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第44話『Sisterly Affection』姉妹の情

ファッションモールでの食事を抜け出して、外のベンチで話していたのを裕貴に見つかり “ 現行犯逮捕 ” された隆二と葉月は店の中へ向かう。


裕貴が隆二に耳打ちした。

「もう葉月、リュウジさんのこと、大丈夫そうですね?」


「まあな。酔いが覚めて元に戻ったりしないことを祈るよ。彼女さ、こころざし高いよな。これからはしっかりするって、お前と約束したからって言ってたよ。ちゃんと頑張るんだってさ」


「そうですか。よかった」


葉月の様子を再度確認しながら、隆二が言った。

「あと……彼女、かなり酔ってるみたいだ」


「え、そうなんですか?」


「ああ、普段2~3杯しか飲めないのにオーバーしてるからな。俺、面と向かって “ 素敵です ” って言われてさ!」

隆二が得意そうな顔をしてみせる。


「あれ? ユウキ、ムッとしてない?」


「リュウジさん……シラフ同士でこういうの、やめましょうよ。なんかカッコ悪くないですか?」


「だな……」

 

隆二が笑いながらもう一度葉月に視線を向けた時、彼女がガクンと膝を折った。


「うわっ!」

隆二が咄嗟(とっさ)にその肩を支える。


「マズいな」


「うわ……朦朧もうろうとしてますね。葉月! おい、葉月!……あ、アレックスさん……」


店の奥から怪訝(けげん)な表情をしたアレックスが悠々と姿を現した。


「ちょっと! アンタたち、何やってんの?! なかなか帰ってこないから……あれ葉月? どうしたの、この子!」


「いや、さっきまでちゃんと喋ってたんだけどな。酔いつぶれたみたいだ」


「やだ葉月……目を覚まして。ちょっとリュウジ、アンタは触っちゃダメ! アタシがやるから」

そう言ってアレックスは、葉月をひらりと抱き上げた。


それを見上げた裕貴が感嘆の言葉を漏らす。

「うわー……アレックスさん、めちゃめちゃ男らしいじゃないですか! 王子様に見えますよ! いや、宝塚歌劇団(たからづかかげきだん)ってとこかな?」


「ユウキ! アンタ、ふざけてる場合?」


「……す、すいません」

裕貴が頭を掻く。


「アタシ、この子連れて外で待ってるから、これでお支払いしてきて。荷物忘れないでよ、ユウキ」

そう言って葉月を抱き上げたまま、アレックスは店を出た。


隆二と裕貴が荷物を持って外に出ると、さっきまで隆二と葉月が話していたベンチに彼らは座っていた。

アレックスの肩に寄りかかっている葉月には意識がなく、遠くから見たら熱愛中のカップルにしか見えない。


「あの絵はかなりマズイですけどね……」


裕貴がそう言うも、隆二は返事もせず、つかつかとベンチまで進んだ。

「アレク、飲ませすぎだぞ」


「ホント、そうみたいね。この子、こんなにお酒が弱かったのね。知らなかったとはいえ、悪かったわ。ねえ隆二、アタシの荷物持って、先一人で帰ってて」


「あ? なんで?」


「アタシはこのまま葉月を連れて、ユウキと車に乗って合宿所まで送り届けるわ」


「そんなこと言ったって、アレクが合宿所に入るわけにいかないだろう?」


「そんなの、わかってるわよ。なんとか着くまでにこの子を起こしてさ、合宿所にはユウキに連れて入ってもらう。だからアタシは後から、ユウキと一緒にペントハウスに戻るから」


一瞬、納得いかないような顔をした隆二も、やむなく(うなづ)いた。

「分かったよ」


「じゃあ行きましょう。ユウキ、車はどこ?」


アレックスは後部座席に、葉月を抱いたまま乗り込んだ。

膝に乗せ、それからそっと頭を支えて座席に座らせる。


「アレックスさん」

ユウキがハンドルを切りながら話しかけた。


「やけに葉月のこと、気に入りましたね。どうしたんですか?」


「昔飼ってた犬に似てて」


裕貴はすっとんきょうな声を上げる。

「は? なんすかそれ?」


「まあそれは冗談だけど……それに近い感情があるわね。この子、カワイイし危なげだけど、素直でイイ子よね。本当に妹みたいな気持ちになっちゃう」


「それって、アレックスさんの()()ってやつですかね?」


「アンタ、今()()()をバカにしたでしょ!」


「し、してませんって!」


「まあいいわ。この子をよろしくね。アンタも含め、悪い虫がつかないようにしてちょうだいよ」


「ヒドイ言いようだな。ボクなんて善良中の善良でしょ?」


「そうだけど、それは葉月がアンタのことを “ 男として認識してない ” から、成立してるだけでしょ?」


「……結構ド直球で来ますね。何気に傷つくなぁ……」


「あれ? ユウキ、結構本気だった? ごめんなさい」


「はあっ……なわけないでしょう? 全く、マジでアレックスさんにはかなわない……」


「フフ。ついでに言うとね、この子には魅力があるわ。この子に悪気わるぎはないんだろうけど、けっこう周りで振り回されちゃう男はいるかもよ。……なぁに? もしかしてアンタもその一人とか?」


「そんなこと……」


「ま、あながち違うとも言えないんじゃない? こうして振り回されてるしね? でも……ちょっと心配なのは、リュウジとキラかな?」


「え? どういうことですか? なんか、穏やかじゃなですね」


「うん。ああいうモテ男ってさ、逆にこういうタイプの女子には免疫が無いのよ。だから逆に面倒な事になりがちなのよね」


「面倒?」


「そう。だからさ、カラッと健全に()()()()()()()()()()! になった方がいいかもよ? アンタとこの子みたいな関係性にさ。あ、そうだ! 明日この子、ペントハウスに連れてきて!」


「ええっ?! そんなことしていいんですか?」


「アタシから、かすみ(マネージャー)に言っておくから。葉月は真面目だし、迷惑かけるような事もないでしょう」


「なんかこっちで勝手に話がまとまりそうになってますけど……葉月本人の気持ちはどうですかね? 今日のリハの時の事も、相当落ち込んで、不安に思ってたみたいですし」

「だったら、もはや荒療治(あらりょうじ)しかないんじゃない?! とびきりのイイ男に()みくちゃにされて、全部フラットにしちゃったら、もう逃げ場もないし」


裕貴が運転しながら苦笑いする。

「うわ……なかなか “ オニの所業(しょぎょう)” ですね」


「まあね。二十歳(ハタチ)の子には(こく)かしら? でも、一皮むけてもいい時期なのかもよ?」


「なんか、アレックスさんが “ 脱皮した後の蛇 ” に見えてきました」


「アンタねぇ! 一度殺されたいの?!」


「い、いえ! すみません! フフフ……」


「そろそろ起こすわよ。ほーら葉月! 起きて! ねえ葉月、アタシが誰だかわかる?」


葉月はうっすらと目を開けた。

「……ん、アレックスさん……」


「正解! 今ね、帰りの車だから、起きて合宿所に帰るのよ。起きなきゃアタシがアンタをお姫様だっこしたまま部屋まで連れてっちゃうわよ!」


葉月は急に目を大きく見開く。

「そ、そんな……それは絶対ダメです!」


「フフフ。なんだ、そんな酔っ払いの頭でもちゃんと理性が残ってるじゃない。じゃあ起きられる?」


「はい……」

そう言って葉月は、なんとか身体(からだ)を起こした。


ぼんやりして瞳でアレックスを見つめる。

「……アレックスさん」


「はい、なあに?」


「綺麗ですね」


裕貴が吹き出した。

「あはは。まだぜんぜん酔ってるじゃん」


その頭を後部座席からアレックスが殴る。


「痛ってっ!」


「あ、ユウキもいる……」


「当たり前だろ、葉月を連れて帰んなきゃいけないんだから」


「ありがとうね、ユウキ!」


「な、なんだよ急に」


「いつも感謝してる。私を助けてくれて」


「そうだよ、いつも助けてるんだから」


「ありがとうね」


「はい、どぉいたしまして」


「明日は約束を守って頑張るから、色々教えてくれる?」


「いいよ」


「ホント頼りにしてる、ユウキ、私ね……」


「……もうわかったって!」

裕貴は恥ずかしそうに、ぞんざいな返事をした。


アレックスは葉月の両方の頬っぺたをぎゅっとつまむ。

「もうっ! 可愛いんだからぁ!」


「痛い痛い痛い痛い!」


「ね? 目が覚めたでしょ?」


「……ああ、覚めました……」


裕貴が吹き出しながら突っ込んだ。

「嘘つけ! ぜんぜん覚めてないじゃん!」


「アレックスさん」


「今度はなぁに?」


「楽しかったです」


アレックスはぎゅうっと葉月を抱きしめた。

「アタシもよ葉月、ライブ終わったらまたショッピングに行こうね!」


「はい」


「その前にね、明日ペントハウスに遊びに来るって、約束したから」


「はい? 約束……? 誰とですか?」


「アンタとよ! ユウキが連れてくるって」


葉月はバチッと目を開けて、体を起こした。

「……そ、それは、無理です」


「なになに!? 急に起き上がって」


「はは、現実に戻ったって感じですかね?」

ユウキがバックミラー越しにまた苦笑いする。


「だ、だって、そんなの……トーマもハヤトも居るんでしょ? キラさんも……ああ、無理! 無理です! 絶対無理無理!!」


アレックスはブンブンと首を横に振る葉月に、眉を上げた。

「そんなぁ! 特別に考えないでいいのよ。普通にしてれば、ちょっと面白いオジサンなんだからさぁ」


「お、オジサンだなんて……」


「うわ、また葉月、混乱しだした」

裕貴が笑いだす。


「ユウキひどい、他人事(ひとごと)だと思って」


「他人事じゃないよ、ボクだって行くからさ」


「ユウキはもともと住んでるんだから、何にもハラハラしないじゃない!」


「ハラハラしたって大丈夫よ、アタシがいるでしょう?」


「そりゃアレックスさんがいないと、絶対無理ですけど……」


「じゃあ決まり! アタシがいるんだから、来なさい!」


「でも……」


裕貴が一つため息をつく。

「なぁ葉月、この状況で逃れられると思うか?」


「それは……」


「葉月、荒療治よ!」


「本当にガチの荒療治だけどなぁ……お気の毒さま!」


葉月は下を向いて胸を押さえる。


「午前中にまたリハーサルがあるから、そん時にしっかり慣れとかないと、後々困るんじゃない? 知らないわよ!」


「どうしよう……! ユウキ!」


「そんな甘えた声出しても、ボクは知らないよ、葉月が頑張んなよ」


「ええっ…………」

葉月はそのままうなだれた。


「すっかり起きたわね」


「でも意気消沈してるみたいですけど」

裕貴が葉月をちらっと見る。


車が合宿所に到着すると、葉月は急に身体を持ち上げ、可能な領域で姿勢を正してアレックスの方を向いた。


「わっ! なになに?!」


「あの……アレックスさん! 今日は本当にありがとうございました。本当に楽しかったですし、色々ご馳走にもなって……靴も、ありがとうございました。明日早速()いて……」


「履いて、どこに来るのかなぁ? 言ってご覧なさいよ!」


「ぺ……ペントハウスに……」


「アレックスさん、何気にイジメ過ぎです」

裕貴がニヤニヤして言った。


「ヤバいわね、(クセ)になっちゃいそう! 明日も楽しもうね、葉月。よく寝るのよ! おやすみ」


「おやすみなさい」


「じゃあユウキ、アタシ車で待ってるから」


「わかりました」



合宿所の扉を開けて、がらんとした食堂に入った途端、葉月はソワソワしだした。

声を落としながらも興奮が冷めやらない状態で裕貴を仰ぐ。


「ユウキ、ユウキ、どうしよう、どうしよう、どうしよう! 私、無理だと思わない? 無理だよね? だってさ、今日、リュウジさんでギリギリよ! そこにさ、ハヤトとキラさんと、それにト、トーマがいる所に行くなんて、絶対無理だと思わない?」


「もう決まったことだよ、逃げられないな」


「ユウキ、明日私が失神しかけたら、殴ってくれていいから! お願い、何とかして! 私がしっかりするように協力して!」


裕貴は声を殺しながらも、お腹を押さえて笑う。

「葉月、マジで面白いわ! ボクも楽しみになってきちゃった」


「そんなこと言わないでよ!」


「わかったわかった、とりあえずさっきアレックスさんも言ってたけどさ、朝のリハーサルで、ある程度コミュニケーションとってみたら? でないと大変なことになっちゃうぞー!」


「ユウキ、楽しんでない? 私の状況見てたのに、ひどくない?!」


「ははは、アレックスさんが、そろそろ()()しろってさ」


「脱皮……」

葉月は肩を落とした。


「観念したか! なあ葉月、それよりさぁ」


「なに?」


「今から部屋に戻って3人と話すんだろう?」


「うん。帰ってるかどうかわかんないけどね」


「彼女らのことは、ボクだって信用してる。だけどさ、今の葉月の置かれてる状況はあまりにも特別なんだよ。わかる? 本当にイイ子たちとは思うけど、やっぱり何か妙に思っちゃうかもしれないから、そういう意味では彼女らの為にも、今日の事もそれから明日の事も伏せといてね。前も言ったけど、ペントハウスに入るって事は、ボクでも誓約書を書かされてるぐらい、軽はずみは許されないってことなんだ。大丈夫だよね、葉月?」


「ええ、もちろん。ちゃんと守る!」


「うん、ようやく抜けてきたかな? 葉月はさ、真面目な話でもしないと酔いが覚めないかなと思って」


「え……なんだかユウキ、策士(さくし)みたい」


「なに言ってんの、葉月みたいな天然の方が希少なんだよ。じゃあ明日は朝からステージ上のセッティングから雑用まで、厳しく教えるからな! しっかり頼むぞ!」


大きな紙袋をいくつもぶら下げて、階段を危なっかしく上がっていく葉月を見送る。


今日は葉月の新たな側面をいくつも見た。

加えて、そこに心動かされる自分も……

裕貴は天井を仰いで一つ息をつく。


女友達は多い方だった。

加えてあまりホレっぽいタイプでもない。

しかし……彼女みたいな女の子は初めてだった。


「なるほど……アレックスさんの見識けんしきも、まんざら違うとも言い切れないな」

そう呟きながらため息をついた裕貴は、アレックスの待つレンジローバーへ戻った。



第44話『Sisterly Affection』姉妹の情 ー終ー

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