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第71話『Wrap Up Party in Lodging-House』打ち上げパーティー

アレックスを見送り、『エタボ』メンバーとペントハウスに戻る裕貴とわかれて、葉月はぞろぞろと合宿所に戻るスタッフTシャツの波と共に歩いていた。


知らない男の子が “あ!バスケの子だ” と笑いかけてくれたり、翼たちの知り合いであろう女の子が手を振ってくれたり……

ここに来る人達は山下さんを筆頭に、いい人ばかりだと思った。


後ろからガバッと抱き付かれ、驚いて振り返ると三人が揃って笑顔で立っている。

葉月は翼と梨沙子と奈々と肩を組んだ形で、共に今日の感想を話しながらじゃれ合うように歩いた。

興奮冷めやらぬ状態で、部屋に上がる。


スタッフ携帯が一斉に音を立て、30分後に食堂で打ち上げがスタートするという通達が来た。

ドレスコードがスタッフTということで、四人はお揃いのカラーのTシャツで、それぞれに梨沙子先生のメイクアップのレクチャーを受けながら支度をして食堂に降りた。


いつもの席に『Sanctuary(サンクチュアリ)』の和也と玲央と尚樹が座っていた。


みんな口々に感嘆の言葉と共に、さっき観た『Eternal Boy's Life』の夢のようなステージや映像、花火について興奮気味に話し出す。


「野外ならでは、っていうのはもちろんあるけど、まるでドームで聴いてるぐらいのクオリティがあったよね!」

「そうね、音質も良かったし。何より映像!」

「そうそう! 最後の花火に繋がるとこなんて 圧巻だった! 心全部持ってかれちゃったよ」


特に、隆二のドラムについて熱く語る尚樹の温度が高く、みんなも熱心にその話を聞き入っていた。


「何か、面白い話、してんじゃん?」

「あ! ユウキ!」

 

裕貴が笑顔でやって来て、尚樹の横に腰を下ろした。

ドラマー同士、肩をポンと叩いて、微笑み合う。  


「みんなお疲れ」

「ユウキこそ、お疲れ様!」


裕貴はメンズ三人の方を向いた。

「さっき、アレックスさんの件は、ありがとね」


裕貴は、彼ら三人がPAブースにアレックスが向かう際の、怒涛の警護をしてくれたことを彼女らに話した。


「やっぱりアレックスの人気って、そこまで凄くなってたんだ!」

「僕たちも、あの女の子の数はびっくりしたよ! けど、それよりも近くで見たアレックスさんのカッコよさが半端なくて、何よりも驚きだった!」

「もう、人間じゃないよ! なんだろう? マネキンっていうか……日本語を喋ってんのも信じらんないくらい!」


裕貴と葉月は、目を合わせると二人して少し下を向いた。


翼がしみじみ言った。

「ホント、凄かったね。今まで何度もフェスには来てるけど、ここまで凄いフィナーレ見たのは初めてだわ」

奈々が興奮気味に話す。

「そうだね。映像とか花火とか、もうワンマンライブみたいに盛り上がっちゃって! でもやっぱり、キラの歌って凄かったなぁ! 私なんてまだまだだなぁって、思ったよ」

「私らもそうやけど、周りの女の子もみんな泣いてもうてさ。みんな座りこんどったわ。葉月、あんたもどうせそんなところやろ? 違うか?」

「正解……だろ? 葉月」  

裕貴が意味深な目つきで葉月を見る。

「うん、まあ……」

「そりゃそうよね! 心震わされちゃったもんね。なんだろうね? 感情の持って行き方って言うか……」

「そうね、周りがみんな心持ってかれちゃって……大変だったよね」

「みんな結局観られたんだな、良かったな。観れないかもって言ってたじゃん?」

「そうなの! 梨沙子のおかげでちゃんと観れたんだよね!」

奈々が梨沙子の功績を話した。

「あはは、さすがだな! 騙された男がいるのか。ご愁傷さまだな」

「別に騙してへんし!」

裕貴はチラリと葉月の方を見て、その顔を指さして言った。

「これも梨沙子の創作作品だろ?」

思いがけなく、そう自分に振られた葉月は、裕貴に食ってかかる。

「ちょっと! それどういう意味よ!」

「だってさ、さっきまで泣き崩れて腑抜けになって、すっぴんでゆでダコだったんだぞ。今とは別人!」

男子メンバーに向かってそう言った。

「もう! 裕貴、それは言わないでよ!」

「いや、確かにな。めっちゃブスやったわ」

「ひどい! 梨沙子まで!」

みんなに笑われて、葉月は部の悪い顔をした。

「ねぇ、ユウキは舞台ソデに居たよね? ちょうどあたし達のところから見えたんだけどさ、葉月もあの辺に居るのかなって思ったんだけど、見つかんなくて……一緒にいなかったの?」

「ああ、私はPAブースから観てたの」

「そうなんだ、そっか、だから全貌が観られたのね! よかったじゃない、特等席ね!」

「うん」

「でも、大丈夫やったんか? アンタ一人で泣き崩れとったんちゃうの?」

「えっと……」

葉月はチラッと裕貴の顔を見た。

「今夜重大発表があるみたいだから、打ち上げ終わってみんなで部屋に戻ったら、葉月に尋問してやってよ」

「ちょっと! ユウキ……」

「え! なになに? なんかあったってこと?」

「そう! 大アリ」

「もう! ユウキ……」

「えー! 今聞いちゃダメなの? ねぇ、葉月、何があったのよ!」

裕貴は葉月をしばらく見てから、溜め息混じりに言った。

「女子トークにした方が面白いって。ボクたちが聞かされてもなぁ……後のお楽しみにしとけば?」

「ほんなら葉月、今夜は寝られへんなぁ」

「あ……そうなるんじゃない?」


翼が切り出す。

「ねえねえ、ユウキがここに来てるって事は、もう『エタボ』メンバーは合宿所に着いてるって事よね?」

「ああ、今も玄関まで来てるはずだけど。機材持ってきてるから」

「ウソ! 生演奏が聴けるのかぁ……めちゃめちゃ嬉しい!」

「だから今日は、彼らが座る位置がちょっと広くなってるのね?」

「ここに全員来るのか……すごいな」 

「あ……残念ながらアレックスさんは不参加だ」

「えー!」

女子だけじゃなく、メンズ三人もそう言った。

「近くで “生アレックス” 見たかった!」

「俺も! もう一回会ってみたかったです」

葉月が寂しそうな表情で、少し下を向いた。


裕貴が説明する。

「アレックスさんはサポートメンバーだけど、超売れっ子だからかなり多忙でさ、もう次のレコーディングの曲をこの期間にも練習してたぐらい。ホント大変そうだったよ。打ち上げに出てる暇がないぐらいにね。もう次のレコーディングはとっくに始まってるからって、仕方なく帰っちゃったんだ」

「そうなんだ……めちゃめちゃ残念なんだけど」


葉月が、さっきアレックスから聞いたアーティストの名前をみんなに伝えた。

葉月が驚いたのと同じように、みんなが感嘆の言葉と同時にスマホでリサーチし出す。

「なんかさ、これから色々な曲を聴く楽しみができたね」

「うん! これだけのアーティストの後ろで、実はアレックスがピアノ弾いてるなんて、なんかさっきの『エタボ』の感動もまた蘇りそう!」



食堂の扉の向こうが、何やら騒がしくなった。

「わ! いよいよかな?」

「葉月、アンタこんな近くでキラの歌聴いて大丈夫なんか?」

「ヤダ梨沙子! そんなこと言ったら緊張してきちゃうじゃない」

 「全く……いつまで緊張してんだよ!」

裕貴が呆れた顔で言うのを、葉月は睨んだ。



総括の山下が司会をする中、アレックスを除く四人のメンバーが拍手と大歓声と共に食堂に招き入れられた。


キラと颯斗ハヤトがアコースティックギター、柊馬トーマはアコースティックベース、そして隆二が “カホン”(パーカッション)を持って現れた。


それぞれ四人が着席してから、しばらくは山下を介してフリートークをしながら、食事の準備がされた。

彼らが座るテーブルにはマイクが置かれ、まるで記者会見の高砂のような雰囲気で、食事がスタートする。

メンバーそれぞれから、今日の感想とスタッフへのねぎらいの言葉が述べられた。 

食堂内は活気に満ち溢れ、スタッフは皆、顔を輝かせてメンバーを見つめていた。

座席の小グループごとに、メンバーとの記念撮影大会がはじまり、さらに熱が上がる。

裕貴も含め、葉月達のグループの撮影の番が回ってきた。

キラは自分の後ろに葉月が立ったことを確認し、そっと見つからないように後ろ手に指を伸ばし、葉月の手を掴んだ。

背中にハッという息遣いを聞いてにんまりしているキラの指に激痛が走る。

「痛ってぇ!」

キラが振り返ると、葉月の横に立っている隆二が、またもう一度その手をつねり上げた。

「痛ってえな! 水嶋! 離せよ!」

隆二は知らぬ顔して視線を逸らした。

「この野郎……」

柊馬(トーマ)が笑いながら話す。

「この二人は同級生で、いつもこんな感じなんだよ。俺らも面白くてしょうがないからさ、止めもしないで楽しく観覧してるんだ」

横で颯斗(ハヤト)も笑っている。

柊馬の横で裕貴だけが、ため息をついていた。

「ったく、いつまでやってんですかね……」

柊馬が笑いながら裕貴の肩を叩いた。

「全くだな」


写真撮影が終わると、いよいよ生演奏披露となる。

合宿所には、かつてドラムセットも設置された事があったらしいが、隆二は敢えて “カホン” を選んだそうだ。

それぞれの楽器にもマイクが設置され、キラはギターを抱えたままマイクの前に座った。

会場に緊張感が走る。

みんな先ほどの『エタボ』のステージの感動が心に残っていて、再び心揺さぶられる準備がそれぞれの胸の中でなされていた。

キラがそのなまめかしい青い目で、観客たちを見渡した。

「おいおい! ナンカみんな緊張気味だなぁ? どうしたの?」

キラがメンバーの方を向いて、みんなが頷く。

「じゃあ……そんなみんなの緊張を緩めるために! ここでハヤトが一つ、 “すべらない話” をさせて頂きます!」

「はぁ? なんだその無茶ぶり!」

立ち上がらんばかりの颯斗の困惑をよそに、キャーと歓声が上がる。

普段あまりステージでも話さない颯斗が反応したので、会場は一気に沸き立った。

「うん……大丈夫かな? イケメンハヤトさんの イメージ、ガタ崩れになんない? ちょっと心配だよね? トーマくん」

「確かにね」

その艶やかなバリトンボイス一言で、また黄色い声が上がる。

「なんだよ! トーマくん、ずりーな! オレはいつもMCしてるからさ、レア感がないんだろうな、一言喋ったくらいじゃキャーキャー言われねーんだけど!? オレだっていい声だよねぇ?!」

キラはオーディエンスをあおる。

みんなが口々にキラに声援をかけだした。

葉月の横で梨沙子が大きな声で言った。

「キラさん、素敵!」

テーブル全員が一斉に梨沙子に注目した。

「は? 昨日までリュウジさんにハマったって、散々言ってたじゃない?」

「もちろんハマってるで! でも生であのメンバー見てみ? 全員にホレてまうやろ!」

翼同様、裕貴もまた呆れた顔で笑った。


「ごめんごめん、なんか気ぃ遣わせちゃったな! 声援ありがとう。ではここで、すっかり安心してる顔のハヤトに、早速“すべらない話”をしてもらいましょう! それでは、お願いします!」


颯斗がいぶかしい表情でキラを睨む。

「お前さ……マジで “ドS” だよな?」

会場がどっと沸いた。


「俺の今の心境は、まぁライブを終えてほっとしたのもあるんですけど……ただねぇ……このドSボーカルの“インスタ撮影”がいつ始まるのかと思ったら、マジで気が気じゃなくて、さっきからコイツと目が合うたびにドキドキして、だんだん胃が痛くなってきちゃったんだよね。なんでいつも俺!? トーマ、たまには代わってくれよ!」


オーディエンスが大笑いした。


「あれーっ? ハヤトさん、本当にすべらなかったな! 珍しいじゃん! まあ、ハヤトがそんなにオレに期待してるくれてるナンテ知らなかったんで、今日も精一杯、ご期待に応えたいと思います!」


颯斗がガクンと肩を落として、会場からは更にあおるような声援が上がる。


「マジで今日のハヤト、いいわ! じゃあ、リーダーからも、一言頂こうか?」



第71話『Wrap Up Party in Lodging-House』 打ち上げパーティー ー終ー


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