【短編版】終わった初恋と断られた次の恋~同時に始まるってどうゆうこと!?~
久々の短編見つけてくれた人に感謝を……
「なぁ~頼むよ。このとおりだからさ!」
HR前の和やかな教室の窓際の一番後ろの席で、鋭い目線で睨みつける女子に、必死に両手を合わせお願いをしてる男子生徒が一人……そう、それが俺だ。
「あのね! なんで私がそんな事しないといけないわけ!」
「だからさっきも説明しただろ? 正志にも頼むけど、やっぱ女性目線っての? それも必要かなって思ってんだよ……それに、そんな事頼めるの葵しかいないしさ?」
「それなら、理絵にでも頼めばいいでしょ!」
「理絵に頼めるはずないだろ? 俺がしようとしてることさっき説明したじゃん……」
「そんなの私関係ないもん! 晴樹なんてもう知らない!」
葵はそう言って、頬を膨らませプイっと顔をそむけた。
ったく、なんでそんなに葵は怒ってるんだよ……自分は正志とうまくいってるのにさ……。
声をかけようとしたがタイミング悪く、チャイムが鳴り、先生も来たからそれ以上話す事が出来なかった。そして、休憩中も話そうと思ったが、葵はすぐ席を離れ友達の所に行ったりと、話せずに昼休みを迎えてた。
「ぶっ! お、お前……そんな事葵に頼んだのかよ……」
「うわっ、いきなり噴き出すなよ汚いなぁ……仕方ないだろ、葵しか頼める人居ないんだからさ……」
「だとしてもさ……もう少し葵の気持ちもわかってやれよ?」
「葵の気持ち? それは……俺より正志が理解するべきだろ?」
昼休み、俺は正志と一緒に昼飯を食べながら、朝の出来事を説明したら、いきなり口に含んでた焼きそばパンを吹き出してた。
ったく、いきなり何なんだよ……それに葵の気持ちとかいうけど正志が付き合ってるんだし俺に言われても困んだよなぁ……。
葵と正志とは幼稚園からの付き合いで、幼馴染? 親友? まぁ、俺にとって2人も大切な友人って事なのは確かだ。
「なんでそうなるんかなぁ…….」
「ん? 何か言ったか?」
机にも飛んでるし……ってあれ? 今何か言ってたか?
「なんでもねぇよ。放課後にでも葵にもう一度頼んでみるんだな……俺もついて行ってやるからさ」
「よっしゃ! さすが正志様ありがたやぁ~」
「拝んでもなにもないからな?」
若干引き気味な顔をしながら、正志はそれだけ言って焼きそばパンを食べ始めた。
それにしても……正志が付いて来てくれるからって葵が承諾してくれるのだろうか? まぁ、アイツにしか頼めないんだけどな……。
「仕方ないわね……わかった! わかったわよ! 手伝えばいいんでしょ!」
「ほんとに!? よっしゃ、2人が手伝ってくれたら百人力だぜ!」
「よかったな、晴樹」
「正志もありがとな!」
放課後、俺と正志は葵に頼みに行ったが、最初はやっぱり断られたが、正志が説得してくれたおかげで、どうにか協力してくれることなった。
俺があんなに頼んでもダメだったのに、正志が説得すると協力してくれるんだな……わかってはいたけど、やっぱ辛い部分があるなぁ……友情より愛情ってか? くっ……なんだか涙が出てきそう……。
「それにしても晴樹さぁ、なんでまた急に理絵に告白するのにイメチェンしたいと思ったんだよ?」
「それはな……」
理絵と知り合ったのは中学の時だった。第一印象は物静かでいつも一人で本を読んでたりと、周りと関わる事を避けてる印象だった。だけど、中一の夏休みが明けた頃、正志と葵が2人でいる事が多くなってた。その時の俺は特になんとも思っていなかったのだが、ある日俺は教室であるうわさを耳にした。葵が正志に好きって告白した。そして……正志と付き合ってると言う噂だ。
それを聞いた瞬間、俺の中で初めて自覚した初恋は、自覚したのと同時に終わったのだ……。
その日の俺は、どう学校で過ごしてたのか覚えていない程ショックを受けていて、気が付いたら放課後に一人で寄り付くこともないのに図書室に一人でいた。理由はなんとなくわかってる、きっとあの時は2人に会いたくなかったんだ。だから逃げた……普段俺が行くはずがなく、見つかりにくい場所へ……それでたどり着いたのが図書室だったんだろう…….。
図書室は静かで誰もいる気配が無かった。だからなのか、俺は泣いてしまった。葵が好きだと気が付けなかった自分が悲しくて、なにもできない間に終わってしまった初恋が辛くて、素直に祝福できない自分がみじめで……そして……そんな泣いてるだけの自分が嫌になって、ひたすら声にならない声を必死に抑えながら泣き続けていた。
「ねぇ、いつまでそこにいるつもりなの?」
「えっ?」
誰もいないと思ってた図書室で俺以外の声が聞こえ、急いで涙を拭って声のする方へ振り向くと、目を細めまるで不審者でも見るような目でこちらを見ている理絵がいた。
「もう、閉めて帰りたいんだけど? 泣くなら家で泣いてくれない?」
「な、泣いてないし!」
見られてた!? 知ってて今まで黙ってたの!?
「あのね、いくら強がってもそれだけ目と鼻を赤くしといて、泣いてないとか無理があるわよ?」
慌てて目元を拭って、見られた恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、眉間を寄せ睨む様に見つめた。
「まったく、男のくせに好きな子と結ばれなかったからって、そこまで泣かなくてもいいでしょ?」
「な、なんで知ってるんだよ?」
「あら? それっぽい事を言ってみたんだけど、当たりだったみたいね……あぁ、最近噂になってるあの子の事が好きだったんだぁ~へぇ~」
「う、うっさいな! 葵とはずっと一緒だったからそんな事思ったことが無かっただけだし……正志もだけど……」
「更に幼馴染だったわけね。幼馴染は負けヒロインっていう言葉があるけど、この場合は負けヒーローかしら? それとも負けモブ? モブならそもそも負けとか無いわけだし……」
「そんな事お前に関係ないだろ!」
からかうような口調で話してくる理絵に俺はついムキになって大声を出してしまった。失恋したってわかってて、なんでそんな風に言えるんだよ!
理絵は俺が大声を出したことに驚き、肩を落とし俯いてた。
「今のは私が悪かったわ、無神経なこと言ってごめんなさい」
「い、いいよ別に! 俺こそいきなり大声出して悪かった……」
図書室は無言が続き重苦しい空気だけが充満していた。
なにか、話さないと……この空気は流石に悪すぎる。
「そ、そうだった。もう図書室閉めるんだよな? 俺もう帰るから遅くまでごめんな」
俺が導き出した答えは、この場から逃げる事だった。俺が帰ればら後は図書室を閉めて帰るだけだと思ったからだ。
慌てて自分のカバンを持ち、図書室を出ようとした。
「ねぇ、待って」
「な、なんだよ?」
「今週は私が当番だから、また明日も辛かったら来ていいから……それだけ、早く帰りなさいよ、私ももう帰りたいんだから」
「わ、わかった」
俺はそれだけ言って帰った。家に着く頃には、何故かさっきまでの辛い気持ちが無くなっていた。それでも次の日から俺は放課後、図書室に向かうようになった。
その頃から、俺は徐々に理絵とも仲良くなっていって、失恋の辛さも葵への思いにも、区切りをつけれる様になってた。それから数日後に、俺が距離を取ってると心配して声をかけてきた正志達にも紹介したりして、いつの間にか四人でいるのが当たり前になってたんだよな……。
だけど高校受験を控えた中学三年の時、理絵だけ別の高校を志望してた。理絵は将来看護師になりたいらしく看護科のある私立の付属高校に行くことに決めてた。そんな中俺たち三人は、同じ高校を志望していて卒業と共に理絵と離れるのは確定だった。
それから、高校に入学して数週間。俺はずっと頭の中で思ってる事があった。俺は理絵の事をどう思ってるのかをだ。一緒に話してると楽しいし、時折見せる笑った顔に見とれてしまう時もある。それに……俺自身今度ははっきりとわかってる事があった。
……俺は理絵が好きだって事に……だから、今度は何もしないまま終わりたくない。ただでさえ違う高校で、一緒にいる時間も少ないし、このまま何もできずに終わりそうで怖かったのだ。
「だから身だしなみとか服装とかもちゃんとして、今度の日曜に理絵に告白したいんだ」
「まぁ……イメチェンとか言っても、元々ちゃんとしてるし特に変える所はないと思うぞ?」
「そうか……葵はどう思う?」
「えっ? ん~」
葵は俺の姿をジッと見ながら考えた。
「とりあえず今言える事は無い! あと、私をあてにはしないで!」
そう言ってそっぽを向いて、先に教室を出て行った。
俺と正志も慌てて鞄を持ち葵を追いかけた。
そして、いよいよ当日、俺は理絵と待ち合わせにしていた喫茶店にいた。
「それでイメチェンした結果、髪型が少し変わっただけと……」
「まぁ、そのとおりなんだよな」
告白の為とは言わず、高校生になったから身だしなみとかにも気を付けようと思ってイメチェンしてみたと説明したのだ。結果はさっき理絵が言ったように、セットの仕方を少し変えただけで終わってしまったのだ……イメチェンとはいったい……。
「ふふっ。相変わらず三人はいつも一緒なのね……羨ましいわ」
「あ、あのさ理絵!」
一瞬寂しそうな顔をした理絵の姿に、心が締め付けられるような気持ちになり、慌てて声をかけたが、上ずった声が出てしまった。
な、何緊張してんだ俺! これから告白するのに今から緊張してどうするんだ!
必死に心の中で自分を奮い立たせた。
「どうしたのよ急に? 変な声で呼ばれたらなんか怖いじゃないの?」
「お、落ち着いて今から言う事を聞いてくれ」
「あのね、落ち着くのは私じゃなくて晴樹の方。それで、話ってなに? ま、まさか葵たちできちゃったの!?」
「ちがうから! そんな話じゃないから」
「ならなによ?」
俺は頼んでたアイスコーヒーを一口飲み、心を落ち着かせてゆっくりと口を開いた。
「……好きだ」
「なに? 晴樹そんなにここの珈琲好きだったっけ?」
なんでそうなるんだよ! 確かに主語が抜けてたけど……珈琲飲んだけど……その解釈はあんまりじゃないか? 言い直すのも恥ずかしい! このまま伝えるしかない!
「珈琲の事じゃなくて、理絵の事が好きなんだ。初めて話した図書室の時は、ムッとした事もあったけど、あの時、理絵が話しかけてくれたから、失恋から立ち直ることができたんだと思う。それから理絵と放課後話す様になって、そこに正志や葵が合流して四人で遊んだり、色々な思い出を作っていく中で、俺は理絵が好きになってた。理絵の言葉はきつい時もあるけど、それは理絵の優しさから来る事で、物静かに話すその声と優しさが好きだ。普段は笑わないのに、たまにふにゃりと目を細め笑う顔が可愛くて好きだ。高校が別々になったけど、理絵とこれからも一緒に色んな思い出を作っていきたい。俺と付き合ってください」
い、言ってしまった……想いを伝えるのってこんなにも緊張してしまうものなのか……。
背中には、今まで感じたこともないような汗をかき、さっきアイスコーヒーで潤した口の中の水分は蒸発して渇いてしまってる。
恐る恐る理絵を見つめながら返事を待つ、この時間がものすごく長く感じる。俺以外の時間の流れがすべてスローにすら思えてしまう。
一体どれだけの時間がたったのか、理絵はその間俯いたまま、俺の言葉をまるで噛みしめる様に返事を探してるようだった。そして、手元の紅茶を一口飲み、深く息を吸って深呼吸をしてから……。
「ごめんなさい」
俺は、目の前が真っ暗になった気がした。
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「ごめん……ちょっと先に帰る……」
そう言って、晴樹は財布と取り出し、テーブルに千円札を二枚置いて、フラフラとした足並みで喫茶店を出て行った。今にも泣きそうな涙を必死に耐え、震える体と心を必死に抑え、鞄からスマホを取り出し、ある人に電話をかけた。
コール音が聞こえるたびに、心が締め付けられ苦しくて泣きそうになってた。
だって……私は大好きになった初恋の人からの告白を断わったんだから……。
『……なに?』
「葵……今大丈夫?」
『はぁ? 晴樹と一緒にいるのに電話して大丈夫なわけ?』
電話の先の不機嫌そうな相手は、晴樹の事をよく知ってる相手……葵なのだ。
「は、晴樹なら……さ、さっき帰ったわよ……」
まだ、我慢だ。私……この電話が終わるまでは我慢しなくちゃ……。
『ちょ! それどういう事よ! だって今日晴樹は――』
「断わった……」
『な、なんでよ! 晴樹の事好きなのに、なんで断わってるのよ!』
「それは……とりあえず、晴樹の事よろしく。話はそれだけだから切るね」
『ちょっと待ちなさい! 任せるってどうい……』
用件だけ簡潔に伝え、葵の言葉を最後まで聞かず、私は電話を切った。
さっきまで晴樹が座ってた椅子を見つめながら、私は涙を流し続けた。好きだと言われた時、心が嬉しさで溢れ、飛び跳ねる様に激しい鼓動は凄く心地が良く幸せだった、嬉しかった。だけど……私たちは違う高校という現実が私の幸せをたたき壊した感じがした。
高校生活のイベントは色々ある……体育祭に球技大会、修学旅行に文化祭……その高校生活を彩る全てのイベントを、私と晴樹は共有することは無い。そうして大人になって今を懐かしんで話したりする時、三人は共有できても、私は一人蚊帳の外だ……それって、一緒に思い出を作るって言えるのだろうか……晴樹の望む事なのか……きっと晴樹は否定してくれる。他の所でたくさん思い出を共有しようとしてくれる。わかってるのに、目の前に手を差し伸べ、一緒に歩いてくれるってわかってても、私はその手を怖くてつかめなかった。
だけど、葵なら大丈夫だ。晴樹の事をずっと傍で見て、ずっと一緒にいてくれる。初恋に気が付いてすぐ失恋したって晴樹は言ってたけど、それ間違ってるたんだよ? 私は晴樹から2人を紹介されて暫くした時、葵に確認して知った。葵は晴樹の事を正志君に相談しているだけで、正志君は別に好きな人がいる事も知った。だけど、私はそれを晴樹に伝えなかった。最初のうちはすぐに誤解だったと気づくと思って言わなかったけど、私自身だんだん晴樹を好きになるにつれて、それを教えたくなくなってた。教えたら晴樹は、初恋を追いかけてしまうのではと怖かった。私の恋を終わらせたくなかった。だから私は、真実を教えず晴樹の傍に居続けた。
きっとこれは罰なんだろうな……高校も、そして今こうやって泣き続けてる私自身も……。
涙も出尽くし、少し落ち着きを取り戻した時、私のスマホから着信音が鳴り響いた。
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気が付くと俺は、家の近くの公園のベンチに座ってた。
理絵に断わられてからの記憶はほとんど覚えてない。ただ正志に電話したのは覚えてるけど、何を話したかまでは覚えてなかった。
少しづつ頭がすっきりしてくのと同時に、さっきの事を鮮明に思い出されてく。
「俺……断わられたんだな……」
言葉にすると現実味を帯び、その事実だけが頭の中でずっとリピートされてる感覚になってく。
「うっ……ううっ」
もう、誰に見られてもいい……俺は涙と我慢することを辞め、泣き続けた。
あの頃と何も変わってない気がして辛くなる。理由も聞かず、逃げるように喫茶店を後にした。また、にげた……葵の時みたいになりたくなかったから、自分を変えようと努力もして、2人にも協力してもらったのに、結局こんなもんなんだよ。俺は……重く黒く濁った感情が俺の心を浸食し、負という感情の海の底に沈んで行く気がした。ただ、悔しくて泣いて、蓋をして忘れれるまで逃げ続けれたらどれだけ楽だろうか……。
そんな思考で埋め尽くされてた時、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「晴樹!」
「な、なんで……?」
顔を上げ声の主を確認すると、息を切らした葵が俺の目の前に立っていた。
「理絵から電話来て、晴樹を必死に探してたの!」
「理絵が……?」
訳が分からない、なんで理絵がそんな事を葵に頼むんだ?
「電話しても出ないし、DM送っても既読つかないし心配したんだからね!」
「はは……ごめん気が付かなかっ!? ちょ、ちょっと葵!?」
「バカ……途中で救急車の音とか聞こえて、晴樹が乗ってるんじゃとか想像して怖かったんだから……」
葵は安心して腰を抜かしたのか、そのまま座り込むようにしゃがみ、震える体で俺を確かめるように強く抱きしめてきた。
「その……悪かったからその……離れた方が……」
「やだ……心配かけたんだから、私が安心するまでこのままでいなさい」
いなさいって……いくら何でも抱きしめられたままなのは……家の近くだし、もし誰かが見て、葵と俺が浮気してるなんて噂になったら葵と正志にも迷惑かかってしまう……って! なんでこんなに力が強いんだよ!
俺は葵の両肩に手を置き、距離を取ろうとしたけど全く動かなかった。流石に状況をちゃんと言った方が良いと思い、俺は葵に話しかけた。
「他の生徒に見られたら2人が困るだろ? だからそろそろ離れてくれ」
「なんでそんな事言うの? それに2人って誰と誰よ?」
見上げる様に見つめてくる葵の瞳の端には、大粒の涙を溜めてて、頬にはすでにいくつか流れた跡が残ってた。
「葵と正志の事だよ……その、付き合ってるんだしさ……それなのに俺に抱き着いてたら、事情知らない人から見たら浮気とか思われても仕方ないだろ?」
それを聞いた葵は、瞳を大きく見開き、まるで信じられない者でも見るような目で驚きと困惑を隠せずにいた。
「ね、ねぇ晴樹。なんで私と正志が付き合ってる事になってるわけ?」
「えっ!? だって中学の時に葵から正志に好きって告白したんだろ?」
「だ、だ、誰がそんなこと言ったのよ!!」
さっきまでのしおらしい葵はなりを潜め、一気に顔を真っ赤にし、殺意の帯びた視線を向け突然怒り出した。
「誰って……噂で聞いたんだよ。それに葵と正志は実際よく二人でいたから、俺も信じたんだよ」
「はぁ! なんですぐに聞いてこなかったのよ!」
「聞けるはずないだろ! それにその時俺自身そんな余裕がなかったし……」
「もしかして、理絵と話すようになったのって……」
「その頃からだな……」
「だからあの時あんなこと聞いて来たのか……でもそれなら……」
葵は、なにかを考えはじめ、小さな声というかほぼ口を動かしてるだけの仕草で思考を巡らせ始めた。
あれ? 2人が付き合って無いって事は、俺の初恋ってどうなるんだ?
そう考えた瞬間、今の状況を整理に一気に恥ずかしくなり、鼓動が激しく顔は一気に暑くなるのを感じた。
それに、落ち着いてくると、気が付くことも出てきて、葵からミルクの様な香りと、俺を必死に探してくれてたから汗をかいてて、それらが合わさり甘酸っぱいいい匂いでいっぱいで、俺の鼓動をさらに早くする要因にもなってた。
「ねぇ……晴樹の心臓すごく早くなってるよ?」
「えっと……」
「嬉しい……私でドキドキしてくれてるんだね……あっ、あのね晴樹! 私――」
このタイミングで、どちらかのスマホの着信音が鳴った。お互いに自分のスマホを確認し、葵は小さな舌打ちをしながら電話に出た。
「なに? 晴樹は見つかったし、今とても大切なこと言おうとしたんだけど! ……はぁ!? ちょ、どういう事よそれ! スピーカー? 今外なんだけど……はぁ、わかったわよ」
そう言って葵はいったんスマホを顔から放し操作しながら俺の横に座り、スマホを俺たちの間に置いた。
『もしもし……晴樹聞こえる?』
「っ! り、理絵か……?」
『ええ、その……さっきの話なんだけど……』
「あ、あれは……」
まさか、またあの話を打ち出されるとは思って無かった俺は、顔を引きつらせながら言葉が出てこなかった。
『本当は、凄く嬉しかった。私も晴樹が好きだし、付き合いたいと思った。でも……高校が違うから思い出とか共有できない部分とか色々考えてたら、怖くなって……』
「そ、そんな事ぐらい気にしなくてもいい様にたくさん思い出作ればいいじゃないか!」
『晴樹ならそう言ってくれると思ってた。だけど、あの時の私は晴樹の手をつかむ勇気がなかったの……』
「そ、そうだったのか……あれ? 今あの時って言ったか?」
あれ? この流れってもしかして……。
ちらっと横目で葵の方を見ると、口角をぴくぴくとけいれんさせながら怒りと笑いを合わせたような不気味な表情でスマホを見ていた。
『えぇ、私はやっぱり晴樹の横で一緒にいたい。でも、一度その手を払った事実があるから、今度はフェアに戦って晴樹の横を手に入れようと思ってる』
「フェア? 手に入れる? 理絵は一体誰と……」
そこまで言葉が出て、まさかと思い葵の方を見たら口をパクパクさせながら、めちゃくちゃ動揺してた。そして、話を遮ろうと必死に声を出そうとするのも空しく。
『誰とって、私と葵の2人だけど? もう葵との誤解も解けて葵が晴樹をずっと好きだって聞いてるのよね?』
「これから言う所だったのに、なんで邪魔するのよ! それどころかバラしちゃってるし!」
『あら、そうだったの? まぁそう言う事だから晴樹、これからもよろしくね。それじゃそろそろ電車乗るから切るわ』
「えっ! ちょ、理絵!?」
『言い忘れてた。晴樹、私もずっと前から大好きだよ』
それだけ言って電話が切れ、俺と葵は行き場のないこの空気の中沈黙していた。
「と、とりあえず今日は帰るか葵」
「う、うんそうね。その方が良いかもね」
少しぎごちなく立ち上がった俺たちは、帰宅するために歩いた。
後ろからついてくる葵が小さな声で「私の方がずっと前から好きだし」って聞こえてきた時は、流石にドキッとした。
ただ、これからの事を思うと、どうなるのか自然とため息を漏らしていた。
まさか、終わったと思ってた初恋と二番目の恋が、同時にまた始まるってどれが想像できるかよ。
長編用に考えてたヤツを短編に纏めた感じに仕上げたつもりでしたがいかがでしたでしょうか?
もし続きが見たいもっと掘り下げた内容が読みたいって人がいで下されば☆&感想をお願いいたします
ゆっくりではありますが、長編版も投稿させてもらってます。良ければそちらもよろしくお願いします。
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