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僕の叔父さんとアレやコレ  作者: うえのすけ
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第二話 叔父さんとニワトリ。

 まんまと甥っ子が結婚詐欺のカモを引っ掛けてきて、事の重大さに震えるロイだったが。

(いや、まだ騙してねぇしな?フツーにお付き合いするなら別にいいんじゃねーかな?)

 という考えに爆速で辿り着いた。ポジティブな思考の持ち主でよかった。

「アル。お前、その子にカモだのヒモだの言ってないよな?」

「もちろん」

「そうか!」

 ロイはホッと胸を撫で下ろした。ここでそんな企みを漏らそうものなら一巻の終わり、犯罪の証拠と芽は未遂のうちに隠滅しておくに限る。念の為「カモだのヒモだの、忘れるんだぞ?」とも付け加えると、元気のいい返事が返ってきた。いいじゃない、貧乏だって。安易に犯罪に走っちゃダメ絶対、だ。

「ところで、そのお嬢さんはどんな子だ?」

 不安がなくなると、途端に相手の事に興味が湧いてきた。アルの人生初の彼女はどんな子だろうか?

「ミランダ・カーライルっていうんだ。知ってるでしょ?カーライルさん」

(うん?かーらいる、だ???)

 さもロイと知り合いかのような尋ね方だが、そんな名前は知り合いにも友人にも居ない。しばらく思案した結果、一つ思い当たる節があった。

「カーライル家といえば……確か、ものすんごい金持ちだったんだよな。で、一人娘のミランダは『社交界の華』と呼ばれる美少女だ、とかなんとか」

 ロイの答えに「なんだ、やっぱり知ってるじゃない」と感心した様子のアルだが、情報源は「実録!ジノリ公国」というゴシップ雑誌である事は黙っておいた。アルは気にも留めなかったが、カーライル家は金持ち「だった」のだ。そう、過去形だ。記事によれば、現在は事業に失敗して莫大な負債を抱えて自己破産。一家離散の憂き目に遭っていた事も思い出した。何せゴシップ雑誌なので、記事の信憑性はまぁまぁ低いのだが。

「えー……えぇーーー……?」

 未来のお嫁さん候補には、貧乏人は避けたいのが正直なところ。ヒモにする気は今更ないが、甥っ子たちに苦労はして欲しくない気持ちがあった。

(逆玉の輿ってやつ?そっちの方がいいよなぁ。最悪、借金なしとか)

 つらつらと考えて、それって結局ヒモじゃないか?という答えに行き着いた。ロイは自分のゲス加減に嫌気がさして、深い溜息をついた。

「まぁ、いいかぁ……」

 アルを見れば満面の笑顔だし。彼女は貧乏だけど社交界の華だし。貧乏って話ならウッド家も負けてない。共に貧乏で、むしろ平等じゃないだろうか?強い日差しを遮る物がない畑でこうして話しているのもなんだったので、作業を切り上げて家に入る事にした。


「おかえり」

 家に入るとバートが出迎えた。暖かい日だというのに、厚手のカーディガンを羽織っている。身体が弱く寒がりで、年中手放せないという。わかっていても暑くないのか、と見れば。何やら両手でぬいぐるみを抱えている。ニワトリ、の様だ。この家にこんなものあったっけ?

「何それ!?」

 意外な組み合わせに、ロイとアルは思わず叫んだ。バートはアルの一歳下の弟だ。長い前髪で表情が読めない上に、寡黙で、大声を出すことが滅多にない。小さい時は活発で、アルと同じく金髪に澄んだ青い瞳の美少年だった。アルは癖っ毛でバートは直毛で、そりゃもう絵画の天使の様だった。ところが、再会した時には髪は深紅に、性格も大人しすぎる程になっていたので、ロイは困惑したものだ。

 今のバートの好みは簡素なものが多く、装飾性のないものばかり。部屋も質素そのもので、ぬいぐるみなど無かった。まして好んでいる様にも思えなかった。そんな事を考えていると「あぁ」とバートが答えた。

「ムーさん」

 答えを聞いたところで「何それ」だった。「ムーさん」だ?名前だろうな、と二人は無理やり納得した。するとーー

「ムー!ムーーー!!」

 ぬいぐるみから声がする!しかも羽根をばたつかせている!!暴れてるぞ、このぬいぐるみ!

「しゃべった!?」

 ビビリの二人は変な声をあげると、黒い虫ばりの速さで部屋の隅に逃げた。抱き合ってカタカタ震える二人をよそに、ムーさんはさらに荒ぶった。ずーっと「ムームー!!」と鳴いている。それを頷きながらバートは聴いている。もしかして……言ってる事がわかるのか?

「え?ロイ様?ムーさん、叔父さんはね。ただのビビリの犯罪予備軍だよ?『様』とか勿体無いって」

 わかるらしいが、えらい言われ様だぞ?叔父さん。「犯罪予備軍」にムッとしたが、結婚詐欺を提案したのは事実だ。黙って大人しくカタカタ震える事にした。

「小さい時にお世話になった?ムーさん、叔父さんの事知ってるの?」

「ムー、ムームムー、ムーーー!」

「腹話術か、ありゃ」しばらくバートとムーさんのやりとりを見ていたが、「小さい時」という言葉が引っかかる。

(小さい時……ニワトリ……)

 そういえば、昔。ロイの兄、アルとバートの父親が、ヒヨコを拾ってきた。未だにどうしてそうなったのかが謎だが、拾ったのは事実なのだから仕方ない。気に入ったロイはジョサイアと名付けて大層可愛がった。一緒に散歩に行ったり、同じ布団で寝たり、といった具合だ。スクスクと育ったジョサイアは立派なニワトリになり、その後ロイが家を出るまでずーっと仲良く暮らしていたのだった。「お世話になった」というのは、何度か訪れた生命の危機の事だろう。どうにもこの国の住民はニワトリに目がないらしく、度々命を狙われた。

「そうか、あのジョサイアか!」

 かつての名前と正体を思い出したロイは、叫ぶと同時にジョサイア目掛けて駆け寄っていた。

「ムームーーー!!」

 一層大きな声をあげて鳴くと、ジョサイアもバートの腕を抜け出しロイの元へと羽ばたいた。短くてコロコロした羽根で。そしてしっかりと抱き合い、二人とも嗚咽している。

「万感の思いってやつ?」

「なんかわかんないけど、良かったね!叔父さん!!」

 どういう訳か、アルの目にうっすらと涙が浮かんでいる。そんな感動する?とバートは首を傾げた。

「おう!久しぶりだな、ジョサイア!!でもなんか、丸くなってないか?こんなだったか??」

「ムームムームーーー」

 正体は分かったが、言葉はさっぱりわからない。助けを求めてバートを見ると、通訳してくれた。

「叔父さんがいなくなって、寂しくて過食気味になったんだってさ。罪だね、叔父さん」

「マジか。お前には手紙ぐらい残しておくんだったなぁ……すまない、ジョサイア」

「いいってさ。で、叔父さん。もう畑終わったの?」

 そうだった、アルの嫁?問題があったのだ。ジョサイアを抱えてテーブルにつくと、ロイとアルは事の顛末を話した。

「二人ともバカだな」

 至極真っ当な答えが返ってきた。ごもっともすぎて反論の余地もない。でもまぁ、兄に彼女ができた事実は素直に喜ぶべきだろう、と。「良かったじゃん、彼女出来て」と声をかけた。

「で、今度いつ会うの?」

「お、そーだよ。どーなんだ?アル」

 件の美少女に会えると知って、自然と顔がにこやか、を通り越してニヤケきったロイが尋ねた。

「来週。来週ウチに来るよ」

「へー、来週ウチにねぇー……」

 そこでロイとバートの動きが止まった。ウチに来る、だ?遊びに来るの?早くね?まぁ、別に良いか。

「彼女の家がさ、来週にはてーとー?がどうとかで、住めなくなるんだって。だからね、部屋余ってるからおいでよ、って」

(それは「来る」っていうより……)

 ニコニコと話すアル以外の顔色がおかしくなっていく。それは……「遊びに来る」ではなく「引っ越して来る」って事じゃないかな?さらにアルは続ける。

「あとね、じじょ?も一緒にいいかな、っていうからさ。妹さん除け者にしても可哀想だし、一緒においでよ!って。いいよね?」

「そっちの次女じゃねーよ!!」

 ロイとバートが渾身のツッコミを入れた。アルは思った以上のバカだった様だ。娘一人でも辛いのに侍女まで?食い扶持を考えるとロイの胃がキリキリと痛んだ。バートはジョサイアをひったくると、鳩胸に顔を埋めてスーハーと吸い始めた。くすぐったいのか変な鳴き声をあげているが、お構いなしにスーハーしている。随分と変わった手法だが、恐らく彼の現実逃避だろう。

「ダメ?」

 アルは眉尻を下げて、あからさまにしょんぼりした様子だ。初の彼女、食い扶持、甥っ子の笑顔、金、お金……色んな事が脳裏をよぎる。主に金の話が。貧乏だっていいけど、結局要るんだよね、お金って。だが、甥っ子のあの笑顔を失う訳にはいかない。そんな事をしたら、あの世で兄に殺される。死んでるけども、更に殺される。という訳でロイは承諾し、バートは半ば諦めた。なにせ先方に言っちゃったし、境遇を考えたら流石に「ごめん、無理」とは言えなかった。カモにしようとしたけど。

「わかった。となれば、部屋の用意しないとなぁ……母さんの部屋を使ってもらうか!」

「じゃあ、掃除だね!」

 早速作業に掛かろうとすると、「待った」の声がかかった。バートだ。

「おなんとか、出るけど良いの?」

「あ」

 すっかり忘れていたが、この家は居るんだった。「おなんとか」そう、「お化け」が。

「どうしよう?気味悪がって出ていっちゃうかも!!」

(それもアリっちゃアリだよな)

 一瞬、妙案だと思ったが、バートとジョサイアが汚物を見る様な目を向けている。鋭い奴らだなぁ、全く。ロイは一つ咳払いをすると「わかった」と低く呟いた。

「今週中におなんとかも掃除してやる!きっちり討伐すんぞ!!」

「おー!」「ムーーー!!」

「まだ明るいから先に掃除だー!」

「おー!!」「ムーーー!!」

 この時、一同を物陰からこっそりと見つめる者が居たことを、ウッド家の面々は知る由もなかった。

「そう簡単にいくかしら?」

 謎の影はほくそ笑むと、闇へと消えていった。

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