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第27話『First Dinner Party with New Friends』夢見る仲間

身支度を整え、みんなで食堂に下りる。

梨沙子にほんの少しメイクをしてもらっただけで、何だか気持ちが前向きになっていることに、葉月自身も驚いていた。


廊下から階段にかけて、かなりの人の波に圧倒される。

なるほど、合宿所はこれだけ大きな施設、何よりあれだけ大規模な会場で、設営、警備、案内、食販に物品販売etc.

それはそれは大人数のスタッフが必要なのだろう。


3人とも周囲に沢山の知り合いがいるらしく、あちらこちらと声をかけたり手を振り合ったりしていた。

そして彼女たちは、近くに知り合いがいた場合は必ず葉月のことを紹介してくれた。


「こっちはWEST棟( 東  とう)側の階段だから女子しかいないの。男子はEAST棟( 西  とう)だから、食堂に下りてからミックスするってワケ」


「あ、うちのバンドメンバーからメッセージ来たわ。席を確保してくれたって! 葉月、一緒に食事するから紹介するね!」


「うん、楽しみ!」


食堂は、さっき山下と話していた時の閑散(かんさん)とした光景とはうって変わって、活気を帯びていた。


「あ! いたいた」

奈々が葉月の手を引っ張って歩く。


ごった返した席から少し離れたスペースにあるダイニングテーブルを陣取(じんど)ってくれたようだ。

なんだかキラキラした感じの男の子3人が、立ち上がったまま手を振っている。


「葉月、彼らがうちのメンバーよ!」

奈々がそう言うと、彼らは次々と自己紹介をした。


「ギターの市ノ瀬和也です」


「また背が伸びたんだよね?」

そう言う奈々と同じようなハイトーンカラーの短い髪にピアス、すごく長身で “いかにもモテそうなバンドマン” という感じだった。


「ベースの都築玲央(れお)です」 

彼がそう言うと、翼が彼の髪を見ていった。


「玲央くん、その髪色、すごくイイじゃない! アッシュグレー? ロンドンヘアーか、似合う!」


玲央は少し印象が変わるくらい、可愛いい顔で笑った。


「ドラムの上原尚輝(ナオキ)です」

さらっとした漆黒の髪が、その端正な顔を縁取(ふちど)って、芯の強さが溢れている。

ドラマーというより、楽器を持ってフロントで暴れる方が似合うような……少しリュウジさんとも、似ている気がした。


それにしても、そのビジュアルとはあまりにもかけ離れた、やわらかい雰囲気の彼らに思わず微笑む。

この席も、みんなが座れるようにと彼らはわざわざ早めに来て、確保してくれたに違いない。


「白石葉月です。よろしくお願いします」


「ああ……はい。よろしく……」

3人は、中途半端に頭を下げて、少し恥ずかしそうに笑った。


奈々が荒々しく言う。

「あんたたち、なに緊張してるの! 情けない! お見合いかっつーの」


「ってゆうか、あたしたちもいるんだけどね? 眼中(がんちゅう)に入ってます?」


「そ、そりゃもちろんですよ(ツバサ)姉さん! なんか色気が増しました?」


「ナマイキね。君ら、若いからいいけど、男がそんな発言したら今やセクハラだからね!」


()めてるんだけどなぁ……」


「そんなの、わかってるわよ!」


「ホント、相変わらずツンデレですね」


「ちょっとぉ! 梨沙子のこと、忘れたん? そんなの許さへんからね」

さっきまでとはうって変わって、スローで甘いその声に、葉月は驚いて梨沙子の顔を見た。


「やっぱり関西弁って、可愛いですね」

ギターの和也がにやけている。


梨沙子は小首をかしげてバチっとウインクをする。


「こらこら、うちのメンバーをたぶらかすな!」

奈々が溜め息をつきながら席についた。


「葉月、まぁこんな感じよ。って、どんな感じだよって突っ込まれそうだけど。まあコイツらとバンド始めてから、毎年この野音フェスに来てさ、いつかは出演者側になれるように! って思いながら見てきたんだ。私達『Sanctuary(サンクチュアリ)』ってバンドなんだけど、結成して3年目になるの。そろそろターニングポイントを迎えるって事でさ」


「そうなのね。どんな音楽をやってるの?」


「まあどっちかって言うとエモかな。少しグランジ寄りの、わりとハードな路線。そうね『エタボ』よりも若干ハードロック色は強いかも」


「奈々、似合いそう。カッコいいもんね! 奈々の歌、聞いてみたいな」


「いつでも聞かせてあげたいけど、うちら福岡から来てるからね。簡単にはライブにお誘いはできないから、あとで映像で見せてあげる」


「やった!」


「あ、尚輝! 葉月ね、リュウジさんと一緒に来たんだって!」


「ええっ! し、知り合いなんですか!?」


立ち上がりそうな勢いの尚輝を、奈々は制して、回りを見渡した。

「しーっ! そうなんだってさ」


尚輝は顔を輝かせている。

もう少し硬派に見えたので、よけいに可愛く思える。


「葉月、尚輝はねリュウジさんの大ファンなの」


「じゃあユウキと話しが合うんじゃ?」


「そう思ってさ、去年紹介して、一応友達ではあるんだけどさ、ユウキも忙しいし、 “オトコとドラム談義なんて楽しくない ” とか言われちゃって。まあ、もっともだけどね。またさ、リュウジさん像とか、聞かせてやってよ」


「うん、私の知ってる範囲なら」


しばらくは質疑応答的な、ぎこちないディスカッションが続いて、女子達は笑いを(こら)えながら聞いていた。

そして、葉月の発言にみんなが驚愕する。


「ええっ! なに? じゃあ葉月はリュウジさんと一緒の車で来たりする仲のくせに、リュウジさんがドラム叩く姿を一度も見たことがないってこと?!」


「ええ……まあ。いや、前に行った武道館での『エタボ』のライブでリュウジさんが叩いてたわけだから、見てない訳じゃないけど、でもその頃は知り合いじゃなかったから……あ、いつも聴いてるCDもリュウジさんが叩いてたんだって、つい最近、教えてもらって……」


奈々があきれたように言う。

「全く、この子は……『エタボ』ファンならそれくらいの情報入ってこないかね? それより、その地元のジャズバーでリュウジさんは叩いたりしないの?」 


葉月はキョトンとした。

「あれ? ホントよね。そういえば私は見たことがないなぁ。いつもカウンター越しに話してばかりだし」


「ドラマーってことは知ってたんでしょ?」


「うん、最初の自己紹介の時に、多分言ってた」


「自己紹介って……それこそお見合いかっつーの! 普通に、お客とバーテンの会話の中ででしょ?」


「うん。それで昨日、一緒にショッピングに行ったときに、楽器屋さんでスティックケースをプレゼントしたんだけど、その時に初めてリュウジさんがスティックを握ってる姿をみて、そこで初めてホントにドラマーなんだなって、実感したっていうか……」


女子の顔色が変わった。

「ストップストップ! はい! みなさん、ここまででおかしな点が、幾つかありましたね? 翼さん、どうぞ!」


翼が手をあげた。

「はい! 昨日のショッピングとは? なんでしょう」


「はい、正解! 他にはありませんか? はい、梨沙子さん、どうぞ!」


「はい、スティックケースをプレゼントとは? なんでしょう」


「正解です!」


「はい!」


「あれ? 玲央れおくん、何かな?」


「初めてスティックを握ってる姿を……」


「は! そんなん、どーでもええねん!」


梨沙子の素を見たメンズ達の驚きの顔に吹き出しながらも、レディースは葉月を羽交い締めにした。


「この話の続きは、今夜たっぷり話してもらうからね!」


「夜は長いで。覚悟しいや!」


「こらこら梨沙子、そんなに怖がらせないの!」


大テーブルは大いに盛り上がった。

その端っこで、ドラムの尚輝だけがなんだかポッとしていて、やっぱり可愛かった。


「まあ、こんな私たちだけど、葉月もさ、何でも話してね。にわか友達だけどさ、だからこそ逆に何でも言えるってこともあるじゃない?」


「そうよ。あと、困った事が出てきたら、遠慮とかタイミングとか、余計なこと考えないで、すぐに言いなよ!」


「そうや、あたしらが一緒におれる時間は、短いんやから!」


「うん!」


心が温まっていく。

メンズ達も微笑まし気な表情で彼女らを眺めていた。


それからは食事をしながら、『Sanctuary(サンクチュアリ)』の音楽志向について、話を聞いた。

ロックな雰囲気を全面に出しながらも、育ちの良さを(うかがい)い知ることができる彼らのことも、その情熱も、応援(おうえん)せずにはいられない。

夢を追いかける姿は本当に素敵だなと思った。


『エタボ』のメンバーも、隆二も裕貴も、きっとそこから始めたという点においては、同じはず。

そんな敬愛すべきお手本が目の前にいたら、夢も更に膨らむだろうと思った。

葉月は彼らの横顔を見ながら、羨ましいと思う。

そして少し、気後れもしていた。


   私はまだ、なにも見つけていない。

   周りの人達は、こんなに輝いているのに……



食事を終えて、一旦部屋に上がる。


「奈々、いいメンバーだね」


「うん! 私もさ、なかなか思い通りにいかなくてクサクサしちゃったりすることもあるんだけど、いつもヤツらに助けられてるんだ」


「わかる! 玲央くんなんて癒しの骨頂だもんね」


「ああ、ちっちゃいトーマでしょ?」


「やっぱり意識してるんだ! 本人目の前にしては言えなかったけど、そうかなって思ってて」


「玲央はトーマに影響受けて音楽始めたからね。スタートが『エタボ』なの。そこから海外のアーティストへ志向を広げた感じ。音楽歴は短いけど、努力家だからテクニックもそこそこあるんだ。ベースオタクだし!」


「早く聞きたいな! 明日でも鑑賞会したい」


「いいね!」


翼の携帯が鳴った。

「あ、ユウキからだ!」


「もしもし、あ、そっち出るのね? じゃあ、パブリックスペースに行くわ。うん、押さえてあるから。じゃあね!」


「ユウキ、今ペントハウスだって?」


「うん、もう出るところって。私たちもボチボチ用意するか」


葉月が立ち上がろうとすると、梨沙子がその手首をグイッと引っ張った。

化粧ポーチを片手に微笑んでいる。


「ああ……そういうことですか、梨沙子先生……」



第27話『First Dinner Party

        with New Friends』夢見る仲間 ー終ー


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