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第33話『Talking Party In Public Space』女子会

「あのさぁ……君たち、夕食は食ったんだよな?」

山盛りのお菓子を見て裕貴が言った。


「なによユウキ! 一体なにが言いたいわけ? 女子にとっておやつは別腹(べつばら)だって、それくらいは把握してるわよね!」


「さっき暴れたからカロリー消費してもうたしなぁ」


裕貴は溜め息をついた。

お菓子のテーブルを囲みながら、更にトークパーティーは続く。


「ねぇユウキ、今年は『エタボ』の他にはどんなバンドが来てるの?」


「もう会ったりしたん?」


「ああ、何組かはペントハウスに挨拶しに来てたな。ボクが見たのは、メタル系のロン毛の兄ちゃんバンドと、あとはブルース系なのかな? ギター持ったピンで弾き語り風の人と、あとね、ボクは会ってないけど、颯人ハヤトさんに聞いたら、ロンドンから女性ボーカルのグランジ(ロック)バンドが来日してるみたい」 


「へぇ。有名なバンドなの?」


「うん、あっちではデビューしてるみたいだけどね。まだ日本ではあまり知られてないけど、いいバンドだって言ってたよ」


「ふーん、そうなんだ」


「そうだユウキ、『エタボ』は明日からどんなスケジュールになるか、聞いてる?」


「ん……どうだろうな、朝から会場に行くとは言ってたけど。まあ、ちょうど今メンバー全員で映像見てるから、細かいチェックして、その直し具合で色々決まってくるかもな」


「今年も本番当日は、どのバンドも観られないかなぁ」


「え? 本番を観られないの?」

葉月が驚いて聞いた。


「そりゃそうよ。結構忙しいわよスタッフは」


「そうそう。男子はさ、アリーナのスタンドブロック周りのセキュリティー担当になれば、まあステージに背中向けることにはなるけど、ライブをしっかり近くで聴くことはできるわね」


「でもサークルモッシュ(観客のぶつかり合い)とかダイブとかが起きたら、マジ流血もんってこともあるから、|うちの《『Sanctuary』》バンドメンバーは正直、ビビってたわ」


「え! 彼らセキュリティーなの?」


「今年はそうみたい」


「だけどあたし達って、物販とか食販だからさ、ステージからは大分後方の、程遠い場所なのよ。そりゃスピーカーで音楽は聞こえるんだけど、いまいち臨場感(りんじょうかん)には欠けるしね」


「それにお客さんはひっきりなしだしね」


「だからゆっくり(ひた)っていられないかな」


「へぇ……そうなんだ」



   そりゃ遊びに来てる訳じゃないもの、自分もしっかり仕事をしなきゃね。

   


「とか言いつつ、『エタボ』の時だけは、やっぱりほとんどお客さん、買い物には来ないよね?」


「そうそう! みんなステージ観てるわけだから、買い物に来たりする野暮(やぼ)なお客さんは確かに少ないよね」


「だからね、その時にちょっとだけブースを出て、遠目にステージを覗いてみるわけよ」


「そう、 “ ちっちゃいけど、あれがキラなんだ ” とか思いながらね!」


「いや、スクリーンには大きく映ってるから、見えないわけじゃないのよ。たださ、本人の姿形(すがたかたち)を確認したいじゃない!」


「そう! 生身のキラを感じたい!」


「私は、ハヤトかな!」


女子の盛り上がりを、コーラを片手に聞いていた裕貴が言った。

「じゃあ葉月はきっと、生身の柊馬(トーマ)さんか?」


葉月がまた瞬時に赤くなる。


「葉月ってトーマのファンなの?」


「ええ……まあ」


「なんか複雑よね。リュウジさんと近しいけど、()しはトーマ? なんか不純(ふじゅん)!」


「なんでよ!」


裕貴が笑い出した。

「ここにいる全員、不純だと思うけどね」


そう言われて、抗議するのかと思いきや、意外にも皆が同調する。


「なんで反論しないわけ?」


「だってさ、私なんてハヤト推しでここに来たけど、やっぱ生身で見たら、キラもトーマも素敵だし、密かに推してたリュウジさんも予想より遥かにイイオトコだったし、あと実はアレク! あんな美しい顔、見たことなかったからびっくりしたわよ!」


「そう! 結局さ、みんな好きなの!」


裕貴はまた溜め息をついて、やれやれと言わんばかりに首を振っている。


「ねぇ知ってる? 実は(ナマ)写真がめちゃめちゃ売買されてるって」


「そうなのか? ここの物販にはないだろ?」


「そりゃそうよ! 半分“闇売買(やみばいばい)”なんだから。市場しじょうに出回ってる生写真、実はアレクがキラの次に売れてるらしいの!」


「そうなの?」


「リュウジさんもよ! だってサポメンだから『エタボ』の宣材や雑誌にも()らないじゃない? 入手困難だからね。特に演奏中じゃなくてレアなオフショットは高額売買されてるらしいよ」


「それはボクも知らなかったな。それってオークションサイトとか?」


「うん、あとフリマサイトとかも」


「じゃあボクもリュウジさんで一儲(ひともう)けできるってことか!?」


「ま、(もう)かるだろうけど、ユウキさ、多分マジで殺されるだろうね」


「……間違いなく、消されるな」


みんな大笑いした。


「葉月はインスタとかやってるの?」


「投稿とかはやってはないけど見てるよ。『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』はフォローしてるし」


「そりゃマストよね! やっぱりメディアだったら、キラがダントツよ! フォロワーランキングもカナリ上位だしね」


「タレントや俳優ならまだしも、バンドのメンバーとしてっていうのは珍しいよね」


「せやけど、キラが上位なんは “他のメンバーの犠牲(ぎせい)があっての勝率(しょうりつ)” やと思うけどなぁ」


「あはは、まあ他のメンバーって言っても、ほとんどハヤトだけどね」


裕貴も笑った。


「ホント、マジ面白いよね! あれだけ(だま)されたり悪戯(いたずら)されたりしてさ! ハヤトのリアクション、めちゃ可愛いじゃん。いつもやられっぱなしで本人は憤然(ふんぜん)とした顔してるんだけど、なんか受け入れてるような "M感" が面白いよね!」


「そう! キラの “ドS” っぽいとこもイイ! 少年ぽいじゃん、魅力的だわ」


「まあキラいわく "サプライズ" なわけじゃん? 何気にハヤトに対する "愛" も見え隠れするところもたまらないよね!」


「メンバーのイチャイチャは萌えるわ!」


「キラにやったら、イタズラされてもエエわ」


「何気に梨沙子が言うと、いやらしいんですけど!」


翼と奈々が大爆笑する。


葉月はサッと下を向いた。


裕貴がそれに気付く。


   そりゃそうか、実際にキラさんに悪戯された被害者だもんな


そう思いながら、更に葉月を見た。


   笑えないか……



「じゃあさユウキ、明日は会場にいたら、あの "キラのナマ声" 聞けちゃうかも! ってこと?」


「ああ。まあ、そうなるね……」

裕貴はそう言いながら、またちらっと葉月の方を見る。


   目が泳いでるぞ。

   “キラ” っていうワードに、顕著(けんちょ)な反応が見られるなぁ。

   全く……

   上手くやり過ごせばいいのに。

   嘘も隠し事も、出来ないタイプみたいだ。


「なあ葉月、スタッフ携帯の充電器、持ってる?」

裕貴が言った。


「うん、部屋にあるよ」


「悪いんだけど、今借りてもイイ?」


「うん。じゃあちょっと取ってくる」


「サンキュー」


退出する葉月を見送りながら3人は妙な顔をした。

「突然どうしたの?」


おもむろに裕貴が切り出す。

「あのさ」


「なに? ユウキ?」


「実は葉月、今日の昼過ぎにけっこう強烈な “洗礼(せんれい)” を受けちまってさ、なかなか立ち直れなくて大変だったんだ。本人からは聞いてない?」


「……うん。あ、でも確かに、私がユウキと葉月を見かけた時は、葉月は玄関口に座り込んでたよね?」


「そうなんだ。まあでも、今見てる限りでは、三人のお陰でかなり立ち直ってるみたいだけどね」


「え? 一体何があったの?」


「山下さんと()めたとか?」


「いや、全然違うけど……まあ、それは本人に聞いてやって。なんか、切り出せなくて困ってるっぽいからさ。女子トークの力で何とかしてやってよ」


「わかった。聞いてみるわ」


「なんか、シリアスな内容?」


「いや……人によって受け取り方は違うだろうけど……少なくとも葉月は自分の中で処理しきれなかったんじゃないかな」


「そっか。とにかく、聞いてみる」


「じゃあ、よろしく! ボクはもう、今のうちに帰るよ」


「え、バイバイも言わないの?」


「葉月は明日は会場に来る手筈(てはず)になってるから、どうせ朝から会うことになるし、別にいいよ。 “ リュウジさんから連絡が来て慌てて帰った ” って言っといて。ホントはいつ帰るとも言わずに出て来たから、マジでそろそろ帰んなきゃだし。葉月にはあとでメッセージ送るよ。じゃあね、コーラご馳走さま」


裕貴はポケットに片手を突っ込んで、後ろ手で軽く手を振りながら、部屋を出ていった。



「ユウキ、ホントに帰っちゃった」


「なんか、マジで葉月の心配してたね」


「っていうか、まるで保護者よね。ユウキって、あんなタイプだったっけ?」


「いいや、なんか男らしなったような感じするなぁ」


「ホント」


「もしかしてマジで葉月のこと……」


「いやでも、今日が初対面って言ってたよ」


「まあ気持ちが動くのに、初対面かどうかなんて、関係ないかもだけど……」




「お待たせ!……あれ? ユウキは?」


「え……、あ、なんかね、リュウジさんから連絡入って、急いで帰っちゃった」


「え? そうなの? もっと急げばよかったかな? 私、カバンに入れてると思ったらテレビボードの上に置いちゃってて、しばらく探しちゃった。ユウキ困ってなかったかなぁ?」


葉月の無垢(むく)な顔を見て、3人は妙な罪悪感にうろたえた。


「いや、大丈夫じゃないかな? ちゃんとリュウジさんとも連絡繋がったわけだし。あ、明日の朝には会場で会えるらしいよ」


「そっか」

葉月はあっさり納得して、ミルクティーのボトルを手に取った。


翼が切り出す。

「ねぇ葉月、今日の昼間……なんかあった?」


葉月の動きが止まり、その顔からスッと笑みが消えた。


「葉月、玄関に座り込んでて、ユウキに引っ張りあげられてたでしょ。具合が悪そうに見えたんだけど、その理由、聞いてもいいかな?」


葉月は黙ったまま、(うなづ)いた。




第33話『Talking Party in Public Space』女子会 ー終ー


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