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王太子殿下に嫉妬の炎を燃やした公爵令嬢の憎しみと愛。さようなら。かつて愛した人…どうか生きて幸せになって下さいませ。

作者: ユミヨシ

レスティアナ・ミルデンティス公爵令嬢は、それはもう銀の髪の美しい令嬢である。

高貴なミルデンティス公爵家に生まれ、幼い頃からこのデテール王国の王太子の婚約者に定められ王妃になるべく、育てられた。


- わたくしはこの知性と美しさを持って、王妃になり、国の最高の美しき薔薇として君臨する為に生まれてきたのだわ。-


幼い頃から、婚約者のルード王太子に付き従い、彼を信じ、共に王国の為に並び立つ事を信じて疑わなかったレスティアナであったが…


王立学園に入学して、ルード王太子の周りに色々な女性が接近するようになったのだ。

レスティアナと言う婚約者がいるにも関わらずである。


貴族達にも派閥があり、王妃を輩出する事により、ミルデンティス公爵派閥が力をつけるという事をよく思わないアーレスト公爵派閥や、リステルク公爵派閥等の令嬢達がルード王太子に接近してきたのだ。


シシリア・アーレスト公爵令嬢とマリーヌ・リステルク公爵令嬢はレスティアナに負けず劣らず美しく優秀な令嬢で、休み時間になるとルード王太子の傍に行き、

それはもう親しく話しかけて。


ルード王太子も満更でもないようで。


「解らないことがあったらいつでも聞いてくれたまえ。」


「まぁ、王太子殿下はさすがお優しいですわー。」

「本当に。とても素敵ですわね。王太子殿下っ。」


二人の公爵令嬢達はルード王太子を褒めまくる。


レスティアナとしては面白くもない。


何故?わたくし以外の令嬢と親しくしていらっしゃるの?ルード様。

何故?あの優しい微笑みをあの令嬢達に向けていらっしゃるの?何故っ?何故っ?



レスティアナには幼い頃からルードしか目に入っていなかった。

心の中、全てを占めていたのはルードだけ。

いつでもどこでもルード王太子殿下の事を考えていたのだ。


ルード様の為に、わたくしは何が出来るのかしら。

ルード様と共に国の為に役に立ちたい。

ルード様は今、何をしていらっしゃるのかしら?

ルード様とのお茶会。どのドレスを着て行こうかしら。

ルード様からお花が届いたわ。嬉しい…とても嬉しい。何て綺麗なの…


生活の全てがルード中心だった。


だから、公爵令嬢達がルード王太子と親しくしているのを遠くから見つめながら、

メラメラと嫉妬の炎を燃やしていたのであった。


それでも、お昼ご飯は共にルード王太子と食べていたので、それだけは楽しみにしていたのだが。


とある日、例の公爵令嬢達が、食堂でルード王太子とレスティアナが食事をしていると、声をかけてきた。


「ご一緒してよろしいかしら?」

「わたくし達も王太子殿下と共にお昼ご飯を食べたいわ。」


ルード王太子はにこやかに、


「ああ、かまわない。賑やかな方が楽しいからな。」


レスティアナは心の底から思った。


貴方はわたくしと二人きりになりたくはないの?

わたくしは嫌っ…貴方とふたりきりの時間を邪魔されたくないのよ。

わたくしは嫌、嫌なの。


レスティアナとルード王太子は対面で丸テーブルに座っていたのだが、

二人は椅子を持ってきて、ルード王太子の両隣に座り、

シシリアが身を乗り出して、


「まぁ、ルード様。いい匂いがするわ。」


ルードの髪に顔を寄せて匂いを確かめるシシリア。


ルード王太子はにっこり笑って、


「解るか?香水をつけているんだ。」


マリーヌもルード王太子に身を寄せて、


「わたくしもルード様の匂いを嗅ぎたいわ。」


ルード王太子の髪の匂いを嗅いでからうっとりとした表情で、


「本当にいい匂い。どこの香水をお使いですの?」


ルード王太子は自慢げに、


「レストン商会の香水だ。レスティアナは香水アレルギーとか言って、ちっとも褒めてくれないが、君達は香水が好きなようだな。今度、プレゼントをしてあげよう。」


「まぁ嬉しい。」

「有難うございます。」


レスティアナはいらいらする。


仕方ないじゃない…わたくしは香水の匂いで、喉が痛くなるのだから… 


この場にいたくない。


レスティアナは立ち上がって、


「わたくし、先に教室へ行っていますわね。」



その場を後にする。


悲しい…悲しい…悲しい…

なんて悲しいのかしら…


わたくしは初めてルード様に会った時から、恋に落ちたの…

ずっとずっとルード様の事だけを考えて生きて来たの…

こんなにもこんなにも悲しくて辛いなんて…


こんな気持ちのまま授業に出たくなかった。


裏庭に行くと、ベンチに座り、一人涙を流す。


「綺麗な女性が泣いていると、ほってはおけなくなる…」


「え?」


声が聞こえた。どこからか声が…


しかし、姿が見えない。


「何があったか聞いてやるから、話してみるがいい。」


「貴方は誰?どこにいるの?」


「木の上だ。」


上を見上げてみれば、黒い鳥が一羽、枝の上に止まっていた。


黒い鳥はレスティアナに向かって、


「この鳥は使い魔。俺は鳥を飛ばして色々と調べていた。そこでお前を見かけた。」


「そうなの…怪しいわね。ルード王太子殿下に危害を加えるような敵なら王家に報告しなければなりませんわ。」


「ハハハハハ。あのような仕打ちをうけても、ルードの事が好きなのか?」


「ええ。大好きよ。愛しているわ。わたくしの全てはルード王太子殿下の為にあるの。

わたくしは王妃になるのよ。この国をルード王太子殿下と共に治めるの…

多くの人達が、わたくし達に感謝をするわ。良い政治をしてくれてありがとう。

有難うって…」


「泣きながら言うな…」


「だから、あの令嬢達が憎い。ルード王太子殿下の傍に近づく令嬢達が憎い。

殺したいくらいに…」


「殺したら駄目だろう?いくらなんでも。」


「そうね…」


「俺でよければ話位聞いてやるから…昼頃にここに使い魔をよこす。いつでも愚痴を言うがいい。」


「有難う。嬉しいわ。」



それから、レスティアナはルード王太子と食事をとらなくなり、昼休みは謎の男性、鳥の使い魔と話をするようになった。


「ルード様と心が離れているような気がするの…わたくしはいつ婚約破棄をされてもおかしくはないわ。」


「王家と公爵家との取り決めだろう?そう簡単に婚約破棄されるものか。」


「でも…あの令嬢達は優秀だわ。家柄もミルデンティス公爵家と比べて劣らない。

わたくしはどうすればいいの?婚約破棄をされたら…わたくしは…」


「だったら…俺と婚約してみるか?」


「貴方は誰っ?お願い教えて。」


バサっと使い魔の鳥から姿を変えて、現れたのは黒髪で紫の瞳の…


レスティアナは叫ぶ。


「ディード王弟殿下っ。」


王弟ディード。歳は30歳。王の歳の離れた弟はいまだ独身で、そして王位継承順位は2位であった。


「レスティアナ。そなたが俺の妻になってくれれば、俺はルードを追い落とす。そして王位につこうと思う。協力してくれるか?」


ルード様を追い落とす?

ルード様が破滅する?

ルード様が…ルード様が…


答えに困っていると、ディードはレスティアナに、


「まずはお前の婚約を白紙にしないとな。今度の夜会でルードに俺から話をつける。

そして、お前は新たに俺と婚約を結ぶ。いいな?」


レスティアナは頷くしかなかった。

どうせ捨てられるのだ。ルード王太子から捨てられるのだ…だったら、

こちらから捨てるしかないでしょう?


ディード王弟殿下は着々と貴族達も味方につけていたようであり…

野心溢れるこの男にエスコートされて、レスティアナは夜会にディードからプレゼントされた豪華な紫のドレスに紫水晶の髪飾りをつけて出席した。


レスティアナの白い肌に銀の髪に、品のよい紫色のドレスはよく似合う。


ルード王太子の婚約者であるレスティアナがディード王弟殿下にエスコートされて現れた事に夜会の出席者達は皆、驚いた。


ルード王太子がレスティアナに近づいて、


「私のエスコートを断ったと思ったら、何故?叔父上のエスコートを受けている?君は私の婚約者のはずだ。」


レスティアナは扇を口元に当てて、


「ルード王太子殿下には他にエスコートを望む御令嬢達がおりましょう。わたくしはディード王弟殿下にエスコートされたいと願ったからエスコートして頂いたまでですわ。」


ディード王弟殿下はニヤリと笑って、


「王家からミルデンティス公爵家に婚約者の変更を言い渡した。そしてミルデンティス公爵家はそれを承諾した。よってレスティアナ・ミルデンティス公爵令嬢は今宵から私の婚約者になった。」


そこへ、この国の王。キース国王が王妃と共に前に進み出て、

ルード王太子は両親に訴える。


「私は承知しておりません。レスティアナは私の婚約者。婚約者なのです。

それを叔父上の婚約者に変更などと…何故ですか?」


レスティアナが美しいドレス姿で前に進み出る。


「わたくしが望んだ事だからですわ。王太子殿下。わたくしはディード王弟殿下がわたくしと共に歩んで行って下さるに値する方だと判断したから、婚約者の変更をお願いしたのです。わたくしが望んだ事。わたくしが…」


ルード王太子を睨みつける。


ルード王太子はレスティアナに、


「何故だ?私達はずっと共に歩んで来たのではないのか?幼い頃からこの国の為に共に並び立とうと…ずっと話し合ってきたはずだ。」


「わたくしはずっと貴方と共に歩んで来たと思っておりました。でも、貴方は他の令嬢でもよいみたいですわね。王立学園に通って貴方の他の令嬢達への態度を見てわたくしそう思いましたの。」


シシリアも、マリーヌも、ルード王太子の両隣へ行き、


「わたくし達がいますわ。」

「そうですわよ。わたくし達のどちらかを未来の王妃に選んでくださいませ。」


ルード王太子の腕を取る、公爵令嬢達。

ルード王太子は嫌がるでもなく、両隣の令嬢達を見やり、


「私は色々な令嬢達と友達になりたかった。あくまでも友達だ。

婚約者の君とは別だ。君は私の特別だ。だって婚約者だろう?」


「わたくし知っておりますのよ。シシリア様に香水だけでなくて、ルビーのペンダントを贈ったそうですわね。マリーヌ様にも香水と共にエメラルドの髪飾りを…

お友達にしては高価な贈り物を…わたくし、ここ最近、殿下からプレゼント一つ貰っていませんわ。」


ルード王太子は慌てて、


「それは…この令嬢達の公爵家に私の味方になって貰いたかったからだ。

王太子殿下と言う地位は貴族の支持もある程度必要だと思っている。

だから、二人に贈り物をした。ミルデンティス公爵家は君と婚約をしているから敢えて、機嫌を取る必要も無かったから。」


ルード王太子の言う事はよく解る。

味方の公爵家が多ければ多い程、先行き政治もやりやすくなる。

自分の地位も安泰であろう。


しかし…レスティアナは割り切れなかった。


ディード王弟殿下が両腕を組んで、


「俺は贈り物はレスティアナにしかやらん。貴族達には別に利を持って説得をする。

ルード。その地位、必ず追い落として見せる。覚悟をしておけ。」


国王陛下がようやく口を開いた。


「ルードが王太子であるが、貴族達の反対が多ければディードに王の位を譲らねばならん。

ルード。お前はお前の手腕で自分の地位を確固たるものにするがいい。」


ルード王太子は膝をついて、レスティアナを見上げる。


「レスティアナ…愛している。愛しているのは君だけなんだ…本当だ。本当に愛している。」


レスティアナはディード王弟殿下に腕を絡めて、


「わたくしが今、愛しているのはディード様ですわ。さようなら…ルード様。」


ルード様一色に染まっていた日々も…

ルード様との様々な思い出も…

ルード様を愛しているその心も…

全てさよならしましょう。



レスティアナに見捨てられたルード王太子はアーレスト公爵派閥や、リステルク公爵派閥を一時的に味方につけるも、一年もしないうちにディード王弟殿下の手腕に敗れ去り、廃嫡の憂き目を見て地方へ行くことになったのであった。


「レスティアナ。レスティアナ。愛しているっ。反省しているっ。だから開けてくれっ。」


ミルデンティス公爵家の門の前で叫ぶ元王太子ルード。


それを屋敷の窓から眺めるレスティアナ。


「外は雪が降ってきたようね…」


もうすぐ、ディード王弟殿下、次期国王と結婚式を控えているのだ。


レスティアナの胸が締め付けられる。

かつて愛した人…ともに未来を夢見た人…

何故?何故?まだ、わたくしに執着しているの?


他の女性にプレゼントを贈っていたじゃない?

わたくしの目の前で公爵令嬢達とイチャイチャしていたでしょう?


雪の中、門の前に現れたレスティアナ。


ルードが嬉しそうにレスティアナを見つめる。

ボロボロの格好で、痩せてしまって…


もしかしたら、ディードなら、この男を地方へ飛ばした後に毒杯を飲ませて殺すかもしれない。

廃嫡されたとは言え、元王太子なのだ。先々、この男を担いで、地方で反乱を起こす貴族がいないとも限らない。憂いは断つ。ディードならやりかねないだろう。


レスティアナはルードの顔を見つめ、そっと門越しに温かいコートと金貨の入っている袋を渡して、


「これを持って行方をくらませなさい。」


「レスティアナ。」


「ディードは必ず貴方を殺すでしょう。わたくしは貴方を殺す事は出来ない。」


「一緒に行こう。私と一緒に。」


「それは出来ないわ。ディードを憎しみの底へ突き落せというの?

人を憎む事、それはとても悲しい事…わたくしは貴方を憎んだわ。

とても辛かった。それを助けてくれたのがディードなの。

わたくしはディードと共に並び立つ。この国の王妃になるわ。」


「ああ…私はどこで間違えたのだろう…私が君と共に並び立つはずだったのに。」


「さぁ、お行きなさい。雪が酷くなるわ。必ず生きて…生きて。

それがわたくしがかつて愛したルード様に願う事。必ず生きて下さいませ。」


門越しにルードの手を握る。


とても冷たかった。


胸が締め付けられる。


さようなら…かつて愛した人…さようなら…


ルードはコートを羽織って、


「有難う。レスティアナ。どうか、私の分もこの国を…皆を幸せにしてやってくれ。

私は必ず生きてそれを見届けよう。さようなら。」


「さようなら。ルード様。」



走り去っていくルードを見送るレスティアナの目から涙がこぼれる。


どうか…どこかで必ず生きて幸せになって下さいませ。


それがかつて愛した、そして憎んだ、わたくしの全てであったルード様へ願うただ一つの事…


さようなら…ルード様。さようなら…





レスティアナはディードと結婚し、ディードは国王になると共にレスティアナは王妃になった。

良い政治をし、二人は長く国民に慕われた。

可愛い子達にも恵まれて幸せに暮らしたという。


ルードの消息については、どうなったか書物にも残っておらず定かではない。





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