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第99話『First Time Meeting』彼女の親友

『Blue Stone』ではあらゆる驚きと感嘆の言葉が飛び交っていた。


グラスを傾けながら、隆二が愉快そうに話す。

「しかし、世の中は狭いよな。ここ(Blue Stone)の常連を彼氏に持つ葉月ちゃんの親友ってのが、かれんちゃんだったとは……」  

「ホントですよ! 私の親友をフェスに連れて行ってくれたのが『Blue Stone』のリュウジさんで、まさかの『Eternal Boy's Life』のドラマーだったなんて! もう衝撃的事実です!」



かれんの話を聞くほどに、彼女らがどれほど信頼し合いお互いを大切に思っているのかが見て取れた。

「リュウジさん、昨日の話、聞かせてもらえませんか? お願いします」

かれんは真剣な顔をして、隆二に頭を下げた。



隆二は彼女らに向かい合うようにカウンターの前の立った。


葉月が花時計に来てから遅れてきた元彼と合流したあと奥のベンチに行き、最終的には彼女が頭を下げて「自由にして」と言ったところまで、事実に基づいて話した。

そこから暗くなってきたので声をかけ、顔のささない屋台のケバブを車の中で食べてから家に送って行ったと説明する。

葉月と過ごした海辺の時間については話さないことにした。

公園での別れ話以降のことについては、少々いい加減に話しても誰も突っ込んでくることもなく、隆二は少しホッとする。


「そっか、最低男と別れられたんだったら、次のステップだな! 良かったじゃん、彼女」

かれんの彼氏のハルはそう言ってから、奥に招いた客人の所へ席を移した。

残ったかれんはスッキリした面持ちで、嬉しそうにしている。


「ホントに良かった! そうだ、葉月のママにも連絡しなきゃ!」

「ああ、俺、昨日送って行った時に、葉月ちゃんのお母さんに会ったよ」


かれんは意外そうな表情で隆二に目をやる

「え? そうなんですか、リュウジさんが?」

「あ、ボクもこの前会った」

「ええっ? ユウキも? なにそれ! 葉月ママは私より先にユウキにも会ってたってこと? ズルいなぁ」

「かれんちゃんはずいぶん彼女のお母さんと仲良しみたいだね?」

「ええ、葉月のママは葉月よりも面白いから大好きで!」

「ああ、それわかる!」

「でしょ? ユウキの事もリュウジさんの事も認識してたはずよ! 会いたいって言ってたもん」

「そのくせ一番好きなのはトーマさんなんだろ?」

「あはは。そうそう! あ、でもキラのインスタ見たって聞いてるから、リュウジさんかも? ねぇリュウジさん、昨日葉月ママに会った時はどうでした? そんな感じだったんじゃないです?」

隆二はこめかみを掻く。

「ああ……まぁ」

「やっぱり!」

「ヤバイですね、うちの母親しかり葉月のママまでも……今やマダムキラーですね、リュウジさん!」

「うるせーよ、お前は!」


「じゃあ……」

かれんは身を乗り出さんばかりに、二人に問いかけてきた。

「葉月の本命って、誰だと思います?」


裕貴は眉を上げて隆二を見上げた。

「そんなことボクらに聞かれても……」

「ま、そりゃそうよね。キャストが一人足りないし?」

「キャスト? 誰?」

鴻上こうがみ徹也さんよ!」

「……ああ。親友の見解では鴻上さんがダントツのナンバーワンって言ってたけど、なんで?」

「まぁ……なんといってもドラマチックな出会いじゃない? とはいえ……あの子はそれがドラマチックな出会いってあんまりわかってないかもしれないけどね」

「あはは。まあ、そこが葉月らしいかな」

「まぁね。でも聞きましたよ、リュウジさん! 一緒にバスケに行ったって。あ……なんかランチも行ったし? ショッピングも?」


「はは……結構何でも喋ってるんだね」

隆二は苦笑いする。


「女子って、そんなに何でも話すの?」

裕貴の問いにかれんは大きく頷いた。


「ええ、普通だと思うけど? 男子が秘密主義すぎるのよ」

「ああ、確かに……それを言ったらリュウジさんはかなり秘密主義だよ」


「ああっ? なに言ってんだお前」

隆二は裕貴を睨んだ。


「だから昨日もし葉月と何かあったとしても、リュウジさんなら言わないんじゃないかって……」

「おい! ユウキ! その目つき、やめろよ! 俺にやましいことはなにもない!」


裕貴とかれんは笑った。

「いやだなぁ、リュウジさん、冗談ですって! ね? なにげに面白いだろ?」

「うふふ、ホントね!」

かれんに微笑んだ裕貴が振り向くと、隆二が目をつり上げて見下ろしていた。


「コラコラそこの若者たちよ! オトナをおちょくるのもほどほどにしねぇとなぁ!」

「あはは、こわいこわい! イケメンのお説教も悪くないわね」

「かれんまで、おかしなこと言いださないでよ!」


「ふふっ、あっち(フェス)でもずっとこんな調子だったんでしょ? 楽しそう! 恋愛奥手の葉月がイケメン男子に囲まれる境遇かぁ……刺激的だっただろうな……まあそれくらいの刺激がないと、あの子はなかなか目覚めてくれないからね」


「はは、かれんは葉月の “ママ” みたいだな」

「あ、それよく言われる。ああ、由夏も言われてるわね」

「葉月さ、フェスで女子の友達も出来たんだけど、彼女らも一瞬にして葉月の “ママ” みたいになってたよ」

「聞いた聞いた! ルームメイトだよね? みんなしっかりした人ばかりだって言ってたわ」

「やっぱり葉月は危なっかしいからね。初日から、至近距離でキラさんを見ちゃって、骨抜きになってたから」

「ええっ! そんなことがあったの? 実は、フェスに行ってる間はなるべく細かくは連絡しないようにしようって由夏と言ってて」

「なんで?」

「まぁ新しい友達もできるだろうし、仕事も忙しいだろうから、そこでの世界を感じてほしかったの。こんなこと言ったら私、ホントにママみたいだけど、葉月にはもっと広い世界に出て、自分の立ち位置も自分を客観的に見る機会も持って欲しかったのよね。あの子すごく可愛いのに、つまんない彼氏のせいで自分に自信のない子になっちゃったの。そういう殻から抜け出して欲しかったんだよね。『獅子ししはわが子を千尋せんじんの谷に落とす』っていうでしょ? 私としてはあんな心境!」

「あはは。ホントにママなんだ!」

「そうよ! かわいい虎子を崖から突き落とす気持ちで葉月を送り出したってわけ。ああでも、そう言いながらも私たちだって、葉月に教えられることも多いのよ」


「すごい信頼関係だね」

「私達、一緒に仕事もしてるから」

「聞いたよ。イベント系のインターンみたいな仕事してるって」

「うん。今は一応大学生だからアルバイト的に仕事を請け負ってるけど、ちゃんとイベント企画も プランニングも、私と由夏と葉月であえて頭付き合わせてやってるの。まだ具体的には決まっていないけど、卒業したら会社を立ち上げるつもり。厳密に言うと、父の会社から独立するっていう形で」


「お父さんの会社? かれんちゃんの?」

「ええ。父は『東雲しののめコーポレーション』の社長なんです」

「えっ! 東雲コーポレーションの? そこの娘がかれん?」

「うん、そうなの」

「社長令嬢じゃん!」

「そう言われることもあるけど、かなりシビアに仕事させられてるのよ。プレゼンだって散々ボツ食らってばかりだし。それを言うとね、葉月の企画だけは通るのよ。あの子はなんか人の心を引き寄せる感性があるみたい」


隆二は頷いた。

「ああ、俺もなんかそう感じたことはあるなぁ。葉月ちゃんの表現とか、考え方に驚いた局面があったから」

「なんかいろいろ向こうで感じることがあったらしいよね! あんまり詳しくはまだ話せてないけど、今後のイベント企画とか集客においてアイデアが湧いたって。嬉しそうに言ってたわ!」


「ああ……まぁ確かに……色々あったからね」

かれんが不可解な顔をする。

「ユウキ、それどういう事? なんか、イミシンなんだけど」

「あ、いや。まぁ、それは直接葉月から聞いたら?」

「うん、そうなんだけど、私、フェスから戻った葉月とまだ会ってないのよ。早く話聞きたくてウズウズしてたんだけど あの子も何かと忙しいみたいで……まあでも昨日大きな厄介事を片付けたわけでしょう。とりあえず、ホッとしたわ」


かれんは少し身を正して言った。

「リュウジさん! 葉月に付き添ってくれて本当にありがとうございました! 感謝してます!」

「あはは。本当に“ママ”なんだな」

「ええ。だってあの子、危なっかしいでしょ? でもほんと、かわいいんです。成長してほしいけど成長してほしくないみたいな。あはは、これってやっぱりママでしょ?」

「ほんとだね」


「あの子ね、今日も遠方まで足伸ばして、どっかの個展見に行ってるんですよ」

「個展?」

「ええ。明日から鴻上徹也さんの会社の仕事が始まるので、その下準備だと思います。この週末から彼のメディアアートの個展が始まるって聞いてますよ? 葉月はそれまでに基礎知識をなるべく入れておきたいって言って、なんか本を読み漁ったりネット検索したり……それで今日は一日かけていくつか他のアーティストの個展を見て回ってるはずです。とにかく勉強熱心なんですよ、葉月は」

「へぇ……そこまで突き詰めるのか。まぁ確かに葉月ちゃんは、生真面(きまじめ)か天然か区別がつかないところもあるしな」


「うふふ、ホントに。それより! 気になってるんですよね私。また鴻上さんと再会したら、なんか始まっちゃうんじゃないのって、もう、ワクワクしちゃう!」

「なんで、かれんがワクワクするんだよ?」

裕貴が首をすくめる。


「だって、ビックリしたわ! 彼がエタボの映像クリエイターだったんでしょう? 聞いたわよ、ライブの見てる時に鴻上さんが突然現れたって! それこそまだドラマチックな二回目の再会じゃない? そこからまたすぐ消えて行っちゃうなんて……もう流れ星みたい!  すごく心奪われるシチュエーションよね、女子としては」

「へぇ……そうなんだ?」

「ヤダ、リュウジさん! そんなに引かないで下さいよ!」

「ああ……ごめんごめん」


「まぁでも、葉月の場合、大好きな『エタボ』のメンバーも目の前にチラチラしてるんでしょ? 私なら確実に頭おかしくなるかも?」

「葉月もだいぶ頭おかしくなってたよ」

「やっぱり? でしょうね!」


かれんはにっこりと意味深な視線を送る。

「それでなくても、いつもそばにイイ男がいるわけだしね?」

「ん? 誰?」

「なに言ってるの! 今、私の目の前にいる二人に決まってるでしょ!」

「え?」

「そりゃどーも」

かたや、いつでも親身に話を聞いてくれて、そばに寄り添ってくれる心許せる同級生、そしてあんなギターと歌声を聴かせちゃう色気と魅力をかざした優しいオトナのオトコ……普通はそれだけでも充分、アタマがおかしくなるんと思うけど?」


隆二は首を振る。

「かれんちゃんはかいかぶり過ぎだよ。葉月ちゃんにそんな意識はないだろ」

「いいえ、そんなことないですよ! ただね、あの子の場合……そこで恋愛中毒者にならない、いや、なれないワケがあって……」

「何それ? なれないワケって?」


「いいことじゃないの。あの子ね、そんなキラキラした人たちと自分が釣り合わないと思ってる。友達としてそばにいられることが奇跡だって、私たち親友にすらそんなことを言うのよ。まるでありがたがるみたいに。おかしいでしょ?」

「なんだよそれ!」

「だから言ったでしょ? あの子は本当に可愛いし素敵な女の子なのに、それをずっと彼氏に押さえつけられてきて自信のない子に育てられちゃったって。だからね、これからはちゃんと素敵な女の子だって認識させてあげたいの。私が作るイベント会社ってまだ大まかな構造しかないけど、女性が輝けるような、女の子がいつも笑顔でいられるようなイベントをメインに立ち上げていきたいと思ってて。私はね、葉月をまずそういう女の子にしてあげたいと思ってるの」

隆二も裕貴も感心するようにかれんを見つめた。


「それで! 今あるあの子の良さは壊さず、ありのままのあの子を請け負ってくれる彼氏を募集中です!」

今度は二人同時に笑い出す。

「なにそれ? あははあは」

「あははは。なんで かれんちゃんが募集するの?」


かれんは恥ずかしそうに持ち上げたグラスを置いた。

「まぁ確かにフライングだけど……とにかく、私も由夏もあの子の幸せを願ってるので」

「本当にいい友達だな」

「私もね、色々あの子に思いをもらってきたのよ。だからお互い様なの」

「うん、わかるよ。短い期間だけど、ボクもなんかもらったような気がする」

自分もそうだと、隆二は思った。

 

「あ!」

かれんがぱっと表情を明るくする。

「どうした、かれん?」

「いいこと思いついた! やっぱり私、この仕事向いてるわ! ねぇユウキ、葉月の誕生日知ってる?」

「ああ、8月31日だろ?」

「え! そうなのか? ユウキ、何でお前知ってんの?」


かれんは意地悪な目つきで隆二を仰ぐ。

「えー?! リュウジさん、知らなかったんですかぁ?!  ユウキに軍配が上がったかしら?」

「なんだよそれ?」


「来週か……」

「そうなの。でね、リュウジさん、ご相談なんですけど、ここで葉月のバースデーパーティーやりません?」

「おお! サプライズパーティーか! イイね!」


「仲の良い人みんな呼んで……って言ってもみんな簡単に来れる感じじゃないですよね……フェスで友達になった女の子達もバラバラでしょう? まして『エタボ』なんて呼べないし……」


裕貴が胸をたたく。

「ボクの方からもみんなにインフォメーションをしてみるよ! 来れなくてもさ、何かメッセージもらえると嬉しいだろうし」

「そうね! あと一週間くらいしかないから、準備にかかりましょう!」

「さすがイベントプランナーだなぁ」

「ええ。人を喜ばせることが、私たちの生きがいなの!」

「葉月もバスケット対決の後に、オーディエンスたちの笑顔を見てそんなこと言ってた」

「ああ、それは私たちにもメールしてきたわ。すごく思いが高まったって」


かれんはまた一段と目を見開いた。

「あーっ!」

「今度ははなに?!」

かれんは隆二に視線を向ける。


「そういえば葉月、その時にリュウジさんに勝ったって言ってたんですけど……私、今この目の前にいるリュウジさんとはリンクしてなかったから、 “女子に負けるドラマーってどんなだよ ” って思ってて……あの……本当に負けちゃったんですか?」

隆二は苦笑いをした。


裕貴がフォローするようにかれんに尋ねた。

「葉月がどんな凄いプレイヤーだとか、かれんは知ってるの?」

「ああ、麗神学園(れいじんがくえん)って聞いてタダモノじゃないことはわかってるけど……実際にプレイは見たことないの」

「じゃあ見てみたらいいよ。男子だからとか、そういうレベルじゃないんだ。 “なんでバスケで大学行かなかったのかな ” って思うくらいの職人技だよ」


「そうだったんだ! あの子、いつも何でも謙遜するから。葉月ってなにげに色んな所に能力持ってると思わない? あとね、感性もすごいのよ。イベント企画する時もね、形容の仕方とか、普通の人とは違うような感覚があるの」

「ああ、それはボクもよく感じるよ。多分ね、『エタボ』メンバーもそれに気づいてるよ」

「え? そうなのか?」

「はい。特にキラさんとか」

隆二はため息をつく。

「なるほどね……」


かれんの前に、隆二によって新しいグラスがセットされた。

「ねぇ、乾杯しません?」

「イイねぇ!……しかし、かれんちゃんってさ、ホントに葉月ちゃんと同級生? すこぶるオトナっぽいけど?」


裕貴が嫌な顔をする。

「リュウジさん……いまチラッとボクの事も見ましたよね?」

「あ……バレたか!」

「ユウキが若いのは見た目だけでしょ? なにげに、落ち着いてるもんね」

「ほら、リュウジさん、見る目のある人にはわかるんですよ!」

「はいはいわかったよ、面倒くせぇなぁ」


「では、葉月の “Surprise Birthday Party” 企画における、私たちのこの団結力、そして葉月の良さをわかっているこの同盟カンパニーに乾杯!」

「ああ、もうひとつ! 葉月の親友にようやく出逢えたことに!」

かれんはにっこり笑った。


「乾杯!」

「乾杯!」

「乾杯!」


「じゃあユウキ、早速招待リスト作ろう! 誰にどんなサプライズをお願いするか、あと何か必要なものがあるかって事もね。リュウジさんは『エタボ』のメンバーに連絡取れますか?」

「ああ……しかし、君はすごいね。行動的っていうか」

「ええ。こう見えて私、数年経ったらイベント事務所の社長ですから! 頑張りますよ!」

そう言ってかれんは、グラスをカランと空けた。


「うわ、酒も強そう!」

「ハルと居ると飲んでばっかりだからね。あ、でも由夏はもっと強いよ! 葉月にはあんまり飲ませないで下さいね! でないと責任取ってもらいますからね、リュウジさん!」

隆二は肩をすくめる。


「ははは。発言が “ママ” だな! いや、白石家のママはもっとファンキーだったけど?」

「あはは、言えてる!」



第99話 『First Time Meeting』彼女の親友

              ー終ー



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