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第40話『Have A Great Shopping』with Y

裕貴は翼たちと分かれて、『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』のメンバーと食事に出かけている隆二に電話を入れる。

「あ、もしもしリュウジさん、お疲れさまです。このあと午後からはリハーサルですよね?」


「ああ、 “ 通しリハ ” だから夕方まではカンヅメだろうな。今、合宿所だろ? どうした?」


「あ……話の流れで、葉月をアウトレットに連れて行くことになったんですが……」


「そっか。いいんじゃないか。葉月ちゃん、ちょっとは元気になった?」


「まあ、合宿所の女子達のおかげでちょっと落ち着いてきてるので、買い物にでも付き合えば機嫌(きげん)も良くなるんじゃないかって……」


「わかった、行って来いよ。俺、そっちに車置いてきてるだろ? 乗っていっていいから」


「ありがとうございます」



アウトレットモールは、平日とはいえ夏休み中ということもあり人通りは多かった。


「ここ、広いね! アウトレットに来るなんて久しぶり!」

葉月のテンションが上がっているのが見てとれた。


「ボクなんて、去年リュウジさんと来て以来だよ」

裕貴は少し様子を見ながら、その名前を出してみる。


「ええ? リュウジさんと? フフフ……」

葉月は少し笑う。


「なんだよ! 男同士で来ちゃ悪いかよ」


「そういうわけじゃないけど……」


「リュウジさんは、買い物好きでさ。それも服とか小物とか?」

“ リュウジさん ” というワードにおいてはもう大丈夫そうだと、そう思った。


「そうね、結構こだわりもあるみたいだし。リュウジさんは何着ても似合っちゃうから、吟味して逸品を探すっていうか……確かにこのアウトレットなんて、うってつけかも!」


「ああ、そうだった! 葉月はリュウジさんとショッピングデートしたんだった!」


「デ、デートじゃないわよ! フェスに来るための買い物だし……」


「ふーん。今日、リュウジさんが昨日着てたシャツもその時買ったやつなんだろ?」


「そう! イタリアンテイストで洒落(しゃれ)てるでしょ?!」


「確かに、ロックドラマーって感じじゃないよね。ちょっと()()()()感じ?」


意味ありげに言う裕貴に、葉月は少しにらみを利かせる。

「また! そんなこと言う!」


いつもの調子に見えて、裕貴はホッとした。


「去年ここに来た時にさ、リュウジさん、結構楽しそうにショッピングしてて。本当はゆっくり見て回りたかったみたいなんだけど、リュウジさんのファンがいてさ、追いかけ回されて……そうこうしてるうちに、なんか大勢に囲まれちゃってさ。迷惑になるからって、すぐ帰ることになったんだよ」


「そう……やっぱりそうなのね。今朝ね、ユウキとリュウジさんが車であの道を通ってたでしょ? 周りの女の子たち、車も知ってたし、リュウジさんの話で盛り上がってた」


葉月が少しうつむいた。

裕貴が心配そうに覗き込む。

「どうしたの?」


「なんか……自分のことが滑稽(こっけい)だなと思って。そんな人気者なのに、私全然知らなくって。それでいて一緒にバスケなんかやったり、毎日お店に行ったり、一緒にお買い物にも行ったりしちゃって……私じゃ不釣(ふつり)り合いなのに。ひょっとしたらリュウジさんのこと認識してる人が目撃したかもしれないよね。そんな人からしたら、横に並んでるのが私じゃぁ変に思ったかも。それか、リュウジさんが恥をかいたんじゃないかって……」


「いい加減にしろよ! 葉月!」

裕貴はムッとして言った。


「え?」


「自分のことを卑下(ひげ)するってさ、美しくないことだよ。ボクはそういうの嫌いだし、そういうことは何の得にもならないし発展性もないと思う。誰も楽しくないっていうか……解るだろう? ボクは葉月のこと、いいと思うよ。ちょっと不器用だからって、それの何が悪いんだよ! それも葉月らしさじゃん? もっと自分に自信持ちなよ。それに、いつもはそんなことないだろ?」


葉月は少し驚いたように裕貴を見ると、また少し(うつむ)く。


「えっ……まさか泣いたりしないよね?! ごめんごめん! ボク、キツく言い過ぎたかな? そんなつもりは……そうじゃなくてさ、葉月はいい子だし、可愛いって言いたかったんだ。だから自信持って欲しくて強く言っただけで……ね、だから泣いたりしないでよ。お願いだから」 


「……ありがとう」

葉月はゆっくり顔を上げた。

「昨日の夜も、励ましてもらったばかりなのに。ごめんね。私ね、今朝には持ち直してたよ、ユウキのおかげで。なのに、またさっきみたいにダメになって……それが情けなくて。でも今こうしてまたユウキが力をくれてるから、私、頑張って立ち直るね。ユウキが()()()()()()()()って思える子になるよ」


「よかった……」

裕貴は心底ホッとしたような顔をした。


「同じようなこと、言われたことがあったの……思い出しちゃった」


「え?」


「あ、ううん、いいの。行こう!」

葉月は歩き出した。

その心も前進し始めたと、そう確信できるような表情で振り向き、笑顔を見せた。


「なあ葉月、リュウジさんにどういう服を見立てたの?」


「ああ、まずはフェスのステージ用のちょっとワイルド気味のTシャツと、あとはハイブランドライクなシャツをね。 “Bar『Blue Stone』のリュウジさん” ってイメージが強かったから、どうしても大人のオシャレ系に目がいっちゃうのよねぇ。もし、先に『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』でドラムをたたいてるリュウジさんの姿を見ていたら、きっとチョイスも変わってきたと思うんだけど。その時にね、連れて行ってもらった素敵なランチのお店の隣に『Paul(ポール) Smith(スミス)』があって、そのマネキンがリュウジさんそっくりで。なんかそのイメージが着いちゃったみたい」


「ふーん。だからあんな感じだったんだ。まぁもともとおしゃれな人だけどね。バンドのドラマーって感じは微塵みじんもしないから、葉月がイメージ湧かなかったのもわかるけど」


「そんなこと言ったらユウキもそうよ、そんなにミュージシャンを全面に出してないじゃない?」


「それはまた別の理由さ。ボクがゴリゴリの音楽系ファッションをすると、高校生に見えちゃって」


「あははは! わかる」


「笑うなって!」


「ごめん、でも私も一緒よ。高校生に間違えられたこと、何回もあるもん」


(うなづ)きながら、裕貴は葉月の()で立ちをまじまじと眺める。

「今日は、全然違うね」


「ホント? 梨沙子のおかげだなぁ」


「なんか急に大人っぽくて、びっくりした。本当に似合ってるよ。普段はそういう格好しないの?」


「まあ、ここまではね。私、イベント系のアルバイトしてるって話したでしょ? そこに行くときはあんまり子供っぽいカジュアルな格好ができないから、一応フェミニンな感じだったり、少しフォーマルが入ったようなテイストの服を着るようにはしてるんだけどね」


「そっか、ボクは昨日のTシャツ姿で現れた葉月のイメージがついちゃってるからさ」


「あれはリュウジさんが見立ててくれたの。2点で悩んで、そしたら1着プレゼントしてくれて……」


「そうなの?! そういやぁ、葉月もスティックケースをプレゼントしてなかった?」


「ああ……ええ……」


少しばつが悪そうに微笑む葉月を、裕貴はグッと睨む。


「やっぱりデートじゃん! もう! なんか、ボクが普段見てる "リュウジさん像" が崩れるわ! あーあ! もうリュウジさんの話はいいや! ボク、今日はショッピングに(てっ)するよ」


「あはは、そうよね。ユウキは何がほしいの?」


「うーん、そうだなぁ……それなら今日は、葉月にバッチリ見立ててもらおうかな?」


「いいよ! 私そういうの本当に好きなんだ! 将来はね、イベントもだけど、ファッション業界にも関わりたいって思ってて」


「そうなんだ?」


「うん。じゃあ今日はいっぱい見ちゃお?! 私も今日は奮発して買っちゃう!」



葉月とユウキは、片っ端からブティックを()め、鏡の前であれこれ服を合わせたり、フィッティングに入っては、お互い批評したりして、意欲的な活動をした。


「いやぁ……結構、買ったよな?」

紙袋の束を見て裕貴が言った。


「私よりユウキでしょう?! ほぼトータルコーディネートだけど?」


「まぁ、()()()()()()()とショッピングに出かける機会もなかなかないし?」


「ホント!? よかったの?」


「もちろん!」


葉月は足取りも軽く、スカートの(すそ)を揺らしながら()ねるような後ろ姿で、裕貴の少し前を歩いていた。


" その格好、本当にいいね " と言おうとしたとき、急に葉月が視界からフッと消えた。

「ん?」


葉月は露店の前に座り込んだ。


裕貴が後ろから、自分もしゃがんで小さな声で言う。

「おいおい! そんなに勢いよく座ったら、短いスカートがめくれちまうだろ?」


「あ……そっか! 普段あんまりこんな短いの履かないから忘れてたよ」

屈託のない顔で舌を出した。


裕貴の気持ちを置き去りに、夢中になってそこに並ぶアクセサリーを見ている。

「すごい! これ一つ一つ手作りなんですか? かわいい……」

そう言いながら その中の一つのペンダントを指でなぞる。


スマホのバイブレーション音が鳴って、葉月がカバンを探りだす。

露店主に「ごめんなさい」と言って立ち上がって、葉月はそこを離れた。


「葉月、電話?  誰から?」


「あ、メッセージだった。梨沙子からなんだけど、今日来られなくなったって。理由はわかんないけどね。どうしたんだろ? また話すって書いてあるけど……」


「ふーん、そっか。まあいいんじゃない?」

軽くそう(うなが)しながら、裕貴は彼女らが妙に気を回したことに肩をすくめる。



「はぁ! すごくよく歩いたよね?」


「うん。葉月、ちょっと疲れたんじゃない?」


「あ……正直言うとね。着慣れない服着てるから、なんか足元とか気遣っちゃって……」


「じゃあさ、あのベンチに座ろう。ひとまず荷物おこうか。ボク、リュウジさんに電話するから、ついでに何か飲み物を買ってくるよ」


「ホント? ありがとう」


葉月は1人、ベンチに座った。

たくさん並ぶショッパー(ブランド紙袋)を見ると、嬉しくなってしまう。

女子特有の感情なのかもしれない。


「いやいや、ユウキも今日は充分パンチのある買い物をしてるからね。フフフ」


もちろん葉月が勧めたものではあるが、裕貴はその中でもエッジの効いたテイストをチョイスし、特にパンツの丈と靴に関してはこだわって、試着を重ねた。


「トータルコーデの仕上がりは上々ね! いつこれを着てくれるのかは分かんないけど、きっとリュウジさんは驚いてフリーズしちゃうんじゃないかな?!」

葉月はそう想像して微笑む。


葉月がのんびり座っていると、すぐ後ろから耳元で男の人の声がした。

「そこのお嬢さん?」


葉月はびっくりして、振り向かずに固まる。


「どうしよう……早くユウキ、帰ってきてくれないかな……」


そう思いながら俯いたままやり過ごそうとしている時、前からスッと人が出てきた。


「わっ!」


そこに出てきた視界いっぱいの顔に思わず見とれる。

「うわ……綺麗な顔……あれ? 女の人? でもさっき男の人の声がしたんだけど……」

葉月はその格好のまま混乱した頭でぼんやりとその顔を眺めていた。


「ふーん。思ったより可愛いじゃないの?」

言葉はさながら、声はやっぱり男の人だった。


「ウブなハタチのお嬢ちゃんだって聞いてたからさぁ、てっきり田舎臭(いなかくさ)小娘(こむすめ)かと思ってたんだけど……フーン、なかなかじゃない? 悪くないわね」


近すぎて全貌(ぜんぼう)が分からず、葉月は少しのけ反って、改めてその顔を見た。


「うわぁ! も、もしかして……ア、アレックスさん?!」


「あら、ご名答(めいとう)! フフフ」


その大きな目が、バチッと音がするかのように、ウインクした。



第40話『Have A Great Shopping』with Y  ー終ー


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