堀田「わかりましたよ、わかりました。今からやりますから」
曽根「そう?ごめんね、忙しいところ」
堀田「いえいえ、気にしてませんよ。忙しいのはもうかれこれ3ヶ月ぐらい続いてますからね」
曽根が再び、来た道を戻り制作部屋を後にする。
堀田「はぁ」
とびきりでかいため息をついて、立ち上がる堀田。
○ みたかプロ・外観
夕方。
○ みたかプロ・制作部屋
受話器を置く中村。
中村「デスク、藤丘さん、朝、撮入れしたOPリテイク再撮終わりました」
伏見「データ上がってるの?」
中村「えぇ。これから監督、宮沢さんのチェックお願いしてきます」
伏見「会議室でいい?」
中村「えぇ」
伏見「準備しとくわ」
中村「ありがとうございます」
中村が作画部屋に向かう。
○ みたかプロ・会議室
電気を消した会議室のモニターで再撮した動画が流れている。
会議室にいる伏見、中村、藤丘、白石、宮沢、小野、二条の7人。
中村「一応、流れでわかりやすいように本撮OKカットも一緒に流してます。一連のシーンまるごとですね」
白石「いいんじゃない。手の部分だけだったし。アップも綺麗に出来てるし」
宮沢「ボクもオッケーです」
中村「小野さん達は?」
小野「特になし」
二条「大丈夫です」
中村「デスク達は」
伏見「問題なし」
藤丘「おっけーです」
中村「じゃあ、オッケーと言うことで編集に入れちゃいます。もう一度編集からV出してもらいますのでそれをチェックしてもらって納品ですね」
白石「わかった」
中村「ありがとうございました」
解散しそれぞれ会議室を出て行く。
電気を点ける伏見。
伏見「これでOPは片付いたか」
中村「あとは今リテイク撮影中の数カットですね」
伏見「それは?いつ終わるって?」
中村「明日の朝イチには出せるとは言ってました。撮処理のカットなんで最終的には撮影に行って調整になると思います」
伏見「監督の予定は抑えてある?」
中村「明日の夕方、一緒に撮影行く予定です」
伏見「ん。じゃあ任せた」
片付けを終えた中村と一緒に部屋を出る伏見。
部屋の電気を消す。
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
外に出ていた黒川が戻ってくる。
コーヒーを休憩室で淹れてきた伏見と鉢合わせる。
伏見「あれ、メーカーから直帰じゃなかったんですか」
黒川「今日は戻った方がいいと思って。23話のラッシュあるから。そっちはOPのリテイクどうなった」
伏見「終わりました。1話も撮処理のリテイクを明日監督と直接中村が撮影に行って処理してきます」
黒川「じゃあ、マジョスパはひとまず終わりが見えたな」
鞄の書類などを片付けながら会話する黒川。
伏見「まぁまだ2話があるんで、気は抜けないんですけども」
黒川「始まったばかりだから気を張ってるぐらいでいいんだよ」
伏見「ですかねぇ」
黒川が鞄から漫画本を取り出す。
伏見「ひょっとして、次のやつですか」
黒川「あぁ、まだ決まってないけどな。とりあえず読んどいてくれって社長が」
伏見「百貨繚乱…知らない漫画だ…」
黒川「百貨店が舞台だってさ。また背景とか大変だぞ…」
伏見「うへぇ。ダメだダメだ、今はマジョスパの事に集中しよう」
伏見が自分の席に戻っていく。
黒川「そうしてくれ。日比野〜」
日比野を呼ぶ。
日比野「はい」
黒川「23話のラッシュっていつからやってる?」
日比野が時計を見る。
日比野「ちょうど1時間前ぐらいからです」
黒川「わかった」
黒川が爪を噛む。
○ みたかプロ・外観
夜。
○ みたかプロ・制作部屋
1時間後。
廊下からざわざわと声が聞こえる。
黒川「終わったか」
岩塚達がラッシュを終えて会議室から出てくる。
険しい表情のスタッフ陣はそのまま作画部屋に戻っていく。
慌ただしくなる。
岩塚「日比野、リテイク表」
日比野にリテイク表を渡し、コピーさせる。
日比野「コピー取ったんでカット袋抜き出します」
原本を返す。
岩塚「よろしく」
岩塚がリテイク表をパソコンに入力していく。
堀田「黒川さん、ちょっとお時間ありますか」
残っていた黒川が立ち上がる。
○ みたかプロ・会議室
堀田が先ほどのラッシュ時にメモを取ったリテイク表を見せる。
黒川「で、どうすんの。これ23話終わるの?」
堀田「週明け納品は正直厳しいです」
黒川「既にずれてる原版ずらすとしても、ずらせても3日だぞ。来週の水曜日には納品しないと落ちるぞ。そこで終わるのか?どうなんだ?」
堀田「終わらせます。どのみちそこで終わらせないとしわ寄せで24話も落ちます。すでに監督と話して大分、リテイクは泣いてもらってます。23話に関してはDVDリテイク前提で、と」
黒川「それでもまだ動画修とかもあるけど大丈夫なのか?」
堀田「どうしても動きがガタったり、厳しいものは出てますが枚数は多くないので何とか」
黒川「監督には俺からも話しておく。まずは各所に連絡だな」
堀田「すみません」
黒川「24話は大丈夫なのか?」
堀田「本山が踏ん張ってますから、大きなリテイクも間に合うと思います」
黒川「思いますじゃ困る。間に合わせろ。フォローしろ」
堀田「わかりました」
黒川「頼んだぞ」
黒川が立ち上がり、会議室を出て行く。
ため息をつく堀田。
堀田「ぐあー、しんど」
机に突っ伏す。
しばらく動かない。
堀田「帰りてぇ」
突っ伏したまま、ぼそりと呟く。
コンコンと扉をノックする音。
堀田「はい」
そのまま顔を上げずに返事をする。
日比野「そろそろ、夜の外回り一発出るんですけど何かありますか」
顔を上げる堀田。
堀田「すぐ行くからちょっと待ってて」
日比野「らじゃ」
扉を閉める堀田。
再び、ため息をつく堀田。
堀田「よし」
立ち上がり部屋を出て行く。
○ カラオケ店・外観
冬。
数日後。(8日目)
夜中。
○ カラオケ店・受付
受付をしている本山。
店員「お時間はどうされますか」
本山「あー朝までのやつで」
店員「かしこまりました」
はしゃいでる大学生の1人が本山にぶつかる。
学生「あ、すんません」
本山「いえ」
店員「ではこちらお持ちください。25番のお部屋になります」
○ みたかプロ・制作部屋
23話原版待機中の堀田班。
ホワイトボードの堀田と岩塚の欄に「原版」と書かれている。
小野が動画上がりを持ってやってくる。
小野「あれ、本山は?」
八田「いないです?トイレとかじゃないです?」
小野「そう。とりあえず、これ24話のリテイクで動検終わった分」
八田「ありがとうございます」
小野「完全に夜型になっちゃったからね。とりあえず、今日は一旦帰る。明日はお昼に入ってそこから24話やるから」
八田「お願いします」
小野「お疲れ様」
八田「お疲れ様です」
小野が制作部屋を後にする。
八田が上がりを本山の机に持っていく。
八田「どこ行ったんだろ」
○ カラオケ店・部屋
本山が部屋にぼーっとして座っている。
ドリンクバーからメロンソーダを持ってきている。
モニターからは宣伝が代わる代わる流れている。
本山「とりあえず歌うか」
タッチパネルを操作し、曲を探し始める。
ロボットものの主題歌を熱唱する本山。
本山「全部、皺寄せ来てリテイク止まってるんじゃ!バカヤロー!」
必殺技を叫ぶところで本山が愚痴をぶちまける。
○ カラオケ店・部屋
夜明け前。
歌い疲れた本山がぼーっと座っている。
本山「はぁ」
ため息をつく。
声優「こんにちは。声優の○○です。今期、絶賛オンエア中のアニメ『午後の城』オープニング主題歌『○○』を歌わせていただいております〜」
本山がハッとしてモニターを見る。
声優が作品紹介と曲紹介をしている。
食い入るように見る本山。
声優「それでは、アニメ本編の映像を交えた特別映像バージョンのPVを是非是非ご覧下さい〜。まったねー」
タッチパネルを操作し、期間限定のページにあるPVを探す。
入力し、モニターに流れ始める主題歌。
1番に合わせて主にOP映像が流れていく。
間奏に入った辺りから、本編前半(1〜3話ぐらいまで)の映像が流れ始める。
本山が担当した話数の映像が流れてくる。
本山「あぁ、ここ大変だったなぁ…」
そのままモニターを見入る本山。
瞳に輝きが戻っていく。
曲が終わり、モニターでは再び宣伝が流れ始める。
俯いている本山。
本山「やるしかないのか」
がっくりと肩を落として呟く。
○ みたかプロ・外観
夜明け前。(9日目)
○ みたかプロ・制作部屋
本山が戻ってくる。
制作部屋には椅子にもたれて寝ながら待機している日比野。
本山に気付いて目を覚ます。
日比野「あ、お疲れ様です」
本山「うぃ。帰ってないの?」
日比野「24話のリテイクで動きあると思いまして」
本山「23話の原版は?」
日比野「なんとか終わりましたよ。V編も終わったので堀田さん達帰りました」
本山「なるほど」
日比野「とりあえず、そこに置いてあるのは社内の動検上がりだそうです。小野さんは昼から入って24話に手を付けるらしいです」
本山「じゃあ、動画部も帰ってる感じか」
日比野「えぇ。仕上げ入れどうします?この時間ですから仕上げ会社の担当さん帰ってますよね」
本山「いや、仕上げ入れがあるなら朝までに入れといてくれって言われてるところはある」
日比野「じゃあ、そこに仕上げ入れしますか」
時計を見ると6時を回ったところ。
本山「そうだな。頼めるか」
日比野「オッケーす。とりあえず、下に車回してきます」
本山「悪いな」
日比野「いえ、自分に今出来るのはこれぐらいなんで」
本山「ありがとう」
日比野が車の鍵を持って制作部屋を出て行く。
本山はカット袋をチェックして伝票を切っていく。
○ みたかプロ・外観
お昼。
○ みたかプロ・制作部屋
本山と日比野が机の下から足を出して寝ている。
堀田が出勤してくる。
堀田「おい」
堀田がしゃがみ込み、本山の机の下を覗き込む。
本山「はい」
堀田「動画は」
本山「朝、仕上げ入れしました」
堀田「机の上のセル検上がりは撮影に回すぞ」
本山「あ、上がりありました?」
堀田「ある」
本山「お願いしていいすか」
堀田「おけ」
本山「あと10分寝かせてください」
堀田「ん」
机の上の動画上がりを担いで、自分の席に戻る。
八田が出勤してくる。
八田「おはようございまーす」
堀田「しーっ」
堀田が人差し指を口に当てて「静かに」というジェスチャーを取る。
八田がオッケーのサインで返し、静かに自分の席に向かう。
直後に、岩塚が出勤してくる。
八田が振り返り「静かに」と合図を送る。
岩塚が頷く。
八田「それは?」
小さな声で八田が尋ねる。
堀田「セル検上がり。今チェック中。小野さんて午後には入るんだっけ?」
八田「えぇ。昼には来るって昨日言ってたので」
堀田「了解、残りの動画は社内で片付けられそう?」
八田「大丈夫だと思います。一応23話抜けましたし。今、入ってる分はそんなに枚数ないですから」
堀田「わかった」
電話が鳴る。
八田「はい、みたかプロ。はい、はい…わかりました。ありがとうございます。回収に伺います。失礼します」
受話器を置く。
八田「仕上げが13時過ぎには上がるらしいです」
本山「回収行かないと…広瀬さんは14時インです」
再び机の下から本山の声がする。
日比野起きない。
堀田「いや、セル検上がりあるから広瀬さん入ってるだろ」
本山「はっ」
勢いよく起き上がったせいでガツンと机に頭をぶつける。
本山「っ…」
堀田「八田さん、動ける?」
八田「えぇ。ついでに撮入れもしてきますね」
堀田「お願いします」
八田がカット袋を受け取る。
八田「じゃ、行ってきます」
本山「すみません、お願いします」
八田が出て行く。
堀田「お前、夜中どこ行ってたんだ」
本山「え」
堀田「昨日、戻ってきたら本山がしばらく姿消してるって皆が言ってたから。家でも帰ってたわけ?」
本山「いえ、その、気分転換に出てました」
堀田がじっと本山を見る。
俯いたままじっとする本山。
堀田「気分転換できたのか?」
本山「えーと、多少は」
堀田「多少?」
本山「どちらかといえば現実に引き戻されました」
堀田「そりゃついてないな」
本山「えぇ、ホントに。じゃ、顔洗ってきます」
タオルを手に本山が制作部屋を出て行く。
○ みたかプロ・外観
昼。
○ みたかプロ・制作部屋
本山が戻ってくる。
制作部を見渡す。
伏見班、堀田班がそれぞれ出勤し始めている。
堀田「日比野」
堀田が日比野を起こしている。
堀田「お前、とりあえず一旦帰れ」
日比野「なんでです」
堀田「で、夜来い。22時頃だな。お前は夜シフト。夜中の外回りはお前が行ってくれ。本山はスタジオ待機しておいてくれないと対応出来ん」
日比野「あぁ、そういうことですか。了解です」
堀田「ちゃんと来いよ」
日比野「はい」
日比野がのそのそと起きる。
日比野「あ、おはようございます」
本山「おはよう」
堀田「で、本山。他のリテイク状況は?」
本山「今、状況表印刷します」
堀田「よろしく」
出勤してきた伏見半が横目で堀田班の光景を見ている。
藤丘「あっちもラストスパートですね」
伏見「だねぇ。こっちも正念場だけど」
藤丘「えぇ」
コートをかける2人。
中村「踏ん張ってみせますよ」
伏見「当たり前でしょ、あんたが踏ん張れなかったらうちの班は崩壊するわよ」
中村「プレッシャーがすごい」
伏見「微塵も感じてないくせに」
中村「やだなぁ、ちょっとは感じてますよ」
伏見「ほんとこの余裕な感じムカつく通り越して羨ましいわ」
中村「どんな時も余裕を持っていうように見せるのがモテるコツですよ、デスク」
鼻で笑う中村。
伏見「前言撤回。やっぱムカつく」
藤丘「右に同じく」
堀田の席の周りに堀田班が集まっている。
堀田「うぃうぃうぃ。大体、わかった。こっからは全員お前さんのサポートに回るからリテイクを滞りなく回すことに専念してくれ」
本山「お願いします」
堀田「よし、任せろ。さぁさぁ、戦うぞ。総力戦だ」
堀田班がそれぞれ自分の席に戻っていく。
おわり