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異世界転生アーサー王伝説 〜話がつんだので、異世界人を転生させてみた〜  作者: ヤンデレに監禁中の大魔法使い(種族・年齢・性別不詳)
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1.「君は選ばれた勇者だ」と詐欺師は曰う

やぁ、君。異世界転生ものを読むのは初めてかい?

そうでもない?

最近は流行りすぎて、またか、と思うぐらい使い古されたネタ?

あゝ、そう。じゃあ、話は早いかな?

あ、いや、こちらの話さ。


じゃあ、君。異世界に転生するのは初めてかい?


「当たり前だろ!」

 そう、叫んで、俺はそれが夢だったことに気づいた。

 真っ暗闇の中、自分の声がわぁんと響く。

「あー、なんか訳わかんない夢見た」

 スマホで転生もの小説を読みすぎたかなぁ、と俺は軽くズキズキする頭をさすった。


 ん、あれ、なんでこんなに頭がズキズキするんだろ?

 なんか布みたいなものも巻かれてるし。

 それに、微妙に昨日の記憶が曖昧だ。

 一体、昨日、何があったんだ?

 それに、ここはどこだ?


 俺は今更ながらに周りを見回した。

 暗闇に慣れてきた目にはぼんやりと扉や窓が映っていたが、どう目をこらしても自分の部屋とは思えなかった。

 かといって、病院やはたまた警察という訳でもなかった。

 なんか、ちょっと、西洋の城っぽい。

 扉や窓の装飾に俺は自身の記憶を総動員して思い出そうとする。


 ええっと、家の近くに西洋の城っぽいホテル、あったっけ?


 いくつかのラブホが頭の中を通り過ぎていくが、ラブホにしては周りが暗いし、部屋の装飾が地味すぎた。

 もっとも、自分の人生の中で一度たりともラブホに入ったことはないが。


 待て待て待て。


 俺は相変わらずズキズキ痛む頭をふった。


 仮にここがホテルと仮定して、なんでそこに俺がいるわけ?


 しかも、頭だけでなく全身が妙に痛くてちょっとでも動かすのが辛い。

 体を起こそうとしても、ズキリと背中や胸が悲鳴を上げた。

 足に至っては、初めから動く気がないみたいにだらりと布団の中に伸びている。

 いや、布団ではなく、それはシーツだった。

 そしてその上からなんかゴワゴワする毛の毛布(?)が乗っていることを、なんとか動く手で確認した。


 ここ、ホテルか?


 ホテルだったとしても、高級なホテルでは絶対に無い。

 なぜなら、身体の下には一応布団らしきものが引かれているが、スプリングの効いたマットレスではなく、薄いハンモックの上にシーツを引いただけのような感触だった。


 これはマズい。

 本気で昨日何があったか思い出さなければ。


 俺はとりあえず思い出せる記憶から辿っていくことにした。


 昨日は確か、駅前の居酒屋で一人飲んでいた。


 そこは普通の小さな居酒屋だった。

 大型チェーン店系の居酒屋ではなく、個人経営的な、何の特徴もない居酒屋だったが、この地へ来てからは晩飯代わりにしょっちゅう顔をのぞかせるなじみの店になったのは、住んでるアパートの隣人がここの店員だったからだ。


 仕事をクビになって、さんざん探して見つけた先は、故郷より遥か遠い東北の小さな会社。

 友人も知り合いもいなかった俺に、引っ越して来たその日から親しく声をかけてくれた隣人は、この上なくありがたい存在だった。

 たとえ、店の営業のためだったとしても。


 ああ、ダメだ。

 こうやって、物事をなんでも皮肉的に考えるのは、悪いクセだ。


 それで、その日は、ちょっと、いや、かなり嫌なことがあって、いつもよりちょっと、いや、だいぶん飲みすぎた、気がする。


 そこからの記憶に自信が無いのは、記憶が曖昧になっていくからだ。

 例の店員に、「飲み過ぎですよ」と声をかけられ、まだまだいけると思ったけど、外を見るとちょっと吹雪出していたから、歩いて帰るのが面倒になるな、と立ち上がった。

 立ち上がった時、だいぶん足がよろめいて、おいおいやばいぞ、とは思ったが、まぁ、家に帰る分には問題無いかとタクシーも呼ばずに徒歩で帰ることにした。

 外の吹雪はどんどんひどくなっていたが、アルコールであったまっている体には、その冷たさはむしろ心地よく、よし、吹雪でも嵐でも何でも来い!と、妙なハイテンションになって、アパートの前の階段を駆け上って…。


 ヤバい。

 そこからの記憶が無い。


 階段、雪が踏み固められていて、いい感じで凍っていたよなぁ。


 少し遠い目をする。


 階段で足滑らせて、頭打って気絶していたところを、誰かが助けてくれた、というところだろう。

 記憶が曖昧なのも、酔っていたのと頭打ったのとで、意識が混濁していたんだろう。


 俺は今の状況にようやく納得がいって、目を閉じた。


 よし、とりあえず寝よう。

 朝になったら、状況がはっきりするだろう。


「あっはっは! そうキタかぁ! こりゃ、マイったね!」


 突然、脳裏に響き渡った声に、俺はギョッと目を見開いた。


 誰かが部屋の中にいる?


 痛む腕をなんとか動かし、半身を起こしてあたりを見回すと、窓辺に人影があった。


「あなたは?」


 そう問うと、人影は首を傾げた。


「あれ? 分からない? さっき自己紹介したはずなんだけどなぁ」

「いや、その、まったく」


 人影は心外だと言わんばかりに、質問を返してくるが、俺が目覚めてから今まで、誰かと話した記憶は一切無かった。


「もしかして、助けていただいた際に…」


 気を失っていた時に自己紹介されたなら、記憶が無いのは当然だった。

 だが、人影は首をふる。


「違う違う。本当につい先程さ。君の夢の中で、ほら」


 人影は俺が思い出すのを待つように、首を傾げてジッと俺を見つめる。

 俺も首を傾げて人影をジッと見つめた。


 夢?

 何を言っているんだ、コイツは?

 夢の中って、さっき見た夢は…。

 異世界転生ものが、どう、という…。


 まさか!と目をみはる。

 俺の表情を見て、人影は満足そうにウンウンと頷いた。


「思い出した? もっとも夢の中というのはちょっと違うんだ。君の魂をこちらに転送する際にちょっと語りかけただけさ」

「ちょっと待て! 待ってくれ! 何を言っているんだ、君は? これは夢か? 夢だろ? 夢だな」


 最後は断定だったが、人影は首を傾げた。


「夢? うーん、その議題は僕としてはなかなか魅力的だなぁ。何せ、夢魔だからね。コチラが夢か? アチラが夢か? 君はドッチだと思う?」

「いや、どっちも何も…」

「なぁんてね。君がどっちを夢と思おうと僕には一切関係ないんだ。結局、今、君がココにいることが大事だからね」


 ニッコリと、いや、窓を背にしているからいまだに顔は見えないんだが、とにかくそんな雰囲気で人影は、俺を見た。

 ゴクリと俺は知らず知らずに唾を飲み込んだ。


「ココは、どこ、なんだ?」


 尋ねた声はかすれ、弱々しかった。

 だが、人影は嬉しそうに笑った。


「そう、ソレ。それをまず初めに聞いて欲しかったなぁ」


 そして、窓辺から離れ、ツカツカと俺の側へとやって来た。

 その時になってようやく彼が、なんだかガウンのような、ファンタジー映画でよく見る中世西洋風なローブを着ていることに気づいた。

 手には大きな杖を持っている。

 だが老人というわけでもなく、かなり若々しい動きで(実際に声も若々しかった)、男のくせに(たぶん男)腰まである髪をなびかせて、さっそうと俺の隣に立った。


「ようこそ、キャメロットへ! 僕の名前はマーリン。夢と冒険に満ちたアーサー王の物語は君のものだよ!」

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