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1 私とイモと馬の腹

こんなことある?!



両手いっぱいに抱えた麻袋から、うっかり転がり落ちたじゃがいもにあわてて手を伸ばした瞬間、



目の前に現れた馬の腹……。



嘘でしょ?!またなの?

こんな死に方、一回で十分なんだけど……。




ん?また?

あれ、私、前にもこんな死に方したことあったっけ?




スローモーションのように降りてくる馬の前足を目前に

「この馬のお腹真っ白だわ」とか「あら、この馬オスなのね」とか、どうでもいいことしか頭に浮かばない。


一瞬フワッと風を感じ体が浮かぶような感覚があったけど、次の瞬間ガツンッと頭にものすごい衝撃を受ける。


目の前が真っ黒になった。


ぼんやりとした視界の先にはコロコロと転がる愛しいじゃがいも達と、赤黒い血だまり。



これ、私の血……?



誰かが遠くで呼んでる気がする。



ああ、でも意識が遠くなる……。




「…………サ……ナ……っ」




違うわ。私の名前は…………。








「…………ラ…………テラっ………」



「ステラッ!!!」



急に意識を引き戻された。


ゆっくりとまぶたを上げると、心配そうに見下ろす美少年が一人。

あら、なんてイケメン。


少し長めの緋色の髪は柔らかくウェーブがかかっている。瞳の色は濃い蒼。心配そうに眉を寄せて私を見下ろしている顔つきからして年の頃は十代前半ってとこかな。


ちょっと薄汚れているけど、身綺麗にして、身なりを整えたら王子様って言ってもおかしくない容姿をしている。


あと何年かしたら世の女性はほっとかないんじゃないかしら。まさに原石ってとこね。だけど……、ごめん。残念ながら対象外。


私があと20年若かったら考えないこともなかったんだけどね~、なんて考えてふと我にかえる。


そうだった。


私はもう恋愛はしないって決めたんだった。男なんてもうこりごり。




そんな事を考えながら、ぼんやり少年を眺めていると、


「ステラ!大丈夫?!ああ……よかった…。気がついて。もう目覚めないんじゃないかって…僕…。全く!なんでいつもそうやって後先考えずに飛び出すんだよっ……!」


真剣な顔で私を怒鳴りつける。

怒ったような少年の声が、やがて泣きそうに震えた。

ああ、そっか。心配かけちゃったんだ。


「ごめんね、アレン……」


私の口から勝手に言葉がでる。


そうか、この少年はアレンっていうのか。


起き上がろうと頭を持ち上げた私を彼はあわてて押し戻した。


「まだ起き上がっちゃだめだ。君、馬車に轢かれかけたんだよ。もう少しで馬の足に踏み潰されるところだったんだよ。出血もあったし、頭もかなり強く打ってたから…。暫く安静にしてて、ステラ」


さっきの馬の腹はそういう事だったんだ。納得。


頭に手をのばすと確かに包帯のようなものが巻かれていた。

彼はそっと額にかかる髪をよけてくれながら、事の詳細を説明してくれた。


彼と二人で買い物に出たこと。途中うっかり落としたじゃがいもを追いかけて道に飛び出した所に運悪く馬車が通りかかり、ビックリした馬車馬の前足に蹴りあげられ意識を失ったこと。その馬車はこの地を治めるヴェルナー男爵家のもので優しい老男爵夫妻が屋敷に運んで手当てをしてくれたこと。そしてついさっきの出来事だと思っていた事故は三日前の出来事で、その間ずっと意識がなかった事を告げられた。




(はあ、私馬に蹴られちゃったのね。誰の恋路も邪魔したわけでもないのに…)




「痛いところはない?ステラ」


それにしても、さっきからこの子、ステラステラって何を言ってるのかしら。


「…ねえ君…。さっきから私の事ステラって呼んでるけど誰かと間違えてない?私の名前はサナよ。渡瀬紗奈って言うの。」


「…………!」



彼が固まる。

目を見開いて私を凝視する彼の瞳が信じられないと言うようにフルフルと揺れる。



(あれ……?ちがう……わたし…は…あれ…?)



なにかおかしい。


私はこの子の事知らない。だってこんなかっこいい子一回見たら絶対忘れないもん。


なのに、なんで彼は私の事知ってて……私の事をステラって呼ぶの?


それに、ちょっと待って!ここどこ?男爵ってなんなの?私が馬車にはねられたって…どういうこと?



…違うわ。確かあの時私、ものすごく酔っぱらってて、帰りがけにコンビニで買ったハッシュドポテトを落としそうになってあわてて足がもつれて車道に……。

車のクラクションの音とライトがすごく眩しくて……そこで……?それから……?



「ステラ!!」



両頬を強く挟まれてはっと我にかえる。混乱した頭のまま見上げたアレンとう少年の瞳がゆらゆらとゆれている。泣いているんだろうか。



「アレン……」



私の口から自然にその名前が出た。



そう……彼はアレンだ。私の幼なじみの少年、アレン。


そして私の名前はステラ。


姓もない、生まれてすぐにスラム街に捨てられていた下層階級のただのステラ。


じゃ、さっきの記憶は……。



今度こそ、ベッドから跳ね起きる。ビックリしたアレンがひっくり返って尻餅をつく。



思い出した…………。 




あれはおそらく私の前世。


いや、多分。


もしかして?


なのかしら?



今まで生まれかわった事がないからはっきりは言い切れないけど、たぶん、そう。



前世の私は渡瀬紗奈という名前の日本人だった。年は二十九歳、独身。普通の家庭に生まれて普通に進学をして、小さなコンサルティング会社に勤めていた。

そしてあの日、珍しくお酒を飲んでの帰り道。

コンビニで買ったハッシュドポテトを食べながら、うっかりよろけて、そのまま車にはねられて死んだんだ……と思う。

その前後の記憶が思い出せないからはっきりとは言い切れないけど。



あ、なんかめまいがする。



そうよね、こんなおかしな記憶思い出しちゃったんだもん。そりゃ、頭も痛くなるわよね。こめかみに手を当てるとなにかベタベタしたものに触れる。なにかしらと思って自分の手を見る。



「ステラ!頭から血が……っ!」



アレンの慌てた声と自分の目で確認した。



あ、ホントだ。私血まみれだね。



それだけを確認して、私は再び意識を手放した。

初めての投稿です。

至らぬ点もあるかと思いますがどうぞよろしくお願いします。


第二話は本日21時頃を予定しています

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