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第54話『Let's play basketball with the puppy』バスケ対決

白亜(はくあ)のペントハウスから、Range(レンジ) Rover(ローバー)に乗って、隆二と裕貴は合宿所に向かう。


裕貴は合宿所の入り口にちらりと目をやった。

さっきスカートの(すそ)を揺らしながら軽快に歩いて行った葉月の後ろ姿を思い出す。

同時に、真っ暗闇のPAブースの中で葉月が流した涙や柊馬(トーマ)が打ち明けた思い、そして葉月を抱きしめた時の感覚が、心の中で渦巻いた。


駐車場に着くと裕貴は建物の脇を通って、今朝、秘密裏(ひみつり)に練習をしたバスケゴールに隆二を誘導する。


「なぁユウキ、本当にバスケゴールなんかあるのか? 俺、こんな奥まで来たことないぞ。この中庭は一体どこまで続いてるんだ?」


裕貴はそれには答えず、隆二に質問を投げかけた。


「本当は今回のフェスが終わってから聞こうと思ってたんですけど……リュウジさんって、これから『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』との関係はどうして行きたいんですか?」


「ん? どうしたんだ? 急に」


「急っていうか……ずっと思ってたことです」


「……そっか、まあいい。それは俺だっていつでも考えていることではあるけど……正直よくわかんねぇんだ。だからこのフェスが終わって、自分がどう感じるか。それに()けてみようと思ってる」


「そうなんですね。わかりました」

裕貴はそれだけ言って、あとは何も聞かなかった。


同じパステルブルーのスタッフTシャツを着た4人組が、横並びに連なって中庭の突き当たりまで来た。


「うわ! ホントにあったー!」


「当たり前でしょ! 私もシュート打ったことあるんだから」


「それって去年、イイ感じになったオトコとなんやろ? で、そいつは今年は来てへんの?」


翼は苦笑いしながら言った。

「まぁ正直、もし来てたら気まずいなってハラハラしてたけどね。見かけてないから来てないと思う」


「あ! こっちこっち!」


「ん? どうしたの? 奈々」


「ああ、うちのメンバー呼んだの。和也!」


ハイトーンカラーの短い髪にピアス、市ノ瀬和也(いちのせかずや)が近付いてきた。

いかにもモテそうで一見軽そうな彼が、とても律儀(りちぎ)挨拶(あいさつ)をする。

「こんにちは」


葉月は長身の彼を見上げて “ どっちが背が高いんだろう ” などと、ついトーマの事を考えてしまう。

しかし、和也がふんわりしたカワイイ笑顔を見せたことで、そのイメージをすぐに打ち消した。


アッシュグレーのロンドンヘア、都築(つづき)玲央(れお)も来て、ひょっこり頭を下げた。 

「玲央、尚輝(ナオキ)は?」


「ああ、あとから来るって」


翼がきょろきょろ辺りを見回す。

「リュウジさん、まだかな? ねぇ先にさ、葉月の腕前、見せてもらっちゃおうか!」


奈々が頷いた。

「じゃあこのスリーポイントラインから、葉月打ってみてよ」


「え……なんかこの外用のボールって苦手なんだけどな……まあ、行けるかな?」


そう言いながら、葉月は 高い弾道のシュートを放つ。

ボールはリングには触れずに、シュポッという音と共に、ネットの中に入った。


「きゃー! すごい! 葉月かっこいいじゃん!」

女の子たちが駆け寄ってきて葉月を囲んだ。


その時、後ろから声がした。


「なんだ?! 葉月ちゃんモテモテじゃないか? 心配することもなかったな」


みんなが振り返ると、そこに裕貴と隆二がいた。


「わぁ! リュウジさんだ!」


女の子達の目が、みるみるハートになっていく。

「カッコいい!」


「近くで見ると、本当に素敵ね」

翼が葉月にそう囁きかける。


ゆっくり近づいてきた隆二は、葉月の前に止まってその耳元で囁く。


「ほら! 葉月ちゃん、これが普通の女子の反応なんだよ? そんな俺を()()()()()()するなんてさ、葉月ちゃんくらいじゃない?」


「すみません」


隆二はガクッと肩を落とす。

「だからさ! 謝ったらダメだって! はぁ……まぁ、イイや。昨日は俺を意識してくれたみたいだし?」


苦笑いする葉月の前で、隆二がパンと手を打った。

「よし! じゃあ君たち、これから対戦しよう。女子 vs 男子だ。ユウキ、いいな!」


「はい」


女子から歓声があがる。


「俺ら2人、君らは4人ね。いいハンデだろ? ユウキ、ジャンプボールだ! ほら、葉月ちゃんと」


裕貴が眉をひそめる。

「リュウジさん、さすがにボクだって葉月には負けませんよ!」


「そんなのわかんねえぞ? 相手は麗神学園(れいじんがくえん)だ、コツやテクニックは(あなど)れないぞ! ねぇ? 葉月ちゃん」


2人が構えた。

「じゃあ、あげるぞ」

裕貴と葉月の間に、隆二が高くボールをあげる。


絶妙なタイミングで()んだ葉月の手がボールにかかり、女子チームの方にボールが落ちていく。

「うわっ! マジかよ?」

裕貴が走りながら(くや)しそうに言った。


隆二は笑いながら、女の子たちのパスを次々にカットしていく。


「リュウジさん、ズルいですよ! その身長と身体能力なんだから!」


「だから手加減してるじゃない?」


隆二がそう言って微笑むと、その隙に後ろから葉月がポンとボールを弾く。


「あっ! クソっ! やったな、葉月ちゃん!」


そこから1on1(ワン オン ワン)が始まった。

葉月のドリブルに、隆二も仕掛けてくる。

葉月は低いドリブルで、左右に身体を振ってフェイントをかけると、リュウジの身体に背中を向けて回転しながら抜いた。


「やべぇ!」


その声と同時に一本シュートが決まった。


「ヤッター葉月!」

女の子たちが駆け寄ってくる。


「よーし! じゃあこれからは本気出して行くぞ! ほらユウキ! パスだ!」


2対4の攻防戦(こうぼうせん)が続く。


葉月はユウキのディフェンスを何度もかわして、シュートを決めた。


「ユウキ! お前、何回葉月ちゃんに飛ばされてんだ!」


「葉月は全然、シュートこぼしてないよね!?」

女子チームは更に盛り上がる。


隆二のカットを交わして葉月がシュートモーションに入った時、裕貴がディフェンスをしながら葉月の近くで囁いた。


「またリュウジさんの胸に顔を(うず)める? いや、次はトーマさんかな?」


その瞬間、葉月はシュートを外した。



「もう! ユウキ!」


葉月は、笑い転げて逃げる裕貴を追い回した。


クスクス笑っている女の子たちに隆二が尋ねる。

「なになに? なんて言ったんだ? ねぇ君たち、なんて言ったら葉月ちゃん、シュート外すんだ? その必殺技、俺にも教えてくれよ!」


葉月が走り込んできて全力で阻止する。

「絶対ダメ! ユウキも! 言ったら許さないから!」


「えーどうしよっかなー」


「聞かせてよ! いいじゃん、葉月ちゃんの弱点、めちゃめちゃ知りたいわ」


みるみる赤くなる葉月に、女子達がその肩を叩いていった。



その後は、隆二に一際(ひときわ)熱い視線を送っていた奈々のバンド(SANCTUARY)のドラムの上原尚輝(うえはらなおき)がバスケ経験者だったので、女子チームに加わって、更に攻防戦は続いた。


「結局どっちが勝ってるんだ?」


隆二のその質問に 市ノ瀬和也が答えた。


「34対27で、隆二さんチームが勝っています」


ハイファイブをする隆二と勇気を、葉月は悔しそうに見た。


「すみません! 僕がもうちょっと頑張るべきです」


生真面目な上原尚輝が、その端正(たんせい)な顔に苦悩を浮かべながら謝って来るのがおかしくて、葉月は笑い出してしまう。


「いいわよ、そんなの。尚輝君って真面目なんだね!」


隆二も寄ってきて言った。

「君が謝るんだったら、ユウキには土下座でもしてもらわなきゃいけないなぁ」


裕貴が後ろで仏頂面をする。



そこからは隆二と葉月で、3pointシュート対決をすることになった。


「尚輝君、絶対これで取り返すからね!」

葉月はそう言って、彼に笑顔を送った。


「あと女子チームメンバーはユウキが私に余計なことを言わないように、しっかり制圧(せいあつ)すること!」


「了解!」

裕貴は女子3人に羽交(はがい)()めにされた。


「じゃあ10本勝負な! どの角度から打つのもオッケーだ」


「手加減しませんからね!」


「望むところだ! 葉月ちゃん、何気に強気だな」


「3pointシューターをナメてもらっちゃ困りますよ!」



上原尚輝がスタートの合図をした。

一投一投、歓声が上がる。

盛り上がりを見せたその中庭には、いつのまにか多くのメンズスタッフがサークルのように取り囲んだ状況になっていた。


「リュウジさん、苦戦してるじゃないですか」 

葉月が涼しい顔で言った。


「クソっ! 葉月ちゃん、バスケに関してはめちゃめちゃメンタル強いな」


隆二が周りを見回す。

「なんか男ばっかりだと士気が上がんねえな、女子の君たち、黄色い歓声もよろしく」


「ハーイ! リュウジさん! 頑張って!」


「ちょっと! 私のチームじゃないの? みんな裏切り者なんだから!」

そう言いながらも、葉月は確実にシュートを決めていった。


「フォームも綺麗だなあ」

Sanctuaryのメンバーも、葉月に羨望の眼差しを送った。


最後のシュートを葉月が決めた時、中庭は大歓声に包まれ、同時に隆二が頭を抱えた。


「9対10で葉月さんの勝ちです!」

玲央がそう言って、ひときわ可愛い笑顔を葉月に投げかけた。


「クソっ!」

(くや)しげにしゃがみ込む隆二は、あっという間にオーディエンスに飲み込まれ、写真撮影と握手会のオンパレードとなった。


女子のところに戻ってきた葉月に、裕貴が手をたたいて言った。

「ボク、葉月のこと見直したよ。ここまで上手いと思わなかった」


「6年間、叩き上げられたんだから、シュートはお手のもんよ!」


「すっげぇ。なあ、バスケで大学行ったりしようとか、その後も選手生活とか、考えたりしなかったの?」


「まあ身長が足らないっていうのもあるけどね。他にやりたいことが出てきちゃったの」


「やりたいことって?」


「まあ、まだ模索(もさく)中で漠然(ばくぜん)とはしてるけど、人に感動を与えるような、そういった世界……なにかアイデアを駆使(くし)して、世に発信して行きたいって言うか……イベントとか、もちろん音楽もそうなんだけど、なにか楽しい企画とかね」


「そうなんだ。なんかもったいないなぁ……」


「そう言ってもらえると嬉しいわ! 久しぶりに真面目にバスケやって、ほんと気持ちいい!」


玲央から手渡されたミネラルウォーターをあおりながら、葉月は周りを見回した。


「なんか、こんな感じでバスケットに関わって行くのも楽しいかも!? バスケ自体は職業にはできないけど、こうやってみんながなにかを感じるために集まって、楽しんで……それが音楽だったりスポーツだったり、カルチャーでもアートでもいいのよね。私はそっち側の人間になりたいの。もちろんアーティストとかミュージシャンにはなれないから、それをプロデュースして最高のポジションまで持ち上げて、オーディエンスを笑顔にしたい」 


「葉月! あんたって最高!」


そう言って奈々が、ガバッと葉月に抱きついた。



第54話『Let's play basketball with the puppy』バスケ対決 ー終ー


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