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第41話 『Have A Great Shopping』with A

葉月は1人、だだっ広いアウトレットモールのベンチに座ってテーブルに(ひじ)をつき、飲み物を買いに行ってくれた裕貴を待っていた。

すると、耳元で男の人の声がして驚く。

固まったまま、やり過ごそうとしていた葉月の前に現れたのは予想外の人物だった。


「ア、アレックス……さん?!」


その大きな目が、バチッと音がするかのように、ウインクした。

「正解! だ・け・ど! こんなところでそんな大きな声出しちゃダメよね? お嬢ちゃん?」


「あ……! ご、ごめんなさい」

葉月は周りを見回した。


アレックスは頭の上に上げていた大きな丸型のサングラスを顔に装着する。

そして葉月の前にゆっくりと回り込んで、真向かいに座った。


「ちょっと! 何ぼーっとしてんのよ!」


「だ、だって……私の目の前にアレックスさんがいるなんて……」


「なんだぁ、見とれてるだけか?」


「そ、そうです」


「へぇ、素直じゃない? なんか散々な目に()ったんだって? お気の毒さまね。キラに遊ばれたんだ?」


「遊ばれた……?って言うか……」


「ああ、そんな言い方しちゃったら、聞こえが悪いか、ごめんなさいねぇ」

顔にかかる赤い髪をかき上げながら、アレックスはグッと葉月に近付いた。


「ねぇ、話聞いてたらさぁ、あんたって、天然記念物みたいな子なんだってねぇ?  今時(いまどき)ウブなんて流行んないと思ってたけど……まあ」

そう言って、サングラスをずらしながら、品定(しなさだ)めでもするよう葉月に視線を向ける。


「ちょっと立ってみて」


「え?! どうしてですか?!」


「いいから!」


「は、はい……わかりました」


アレックスは少しのけ反るようにして、葉月の全体を眺めた。

「うーん、そうね、服はいいんだけど靴が合ってないのよね」


「あ、実はこの服、借り物で」


「そうなの?」

そう言いながらアレックスは、葉月が買ったブティックの紙袋の中身を物色(ぶっしょく)し始めた。


葉月は突っ立ったまま、唖然(あぜん)としてそれを見ている。


「ふーん、なかなかいいチョイスよね? このカットソーもかわいいし……でも、これにもその靴はちょっと……ねぇアンタ、靴は買ってないの?」


「あ……いえ、いいなって思ってるのがあって……ここで休憩してから、もう一度見に行こうと思ってたんですけど……」


「そうなの! じゃあ今から行こうよ!」


「えっ……ど、どうしてですか?!」


アレックスはため息をつきながら、アンニュイに口元をゆがめる。

「アタシだってなかなかショッピングに来れないし、一緒に見て回る相手がいないのよ! だってさ、無骨(ぶこつ)なオトコばっかの職場よ! わかるでしょ?!」


「しょ、()()って……フッ……」

その表現に、葉月は堪えきれず口角を上げた。


「ふうん、アンタ、笑うとかわいいわね。じゃあ、行くわよ!」


「え? ちょ、ちょっと……!」


アレックスの肩越しに、手に2つの飲み物を持ったまま走ってくる裕貴が見える。

葉月が男に連行されそうになっているのを遠目で見て、慌てて戻ってきたようだった。

葉月の目線を追って後ろを振り向いたアレックスの顔を見て、瞬時に裕貴は固まる。


「アレックスさん……どうしてここに……」


アレックスはつかつかと詰め寄った。

「ねぇユウキ、アンタさあ、()()()()()()、この子にしゃべった?」


裕貴は気まずい表情のまま頷いた。

「あ……えーと。それは……はい」


アレックスは続いて葉月にも意地悪な瞳を投げる。

「アンタ、アタシのこと、()()してるのよね? この意味わかる?」


「あ……まあ」


「そう! だったら話が早いわ。行くわよ!」

そう言って、さっと葉月の腕を取った。


「え? ど、どこに行くんですか?!」


「なに言ってんの! さっきアンタが言ってた靴屋さん、見に行くんでしょう!」


「え……でも、どうしてアレックスさんが………?」


「もう、うるさい! ちょっとユウキ! アンタさ、そこの買い物袋、全部持ってきなさい」


「あ、いや、飲み物が……」


アレックスはくるっと裕貴に向き直る。

「もう、めんどくさいわね! それはアタシたちがもらったげるわよ! それと……」


アレックスは大きく後ろを向いて、声をあげた。

「そこのアンタも! そんなところに隠れてないで、さっさとついて来て!」


「えっ? 誰かいるんですか?」

葉月がきょろきょろと辺りを見回す。


アレックスが葉月に組んだ腕をぎゅっと引っ張って、耳を近づけてヒソヒソと言った。

「アタシのオ・ト・コ!」


「ええっ!?」


更にきょろきょろする葉月に笑い出した。

「アンタ、面白いわね! リュウジよ、リュウジ!」


「え……リュウジさんも来てるんですか?」


「ええ、アタシたちサポメンブラザーズでショッピングに来ちゃったの。ユウキが電話してきたじゃない? アタシ横にいてさ、聞いてたわけ。そしたらアンタたちがここに買い物に来てるって言うから、アタシも行きたくなっちゃったのよ。 ねぇ、どの店なの?」


「ああ……もう少しで着きます。あの角の……」


「あら! あそこならアタシも買ったことあるわ」


葉月が控えめに尋ねる。

「でも……あそこはレディースしか置いてなくて……サイズとか……あるんですか?」


「失礼ね! 私こう見えても足元はコンパクトに出来てるのよ! 26だけどね」


葉月はちょっと下を向いた。


「アンタ! 今笑ったでしょ?!」


「いえ……すっ、すみません」


アレックスは呆れたように葉月の顔を覗き見ながら、その腕を更に強く掴んだ。

「フッ、面白い子ね」


葉月は高い位置にあるアレックスの顔を仰ぎ見る。

「あの……ていうか、こうやって腕組んでたりしてて、マズくないんですかね? ファンの方とかいらっしゃるでしょうから、なんか勘違いとかされたら……」


「はぁ? そんなこと気にしなくていいわよ。アタシみたいなルックスの人間がアンタみたいな()鹿()()()()と付き合ってるナンテ思うわけないでしょ!?  ああ……まぁでも、なくもないか?  思ってたよりはカワイイし」


目を白黒させている葉月に、アレックスは笑い出した。

「しかし……昼間はあんた、悲惨だったわね。思い出すだけで笑えるわ」


葉月は腕を引っ張られながら肩を落とす。


「もう! どーでもいい事をいつまでも気にしないの! 誰もアンタのこと取って()やぁしないわよ。ただ仲良くしたいだけでしょ? アタシもそう。()()()()()()()()が欲しかったんだよね。ここしばらくは “女子友” として楽しみましょう!」


「ええっ。じょ、女子友ですか……」


後ろで裕貴が笑いだし、その横で隆二がめんどくさそうにため息をついた。



ショップに到着すると、アレックスはさらにパワーアップする。


「それで? どの靴? あ、ちょっと待った! さっき見た服に合わせてだったら、アタシのセンスだと……これかなって思うんだけど。アンタはどれを選んだの?」


「あ、それです」


「ホントに?!」


「ええ、本当です」


「ヤダ! アンタ見る目あるんじゃない! よし決めた!  今からもう戻んないで、このままショッピングしましょうよ。ディナーもここでイイじゃない? ねぇ!」



店の外で、隆二と裕貴はぎこちなく立っていた。


「リュウジさん、どうしてここに?」


「ああ……お前と電話してるのをアレクに聞かれちまってさ」


「だからって! また葉月に会ったら……とか、思わなかったんですか?」


「まあそう思ったから、アレクには一回断ったんだけどさ。そしたら、逆にステージじゃないとこで会えばいいじゃんって、もううるさくて……」


「まあ……もっともではあるんですけどね」


「しかし……予想外の展開だな。アレク、あの調子じゃぁ、葉月ちゃんのことかなり気に入っちまったみたいだよなぁ」


「ですね……さっき “女子友” ってワード、聞こえましたもん」


「マジかよ? ややこしい展開だな、これは……」


アレックスが靴屋の中から声をかける。

「ちょっと、アンタたち! なにメンズ同士でコソコソやってんのよ。アタシたちまだ帰んないわよ。ディナーもここで食べて帰ることにするわ。ねぇリュウジ、このままこの子と一緒に買い物しててもいいでしょ?」


「はぁ?! いいもなにも……葉月ちゃんは構わないわけ?」


そこで初めて隆二と目が合った。

少し彼女がドギマギする様子が見える。


「も、もちろんです」

葉月は伏し目がちに答えた。


「ちょっと、何はにかんでんのよ! リュウジは()()()()()()()なんだから!」

 

「はぁっ! なに言ってんだ!」


隆二の反応に、葉月はうつむいて笑いだす。

自然に隆二も笑顔になるのを、裕貴は横で見ていた。


「アンタは? ユウキ」


「え、なにがです?」


「彼女と二人でデートしたかった……って顔にも、見えなくはないけど?」


「……そんなことないですよ」


「そう。じゃあ決まりね!  アタシたち、これからこの辺の店を回るから、アンタたち付いてきなさい!」


「なんだそれ?」


「じゃあこの子がこの靴買うから、リュウジ、これで払っといて」

そう言ってアレクは隆二にカードを渡す。


葉月が慌ててアレックスに向き直った。

「そんな! 買ってもらうなんて、そんなのダメです」


「つまんないこと言わないの! アタシがアンタに買いたいもん買って何が悪いのよ! じゃあ次、行くよ! あ、リュウジ、それ、すぐ履かせるから値札外しといてって言って。アタシたち、別の店に行くから持ってきてね」

アレックスは有無を言わせず店を出る。


「フッ! ハハハ……」

裕貴が笑い転げながら隆二の代わりに支払いをして、増えた荷物を腕にかけた。


「フフフ……アレックスさんって、いつもリュウジさんに対してこんな感じなんですか?」

裕貴はまだ笑っている。


「あのなユウキ、よくよく考えてくれよ、アイツは女じゃないから!  一応()だから!」


裕貴は更に笑った。

「そんな意地になって言わなくても……別にホントにアレックスさんと付き合ってるなんて、思ってませんし」


「当たり前だろうが! お前、分かってて言うなよな!」


「あははは。リュウジさんもアレックスさんが相手だとグズグズなんですね」


「うるせー! 言ってろ!」


「リュウジさん、見てくださいよ、あの二人」

裕貴にそう言われて、隆二はまじまじと葉月を眺めた。


メイクのせいもあって、いつもと雰囲気が違って大人っぽくみえた。

すらっと伸びた手足がやたら女性ぽくて、裕貴に気付かれないように視点を外す。


「なんだよ?」


「葉月って、アレックスさんにあんなに接近されてるのに、全然大丈夫じゃないですか?」


「あ……まあ、そうだな」


「 “ 生写真 売上ナンバーワン ” の超イケメンピアニストの “アレックス” ですよ?!  おかしいと思いません?」


「ああ……確かに」


「あんなに密接なのに何ともないのは、きっと葉月の中でアレックスさんは “ 同性 ” っていう認識なんですよ」


「ああ、なるほど」


そう聞いて葉月に目をやると、ぴったりと肩を接したまま、時折頬に触れたりしてくるアレックスの顔を見つめ返し、なんども(うなづ)きながら満面の笑みで化粧品を選んでいる。


オトコとなら、あんな素振りはしないだろう。

「たしかに、そうみたいだな」


「それを言うならボクたちも同じですよ。相手がキラさんとか、そうじゃなくても他の男が葉月にあんなことしてたら、絶対に阻止しに行くじゃないですか? でも。気付けばボクたちも、平気な顔して見てますもんね」


「ホントだ、面白いな」


「それにボク、アレックスさんのあんな楽しそうな顔を見たのは初めてです」


2人はしばらくその光景を、微笑ましく見ていた。


「しかしリュウジさん、アレックスさんと2人でショッピングに来るなんて、珍しくないですか?」


「まあ、サポメン同士、なんとなく通じるもんがあるわけよ」


「ボク、リュウジさんを見つけた瞬間、てっきりボク達のデートを阻止しする為に来たのかと思いましたよ」


「へぇ。お前はデートのつもりで来たわけか?」


「どうかなあ……でも、今日は葉月にトータルコーディネートしてもらったんです。ボクもオシャレに目覚めようかなあって」


隆二が(ひらめ)いたと言わんばかりに目を見開いた。

「あ! わかったぞユウキ! 俺が葉月ちゃんとショッピング行ったって聞いたから、その “ 当てつけ ” のつもりだったんだろ!?」


裕貴は面倒くさい顔をする。

「別に。そんなことありませんよ」


「ウソつけ!」


「ちょっとアンタたち! ちゃんとついてきなさいよね!  次はアタシの服を見に行くから。アンタたちも今度はメンズショップだから入れるわよ。ほら! 行くわよ!」


2人は大きくため息をつく。

「はいはい」


メンズ同士、肩をすくめながら笑った。


第41話 『Have A Great Shopping』with A ー終ー


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