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第25話『Hello ! My New Friends』新しい仲間

合宿所の玄関で裕貴と別れてから、山下についていった葉月はまず食堂に案内された。

もうすぐ夕食の時間ということもあって、その空間にはいい匂いが立ち込めている。

席をすすめられ、山下と向かい合わせに座った。


「白石さん、これをお渡ししますね」

山下は携帯電話を葉月の前に差し出した。


「これは今回の野音フェスすべてのスタッフ用の携帯電話です。スタッフ同士は皆、この専用のメッセージアプリで繋がっています。白石さんも招待してあるので、今ここでフルネームで登録してもらっていいですか」


「はい」


「これはここに今いるスタッフと、それからアーティスト達とも繋がっているので、失くさないように、慎重に扱ってくださいね。アイコンを押せば、そのスタッフと個人的に連絡をとることも出来ます。スタッフ同士でグループを作成することも可能なので、大いに活用してくださいね! ただし、端末側からグループ全体に送信することや、アーティスト側にアクセスすることはできません」


「わかりました」


山下に言われて、葉月はその場でアイコン用の写真を撮影してもらう。


「食堂バックなんて、すみませんね。また今後とった写真に差し替えてもらったらいいんで、とりあえず今だけお願いします」


何枚か撮ってもらった写真からホーム画を選んで設定し、プロフィールに簡単な自己紹介文を入れて登録した。


山下は館内図を葉月に渡して、施設の説明をしてくれた。


「宿泊するお部屋は4人部屋です。だいたい年齢が会うようにカップリングしてるつもりなんですけどね。白石さんのルームメイトは……えっと、黒田翼さん、小浜奈々さん、柳本梨沙子さん。黒田さんは大学4回生で、院に進むから今年も来てくれています。小浜さんは3回生、柳本さんは白石さんと同じ2回生、みんな大学に入った年から来てくれてるんです。毎年、野音フェスのスタッフは夏休みなのもあって圧倒的に大学生が多いんですけど、沢山いる学生スタッフの中でも、彼女達はなかなかなリーダーシップをとってくれていて、僕も信頼を置いているメンバーなんですよ。とにかく明るいし、白石さんもすぐに打ち解けられると思います」


一通り館内のルールや諸注意を受けて、部屋に案内された。


扉を開けて部屋に入るないなや、予想を覆すほどの歓迎ムードで出迎えられた。


「ようこそ!」


「白石葉月です、大学2回生です。お仕事の概要(がいよう)も聞かずに来てしまったので、ちゃんとお役に立てるか心配ではありますが、頑張って……」


玄関で直立(ちょくりつ)したままで話す葉月に “待った” がかかる。


「はーい! お堅い挨拶はそこまで」

黒髪の妙に色っぽい感じの女の人が、笑いながら手を叩く。


「山下さんから予め、聞いてるしね」

今度はハイトーンカラーの短めの髪にくっきりした目鼻立ちの美人が笑いながら言った。


「うん! メッセージ来てたよ」

こちらは緩やかなウエーブがかかった栗色ヘアの女子力の高そうな女の子。


「そ、そうなんですか?」

少し圧倒される。

「うん、あの人、マメだからさ」


「ああ、確かに……山下さん、マメっぽいですね」


荷物を隅に寄せて四人でテーブルを囲んだ。

「うちらも一応自己紹介しとかないとね。 じゃあ、年功序列(ねんこうじょれつ)で行くか!」

ショートヘアの彼女が言った。


黒髪の彼女がギロッと睨む。

「なんかイラッとするんですけど……まあいいや、黒田翼よ。今4回生。去年まで 一緒に来てた子達は就職活動に明け暮れてるけど、私は大学院に進むから今年も来ちゃいました。彼女たちとは去年から知り合いだったから、今年一緒の部屋になれて良かったねって、さっき話してたとこ。ここに来たら友達が沢山出来るから、楽しみにしてて」


ショートヘアーの彼女が手をあげた。

「じゃあ次私ね! 小浜奈々、大学3回生だけど、私、結構マジでバンドやってるから就職考えてなくて。今回の野音フェスのスタッフにね、うちのバンドメンバーもみんな来てるの。あー、全員男だけどね。あとでまた紹介するよ。なんせここのバイト、イイよ! 毎年ホント楽しみなんだ。こうやって出会いもあるわけだし! よろしくね」


そして()るふわ栗毛の彼女が、優しい笑顔を浮かべる。

「じゃあ最後に私、柳本梨沙子(りさこ)でーす、同じ歳だよね? 大学2回生」


葉月がぽーっとして見ていると、ショートヘアの奈々(ナナ)が茶々を入れた。


「ねえねえ、今、可愛い子だなって思ったでしょ? 女子力高めで、モテ女子、とか?」


「……ええ、確かに」


(だま)されたらダメだよ!  男だけじゃなく女も騙されちゃうか?  さすが梨沙子(りさこ)! やるな!」

奈々の言葉に、梨沙子は首をふる。


「え、なんでー? 梨沙子、こんなに女の子っぽいんだよ?」


「やめろっつーの!」


すると梨沙子は豪快(ごうかい)に笑いだした。

「あははは、ホンマ疲れるわ!  あたしなぁ、多分こん中で一番男っぽねんよ。ってか男気(おとこぎ)っちゅう話やったら、ユウキにも勝てるで!」


「え?……」


あとの2人がどっと笑った。


「あはは、びっくりして固まっちゃってるじゃん?」


「そりゃあこんなすごいギャップだと、()えるどころか衝撃でしかないからね」


「ホント! コテコテの関西人だし」


本人はいたって涼しげに話す。

「まあ、外見もそうしてもうたら、まんま男やん? それもおもんないから、見た目ぐらいはちょっと女子を気取ってみんのもええかなぁと思てな!」


葉月は依然、ポカンとしている。


隣に座っている(ツバサ)が、葉月の肩をたたいた。

「ま、こんなキャラの濃い私たちだけど、よろしくね!」


葉月は圧倒されながら、(うなづ)いた。

でも、顔はほころんでいる。

こんな風に女の子達だけで話しをするのは久しぶりだった。

大切な親友たちとも最近はあまり話せてなかったし、なんだかワクワクが止まらなくなった。


「ねえ、()()って呼んでいい?」


「ええ、もちろん!」


「じゃあ私たちのことも、敬称(けいしょう)ナシで呼んでね」


「え……でも年上の人もいるし」


「そんなん関係あらへんて、おんなじ部屋で一緒に過ごす仲間なんやから!」


「そうそう、短い間だからこそ、早く仲良くなりたいしね!」 


「いい? 葉月!」


「……うん!」


それぞれと握手を交わした。


「早速葉月には、聞きたいことがいっぱいあるんだけど!」

翼が乗り出して話し出した。


「あ、はい。なんでも」


「葉月さ、さっき玄関でユウキと話してなかった?」


奈々も同じく乗り出す。

「私も目撃したわよ!」


「……ああ、うん。今日はここに、ユウキの運転する車で一緒に来たから」


「えーっ!」


「そうなん?」


驚く3人に、葉月は聞き返す。

「ってゆうか、3人ともユウキと知り合いなの?」


「もちろん!」


   ユウキのヤツ、ちゃっかり綺麗どころを押さえてるなぁ。

   なかなかやるじゃない?


「そうなんだ? みんなはどういうきっかけでユウキと知り合いになったの?」


3人が顔を見合わせる。


「きっかけも何もね……こっちの合宿所も、あっちのペントハウスも、それに会場でも、一番うろうろしてるのはユウキだし」


「そうやな、スタッフの中で一番最初に仲良ようなったもんな」


葉月は納得したように言った。

「わかるわ。私も、ユウキとは今朝会ったばかりだけど、しっかり打ち解けたし」


「え? それホンマ? 葉月とユウキ、めっちゃ親しげに見えたて、翼、言うてたやんな?」


「そうよ! 私なんてさ、ついにユウキに彼女が出来たんだ! って思ったもん」


「ゆーてたなぁ! あたしも二人から聞いて、どんな子なんやろうって思てて」


「え? そんな話になってたの? ホントに今日が “はじめまして” なのよ」


「へぇ、ユウキもなかなかやってくれるわね」


「まあある意味、ユウキらしいというか」


彼女らの話に、いたく納得した。


「ねえねえ、だったらさぁ、ユウキこっちに呼んじゃおうよ?」


「いいね! じゃあ早速連絡するわ」


翼が電話をかける。

「あ、ユウキ? 翼だけど。今ペントハウス? そっか。あのさ、葉月、うちの部屋になったよ! マジマジ! 今年は奈々と梨沙子も一緒なんだ。そう、いい感じでしょ? でさ、ユウキの話になってびっくりしてさ。っていうかね、ユウキもこっち来ないかなと思って電話したんだ。今日は『エタボ』メンバーは合宿所でご飯食べないの? あーそうなんだ。じゃあ今夜は会えないね、残念。……え? ホント?」


翼はみんなの顔を見回して言った。

「ご飯終わったら、ユウキこっちに来るって!」


「わあ、やったね」


「あ、ユウキ? わかった。じゃあ来る時間が決まったら連絡して。うん、バイバーイ」


みんなも大きな声でバイバイと言った。



「また、楽しい話がいっぱい聞けそうだね!」


「今年は葉月もおるし、コアな話になりそうやな」


「葉月、覚悟しなさいよ!」


4人は顔を見合わせて笑った。



第25話『Hello! My New Friends』新しい仲間  ―終―


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