言い出しっぺ
彼は思い通りにならなければ、どんなことでも直ぐに言ってしまう人間だった。
そして、彼には人を焚き付けてしまう才能もあった。彼の言葉は、感情的に話しているのに、理論的に話しているようにも聞こえてくるのだ。
例えば、徴兵制度を反対してデモを行なって徴兵制度を廃止させたり。
例えば、テロリストへの取り締まりを厳しくするよう政府に要望したり。
例えば、女性蔑視の記事を見かけたら直ぐに非難したり。
彼の言動や行動によって、世界からはさまざまな議論がわき起こり、結果的に彼の言い分が全て受け入れられた。
彼はメディアに取り上げられて、情報番組のコメンテーターをやるようになった。彼の言葉は歯に衣着せぬ発言だらけで、賛否両論もあったのだが、それでも受け入れる人が殆どだった。
彼の発言によってデモが起きたり、政府高官が釈明したり、国の予算の半分以上が削減されたり……。最早、彼の言葉に世界が注目するようになった。
そんなある日の早朝、彼の家のインターホンが鳴った。
「はい、誰でしょう?」
眠たい瞼を擦りながら、彼は扉を開けた。
「わたくし、警察のものですが」
「警察? 警察がわたしに何の用ですか」
「あなたを逮捕しに来ました」
「逮捕?」
彼は訝しんだ。自らを振り返っても、そんなことをした覚えはなかったからだ。
「身に覚えがないようですが、一言で申し上げますと、あなたは国家反逆罪です。あなたは、国を危険に晒す行動が多く、このままでは国家を転覆させる可能性すら有り得ます」
「そんな馬鹿な! わたしがそんなことをする訳がないだろう! わたしはこの国のためを思って……」
「それと、」
警察官は手錠を用意しながら言った。
「あなたも発言されたのでご存知の通り、これはあなたが要望したテロリスト取り締まり改正法により決定されたものですので……」