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異世界転生アーサー王伝説 〜話がつんだので、異世界人を転生させてみた〜  作者: ヤンデレに監禁中の大魔法使い(種族・年齢・性別不詳)
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6.敵は己にあり(そして味方にもあり)

「黙れ!」


手に持っていた剣を目の前のテーブルに叩きつける俺。

轟音をあげて真っ二つになる円卓。

「Good job 」と親指を立てるエセ魔法使い、もとい三流夢魔、もといクズ詐欺師。


ガラガラと崩れ落ちる円卓を見て、俺の頭は一気に冷えた。


やっちまったー!


シンと広間は静まり返り、無数の瞳が俺を凝視していた。

皆、凍りついたように立って、顔をこわばらせて俺を見ている。


俺はゆっくりとマーリンを振り返った。


「マーリン? これエクスカリバーだったのか?」

「あれ? 気づいてなかった? 鞘のコトを伝えたから、てっきり分かってると思ったよ」


そうだった。

その時は覚えていたのに、怒りに我を忘れてすっかりそのことを忘れていた。


俺は自身の手が握り締めている鞘と剣を見た。

ご丁寧に鞘をはらっている。

ほとんど無意識にこれができる自分の前世の記憶が恨めしかった。


「でもホラ、僕は言っただろう? 騎士なんて、どいつもコイツも脳筋だって。だからね、今こそ君の知識チートを活かす時なんだよ☆」

「黙れ、このエセ魔法使いが。お前、確信犯で俺を煽っただろ?」


「ナンノコトカナー」と首を傾げているヤツの首を締めたい。

ヤツの尻に黒いとがった尻尾が見え隠れしているのは、決して幻覚ではあるまい。


「マーリン殿、陛下にそのような口を」


ベディヴィアがオロオロと俺とマーリンの間に入ってきた。


「まずは、円卓を片付けましょう。それから、代わりのテーブルを用意して」


ベディヴィアはアタフタと部屋の外の騎士へと指示を出す。


「陛下は何か良き案があるのですか?」


恐る恐るという感じで、ボールスが尋ねてくる。


だよねー。

こんな風にブチ切れたら、普通は何か代替案があると思うよねー。


「マーリン殿はどうなのだ? 貴殿に何か腹案はないのか?」


ユーリエンスの言葉にマーリンは首を傾げた。


「腹案か〜。さて、どうだろうねー?」


マーリンはニヤリと横目で俺を見る。

その目には、「チート☆ チート☆ 知識チート☆」という言葉が如実に現れていた。


くそ!

後で覚えてろよ!


俺は自分の頭をフル回転させた。


考えろ、考えろ! 俺!

この場合、どうするのが一番だ?


そうだ、まずは現状を確認しよう。


俺はアグラヴェインを振り返った。


「アグラヴェイン、卿に聞く。我が軍は一体何人兵がいるのだ? 騎士の数だけでなく、実際に戦場に出ることができる兵士の数で答えよ」

「は」


アグラヴェインは一礼して答える。


「陛下直参の騎士は25名。そこにペリノア王の一族、ユーリエンス王の一族、ランスロット卿を始めとするバン王の一族、我らオークニーの一族を合わせて、騎士の数は300。従者の数も合わせると、おそらく我が軍の兵の数は1000といったところかと」


チッ、思った以上に少ないな。

ケイは500と言っていたが、先の敗戦で離脱した騎士も多いということか。


「それで、サクソン人は何人なのだ?」

「それは…」


俺の質問にアグラヴェインは言い淀む。


「サクソン人の数は正確に申し上げることはできません。彼らは自身の家族も率いて攻めて来ていますので、実際に何人いるかは…」

「だが、釜戸の数でおおよその推測はできるのではないか?」


俺の言葉にアグラヴェインは目を見開いた。


「その通りです、陛下。今すぐ、釜戸の数を数えて来ます」

「いや、アグラヴェイン。今は何時だ?」

「終課の鐘が鳴ったばかりです」

「マーリン、何時のことだ?」

「君たちの世界で言うと、午後9時ぐらいかな。いわゆる寝る前のお祈りが終わった時間だよ」

「そうか。ならば、アグラヴェイン、日の出後すぐ、奴らが飯を作り始めた時に数えろ。そうすれば、煙の数で釜戸の数が分かる」


アグラヴェインはまたもや目を見開いた。


「ははっ、陛下、おっしゃる通りにいたします」


深く一礼して、そのまましばらく動かない。

よく見ると感極まったように肩を震わせていた。


「ケイ卿」

「ハイっ」


ケイを呼ぶと、ケイは裏返った声で答えた。

そして、恐る恐るという感じで俺に近づく。

その目には、「これは本当にアーサーなのか?」と疑っている色がありありと見えた。


そりゃそうだよなぁ。

「つっこめ〜」しか言わなかったアーサーが、いきなりビシバシ指示を出したら、本人かどうか疑うよなぁ。

ま、頭を打って性格が変わったんだと思ってほしい。


「ケイ卿、この城の兵糧は一体何日もつのだ? 最後の一粒まで無駄にしなかったとして、一体何人分の食糧がある?」

「我ら騎士の分として、一週間分は蓄えましたが…」

「正確な数字を出してくれ。穀物の量を正確に数えるのだ。そして、それでこの城にいる人間を何日まかなえるか計算してくれ。騎士だけの数で計算するな。下働きも含めて、今この城にいる人間全てで計算しろ」

「は、ははっ」


ケイは深々と一礼すると、すぐさま広間を出て行った。


「あ、あの、陛下? これは一体?」


ボールスが目をシロクロさせながら、恐々尋ねる。

ボールスだけでなく、誰もがポカンとした顔で俺を見ていた。


「敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず。つまり、状況を把握しないことには、何の策も無意味、ということだ」

「は、はあ」


納得いっていない顔で、ボールスは相槌を打つ。


「誰か、城の見取り図を持っている者はいないか?」

「城、ですか」


誰もがキョトンとした顔で、お互い顔を見合わせている。


「周辺の地図は?」


やはり首を傾げあう。


「アーサー、アーサー」


マーリンがちょいちょいと手招きをした。


「なんだ?」


わずかにマーリンへ体を寄せると、マーリンは面白そうに耳打ちをした。


「ココに伊能忠敬の『大日本沿海地図』みたいなものを求めないでね」


そうだったぁ!

ココは中世ブリテンだった!


「あー、城の様子を見たい。誰か高台に案内してくれ」


「陛下、では私が」

「いえ、私が」


先ほどのショックから立ち直ったのか、皆、我先に名乗りを上げてくる。


「ベディヴィア、頼めるか?」

「私が、ですか」


俺が壊した円卓を片付けるために忙しそうに動いていたベディヴィアが、びっくりしたように立ち止まった。


「そうだ。頼めるか?」

「は、はい。城の一番高い塔でいいですか?」

「それでいい」

「では、失礼します」


ベディヴィアは俺の隣に膝まずき、俺に自身の肩を差し出した。

俺はベディヴィアの肩を借りてゆっくり立ち上がる。


「皆、今宵の軍議はこれまでとする。明朝、アグラヴェインとケイの報告を聞いてから、再開する。以上!」


ざわざわと騎士たちが戸惑ったようにざわつきだす。

それを無視して、俺はアグラヴェインを見た。


「アグラヴェイン卿、卿にはもう一つ頼みがある」

「何なりとお申し付け下さいませ、陛下」


アグラヴェインはさっきから一礼をしたまま、頭を上げようとしなかった。


「狩人など、城下で他に戦える者はいないか、探してくれ。戦う意志さえあれば、どんな者でも構わない」


ハッとアグラヴェインは顔を上げた。

そして、俺の意図していることを十分に理解して、また頭を下げた。


「かしこまりました」

「任せた」


そう言って歩き出した俺の前に、ランスロットが立ち塞がった。


「お待ち下さい、陛下。明日の決戦はどうなさるおつもりですか?」

「先ほど言ったであろう? 現状も分からず兵は出せん」

「ですが、もし明日サクソン人が攻めてきたら、いかがなさるのですか!」

「サクソン人はそんなに頻繁に攻めてくるのか?」

「いえ、その…」


ランスロットはわずかにうつむく。


「大規模な攻撃はしないです。たまに城門に攻め込んで、城門近くの民家を襲うぐらいですか」


ランスロットの代わりにガウェインが答えた。


「ただし、我ら騎士は、か弱き者を見捨てるようなことはいたしません。例えそれが陛下の命であっても」


固く口を引き結び、真正面からガウェインは俺を見た。


「分かった。ならば、サクソン人が攻めて来た時は、お前が蹴散らせ。ただし、絶対に深追いするな。戦力は決戦の時まで温存しておくのだ」

「承知」


ガウェインは拳で胸を叩き、一礼した。


「陛下、私もガウェイン卿と共に城の守りにつかせて下さい」

「おお、ランスロット! そなたと共に城を守れるなら、百人力、いや千人力だ!」


ガウェインが嬉しそうにランスロットの肩を叩く。

俺は小さくため息をついた。


「好きにしろ」

「陛下、ありがとうございます!」


そしてランスロットはガウェインと、がっしりと握手をした。


なんだ、あの熱血マンガみたいなシチュエーションは。

努力と根性で戦に勝てるなら、苦労はしないよ。


「行くぞ、ベディヴィア卿」

「は、はい。陛下」


後ろでは、まるで試合前のロッカールームみたいな盛り上がりを見せていた。

スポ根ものの映画ならテーマソングの一曲や二曲流れてそうな雰囲気である。


脳筋は単純でいいよな。


白けた気分で広間を後にする。


俺の一言で多くの命が決まるのかと思うと、胃がキリキリ痛かった。

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