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第195話『Reveal her feelings』心境の吐露

葉月の手を引いたまま駐車場まで来た徹也は、助手席に彼女を座らせてから運転席に回り込み、シートに腰を下ろすと優しい表情で尋ねた。


「この1週間、いざ外に出てみてさ、あの事件のダメージはもうすっかりなくなってるの?」


葉月は少しうつむき加減で(うなづ)く。

「あ……もちろん、全く人目(ひとめ)が気にならないと言ったら嘘になります。やっぱり道を歩いていても電車に乗っていても、視線がどういう風に自分に向けられるのかって考えるようになってしまって……今日もファミレスにいるとき、たまたま人と目が合っただけでも身構(みがま)えてしまったり……この突堤(とってい)も人がいなかったから、のびのびとふざけたりして過ごせましたけど……もし人がいたら、気分も行動も違っていたかもしれません」


「そうか……」

徹也は頷きながら葉月の肩に手を置く。


「あの日、そうとう辛かったよな? 俺も何度後悔したことか。やっぱり早いタイミングでついててやるべきだったなって……本当にごめんな」


「いいえ。ビデオ通話でもらった徹也さんのアドバイスのおかげで、何とかやりすごせたんですよ。それにね、あの事件は私にとって試練でしたけど、何事にも関わる限りは責任ある行動が求められるんだって、教訓となりました。よくよく考えてみたら、相手は天下の『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』ですもん。本来は同じ高さですれ違うことすら出来ない雲の上の人みたいな存在なのに、たまたま縁あって知り合って、チャンスがまたチャンスを呼んで同じ空間を共有できたっていう、偶然が重なっただけなんですよね? まるで夢のようなラッキーなくじに当たったようなものなんです。そこをちゃんとわきまえるべきだったのに、私はただ浮かれててわかってなかったんです。あの事件がなければ気付けなかったでしょう。学ぶべきことが多かったと思います。それなのにそんな私に、皆さんが優しくしてくださって……ホント、感謝しかないです」


徹也は深く息をついた。

「君って人は……すごいよな。そうやって精一杯考えて、辛いことでも吸収するんだから。でもさ、忘れてない? 君は被害者なんだよ? 正直怒りもあるだろう。だったらもっと心を解放してもいいんじゃない? 心を守るためには、思いを吐き出すことも必要なんじゃないか?」


葉月は(うる)んだ瞳で徹也を見つめる。


「もっと甘えてくれないか? 俺を頼ってほしい。気づいていないかもしれないけどさ、君はクリエイティブな人なんだよ。つまり、君もこっち寄りの人間ってこと。自分を押し殺してばかりではその感性は死んでしまう。だからこれからはさ、極力(きょくりょく)穏やかな環境に身を置いて、いい時間を過ごしてほしいんだ。君の心が汚れてしまわないように……そのために俺は、全力で君をサポートするから」


葉月の目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

徹也はそっと指でその(しずく)(ぬぐ)う。

このまま腕を伸ばし、その身体(からだ)ごと包みこんでやりたい気持ちをグッと(おさ)えながら、徹也は葉月の気持ちをなだめるように、しばし静かな時間を共有した。



「ふぅ……」

葉月は長い息を吐く。

鼻をすすりながら、自分の顔を軽く叩いて笑顔を見せた。


「ありがとうございます。充分、甘えさせてもらってますよ……でも私ね、穏やかな環境というよりは『forms Fireworks』でバリバリと仕事してるのが良かったりするんです。ちょうどいいカンジのS(エス)上司の美波さんと結構ハードに要求してくれる()S(エス)BOSSがいる会社ですから、スキルも上げられますし、余計なことも考えずに済みますし。一挙両得(いっきょりょうとく)って感じです」


気丈(きじょう)な彼女の言葉に乗っかるように、徹也は大袈裟(おおげさ)におどけて見せる。


「また()S(エス) BOSSか?! はぁ……じゃあさ、俺がしてあげられる最優先事項は、君を()()()ってことなのか? ()M()()()の願望かよ?!」


「そういうわけじゃないですけど……ただ、仕事面においては最近は特に、充実した結果が出てるなっていうのは、実感してるので」


「そう。なら良かった。うちの会社にも貢献(こうけん)してもらえるし、俺も君のメンタルに貢献するという意味でバンバン仕事を与えたらいいんだな?」


「まぁ、そういうことになりますね? これからもよろしくお願いします。BOSS!」


「ったく! 食えないな。こんな洒落(しゃれ)た服装の男女が高級車に乗りながらする会話じゃないんじゃない?」


葉月は目を細めて笑った。

「そうですね」



徹也は車を発車させる。


「あ……ところでこのスーツ、いつ返却したらいいんですか?」


徹也は前を向いたまま首を横に振った。

「いや、君に合わせて選んだものだから、君がまたこういった局面で着てくれたらいいよ」


「ええっ!? でもこんな高価なスーツ……」


「いいんだって、『LBフロンティア』は業界最大手の繊維(せんい)商社だよ? しかも母親はアパレルブランドのオーナーだ。こういう言い方をしたら()()()()()みたいで嫌だけどさ、君に合うと思って提供したものとはいえ、今後のTPOを見越したものだから、活用してくれたらいい」


「ありがとうございます。では、精一杯、働かせていただきます」


「はっ! なんでそうなるんだよ! フフフ」


徹也は眉を上げながらハンドルを切った。



葉月の自宅に近づくと、右手に公園が見えてきた。


「お! あれがユウキとブランコを楽しんだ公園か?」


葉月はプッとむくれる。

「別に私は楽しんでませんよ! 楽しんでたのはユウキだけですから。ホント、小学生みたいに……ポンって飛び降りるんですから」


「さすがに若いな。怪我(けが)しねぇのかよ? でもさ、どっちかって言うと、君の方こそ、そういうことをやりたそうなタイプに見えるけど?」


「あ……まぁ、そうなんですけど……その時は誕生パーティーの夜でアレックスさんに頂いたドレスを着てたんで……ユウキに止められちゃって」


「そりゃ止めるよな?! それでなくてもユウキってさ、若いくせに色々細かいところまで気配りのできるヤツだろ? アイツもアイツで末恐ろしいわ。『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』の面々にもやたら信頼が高くて、正直驚いたよ」


「リュウジさんがいつも、" ユウキの中にはオジサンが住んでる " って言ってますもん。かれんなんて、ユウキこと " 仙人(せんにん) " 呼ばわりですから」


「ははは、わかる! ()け目がないんだよなぁ、手強(てごわ)いというか。いつも葉月ちゃんの横にまるでマネージャーみたいな役割でビタッとついてるけどさ、実際のところはどうなの?」


「どうなの?って言われても……ユウキは本当に頼りになる人で、フェスの時も色々助けてもらったんです。一言で言うならユウキは恩人(おんじん)ですかね?」


「へぇ、ユウキが()()で、リュウジが()()ってか?!」


「いや……リュウジさんはそんな風に言ってはくれましたけど、パパとはほど遠いですね。うちのパパがあんなにカッコよかったら家の中がややこしくなっちゃう。ただ、うちのママはめちゃくちゃ喜ぶと思いますけどね」


「あはは、ユウキから聞いたよ。葉月ちゃんのお母さんが " リュウジ()し " だって」


「もう! 本当に恥ずかしくて……」


「ふーん? そこは娘の顔を見せるんだな。それで? たこ焼きパーティーは一体どんな規模で行われるんだ? ルカがやたら乗り気でさ。ありゃ、ややこしいぞ?」


「あはは。大丈夫ですよ。うちのママも本気なんで」


「へぇ……まぁそりゃ葉月ちゃんのお母さんなんだから、ウィットに飛んでるんだろうな?」


「ちょっと! それ、どういう意味ですか!」


「ははは。とにかく、今日は君の(やとい)(ぬし)としてお母様にご挨拶(あいさつ)するとしよう」


「え?!」



第195話『Reveal her feelings』心境の吐露 - 終 -

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