表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/189

第8話『Where Does She Belong?』彼女の帰属先

「あ…」

隆二に言葉に思わずそう発した葉月は、その事についてすっかり頭になかったことに驚いていた。


「だってさぁ、さすがに地方遠征(えんせい)なんかに勝手に行ったりしたら、彼氏に怒られるよね? 誤解もされるだろうし?」

葉月は一瞬、言葉に詰まる。


「あ……なんか俺、困らせちゃった?」


「いえ、そうじゃなくて……」


「じゃぁさ……、このところ毎日のようにここに来てくれてるじゃない? 葉月ちゃんは彼氏に何て言って、出てきてんの?」


「いえ、それが……会ってなくて」


「そうなんだ。いつから?」


「花火大会の二日前から」


隆二は指折り日数を数えている。

「え? あれからずっと?!」


「ええ……花火大会の後に連絡があって、私ね、ちょうど夏休みの中間レポートの提出もあったので、彼が “家に来い” って言ったのを断ったんです。そしたらパッタリ連絡が来なくなって……」


隆二が顔をしかめる。

「それ、めちゃめちゃ怒ってるパターンじゃない? あれ? でも……まてよ? っていうか、そもそもすっぽかしたのは彼氏の方だよね? 怒るのはおかしくない?」


「まあそうですね。でも、連絡が途絶えるのなんてしょっちゅうなんで……私も気にしてないっていうか。今までもこんな事は何度もありましたけど、しばらくして会っても、別に怒ってもなくて……」


「そうなの? 最近の若いヤツの恋愛はわかんないからな……みんなそんなにドライなわけ?」

隆二はカウンターに両ひじをついてかがむと、指を組んだ上にあごをのせて話す。


「いえ、友達の話を聞いてると、みんなそんなこともなくて……」


「友達は? 彼氏と頻繁(ひんぱん)に会ったりしてるって?」


「はい。そのカップルはよくデートもしてるし、ほぼ毎日 連絡取りあってたりとか」


「まあ君らぐらいの年齢だったら、それが普通だろうな。葉月ちゃん、差し出がましいようだけど、うまくいってるの?」


「……うまくいってるもなにも……そもそも会ってないんで」


隆二は静かに体を起こしてトールグラスを取り出すと、新しいカクテルを作って差し出した。


「まあ俺が口出すことじゃないんだろうけどさ、葉月ちゃんは今のままで満足なのかな?」


そう聞かれて返答には困ったが、決して満足な訳じゃないと心は示していた。

葉月はおもろにスマホを出すと、何かを打ち始める。


「どうしたの?」


「ああ、 “『エタボ』の野音ライブに行ってくる” って、メッセージ送りました」


「え、今?」


「はい。これでOKです」


そう言いながらも伏し目がちな彼女の心に、何らかの感情を察する。

少し静かになった葉月をちらりと見ながら、隆二はトーンをあげて話し出す。


「さぁさ! そうと決まればしんみりしないで! 楽しいことが待ってるんだから、飲もう!」

そう言って、自分も三杯目のビールを注いだ。


「リュウジさんがライブに出たりする時はここのお店、どうするんですか? まさか閉めたりしないでしょ?」


「もちろん。助っ人を呼ぶんだ。君が今日会ったうちのバスケチームメンバーの(アキラ)、わかる?」

「ああ『Kc.White(有名バスケ選手)』が好きそうな、シューティングガードの?」


「そうそう! よくわかるね!」


「プレイスタイル見たら分かっちゃいます」


隆二は関心したように葉月を見る。

「ホント、NBA(くわ)しいよね!」


「好きでよく観てるんです!」


「葉月ちゃんは誰が好きなの?」


「もちろん『ST.Jonson(NBA選手)』です! シューティングガードがメインだけど、スモールフォワードやポイントガードも出来るじゃないですか? カッコ良すぎですよね!」


「なんだ! 俺と一緒じゃん」


「私も意外とミーハーなので」


「ちょっと! それって何気(なにげ)に俺がミーハーだってディスってるよね?」


「あ、ごめんなさい」


「……だから!! そこで謝ったら認めてることになるんだよ! 気を付けてよね!」


「ああ、すいません」


「また謝る……ふふふ。でもまさか、この店で女の子相手にNBAの話が出来るとは思わなかったな。ここもスポーツバーに転身するか?」


「じゃあ、この辺りに巨大スクリーンが要りますね!」


「おお? 乗って来るねぇ! 去年『NBAファイナル』観にアメリカに行った時にさ、現地のスポーツバーを回ったんだけど、俺もあれには刺激されたなぁ!」


「え! 六月の? 『ウォリアーズ』が優勝した時の?」


「うん、そう」


「凄い! (ナマ)で観たんですね! いいなぁ。凄いんでしょうね!」


「ああ! もうショーアップステージ観てるみたいな感じだったよ。迫力も魅せ方もサイコーでさ!」


「わぁ……いつか行きたーい!」


「ホントだな、また行けたら……」

“君と一緒に行きたい”と言いかけて、隆二は慌てて言葉を飲み込んだ。


「あーあ、今日はホントよく笑った。君といたら時間忘れちゃうな。楽しいよ」


「そんなこと……言ってもらったこと、ないです」


「なんで? 今日ファミレスでも言われてたじゃんか」


葉月はあのファミレスでの、過保護な扱いを思い出して笑った。

「あ、そっか! 私、すっかり甘やかされちゃたんでしたっけ?」


「そう! いいのいいの、女の子はそれぐらいで」


「ホントにいいんでしょうか? ダメな女になりませんか?」


「はぁ!? ダメな女? どんな定義だよ! まあ君なら、なろうにもなれないんじゃない?」


「まぁ……そんなに勘違いしないタイプだとは……」


謙虚(けんきょ)だね」


葉月はにっこり微笑みながら、両手でトールグラスを包む。


「よし! じゃあ……日程会議が必要だな」


「日程会議?」


「うん。 “旅のしおり” は作ってあげられないけど、スケジュールは大まかに言っとかないとね! 俺は次の木曜日からリハーサルで現地によばれてるんだ。午後からだから朝イチ出発でも間に合う。木曜日からの予定は大丈夫?」


「はい、特に何もないです」


「そっか。そこから三日間リハ、厳密に言うとリハと自主練だな。宿泊施設にスタジオも完備してるから、最初の方はスタジオにこもるかも。そして四日目が本番だ」


「想像するだけでワクワクしますね!」


「ワクワクはそれだけじゃないぞ! 本番が終わったら盛大な打ち上げがあるんだ。メンバー含め大所帯で壮絶(そうぜつ)に飲むから、翌日もなかなか酒が抜けなくてさ。みんな車で帰れないからもう一泊、ナンテ事もあるくらいなんだけど……」


「壮絶に……ですか……」


「まあ、みんな酒が強いしね。葉月ちゃんが付き合うことはないよ、適度に楽しんでくれればいいからね」


「なんだか未知の世界……」


「あはは、そう思うかもね。それより俺らがリハーサルしてる間、葉月ちゃんヒマじゃないかなぁ? そりゃめちゃめちゃ観光地だからさぁ、行ける所はいっぱいあるにはあるけど……一人じゃつまんないでしょ」

隆二は再びかがんでカウンターに(ひじ)をつく。


「私、全然大丈夫です。一人でどこでも行けちゃうタイプなので」


「へぇ、若いのにシブいね。まあ俺もさ、休憩時間は付き合ってあげられるから、それなりに楽しんでよ。あと、リハーサルも見ていいから」


「ええっ! ほ、本当にそんなことしていいんですか?!」


「そりゃスタッフだからね」


「……だったら、一日中そこにいてお手伝いします!」

葉月の顔がうっとりほころんだ。


「あ! 今、俺じゃなくて柊馬(トーマ)さんを見て過ごす想像しただろ?」


葉月は笑みを浮かべたままだった。


「そこは否定しねぇのかよっ! ったく……」

隆二は体を起こして額に手をやりながら、背中を向けた。


第8話 

『Where Does She Belong?』 彼女の帰属先 ー終ー


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ