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プロローグ


ネサイネイス大陸



この大陸では人間と魔族の戦争が続いていた。


魔族とは、内包する膨大な魔力と、繊維数の違いから来る強力な筋力を有する種族で、外見的には人族と大して差はない。

唯一の外見的な差は、魔力を宿す紫色の瞳である。



大陸は横長の長方形のような形をしており、

中心を境に西側に人族領、東側に魔族領と別れており、大陸中心部では長きに渡って戦が繰り広げられていた。


人族にはごく稀に人間とは思えない魔力、筋力を持って生まれる子がおり、

人々はそれを「勇者」と呼んだ。


魔族と比べ魔力、筋力で劣る人族は魔族に対抗するため、

3人の勇者を筆頭に、唯一の武器である数を生かし、人海戦術で戦線を広げる事で戦争を拮抗させた。


それに対し、魔族は膨大な魔力と固有の能力を持つ7人の魔族「七魔王(ななまおう)」をリーダーとし、個の力を生かし戦争を進めていたが、

戦争が始まって既に20年以上が経過しており、互いの種族は疲弊し、消耗し切っていた。



そんな中、三勇者の1人【紅】の勇者と、七魔王の1人【暴食】の魔王が討ち死にし、戦況が大きく変わろうとしていたのだった。





─────とある城内の一室。

魔族の次の一手を考えるべく、5人の魔王たちが集結していた。


「勇者1人を道連れに死んだのなら大したもんだが、

 まさか七魔王の中でも暴食のジジイがやられるとはな、てっきり食いモンでも喉に詰まらせて死ぬと思ってたが、戦争ってのはわかんねェモンだな」


落命した魔王を馬鹿にしながら話すのは【強欲】の魔王。

見た目は完全に少年で、ただの口の悪い子供にも見えるが、両手の指10本のうち9本にはめられた巨大な宝石のついた指輪が、彼を強欲の魔王であると証明していた。


「嫉妬が死んでからもう5年、無敵と言われた七魔王ももう5人になった。アタシたちが死ぬのもそんなに時間は掛からないのかもな」


強気な口調と裏腹に、弱気な台詞を吐いたのは【色欲】の魔王。

見た目の年齢は10代後半~20代前半の少女である。

身体の線はスラリと細く、下はホットパンツ、上は明らかにオーバーサイズなシャツ1枚というガサツを前面に出した格好をしているが、発する言葉一つ一つがどことなく色を含んでおり、何より胸の圧倒的な双丘が存在感を主張している。


「なに寝ぼけた事言ってンだ、俺たちが全員死んだ時は魔族が滅亡するときだってわかってンのか」


「暴食がいなくなってちょっとだけおセンチな気分になっただけだよ。全てを欲する強欲さんは女心も手に入れた方がいいんじゃないかい?」


「ウルセェよ、テメェも色欲の魔王なら俺様が欲しくなるよう、もうちっと色気を出してみろってんだ」



「二人とも、無駄話はそこまで。」


会話を遮ったのは【傲慢】の魔王。

細かな装飾が施されたパリッとした正装をしており、顔にはモノクルを付け、オールバックにした銀髪を整髪料で固めている。

一見どこかの屋敷の執事にも見える佇まいをしている。


「全員揃ったことですし、本題に入ろうと思います。さていきなりですが、私から一つ提案があります。」


「まァ正直これからどうするか頭を抱えてた所だ、提案があるなら是非お願いしたい所だな」


「アタシからもお願いするよ」


「…異議無し」


「僕も問題ないよ」


無愛想に答えたのは【憤怒】の魔王。

声から女ということはわかりはするものの、身体全体をボロ布としか言えないカーテンのような大きな黒い布で隠しており、外見は何もわからない。わかる事は180センチを超えた長身と、辛うじて見える真紅の瞳である。


差し障り無く答えたのが【怠惰】の魔王。

外見的な面でいえば、平民の様な格好をしており特徴という特徴が何も無い。

ただしこの場において異色なのは、他の魔王たちは椅子に座り円卓を囲っているのに対し怠惰の魔王のみが床に寝そべり、天井をボーッと見上げている。




「それでは失礼して。

勇者が一人死んだ今、魔族全軍をもって、一点集中しての大規模攻勢を行い戦争を終結させる。という提案をさせて頂きます。」





───────────────




「だから何で俺の言ってる事がわからねェ!」


「そうは言っても強欲、アタシもここで一気にこの戦争に終止符を打つべきだと思うけどねぇ」


「確かに全戦力集中して一気に叩けば戦いには勝てるだろうさ。だが魔族が受ける被害も相当なモンになる。

それに前線に接してるオレ様の領が受ける、壊滅的な被害はどうするつもりだァ!?」


「それでしたら私たちがバックアップしますよ。あくまで劣等種への勝利こそが私たちの望みですからね。」



【傲慢】の魔王が提案を切り出してから15時間以上が経っていた。

部屋からは【強欲】の魔王の罵声が続いていた。




「そりゃどうも。だがさっきも言った通り、オレ様の領だけの話じゃねェ。

総攻撃となると薄くなった戦線は壊滅するだろうし、そもそも主軍が受ける被害もただじゃすまねェンだぞ、何人殺すつもりだァ?」


「でも代案が無い事も事実だろう?ところで、さっきからずっとアタシら三人の会議になってるからさ。ここらで憤怒と怠惰の魔王様たちの意見も聞こうじゃないか」


話が平行線を辿っており、このままでは埒が明かないと踏んだ【色欲】の魔王が、会議が始まってから全く口を開いていない二人の魔王へと意見を求める。

開始からずっと床に這いつくばっている【怠惰】の魔王が、眠そうな声でゆっくりと口を開ける。


「強欲の言うとおり、戦いには勝ってもこちらの被害は凄まじいだろうね、それに戦争が終わった後の事を考えると事を焦りすぎな気もするね。

残った人間の統治とか戦後処理のことまで考えると、僕もあまり傲慢の意見には賛成できないなぁ、何より、面倒くさい」


「…何を言っている」


【憤怒】の魔王から怒りの籠った低い声が漏れる。


「…仲間が、たくさんの同胞が、5年前には嫉妬が、そして今回は暴食の大老殿がやられたんだぞ、人族など根絶やしだ。やつらに生きる価値などない。故に統治など考える必要もない」


【怠惰】の魔王は姿勢を動かさずに一瞬【憤怒】の魔王へ目を向け、短いため息をつくとすぐに天井へ目線を戻し、口を閉じた。


「テメェ憤怒、それをやれば死ななくてもいい魔族がメチャクチャ死ぬって分かって言ってンのか?」


「…これは弔い合戦だ。みな喜んで戦うさ。元より私は自分の軍のみでも行くつもりだ。

私は戦略にこそ明るくないが、軍の戦力でいえばどの魔王軍にも引けを取らない、七魔王最強の自負がある。今日ここに来たのは一緒に戦う者を募る為だ」


【憤怒】の魔王のボルテージが上がっていくのを感じ取り、色欲の魔王が口を開く。


「二人ともそんなに怒るなよ。それに強欲、アタシの出せる私兵だって、全てお前さんの領へ向かわせる。 魔族全体の問題だ、強欲だけに損な役回りはさせないさ」


「だから魔族全体を見てこんな馬鹿げた策は間違ってるって言ってンだろうが!!!」


「…何も手放すことが出来ない【強欲】か。臆病の間違いだろう。

こうして意見を違えた事は初めてだが貴様の考えは、思っていたより醜いな」


「あ?【憤怒】の怒りで脳みそまでドロドロに溶けたか?

思考を止めたテメェみたいなクソ女が魔族のトップに立ってると思うと反吐が出ちまうなァ!」


【強欲】と【憤怒】の魔王に魔力が集まり、部屋に緊張が高まっていく。


そんな時、机に向かって拳が振り下ろされた。

城中へ轟音が響き、瞬時に机が木端微塵に砕け散った。おそらく何が起きたのか知覚出来るのは勇者と魔王のみであろう。


【傲慢】の魔王が机を叩き割ったのだ。


「まぁまぁ、一旦落ち着いてください。まさかここまで意見が割れるとは。

ここはどうでしょう。全員の意見を踏まえ、今回の総攻撃を行うか否か多数決で決定としませんか?」

何事も無かったようにニコニコと話す【傲慢】の魔王。


「アタシもそれがいいと思うぜ、このままじゃ決まるもんも決まんないだろ」


「…ふん、一応付き合ってやる。どんな決定でも私は行くがな」


負けが決定している多数決。

【強欲】の魔王は短い舌うちをし、攻勢に出た際の魔族被害を如何に減らすかを考え始めるのだった。



その後、多数決による決定が下された。

3対2で意見は割れたが、大した意味はなかった。


魔族による大規模攻勢が決定したのである。




───────────────




詳細については翌日の朝に話し合う事で解散となった。

夜に始めた会議だったが、日を跨いだ後にすっかり日が昇っており、解散と同時に正午の鐘が鳴った。



「それで、お三方はやる気十分みたいだが、テメェはどうするつもりだ怠惰」


部屋に残ったのは二人。【怠惰】【強欲】の魔王である。


「さて、どうしたものかな。そんなことより君は凄いね、魔族全体が見れている。

腹の底が見えない打算的な傲慢、流されやすい短絡的な色欲、現実を何も見ていない感情的な憤怒。魔王と言えば聞こえはいいが、強さで選ばれたトップなんてロクなものじゃない」


「当たり前だ。魔族はオレ様のモンだ。オレ様は手に入れたモンは腕が千切れるまで離さねェ。いや、千切れても死ぬまで離さなねェ。

あいつらは兵を捨て駒としか思っちゃいねェんだろうが、オレ様の辞書にそもそも捨て駒なんて言葉はねェンだ」


「それは何とも欲が深いね。でも、その考えは嫌いじゃない」


「だからこそ何とかしなくちゃいけねェんだがな…今回に関しては…どうにも出来そうに無い…」


歯をギリギリと食いしばり、どんどん言葉が小さくなっていく。

【強欲】の魔王の握った手からは血が滲み、自慢の指輪に付けられた宝石に沿って、血が床へとポタポタと垂れていた。


「本当は面倒くさいし、成り行きに任せようと思ってたんだけどね」


そう言うと【怠惰】の魔王は身体を起こし、立ち上がる。


「気が変わったよ」


【強欲】の魔王をじっと見つめると、ゆっくりと口を開けた。





「僕が戦争を終わらせよう。だから一つだけお願いを聞いてほしい」







───────────────






その夜中。ネサイネイス大陸が揺れた。


大規模な地震が発生し、大陸を西と東で完全に2つに分かつ、切り立った巨大な山脈が隆起したのである。


人間、魔族共に戦争終了を余儀なくされ、平和が訪れた瞬間であった。







七魔王は緊急で会議を開いたが、そこに【怠惰】の魔王の姿はなかった。




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