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第61話『Have Fun Talking On The Backstage』舞台裏の楽しみ方

いよいよフェス当日の朝、葉月は慣れた足取りで、ステージ裏の " 控え室通り " を歩いていた。


「おはよう」

裕貴に遭遇した。

「眠れた?」


「なんか前もおんなじようなトーク、ここでしたよね?」


「だね?」


2人は微笑んだ。


「今回のフェスは、リュウジさんのボーヤというより、葉月のお守()り役って仕事の方が大きくなるかもって言ってたよな? まさか本当にそうなるとはな!」


「また! そんなイヤミ言うんだから!」


そっぽを向く葉月の頭に、裕貴は手を置く。


「まぁまぁ、そんなに怒んないでよ!」


「おい、そこ! 朝から何を盛り上がってるんだ?」


後ろから注意されて振り向いた。


「あ、リュウジさん! おはようございます」


「なんか葉月ちゃんに会うの、すごく久しぶりのような気がする」


裕貴が呆れたように言う。

「リュウジさん……今度は流石にそんなことないでしょ? 昨日バスケで葉月に負けたばかりじゃないすか?」


「お前なぁ! そこディスんじゃねぇよ! 何気に傷付いてんだから!」


葉月はカラカラと笑った。

「あはは。私、リュウジさんとシュート対決の時に何か “ 賭け ” をすれば良かったかなぁって思って……残念です」


隆二は目を向く。

「何それ!? 勝つ自信があったってこと!?」


「そりゃもちろん! バスケは全力で行きますからね! “ 勝たないかも ” なんて思って試合に出たことは一度もありません!」


「うわぁ、さすが麗神学園(れいじんがくえん)、精神指導も徹底してるわ」


「なので、何か条件付けとけばよかったなぁって思ったんですよ。 “ 私が勝ったら○○してもらう ” とか決めておけば、モチベーションももう少し上がって、2vs4の方でも勝てたかも!」


「強気だなぁ! 俺も、勝ったら葉月ちゃんに何でも言うことを聞いてもらうってことにしてたら、意地でもシュート決めたのに」


裕貴がまた呆れて言う。

「そんな邪念(じゃねん)だらけじゃ、10本ストレートどころか、1本も入りませんよ!」


「うるせぇ! まぁ……そうかもな……でも葉月ちゃんのお願いだったら、俺、今からでも聞いちゃうけど? どんなこと? デートとか!? あ、食事か……そうだ! またこの前の『ミュゼ・キュイジーヌ(フランス料理店)』に行こうよ!」


「わぁ! 行きたい!」


裕貴がまたため息をついて、嫌な顔をした。

「ラブラブのカップルみたいな会話、しないでくださいよ! 会場に来たら現場スタッフもたくさんいるんだし、変な(ウワサ)が立ったら大変ですよ!」


隆二がふてくされた表情で裕貴を指差す。

「これだよ、コイツは。最近コイツさ、マネージャーみたいに口うるさくなってきてさ、香澄(かすみ)より(ひど)いんじゃねぇ?!」


葉月はその名前に反応してしまい、笑った顔がこわばる。

少し俯く葉月を、裕貴が心配そうに覗き込んだ。


隆二もその様子に気づく。

「あれ? 葉月ちゃん、どうしたの?」


「え……ど、どうもしない……ですけど……」

そのぎこちない様子に、裕貴も神妙(しんみょう)な顔をしたまま、葉月の様子を伺っていた。


裕貴は隆二の視線に気付いて、取り繕うように言う。

「ほらほら! こんなところでクダまいてる場合じゃないでしょう?! ボクが口うるさいのは、リュウジさんが無頓着(むとんちゃく)だからですよ! さぁ、葉月、仕事に戻ろうか! 忙しいよね? 引き留めてごめん。仕事に戻って。また後でね」


「うん」

葉月は、隆二に向かってこっくりと頭を下げて、足早(あしばや)に控え室の方に行ってしまった。


「え……なんだあれ?!」


「ほら! リュウジさんも行きますよ! もうすぐ『Gerald(ジェラルド)』のメンバーが来る時間なんじゃないですか?」


「ああ……そうだけど、今のはなんだ?」


「……」


「おい! ユウキ、何だよ!」


隆二にそう詰められて、裕貴は思わず俯く。

「……すみませんリュウジさん、地元に帰ったら話しますから。フェスが、終わったら……」


「でも、あれは明らかになんか……」


「それまでは聞かないでください。お願いします」


裕貴の真剣な顔を見て、隆二は引き下がった。


「……わかった」



野音フェス最終日がスタートとなった。

大トリの『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』は約1時間、それまでの出場者は1組につき2曲から3曲の出演となる。

朝イチからスタートするフェスの2日目、観客席は異様な盛り上がりを見せていた。

一方、当のメンバーは自分達の出番までそれぞれが好きなように自由に行動している。

控え室セッティングを終えた葉月を、裕貴が迎えに行った。

ステージ表側にあるセキュリティー(警備担当)の控え室前に椅子(いす)を並べて、2人はそこに座る。

ここが、スタッフがオーディエンスに近い状態で観覧できる一番の穴場(あなば)だった。


肩を並べて、1つのバンドを観る。


「始まるみたい!」



「We are 『The DEADVIKINGS』!」


BONE TO Lose


There is no easy way out

She doesn't care

What are you talking about

She doesn't care

She's Flat broke

And nobody gets her jokes

I'm telling you she's on the smoke


BONE TO Lose


I can get satisfied

I don't care

It's out of reach out of sigh

But I don't care

No use trying to begin

I don't expect to Win

I beg you not to count me in


BONE TO Lose


「カッコいいね! ユウキ、さっき舞台ソデで話してたよね、ここのメンバーと親しいの?」


「うん。彼ら、去年も来てたんだ。『The DEADVIKINGS』って言って、名前はちょっと重めだけど、サウンドはRock 'n' Rollでキャッチーだし、日本でも売れ出しているけど、先にヨーロッパでブレイクしてるんだよ」


「へぇ、そうなんだ。ユウキって元々はロックドラマーなのよね?」


「そう、UKロックが好きでさ。特にヨーロッパのバンドには詳しいんだ。だからさ、なんか嬉しいだろう、日本のバンドがヨーロッパで活躍してるってさ」


「そうよね」


「あそこにいるBASSのHIROさん、去年も彼とけっこう話してさ、見た目ワイルドなんだけど、めちゃ優しくて気のいい兄貴みたいな人で。好きなバンドとかも似てて意気投合しちゃってさ。他のメンバーも気さくな人達で、去年はペントハウスで打ち上げした時に彼らも来てて、例の卓球大会にも参加したってわけ」


「ああ、あの! なかなか凄かったやつね」


「そう! それがさぁ、彼ら、何気に卓球上手くて、結局『エタボ』が負け続けて……それで罰ゲームで飲みまくった颯斗(ハヤト)さんが(つぶ)れるっていう……」


「そういう経緯(いきさつ)だったんだ?!」


「そう。そして、その後、あのプールサイドでのInstagramに繋がるってワケ」


「フフフ……それはそれは。ペントハウスでの打ち上げは壮絶(そうぜつ)だったのね! そういえば、今年の打ち上げは、合宿所なのよね?」


「うん。柊馬(トーマ)さんが決めたんだけど、去年ちょっと暴れ過ぎたし、颯斗(ハヤト)さんはマジでヤバかったし……だからその “ 抑止力(よくしりょく) ” として健全に合宿所で打ち上げをしよう! ってことになったみたい」


「なるほど、さすがトーマさんね! 合宿所のみんな、喜ぶだろうね」


「そりゃ『Eternal Boy's Life』のフルメンバーが来るとなるとね?」


「昨日はリュウジさんも合宿所のスタッフに囲まれて、相当大変だったもんね! 握手と写真か……またあんな状況になるよね? きっと」


「多分な。大撮影大会になるんじゃない?」


「そっか……」

葉月がスッと吐息を吐いた。


「ん……? ああっ! わかったぞ! 葉月、トーマさんと写真撮ろうと思ったでしょ!」


葉月は目を見開く。

「い、いちいち突っ込まないでよっ!」


「なんだ、図星かよ!」


話しながらフラフラとまた舞台裏に戻ると、手前で颯斗(ハヤト)とすれ違う。


「おう! お2人さん、相変わらず仲良しだなぁ! ユウキ、トーマに会ったら、ちょっと出てくるって、言っといて」


「はい……え? ハヤトさん、出るって、会場の外ですか?」


「まあね! じゃあな」


「え……」


颯斗はキャップにサングラスをかけて歩いていった。


「全く……あの程度の変装でバレないと思ってるのかな? ヘタすりゃ()みくちゃにされるぞ……」


「確かに。オーラがだだ()れだったね」



廊下を進むと、突き当たりに隆二がいた。

一緒にいるのは外国人だった。


「葉月さ、『Gerald(ジェラルド)』ってバンド、知ってる?」


「うん、アメリカのロックバンドじゃない?」


「へぇ、意外とよく知ってるんだな?」


「なんか、『Gerald(ジェラルド)』もロックだけど、メンバーにピアニストがいるでしょ? 少し『エタボ』に似てるなって思ったことがあって」


「さすがだな! そうなんだ。海外フェスの時に、サウンド的に意気投合したらしい。あそこにいるのは『Gerald(ジェラルド)』のベーシストの “ シャール・シャムウェイ ” だ」


「え、そうなの?! ()に来たのかな?」


「もうすぐJAPANツアーだから、他のメンバーより先に、前乗りして来たんだってさ」


「すごいね! ねぇ、さっきからずっとリュウジさん、話してるみたいに見えるけど、リュウジさんって英語話せるの?」


「ホントに葉月はなにも知らないなぁ、『エタボ』のメンバーはみんなそこそこは話せるよ。キラさんはネイティブ張りだけど」


「リュウジさんって、気取らないけど、何でも出来る人なのね」


「何を今更! 何でもない人に、ボクがこんなにも献身的(けんしんてき)についていくわけないでしょ?」


「確かに……」


「ああ、トーマさん見当たらないなぁ。颯斗さんの事を伝えないと……ちょっと電話するよ」

そう言って裕貴はスマホを取り出した。


「もしもしトーマさん? ユウキです。今どこですか? ペントハウス?! なんでまた?! ああ、映像クリエイターと……そうでしたか。颯斗さん が会場から出てって……トーマさんに言っといてくれって言われたんで。リュウジさんですか? 今シャールと一緒にいます。ええ『Gerald』の。あ……キラさんは……一回も見てないですね。あと、アレックスさんは……あ、またP-Studioですか? なるほど。わかりました。はい、また何かあったら報告します」


裕貴はスマホを耳から外した。

葉月と目が合う。


「……なんだよ、じっと見て」


「い、いえ……トーマさんと話したんだなぁと思って……」


裕貴は大きく溜め息をついて見せた。

「葉月、どんだけトーマさん好きなんだよ! 電話、代わればよかったか!」


「いやいや、それは無理無理……」


裕貴は葉月をにらむ。

「ポッとしてんじゃねぇよ!」


葉月は少し恥ずかしそうにしながらコロコロと笑った。

裕貴はその平和な笑顔を見て、皮肉を言いつつもホッとしていた。

昨夜の香澄とのとおぞましい事は忘れて、このまま最後まで乗り切ってくれることを、切に願った。



第61話『Have Fun Talking on The Backstage』舞台裏の楽しみ方 ー終ー


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