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第49話『Luxury lunch at the Penthouse』優雅なランチタイム

通称『ペントハウス』では、葉月の緊張をよそに、エントランスのソファーで(しば)しの歓談に(たわむれ)れていたメンバーがダイニングルームへ移った。


開け放したドアの先には明るい空間があった。


「すごい……」


デザイングラスを張り合わせたような(おもむき)のある大きな窓から、柔らかい光が燦々(さんさん)と入る。

大きなダイニングテーブルには、豪華な食器とカトラリーが美しく並んでいた。


「うわ……まるでホテルランチみたいですね」

席につく彼らのラフな服装とのミスマッチ感が、逆にスタイリッシュに見える。


「でも俺ら、ここでランチ食べるのは初めてじゃねぇか?」


颯斗(ハヤト)がそう言うと、キラがテーブルナフキンを皿から取りながら言った。


「あーそうかもね」


「そうなんですか?」


「ああ。朝食はほぼ毎日ここだけど、昼も夜もどこかに出てることが多いしね」


柊馬(トーマ)がそう答えると、葉月は顔を赤らめながら(うなづ)いた。


「アンタ、自分で質問しといて、なぁに!? その()()()()()態度はっ!」

アレックスが葉月の背中をバーンと叩いた。


柊馬は笑いながら続ける。

「今年はまだ行けてないけど、合宿所で食事したりする年もあったよな?」


「ああ、去年も行ったよ。その代わり打ち上げはこっちだったけどな。お陰でとんでもないインスタあげられてさ、いい迷惑だったぜ。まあ、覚えてねーけど」


颯斗がそう言うと、キラが大爆笑した。


柊馬は葉月をまっすぐ見つめて言った。

「今年はね、合宿所の方での打ち上げ参加しようと思ってるんだ。楽しみにしてて」


「は、はい……」

葉月は赤い顔を上げて、柊馬に会釈した。


「うわ、なんだ今の可愛い顔? 見たか? リュウジ」


隆二は颯斗の言葉を無視して食事を口に運んでいる。


颯斗はそう言いながら、チラリとキラの方にも目をやった。

「おっ! こっちもこっちで、なんか戦闘モード入ってねぇか? 面白くなってきたなぁ」


キラが身を乗り出して、葉月の方に話しかける。

「ねえ葉月ちゃん、ここに来るのにさ、なんて言って誘われたの? コイツに」

そう言っておもむろに隆二を指差した。


一瞬不穏な空気が流れそうになったが、葉月がたどたどしく話す “ 花火大会の日の説明 ” がなかなか把握(はあく)できず、みんなの頭の中にはクエスチョンマークが幾つも立ち並んだ。


「へえ……よくわかんねぇけど、リュウジの連れの紹介で店に行ったんだな? じゃあ初めはリュウジがうち(エタボ)でドラム叩いてることも知らなかったんだ?」


「あ……はい……」


「じゃあそのJazz BARには、なんで夜な夜な飲みに行ってたわけ? 見た目そんななのに葉月ちゃんって実はものすごい酒豪(しゅごう)だったりとかするのか?」


颯斗の質問にアレックスが答える。


「そんなことないわよね? 昨日もちょっと飲んだだけで、かなり面白い感じで酔っ払ってたわよ」


「……アレックスさん、そんなこと言わないでくださいよ」


すかさずキラが食いついた。

「なになに! 昨日飲みに行ってたの?!」


「飲みに行ったわけじゃなくて、ショッピングに行ったのよ!」


「はぁ? ショッピング?」


「アウトレットモールよ」


「あーあそこな。オレも行きたいけど、顔さすわ」


「アレクさ、何気に()()振りかざしながら、彼女とつるんでない?」

颯斗が(あお)る。


「昨日初めて話したのよ。そしたら意外とセンスが合っちゃって! 久しぶりに楽しかったわ。ここじゃ出来ないような()()()()()()もできたしさ。……ちょっとハヤト! クスクス笑ってないで言いたいことがあったら言いなさいよ!」


「いや、リアル “ 宝塚(タカラヅカ) ” だなと思って」


「うるさいわね!」


「なんか “ 女同士だから ” とかって、ズルくね? 2人でお買い物ってか?」


「ボクとリュウジさんも一緒だったんですけど」

キラの隣で裕貴が言った。


「なんだ、水嶋(隆二)も行ったんだ? まあ、オマエ、何気に買い物好きだもんな」


「昨日は葉月のお見立てがあったみたいですよ。高級な洋服、即買いしてたからリュウジさん。ね?」


「ユウキ……お前、ホント裏切りもんだな! お前なんか上から下までトータルコーディネートしてもらったって自慢してたじゃねえか」


「まぁ……そうなんですけどね」


キラが愉快そうに裕貴の肩に手を置いた。

「は?! なんだよ? ユウキまで葉月ちゃんにたかってんの? 大人気だね、葉月ちゃんは」


颯斗がため息混じりに言う。

「なんか、みっともねえな。男がこぞってショッピングがどうだとか話ししてさ。まあ、アレクは別だけど……見てみ、トーマはその点、男だね!」


葉月が柊馬の方をちらっと見て、また微笑んで(うつむ)いた。


それを見ながら、キラが意地悪そうに言う。

「そりゃ、やっぱ結婚もしてて隠し子も3人いる柊馬君は、大人の男だからね!」


「え? ウソ……」

葉月がバッと顔を上げた。


「うわ! マジで驚いた顔してる!」

颯斗が大笑いし出した。


「葉月、いつものキラさんの嘘だよ」 


「ああ……」


キラが突っかかる。

「おいユウキ! “ いつもの ” ってなんだよ?!」


「いつも、何が本当かわかんないでしょ? キラさんの話は」


「お前、そんなふうに思ってたの? 何気にショックだわ」


颯斗が更に悪戯(いたずら)っぽい顔で言った。

「キラ、それよりもショックなことがあんだろ? どう見たって、彼女の反応の軍配(ぐんばい)は、トーマだよな!」


キラが憮然(ぶせん)として言う。

「は! なに言ってんだよ。勝負はこれからだぜ」


「ちょっとアンタ達、つまんないこと言わないの! ゲームじゃないんだから、この子で遊ばないで!」


「アレクも充分、彼女で遊んでるように見えるけど?」


「アタシはいいの! さ、葉月、気にしないでさっさと食べなさい」


葉月はアレックスに促されて頷いた。


キラはそれでも食い下がる。

「なぁなぁ葉月ちゃん、 “ タカヨシさん ” ってヤツに聞いたんだけどさぁ、オレの “ ハイトーンなのに (はがね)みたいな声 ” が凄く好きなんだろ? (もろ)そうなのに凄く強くて、歌詞も強いけど弱い部分も見せてくれるようで? あとなんて言ってたかな? 温かくて、守られてるようで、でも守ってあげたくなるような……だっけ?」


葉月の顔がみるみる赤くなっていった。


「まだあるよ。 “ キラのメッセージはいつも心の奥底まで届くって言うか……もうキラの世界に引き込まれてしまっているんですぅ ” ってか? ああ、これも “ タカヨシさん ” ってヤツに聞いたんだぜ」


葉月の言い方を誇張(こちょう)して真似たような甘い声を出しながら、キラは葉月の顔を覗き込む。


隆二がどんとテーブルを打つ。

「おい渡辺(キラ)! ふざけんのもいい加減にしろ! オマエのしょうもないイタズラに、初日から彼女がどれだけ振り回されたか! オマエさぁ、全然わかってないようだな」


「そうですよキラさん。そういうファン心理を茶化すのは、ボクもどうかと思います」  


「おーおー、師弟(してい)揃って正論だな。あーあー " ファン心理 " な? ありがたいよ。少なくとも彼女の言葉はオレに響いちゃったからね、ただのミーハーファンじゃないこともすぐわかったし」


「だったら何が言いたいのよ! アンタの愛は、なんか歪んでるわね」


「そうかもな? まあ、このフェスは葉月ちゃんに捧げちゃおうかな!」


「また! すぐそんなこと言うんだから、葉月、真に受けちゃダメよ。ホント、キラにはみんな振り回されるんだから」


「何言ってんだよ? 今回一番振り回されてるのは水嶋(隆二)だろ?」


「はぁ!? なんで俺なんだ!」


「だって、そもそも面白い話じゃんか。なになに? 出会いは花火大会の日だっけ? ああ違った、それは水嶋の親友との出会いの日か? なら水嶋との出会いはその翌日? まあ、どうでもいいけど。知り合ったばっかりの()()()()()()()()が好きで、そいつに会いたくて、水嶋のいるBARに通ってただけだろ? それだけでも充分茶番(ちゃばん)じゃん?」


「そんなんじゃ……ないです」


「そう? じゃあどうしてジャズも好きじゃないし酒も飲めない君が毎日そんな所に通うの? 不自然だろ? それともターゲットが水嶋に変わっちゃったの?」


「そんな……」


「キラさん、質問攻めですね。葉月、大丈夫?」


裕貴の擁護ようごにアレックスも同調する。


「そうよ、昼間っからする話じゃないわよ、キラ! もう! 全く……無粋(ぶすい)な男ね!」


「そんなに怒んなって。ごめんごめん、葉月ちゃんがそんな “ したたか女子 ” じゃないことは解ってるよ。君のピュアな気持ち聞いて、オレも嬉しかったし。ただなぁ……そんなピュアな葉月ちゃんに振り回されてるヤツがいるからさぁ。面白くて。なあ水嶋! オマエ、まさか親友から略奪愛(りゃくだつあい)しようとして葉月ちゃんを フェスに誘ったんじゃないだろうな?」


「……なんだと……オマエ」


隆二が席を立ちかけた時、柊馬が言った。


「キラ、そこまでだ。さあ! みんな今日は好きなように過ごしてくれ。まあ明日が本番だから、深酒しないことと、あとはセットリストくらいは頭に入れといてくれよ。解散にしよう」


柊馬の言葉を合図に、皆が立ち上がった。



ダイニングを出て行こうとする柊馬を、葉月は追いかけた。


「あ、あの……ごちそうさまでした」


葉月の方に振り向いた柊馬は、また自分を見て明らかに緊張して固まってしまった彼女を見て、優しい顔で微笑んだ。

「なんか、ごめんな」


そう言って、葉月の頭に大きな手のひらを、ポンと置いた。

「俺たちのライブ、楽しんでね」


(つや)やかなバリトンヴォイスでそう言って、歩いて行く。


そのまま微動(びどう)だにしない葉月に、柊馬は再度振り返って、付け加えるように言った。

「ああ、俺は結婚もしてないし、隠し子もいないからね」


そう言ってチラッとキラを見て笑うと、さっと(きびす)を返して歩いていった。


舌打ちするキラを横目に、去っていく柊馬の背中を見つめながら、颯斗が腕組みをして(うな)っている。

「おお、あれは……珍しいぞ! トーマなりの宣戦布告(せんせんふこく)モードか?! めっちゃめちゃおもしれえな!」


更にその横では、裕貴がため息をついていた。


アレックスは固まっている葉月に声をかける。

「葉月!  もうトーマはいないでしょ。アンタ一体いつまで固まってるつもり?」


「だってぇ、アレックスさん……」


「わかったわかった、今のトーマは誰が見てもステキよね、わかったから早く復活しなさいよ! おいで、お茶するわよ。ユウキ、アンタも来なさい」


「ああ、ちょっとリュウジさんに話をしてから、すぐ行きます」


「わかったわ。ソファーに居るから。ちょっと葉月! アンタ、歩き方カッチカチじゃないよ! ペンギンみたい。さっさと子犬に戻りなさいよ!」


颯斗が大笑いしている声が響く中、アレックスが葉月の肩を抱いてソファーへと促した。



第49話 『Luxury lunch at the Penthouse』優雅なランチタイム ー終ー

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