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異世界転生アーサー王伝説 〜話がつんだので、異世界人を転生させてみた〜  作者: ヤンデレに監禁中の大魔法使い(種族・年齢・性別不詳)
5/12

5.ブチ切れたその先に…

「alive の要素がどこにも無いわ!」

「陛下、大声を出されると、お体に触ります」

「そうだぜ、アーサー。まだ負けるとは決まってないんだからな。それに、細かい数字はアグラヴェイン卿に聞いてくれ。俺はおおよそしか知らん」


ああ、そうか。

コイツら兵の数字を正確に把握するという考えが無いのか。

その点、アグラヴェイン卿には少し期待が持てそうだな。


アグラヴェイン卿はアーサー王伝説の中の悪役の一人だ。

円卓の騎士の鉄の結束を破壊し、王国を滅亡へと追い込む原因を作る。

伝説の中では、復讐心と嫉妬心が強すぎて寛容さが無く、冷酷で陰険と散々な書かれようだ。


そのアグラヴェインが、今や唯一の希望とはなんの皮肉だ?


「さぁ、ここが、かの有名なキャメロット城の円卓の間だよ☆」


まるで観光地を案内するガイドのように、マーリンは一際大きな扉を指し示した。


両開きの扉の両側には、騎士が二人立っていて、俺の姿を見ると一礼した。


「みんな揃っているのか?」


ケイに聞くと、ケイは今までのくだけた調子ではなく、改まった態度になった。


「は。ガウェイン卿、ランスロット卿、ペリノア王。先の戦いで命を落とした者は一人もいません」


アーサー王(前任者)以外はな。


俺は内心つぶやく。


ケイが扉の両脇にいる騎士に頷くと、騎士は扉に手をかけ、さっとそれを引いた。

ギィと軋みながら扉が開く。

同時に、部屋の中の喧騒が扉の外へと放たれた。

だが、それも束の間。

すぐに部屋は静寂に包まれた。

そして、目という目が俺を見つめる。

誰もが固唾を飲んで、ケイとベディヴィアに支えられながら、部屋の中を進む俺を見つめていた。


部屋の中央には、丸い大きなテーブルがしつらえてあって、「アレが円卓かぁ」と、伝説オタの好奇心がムクリと持ち上がる。


いや、だって、アーサー王だよ。

映画やゲームで有名なシチュエーションがあれば、多少は心が躍るってもんだろう。


円卓の周りには、それぞれの紋章を縫い込んだ上着を着た騎士達が集まっていた。

さっきまで侃侃諤諤、いや喧喧轟轟か?、議論していたのだろう。

皆、立ち上がったままこちらを見ていた。


その中で、一人だけ腕組みをして座っている騎士がいた。

薄い色の金髪に、緑の上着を着ている。

うつむいているから、顔はよく見えないが、なかなかの美形に見えた。


誰だ、あれ?

ランスロットか?


ランスロット卿は、美形ぞろいの円卓の騎士の中で一番女性にモテるイケメン騎士だ。

だが、もっともアーサー王への忠誠心が高いといわれるランスロット卿が、アーサー()が入って来たのに席を立たないということは考えられなかった。


とすると…


俺は視線を巡らした。


円卓の前で俺に向かって跪いている騎士がいる。


あれが、ランスロットか?


あとは、誰が誰か分からなかった。

とにかく、イケメンが多い!、ということ以外、区別がつかない。

美少年系のイケメンから美中年系のイケメンまで。

異世界って言ってるけど、乙女ゲームの方の異世界なんじゃないのか?、と思うぐらいイケメンのオンパレードだった。


ただ一つ、確実に乙女ゲームではないと分かるのは、彼らに近づけは近づくほど、汗臭いにおいが漂ってきたからだ。


まるで、運動部の男子更衣室のような臭いにむせそうになる。

窓を開けて換気ができないのかと、部屋の周囲を見回したが、城の中心部にあるこの部屋には、明かり取り用の天窓しかなかった。


臭い問題に関しては、抜本的解決をしないといけないな。


あと、料理と衛生面と、と俺はこれからやるべき事を頭の中でリストアップする。


その前に、サクソン人かぁ。


難問が多すぎて目眩がしそうになった。


「陛下、お身体は大丈夫ですか?」


なんとか円卓の最上位、つまりは玉座の真ん前に設られた席にたどり着いた俺に、黒い帽子を被り、黒い上着を着た騎士が近づいて来た。


えーと?


俺は問うような視線をマーリンに送る。


「アグラヴェイン卿だよ」


マーリンが相手に聞こえないように、耳元で囁いた。

俺は頷いて、アグラヴェインに答える。


「大丈夫とは言えないな。馬や剣は無理だと思え」

「そんな! 陛下が戦場に出ないとなると、誰が指揮を!」


悲痛な叫びを上げる騎士をチラリと見ると、マーリンがまたもや囁いた。


「ラモラック卿だよ。円卓の席に名前が書いてあるから」


「黙れ。陛下が戦場に出られないなら、我らが陛下の分も戦うしかあるまい」


ラモラックをしかめ面で叱る騎士は、がっしりとした体のイケメン中年だった。

円卓の名前を確認すると、ペリノア王と書いてある。

対するラモラックは、バスケ部かサッカー部のキャプテンのような爽やか系イケメン騎士だった。


「ですが、父上!」

「陛下は先の戦いで我らに勇気を示した。今度は我らが陛下に勇気を示す番だ」


それからペリノア王は俺の方を向いて、一礼する。


「陛下、ご安心ください。このペリノア、一命に賭しても陛下とこのキャメロットをお守りします」


「陛下、もちろん私も」と、ペリノア王の言葉を受けて、他の騎士たちが口々に叫び出す。


「ふっ、どうやってですか?」


ヤバい!

今、俺の後ろから聞こえた声と俺の心がシンクロした!


ギョッと振り返ると、アグラヴェインが冷笑を浮かべて騎士たちを見ていた。


「敵は十重二十重にこのキャメロットを取り囲んでいます。対するこちらは、先の戦いで多くの兵を失い、わずか。さらに、籠城しようにも兵糧はもって一週間。これで、どうやってキャメロットを守るのですか?」


ん? あれ?

ケイは誰も命を落としていないと言ってなかったか?

…………。

そうか、騎士以外は数に数えないんだ、コイツら。

うわぁ、頭痛ぇ。


内心頭を抱える俺の頭上で、議論は白熱していく。


「アグラヴェイン卿、貴兄はいつも物事を悪い方へ悪い方へと導いていく!」

「ボールス卿、私は現状を述べているだけです。そしてただ、どうやって?、と尋ねているだけです。それで? どうやってこの危機を打開するのですか? ボールス卿?」


ラモラックがスポーツ系イケメンなら、ボールスは吹奏楽部の部長をやってそうな、文化系爽やかイケメンだった。

そのイケメン顔を真っ赤にしてボールスはアグラヴェインを睨んだ。


「アグラヴェインよ、偉そうに申すでない」


静かにそう発言したのは、綺麗な顎ひげがあるインテリ系イケメン中年だった。

席の名前を見ると、ユーリエンス王とある。

アーサーの即位に反対した11王の一人だが、早いうちからアーサーに恭順を示した。

確か、アーサーの姉の一人、中でも一番面倒臭くてヤバい、モルガン・ル・フェイを妻にしていたはずだ。

若い頃はかなりハンサムだったと分かるイケオジ具合に、モルガンはなんでアーサー(前任者)と不倫をしたんだろうと首をひねる。

話し方も、静かに相手を諭すようで、なかなか人望があるんじゃないかな?


「そなたは先の戦いに参加せず、このキャメロットでこもっていた。そんなそなたが、他の者に偉そうに言える立場か?」


インテリ系イケオジ(ユーリエンス)も脳筋だったあー!


ユーリエンスの言葉に騎士たちは「そうだそうだ」と賛同する。

その騎士たちをアグラヴェインは冷たい瞳で見る。


「私はキャメロット城の守りについていました」

「怖くなって隠れていたの間違いだろ?」

「口を慎みなさい、ラモラック卿。城の防衛も立派な戦いです」

「俺もキャメロットにいたんだが、尻尾巻いて逃げ帰ってきたお前らを、門のところで追い返せば良かったか?」


さすがにケイも腹が立ったのか、口をはさむ。

軽口を叩いているように見えて、目は笑ってなかった。

だが、チャラ男系イケメン少年が鼻で笑う。


「アグラヴェイン兄貴、ケイ卿にかばわれて恥ずかしくないのかよ」


名前を見ると、ガヘリスとある。

ロト王の三男。ガウェイン、アグラヴェインの弟だ。

ちなみに、ロト王の妻もアーサーの姉だ。

ガウェイン、アグラヴェイン、ガヘリスはアーサーの従兄弟ということになる。

4人の子持ち人妻と不倫したのか、アーサー(前任者)は。


「ガヘリス、かばわれているつもりはありませんし、ケイ卿も私をかばっているつもりはありません。私はキャメロット城を守るという責務をキチンとこなしました。ケイ卿も戦のための兵糧を確保するという責務をこなしました。それで? あなた方は、何をなされたのですか?」

「アグラヴェイン卿、そのような言い方はどうでしょうか?」


薄幸の美青年という感じのアンニュイなイケメンが、美しい眉を顰めながら静かに発言する。

名前を見ると、トリスタンとある。


ああ、あの有名な…不倫野郎ね…。


というか、イケメンが氾濫しすぎて俺の頭がシステムエラーを起こしそうなんだけど。

こんなにイケメン必要ですか?

一体、誰得なんですか?

しかも、イケメンのほぼ半分は不倫野郎じゃないか!


「アグラヴェイン卿、あなたの言い方には険があります。そのような言い方では、反発を招くだけです。あなたは他人を非難しすぎですよ。もっと寛容になったらどうですか?」


この場で一番どうでもいい意見キター。

いい事言ってはいるが、今はアグラヴェインの人間性を議論する場ではないだろ?

小学校の終わりの会じゃないんだからさぁ。

サクソン人をどうするかを議論しろよ。


トリスタンの言葉にアグラヴェインは冷たく鼻で笑った。


「それは今、話すことですか?」


ヤバい。

また、シンクロした。


なんだかなぁ。

アグラヴェインは、冷酷、陰険、不寛容とさんざん伝説で言われてきたけど、どう考えても脳筋どもの中で、一番マトモに見える。

いや、むしろ、唯一マトモな人だ。

次点でケイか。


伝説でのアグラヴェインの評価は、目の前の脳筋(バカ)どもの悪口だったんじゃないか説を唱えたくなってきた。


俺はアグラヴェインに少しシンパシーを感じ、そっと目頭を押さえた。


「陛下」


突然俺の横で声がして、俺は思わず飛び上がりそうになった。

振り向くと、俺が部屋に入ってきた時に跪いていたイケメン騎士が、俺の隣で跪いていた。


コイツ、いつからココにいたんだ?

どうでもいいけど、席に戻ってくれないかな?

名前が分からないんだけど?


「陛下。このランスロット、策がございます」


あー、やっぱりランスロットね。


パッと見、ハリウッドスターかというぐらい女性にモテそうな顔をしている。

栗毛色の髪をキチンと整え、髪と同じ色の瞳はキリリと俺を見つめ。

美しく、それでいて精悍な顔つき。

男の俺でも、カッコいいな、と憧れたくなるような、そんなイケメン騎士だった。

しかもこれで最強騎士なんだから、そりゃ貴婦人たちが熱を上げるはずだった。


コイツに俺、寝取られるんだよなぁ。

でも、あのグィネヴィアだったら、いいかなぁ。


気乗りしない気持ちで一応聞いてみる。


「なんだ、策とは?」

「は。私がサクソン人どもに突撃します」

「それで?」

「は。サクソン人どもを蹴散らします」

「どうやって?」

「サクソン人どもに突撃します」

「それで?」

「サクソン人どもを蹴散らします」

「…………」


俺は今、壊れたロボットと会話しているのか?

音声アシスタントの方が、お前より何万倍も使えるぞ。


「さすがランスロット卿、それはいい策です」

「ランスロット卿さえいれば、どんな敵でも蹴散らせます」


口々に脳筋どもが言う。


おかしいな〜。

俺の知ってる策には、ただ敵に突っ込むだけなんてものは無いんだけどな〜。


「ランスロット卿、それは策とは言いません」


アグラヴェインが呆れたように言う。


どうしよう。

アグラヴェインとのシンクロ率が100%だ。

むしろ俺の心の声が届いているのかと、焦るぐらいだ。


「アグラヴェイン卿!」


ペリノア王がダンと拳で円卓を叩く。

さすが肉体派イケオジだけあって、その振動で円卓がわずかに跳ね上がった。


「先ほどから聞いていれば、人の策に文句をつけてばかり!」

「父上の言う通りです。あなたが先の戦いで一戦もしていないのは、ここにいる誰もが知っているのですよ!」


黙れ。脳筋親子が。

お前ら一度故郷に帰って、愛する妻と息子(弟)の面倒を見てこい。

お前らがそんなんだから、パーシヴァルがアレな性格になるんだぞ。


さすがにアグラヴェインをかばおうと口を開きかけた時だった。


「皆さん、この場は軍議の場です。個人をあげつらう場ではありません」


ベディヴィア、グッジョブ!

俺の寝室を守ってくれていたりとか、だいぶん前からその存在は知っていたのだが、いかんせん影が薄かった。

だが、今、俺にはお前が輝いて見えるよ。


ちなみに、ベディヴィアももれなくイケメンだ。

円卓の騎士採用条件に、顔偏差値も入っているのかなぁ。


「では、ベディヴィア卿には何か策でもあるのですか?」

「そ、それは…」


ボールスの言葉に口籠もってしまうベディヴィア卿。

ボールスは、文化系イケメンらしく、少し意地悪気に鼻で笑った。

俺のいた世界のアニメだったら、さしずめ眼鏡をクィッと押し上げたところだろう。


「我々はランスロット卿の策を推している。ほぼ満場一致で決まりかけたところを異議を唱えたのはアグラヴェイン卿です。卿には、異議の理由を提示して頂きたい」

「異議の理由? あなた方は考えなしですか?」

「アグラヴェイン卿、貴様!」

「失礼、ラモラック卿。では、能無しと言い直しましょう」

「アグラヴェイン卿、さすがにそれは口が過ぎるのでは?」

「ケイ卿、私は一度そこの愚か者どもに言いたかったのです」


そこでアグラヴェインはすうっと息を吸い込んだ。


「突撃、突撃と言いますが、その突撃をして、今、このような、事態になったのでは無いですか!」


今まで静かな口調で話していたアグラヴェインの怒声に、さすがに広間はシンとした。


「決死の覚悟で突撃するのも結構! ですが、闇雲に突撃してもし負けたら、次はどこに逃げ込むのですか! この城に取り残された市民はどうするのですか! サクソン人に蹂躙される領民は! 何よりも、この戦のために集めた糧食や人夫はどうするのですか! 戦はタダでは無いのですよ!」


おおー、と俺は内心拍手する。

アグラヴェインを軍の参謀総長に任命したかった。


「アグラヴェイン、お主の言ってることは、さっぱり分からん」


マジですかー。


俺は絶望した瞳でペリノア王を見た。


これが分からなければ、為政者としてダメなんじゃ。


「ただ一つ言えることは、今のお前の発言は不敬罪にあたるぞ」


なんですと!?

ペリノア王の言っていることの方が、俺には理解できないのだが。


「お前は先の戦いで、サクソン人に突撃して、意識を失うほどの重傷を負った、陛下を非難しているのか?」


あ!


俺は内心舌打ちした。

そうだった。

さんざん心の中で、脳筋とバカにしたが、その脳筋が前任者(オレ)だった。


何やってんの!? 前任者(オレ)〜!


「勇敢な陛下の戦いが、考えなしで、能無しで、愚か者だと卿は言っているのか?」

「わ、私はただ、もっと勝てる策を立てるように…と」


アーサー王のことを持ち出されて、アグラヴェインはさすがに口ごもりはじめる。


「ランスロット卿の策は勝てない策だと、陛下の行いは間違っていると、卿は言うのか?」

「そ、それは…」


アグラヴェインはチラリと俺を見る。


いや、俺を見ないでくれ。

あれは俺だけど、俺じゃ無いんだ。


「だからワシは始めに言ったのだ。アグラヴェインよ、戦に参加していない卿が、偉そうに申すな、と」


ペリノア王に続いて、ユーリエンス王が静かにそう告げる。

アグラヴェインはさすがに悔しそうに唇を噛み締め、うつむいた。


「そなたもそう思わぬか? ガウェイン卿?」


ユーリエンス王が振り返った先には、あの、俺が部屋に入った頃からただ一人椅子に座ったまま議論に参加していない騎士がいた。


誰かと思ったらガウェインだったのか。


俺は、眉をしかめうつむいて座っているガウェインをしげしげと見た。

ガウェインはランスロットに次ぐ最強騎士だ。

物語によってはガサツで粗野で、女にダラシがないという描かれ方をされているが、ランスロットが現れるまでは彼が円卓最強騎士だった。

そして、円卓最強の座をランスロットと争い、決着はつかなかったが、お互いの力量を認め合い、二人でアーサー王を支えるという、少年マンガ的設定が盛り込まれている。


ランスロットは壊れた音声案内のような脳筋だったが、ガウェインはどうなんだろう?

弟のアグラヴェインを見ていると、そこまでバカではないと思うのだが。

ただ、ガヘリスは脳筋バカだったしなぁ。


俺だけでなく、皆の視線を一身に集めていたガウェインだったが、彼は微動だにしなかった。


「ガウェイン卿、いかがなのです?」

「貴方としては、親友と弟が意見を違えていることに心を痛めているかもしれませんが」

「ぜひ、貴方の意見を聞かせてください」


騎士たちが、口々に尋ねるが、ガウェインは眉間にシワを寄せたまま、一向に動こうとしない。


…………アレ、目を閉じてるよね?

それに、顔もうつむかせているし。

…………寝ているのか?


「ガウェイン卿!」

「兄上!」


一際強くラモラックとガヘリスが呼んで、ハッとしたようにガウェインは顔を上げた。


やっぱり、寝てたんかい!


「はぁ、兄上は難しい話になるとすぐ寝るんですから」


ガヘリスが呆れたように言う。


難しい話してたか?

あと、そいつは俺が部屋に入った頃から寝てたぞ。


「ガヘリス、ちゃんと起きてたぞ」

「では、何の話をしていたか覚えていますか?」

「当たり前だ…って、陛下!? いつ、おいでだったのですか!?」

「やっぱり、寝ていたんじゃないか」


ガヘリスははぁとため息をつく。

後ろでも同じようにため息が聞こえてきた。


「陛下、我が兄の無礼をお許しください」


アグラヴェイン、苦労してるんだな。


「陛下、お身体は大丈夫ですか? 陛下のお元気そうなお姿を見て、このガウェイン、これに勝る喜びはありません!」


ガウェインは一直線に俺の隣まで来て、一礼した。


ふぅ。

残念ながら、脳筋の匂いしかしないな。


ガウェインは、それこそ、色気あふれるイケメンだった。

薄い色の金髪に、同じく薄い色の青い瞳。

髪の色と同じ金色のまつ毛は長く、ちょっと寝ぼけた瞳でニッコリと微笑む様は、男でも惚れ惚れしそうな美形ぶりだ。

そして、その瞳の奥にはどこか猛獣を思わせるような、危険な香りがあった。

いわゆる、目があっただけで孕まされそう、というヤツである。

そりゃ伝説で貴婦人に、「あの人、私をいやらしい目で見るのです。けしからんのです」と言われるはずだ。

昼寝している時、貴婦人がキスをしに来たという羨ましい話もあり、ランスロットと宮廷の貴婦人の人気を二分するイケメン騎士である。


「で、そなたは何か策はあるのか?」


ため息をつきたい気分をぐっとこらえて、俺は尋ねる。


「策ですか…」


ガウェインはしばし首を傾けて考える。

やがて、何か閃いたように嬉しそうな顔を俺に向けた。


「陛下、私に策があります」


嫌な予感しかしないフレーズだな。


「なんだ?」

「は。私がサクソン人どもに突撃します」

「それで?」

「は。サクソン人どもを蹴散らします」

「どうやって?」

「サクソン人どもに突撃します」

「それで?」

「サクソン人どもを蹴散らします」

「…………」


デジャブか?


「兄上、それは策とは言いません」


アグラヴェインの言葉すら、一言一句同じだ。


「ダメか? いい策だと思ったんだがなぁ」

「いえ、ガウェイン卿。素晴らしい策です! 今、まさに、私もその策を陛下に申し上げていたところでした」

「おお! ランスロット卿! 貴兄もか! 私たちはやはり気が合うな!」

「ランスロット卿、ガウェイン卿、あなた方だけではありません。私たちもその素晴らしい策に賛同していたところです」


「そうです。そうです」と、俺とアグラヴェイン以外の騎士が賛同する。

そしてそのまま、徹夜明けのハイテンションのような盛り上がりを見せる騎士たち。


ダメだ。コイツら。早く何とかしないと。


「いい加減にしてください!」


先に切れたのはアグラヴェインだった。


「先ほどから申し上げている通り、勝てる策を出して下さい!」

「勝てないか? アグラヴェイン?」

「兄上、その策で勝てているなら、先の戦でも勝っていました。結果はどうなりましたか? 負けて軍は撤退。今はサクソン人に城を取り囲まれている状態なのですよ」

「アグラヴェイン卿、卿は先ほどから戦に負けた負けたと言っているが、我々は戦に負けたのか?」

「は? おっしゃっている意味が分からないのですが、ユーリエンス王」

「ユーリエンス王のおっしゃる通りだ。我々は負けてはいない」

「何を言い出すのですか? ペリノア王?」

「確かに陛下が負傷されたので、我々は軍をキャメロット城まで移した。だが、追い縋ってくるサクソン人をそなたらは撃って出なかったではないか」

「父上の言う通り! あそこで貴殿たちがサクソン人を撃って出ていれば、我々も返す刀でサクソン人を討てたのだ」

「あなた方は一体何を言い出しているのですか?」

「何を、か。ふん、臆病者には分かるまい。攻め寄せるサクソン人に恐れをなしたお前は、門を閉じた。そして、サクソン人を討つ絶好の機会を失ったのだ」

「私のせいで負けたと言うのですか!」

「そうであろう? ここにはこんなに意気軒昂な者たちがいる。どの騎士も一騎当千の者ばかりだ。彼らがいて、なぜサクソン人に負けると言うのだ?」


「そうだそうだ」と言う騎士たちをアグラヴェインは睨みつけた。

拳は爪が食い込むぐらい握り締められ、口はワナワナと震えている。


俺はその様子をじっと見つめていた。


思い出すのは、俺をクビにした三流製薬会社だった。


どこぞのエライ大学の先生が設立したベンチャー企業。

それが、俺が前に勤めていた会社だった。


新薬を作ると言って、研究を始めたのはいいが、さしたる計画も立てず自分の思いつきで実験を始め、辻褄合わせのために最後は捏造。

俺たち下っぱ研究員は、エライ先生の思いつきの実験の尻ぬぐいをさせられ、結果が出ないとさんざん怒られた。

会議の席で、俺はたまりかねてこう言った。


「もう、捏造はやめませんか?」


所長もグループリーダーもさんざん俺を罵倒し、捏造をしているのは俺の方だと言われた。

そして、俺はクビ。

後で同僚に聞くと、新薬の実験は失敗。その責任をすべて俺に着せていたらしい。


アイツらの言動に、目の前の脳筋どもの言動は似ていた。


「そうだよね。アレはひどかったよね」


俺の後ろで三流夢魔の声がする。


「君は正しいコトを言った。捏造ではなく、信頼がもてるデータを出そう、と。そうでなければ、新薬の実験そのものが潰れてしまう」


マーリンは悲しそうに首を降った。


「なのに彼らは、逆に君が会社を間違った方へと誘導したと責めた。同僚や後輩に嘘を吹き込んでいった、と。そして、持てる権力をフル活用して、君に全ての責任を押しつけ、クビ。いつの間にか実験の失敗そのものが、君の責任になっていた。さすがに、アレは無いよね」


マーリンは俺の耳元に口を寄せて囁いた。


「でも、ココでは、君が権力者だよ」


「兵を失っていないと本気であなた方は言っているのですか? あなた方にとって、兵とはココにいる者だけなのですか?」

「アグラヴェイン、一体何を言ってるのだ? ココにいる者以外にどこに騎士がいるのだ。幸い我々は誰一人欠けることは無かった。そして、今や陛下が目を覚まされたのだ。今こそ、サクソン人をこのブリテンから叩き出すチャンスだ!」


議論は無意味に白熱している。

アグラヴェインが何度正論を唱えても、それを理解できない者達では、話にならなかった。


彼は、数年前の俺だった。

会社のためにと思って、必死に訴えた。

そして、裏切られた…。


「ね。ココは君が一発ガツンとやらないと、おさまらないよ」


「さぁ」と悪魔が囁く。


俺は、手元にあった剣を握り締めた。


「陛下、何とか言って下さい。アグラヴェイン卿は自身の弱さを陛下の傷のせいにしています!」

「陛下、私は決してそのようなことは!」


「黙れぇ!!!」


俺は手にしていた剣を円卓へと叩きつけた。


轟音と共に、円卓はキレイに真っ二つになった。


「さっすが、エクスカリバー。切れ味いいね〜」


何が楽しいのか、ニコニコと拍手している三流夢魔、もとい下級悪魔。

ゆっくりと振り返ると、彼はさわやかな笑顔で言った。


「Good Job !」


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