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第90話『Great Friend That I Will Treasure Forever』親友

野音フェスの遠征の旅から戻った葉月は、裕貴に送られて自宅に到着して。

すっかり母親と意気投合した裕貴が帰ってからは、風呂上がりのリラックスタイムをしばらく母とあれこれ話をしながら過ごした。

意外と母がいつものようにツッコまず、ただにこやかに話を聞いてくれことを少し不思議に思う。

全部は話せないことがうしろめたかった。


部屋に戻るとメッセージが来ていた。

「由夏だ!」


葉月と同じ大学で、最初に出来た友達、相澤由夏。

男女ともに人気があり、いつも話題の中心にいるような彼女は、葉月にとって、揺るぎない信頼のおける大好きな親友だ。


早速ビデオチャットで連絡をした。


「由夏! なんかずいぶん会ってない気がするね」


「なんか顔、赤くない? お風呂上がり?」


「うん、お風呂上がりだけど、ちょっと今日はいつもより飲み過ぎちゃって」


「ああ、『Blue Stone』に寄ってたの?」


「うん」


「葉月さぁ、花火大会の次の日から、毎日のように通ってたよね? すっかり遊び人だ!」


「やだなぁその響き……だけどまんざら嘘でもないか?」


「あはは、ホント! 葉月は充実してるよね?フェスに行ってる間、私のことなんか忘れてたでしょう?」


「よく言うよ! 毎晩メッセージやりとりしてたじゃない。お互いの近況、めちゃ把握してると思うけど?」


「あはは。そうなんだけどね」


「実は、さっきまでユウキが家に来てたんだ」


「え! そうなの! 会ってみたいなぁ、ユウキ君。葉月と色々話しているうちに何か私まで友達になったような気になってるから」


「ユウキも一緒にビデオチャットしたらよかったね」


「いいよ、直接会うの楽しみにしとくから」


「ちゃんと紹介するね。すごくいい子だから」


「葉月さあ、ずっと一緒に居て、ユウキ君のこと、好きになったりしなかったの?」


「そんなんじゃないよ!」


「ふーん。じゃあ、リュウジさんは? 見たよ!『KIRA』のインスタ! めちゃめちゃカッコいい人じゃない! あんな素敵な人と毎日会ってショッピングまで一緒に行ったりしたら、普通なら恋に落ちるんじゃないの?」


「そんな! リュウジさんは『エタボ』ドラマーだよ。飾り気がなくて気さくな人だから、一緒にいてもらったりしたけど、本来なら手の届かないような人だもん」


「でも一緒にバスケやったりして、気が合ってるじゃない?」


「うん、すごく楽しい人。適度に“意地悪”だし」


「あはは。なんか葉月もさあ、いい顔で帰ってきたよね!」


「うん。なかなかできない経験ができたよ。エンターテイメントを学んだような気がする。これから自分の将来でも活かせるといいなって、思って」


「そっか、じゃあ葉月はこれから益々、前向きに進んでいくんだよね?」


「うん!」


「じゃあ……」


「なに?」


「あの彼の事は……きっぱり切るよね?」


「あ……明後日ね、会うことにした」


「え、会うの? 葉月ひとりで? 大丈夫かな……だって彼、ちょっとおかしいよ。誰かが付いて行った方がいいと思うんだけど? 私行こうか?」


「ううん、大丈夫! 今はこんなだけど2年間付き合った人よ。 話せばわかってくれると思う」


「そう? うーん……でも心配だから、必ずすぐに連絡くれる? でしゃばるつもりはないけど、時間と場所も教えといて」


「ありがとう、由夏。隆史タカシさ、由夏やかれんにも連絡したんだよね……私、電話番号なんか教えてなかったのに……いつ私の携帯から盗み見たんだろ? そこまで私に興味ある人じゃなかったんだけど……とにかくごめん! 迷惑かけて」


「そんなのいいよ。私は早く葉月が自由になって、本当に好きな人と付き合えたらいいと思ってるだけ。ところで、葉月が本当に好きな人は誰なの?」


「え、私好きな人がいるなんて言ってないよ。そりゃトーマさんのファンだけど」 


「そうかな? あんな環境に居たのに、誰にも心動かなかった?」


「確かに周りはキラキライケメンばかりで、もう心臓が飛び出そうな毎日だったけど、でも、私と恋愛なんて……そんな感じじゃない世界だよ」


「そうかな? 恋ってもっと身近に落ちてるもんじゃないの?」


「じゃあ、由夏の恋はどこに落ちてるの?」


「そこを突かれるとね……今はどこにも見当たらない」


「ウソ! みんな由夏のことが好きなのに? 由夏が気づいてないだけだよ。私が男だったら、間違いなく由夏を選ぶけどな」


「そんなことない……現に私を選ばずに他の子と付き合ってる人だって……いるよ」


「それは、由夏が高嶺の花だからでしょ?」


「もう……私の恋の話はいいの! 今そんな気分じゃないんだ。今はイベントプランニングの方が楽しいから」


「そっか、この4日の間に東雲しののめコーポレーションのサマーカーニバルがあったんだよね? ごめんね、手伝えなくて」


「大丈夫! かれんとなんとか乗り切ったから。それがさ、すっごくいいイベントだったの! お昼間も炎天下だったけどね。どのコーナーも盛り上がったんだけど、日が沈んでからのスペクタクルショーかサイコーで……葉月は絶対気に入るよねって、かれんと言ってたんだ!」


「ああ、あのCMでやってた『Splashスプラッシュ Fantasiaファンタジア』だよね? それは観たかったなぁ……やっぱり凄かったんだ?」


「うん。全体的にうまくいったから、イベント事業部の竹内さんに、これからも仕事を任せるって、言ってもらえた」


「そっか! 良かった!」


「来月もまたイベントあるから、今度は葉月もバリバリ働いてよ! 秋は秋で、忙しいんだから」


「Ok! ねぇ、ところで、かれんは?」


「あ……かれんはデートよ。ハルと……」


「そっか。かれんの彼氏って、元々は由夏の知り合いだったんだよね?」


「あれ? 葉月、まだ会ったことないの? 『Blue Stone』に出入りしてるなら、絶対会いそうなもんなのに……ハルは私の家庭教師のその友達だったんだ。先生の都合が悪い時には代わりにハルが来てくれた時もあったの」


「そっか、それで大学入ってから“お疲れ会”で食事した時に、かれんと出会ったわけだ!」


「そう。だから私はかれんとハルのキューピットなのよ。人に幸せ振りまいてるから、そろそろ私にも、イイコト起きないかなーと思って」


「それは由夏次第かな? 由夏がその気になれば、周りの男の子なんて、みんなイチコロよ!」


「葉月は買い被り過ぎよ。それに自分の事もわかってない」


「ん? どういうこと?」


「聞いて!葉月……あんな男と付き合っちゃダメ。葉月の価値が下がるよ。葉月が今まで “自分なんて” とか、そういう言葉を発してたのは、私はみんな彼のせいだと思ってる。葉月は素敵よ。可愛いし。なのに、彼は葉月の気持ちを奪う。価値のないように思い込ませて、優越感に浸って。そうやって葉月を支配してきたの。その葉月が、今回、自分から離れると思ったら急に焦って手段も選ばないで、色々仕掛けてきてさ。そんな人と居て欲しくないわ。ねぇ葉月、ホントは不安なんでしょ? あの彼のことも、怖いって、思ったんじゃない? だったら誰かの力を借りたっていいのよ」


「由夏……」 


「この5日間で、人の優しさとか、思いやる気持ちとか、いっぱい感じたって感動してたじゃない? これからは、そっち側の人間と付き合うの。葉月だってそうしたいでしょ?」


「うん」


「ねぇ、ホントに一人で行くの? 危なくない?」


「うん……あのね、優しい人じゃないけど、一応2年も付き合った人だから……解ってくれるって……信じたいの」


「……わかった。でも困ったら、絶対言ってよ」


「ありがとう……由夏」


「もう! ホントは怖いクセに……無理したら怒るよ!」


「……由夏と同じこと、ユウキが言ってくれた。由夏とユウキって、なんかタイプが似てるんだよね。しっかりしてて頼りがいがあるのに、なんか可愛いところも。二人、気が合うかも! 早く会わせたいよ」

「うん、楽しみにしてる! あーあ、良かった。葉月が彼とちゃんと話つけに行ってくれるって聞いて、安心したよ。よく眠れそう!」


「もはや、由夏は私のママだね」


「そう? 葉月のお母さん、面白い人よねぇ? 憧れのママさんだわ。大好き」


「うちにも遊びに来てよ。ママも喜ぶし」


「うん。夏休みのうちに遊びに行くよ! さぁ、今日はもう遅いから、この辺にするか!またすぐに連絡くれるよね?」


「うん! 明日も連絡する! おやすみ由夏」


「じゃあまた明日。 おやすみ葉月」



葉月は、ホーム画面になったスマホを見つめながら、少しの間、我慢していた涙を流した。


「ビデオチャットって、こういう時に困るんだよね」



そう呟きながら、笑顔のまま、泣いた。

由夏の気持ちが本当に嬉しくて……

そして、色々な想いの末に……



一通り泣いて、スマホに手を伸ばすと、葉月はインスタを開いた。

フォローしている『KIRA』のアイコンをタップする。


実は今朝から、何回か観ている。


合宿所の打ち上げでの、リュウジさんのギターと歌声……

何度観てもカッコいい……

いや、なんか、カッコいいなんていう表現だけでは足らない。

胸に差し迫るような歌声、ギターを爪弾く繊細な指先……


さっき由夏が言っていた言葉が、ふとよぎる。

“あんな素敵な人と毎日会ってショッピングまで一緒に行ったりしたら、普通なら恋に落ちるんじゃないの?”


   そうだよね。

   こんなにリュウジさん、素敵なんだもん。

   多分いつも、ものすごく近くで見てるから、全貌が見えてないのね、私。

   こうやって画面を通して客観的に見ると、どんなに凄い人か、改めて実感させられる。



「え!……なにこの数……」

思わず声を上げた。


「コメント数6910……いいねが150,969!……それって実際見てる人は、それの何倍も何十倍もって……ことよね?


『KIRA』のフォロワーは300万をゆうに越えている。

キラさんがつけた、この動画のタイトルも興味を引くんだろう。


  「あれ?『エタボ』のボーカル、変わったの?」

   Have you noticed anything different about us?


#エタボ革新

#リュウジ

#ドラマーじゃね?

#Oh of course, I was kidding!



どれだけの人が、この動画を観覧したんだろう?

コメントを開いて見てみると、その欄は真っ赤だった。

ハートが延々と続いている。

『リュウジ』というワードが溢れていた。


かっこいい♡

素敵な歌声☆

これからはリュウジ推し♡

great!


海外からも、 たくさんコメントが来ているようだった。

「すごい……この反響」


圧倒されるのと同時に、なんだかリュウジさんが遠くなるような、妙な寂しさが胸を圧迫する。

不思議だと思った。


今までトーマさんの応援コメントを見ても、自分と同じ感覚の人がいっぱいいて、嬉しいと思った。

キラさんにしてもそう、彼の歌の素晴らしさをわかり合えることに、喜びを感じた。

国民的モンスターバンド『Eternal Boy's Life』の1ファンとして、彼らを共有していたんだと気付く。


でも……


これからは隆二の事をその人達と共有するのかと思うと……

何か、ざわつきを感じる。

決して自分は特別なわけではないし、たまたま近くにいた友人のような存在で、今はそばにいさせてもらっているけれど……


   ゆくゆくは1ファンとしての立ち位置に行かなくてはならないのかもしれない。


葉月は複雑な思いで、インスタを閉じた。



第90話『Great Friend That I Will Treasure Forever』親友 ー終ー


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