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第213話『We are the same age』心安い関係

「誰がお嫁さん候補だって?!」


その高圧的な声に、3人はビクッとしながら振り向いた。


「あ、ユウキ!」


『Blue Stone』の奥ばった部屋のドアにもたれて、裕貴は腕組みをしながら立っていた。


由夏が眉を上げる。

「あれ? 今日はユウキは非番(ひばん)だって、アキラさんが言ってたけど?」


「ここに3人娘が(そろ)ってるって、さっき師匠(隆二)に聞いたからさ」


「そうなのね。リュウジさんに会ったんだ?」


「うん。機材(ドラム)の調整をしてきたから」


「そっか。ならユウキはスタジオに居たんでしょ? 今夜は師匠に付き添わなくていいの?」


裕貴は白けた表情で答える。

「まだ色々探りたいから、1人にしてくれってさ」


由夏が吹き出した。

「ヤダ! ユウキ、()ねてるのカワイイ!」


「はぁ!? 誰が拗ねてるって?! そんなわけないじゃん。ボクだって忙しいんだから、個人練習にまで付き合ってらんないっつーの!」


かれんが首をかしげる。

「忙しいって? 何してたの?」


「引っ越しの片付けだよ。この前、葉月がだいぶレイアウト考えてくれたんだけど」


「え? ついに家が決まったんだ?! なら私も手伝いたかったなぁ……」


由夏の発言に裕貴は大きく頷いた。


「手伝いはいつでも大歓迎! まぁ、片付いてたら招待しようと思ってたんだけどさ、思いの外大変で……」


「どんな家なの?」


裕貴は苦笑いする。

「ああ……昭和の香りのするノスタルジックな(たたず)まいだよ。だからくれぐれも、あのかれんとこみたいな豪邸を想像しないでよ?」


「しないわよ! この年で大豪邸に住んじゃったらミュージシャンとしても成功しないんじゃない?」


「そうだろ!? ボクもそう思ったから今の部屋に決めたのに、師匠はもっといい部屋にしろってうるさくてさ。まぁ、あっちは " タワマン御曹司 " だからね」


由夏が意地悪な視線を向ける。

「わぁ……リュウジさんに言いつけちゃおうかなぁ? 愛弟子が師匠のことを、" タワマン御曹司 " って言ってましたよーって!」


かれんと葉月が爆笑する。

「あはは、そのキラーワード、サイコーね! あははは」


「ダメダメ! そんなこと聞かれたら、師匠からどんな目に()わされるか!」


「じゃあ、ノスタルジックな佇まいに招待してくれたら(だま)っててあげる!」


裕貴の仏頂面に3人はしばし笑い転げていた。

そこからは4人でテーブルを囲みながら、ここ最近の話に花が咲く。


「葉月がリュウジさんに " プロレス技を食らった話 " はもう聞いたの?」


その裕貴の発言に、由夏とかれんはまた爆笑した。

「あはは! 聞いた聞いた! もう、びっくりよ。あはは」


葉月顔を真っ赤にして抗議する。

「もう、ユウキ! 変な言い方しないで!」


終始笑いながら久々にくつろいだ夜は更け、ハル(かれんの彼氏)がかれんを迎えに来たのをきっかけに、裕貴も由夏と葉月を送るために店を出る。


3人並んで他愛もない会話をしながら、駐車場に向かってフワフワと歩いた。


「なんか風が気持ちいい! もうすっかり秋ね」


「うん。酔い覚ましにはぴったり!」


そう言った由夏を、裕貴はギロリと睨む。

「そりゃ君らはいい具合にお酒が入ってるから、さぞ心地いいんだろうけどさ、ボクはシラフなんだけど!」


由夏は大袈裟に手を合わせてみせる。

「確かにそれは申し訳ない! 今度ユウキの好きなお酒持って、引っ越し祝いに行くわ」


「ほぉ、それはありがたいな」


「いや、冗談抜きで手伝うわよ。お酒だけじゃなくて、なんなら()()()も持って行こうか?」


裕貴は顔をしかめる。

「いいって()()()()()()は! フェスの3人娘で充分だ」


「フェスの3人娘って? ああ……葉月と同室だった女の子たちのこと?」


「そう。奴らも歯に衣着せぬ物言いでボクをからかってくるからね」


「へぇ……ユウキ、モテるんだ?」


裕貴は訝しい表情で振り返る。

「はぁ? 今の話のどこがモテるに繋がるわけ?」


「ユウキってさ、何気に女の子の友達多いもんね。それにみんなのこと()()()()なんでしょ?」


「まぁ……そうだけど?」


「ふーん」


そう言ってから口をつぐんだ由夏に首をかしげながら、葉月は到着した駐車場で、由夏に助手席をすすめた。


「葉月先に送るけど、由夏、いいかな?」

駐車場を出たところで、裕貴はミラーから視線を外して助手席の由夏に顔を向けた。


「え? ええ……もちろんいいわよ」


葉月が後部座席から乗り出す。

「別に先に送ってもらわなくても、どっちでも……」


「ああ、智代に話があるからさ」


「へっ?!」


葉月と同時に、助手席の由夏も飛び上がるように驚く。

「ユウキ、葉月のママまで呼び捨てにするとは!」


「いや、さすがに本人を目の前に智代とは呼ばないけどね」


クスクス笑い出す由夏の後ろで、葉月は不可解な表情で尋ねた。


「で……うちのママに、なんの用が?」


「どうせ葉月は話してないんだろうと思って。体育館で起こったこと」


「あ……」


由夏が葉月を振り返る。

「えっ? そうなの?!」


「まぁ……言ってはないけど……いいよ、別に言わなくても」

葉月は後部座席にもたれる。


「そうはいかないよ。実はリュウジさんからも頼まれてるんだ。ちゃんと葉月のお母さんにも話しておいてくれって。もし後から何か症状でも出たら大変だからってさ」


「リュウジさんが……そんなことを?」


「まぁ、大人だからね。それに『BLACK(隆二の) WALLS(バスケチーム)』の責任者でもあるし、今後も葉月が安全にバスケを続けられるように、起きたことは報告する義務があるって。最初はリュウジさんが話しに行くって言ってたんだけど……とりあえずストップをかけといた。ボクから話すって言ってさ」


葉月は小さく頷く。

「ああ……確かにそれは、正解かも」


由夏が不可解な顔をする。

「なんで? 葉月ママは()()()()()()()()だから? そっか。親子で()()()()()ってこと?! さすがにママは知らないか? 娘と推しの()()()までは」


裕貴が肩をすくめる。

「由夏、()ストレートだなぁ! ちょっと複雑じゃん? 今、ウチの母親もリュウジさん()しでさ……違う境遇(きょうぐう)ではあるけど、葉月が妙な気持ちなのはボクも痛いほどわかるんだよね」


「なるほどね……」



そうこう話しているうちに葉月の家が見えてきて、T字路にレンジローバーを停めた。


裕貴は車を降りる葉月の肩に手を置いて微笑む。

「大丈夫! リュウジさんと " ドラマチックに絡んだ " とか、" 医務室でどうだった " とか? 1から10まで全部話したりはしないからさ!」


「もう! ユウキ!」


顔を赤らめながら睨む葉月に笑い出しながら、由夏も一緒に白石邸に向かう。



裕貴の突然の訪問に喜んだ智代は、練習でのアクシデントの話を聞いても動じることなく、苦笑いをした。


「ホントにこの子は何も言わないから! いつもチームメイトから聞くんだけど、実際高校の時も何度かあったみたい。まぁ、この子は見かけより頑丈(がんじょう)にできてるから、意外と大丈夫なのよね」


葉月が頬を膨らます。

「頑丈って……」


「あはは」


裕貴は葉月の母親を前に、少し表情を引き締めて話しはじめた。

「とはいっても年頃の女の子なんで、今回は怪我(けが)には(いた)らずに済んだからよかったんですけど、キャプテンであるリュウジさんはかなり気にしていまして……」


「あら! リュウジさんが?」


智代の目が色めき立ったことに、由夏と裕貴は目配せをして笑いを噛み殺す。


「リュウジさんがバスケットをしてる姿なんて素敵でしょうね……ママも見てみたいわ、葉月!」


「もう! 何言ってんのよ!」


「ふふふ」


由夏と裕貴は和やかな雰囲気に安堵した。



「送ってくれてありがとう」


「じゃあね葉月! おやすみ」


「おやすみ」


由夏と裕貴はレンジローバーまで戻った。


「ホント、葉月ママは楽しいわね」


「だね? それを言うと由夏も智代に似てるような気がするな。思ったことを口にして()ストレートに面白いことをぶっこんでくるところとかさ?」


「ちょっと! そんな言い方したら、私も葉月ママもデリカシーがない人みたいに聞こえるけど?!」


「それは逆だよ。そうやって人が(カン)ぐるようなことをバッとおおっぴらにしながら場を緩和(かんわ)させていくみたいな……そういう人は情深(じょうぶか)いって思うんだよね」


由香は眉を上げる。

「一応……お()めのお言葉として取っておこうかな? よかったわ、無神経な女だと思われてなくて」


「ははは、それはないって! ああ……すっかり遅くなったちゃったなぁ。さぁ! ()()()()()()()()を送っていかないとね!」


「えっ……」


第213話『We are the same age』心安い関係 - 終 -


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