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第180話『Business partnership』業務提携

葉月と由夏とかれんは鴻上徹也(こうがみてつや)に連れられて、山の上にある美術館と併設したレストランで食事をする。


「ここに連れてきてくださったのは、ここの運営についてのアイデアを……私たちに?」


かれんの問いかけに、徹也は3人を見据えながら微笑んだ。


「ああ。この建物をどう活用して運営していくかっていうのがお題なんだけど、君ら女性の感覚も欲しいなって思ってさ。君たちならどんなプランを打ち出すのかなって、興味がわいて誘ってみた」


3人はふわっと微笑む。


「どう? 『東雲コーポレーション』が許すなら、『forms(ウチの) Fireworks(会社)』と組んでみないか?」


「えっ! いいんですか?」

一同が目を輝かせる。


「まぁ、一応条件はあるけどね?」


「え? 条件とは?」


徹也はプレートをさらえてから視線をあげる。

「ああ、三崎かれんさんがお父様(東雲会長)を説得できたらの話かな?」


かれんは微笑みながら肩を上げた。

「なんだぁ。そんなの全然大丈夫ですよ。私こう見えて、めちゃくちゃパパに甘やかされてますから」


徹也は豪快に笑う。

「ふふ。すごいね! それ自分で言っちゃうんだ?」


「ええ。甘やかされてますけど、私はパパに甘えていません。パパが勝手に甘やかそうと必死なんです。でも『東雲(しののめ)コーポレーション』の人間として、今回のこの話に乗らない手はないって、パパだってわかるでしょうし、何より私が自分からやりたいって言ったら、パパは必ずOKすると思います。きっと背中も押してくれるはず」


「ほぉ! さすがは未来の社長だ。心強い。わかった。じゃあ君たち、デザートの前で悪いんだが、一旦ここを中座して見てもらいたいものがあるんだ。構わない?」


3人はその意外な提案に目を合わせる。

「あ……はい」



徹也は支配人を呼んで配膳を中断する依頼をした。


「じゃあ、こっちに来てもらっていいかな?」


ゾロゾロと店を出てロビーに戻ると、徹也は大階段の前で立ち止まる。


「この階段、登りたい? 隣にエレベーターもあるんだけど?」


「登りたいです!」

3人が同時に言って、徹也は笑う。


「ははは、ホントに息ぴったりだ」


「だって、中世のお姫様気分になれそうですから」


「なかなかドリーミングな発想だね。じゃあこの階段でワンフロア上に上がろう」



流線を描いた美しい手すりに手を滑らせながら、ふかふかの絨毯(じゅうたん)()きの階段を一段一段、楽しげに(のぼ)っていく。

踊り場から、もうワンステップ上がりきったところで徹也が振り向いた。


「悪いんだけどさ、ここからは一つ装着してもらわなきゃならないものがあるんだ。じゃあ……これ」


徹也はそこに設置されている台の上にあるものを、彼女たちに手渡した。


「え、これ……」

「これを私たちが着用するんですか?」


徹也は笑みで返す。

「ああよろしく! さぞ似合うだろうねぇ」


「あ……あはは」



徹也は自分もそれを装着してツカツカと奥の通路へ向かっていった。

廊下の窓ガラスに移った自分たちの姿を見て、思わず3人は吹き出す。


「あはは! こんなにおしゃれしてきてるのに、なんで私たちヘルメットかぶって歩いてるんだろう?!」


「ふふっ、ホントに!」


「鴻上さんは似合ってますよね?  (かぶ)り慣れてるって感じ?」


徹也は振り向いてその白く丸いフォルムに手を添える。

「まぁ君たちも、いざ会社を立ち上げたらわかると思うけどさ、現場に立ち会うことも増えると思うんだよね。俺もメディアアートの仕事をしてると結構な機材が並ぶところに現場監督で行くわけだから、普通に抵抗なく被るようになったかな?」


「なるほど! 私たちも精進(しょうじん)します!」


「あはは。じゃあ、開けるよ」



観音開きの大きな扉の前で、3人は徹也がそれを開門するのを待つ。


「Just open!」


大きく開いた扉の中に吸い込まれるように、3人は四方八方を見回しながら中へ導かれていく。


「わぁ!」


そこは建物の外から見た、屋上のオペラハウスのようなガラス張りの(とが)った空間だった。


「すごい! ジュラシックパークの世界みたい!」


「あはは。まぁ今は夜だから、ちょっと妙な雰囲気出ちゃってるけど、昼間は燦々(さんさん)と光が入って、本当に南国に来たような雰囲気なんだ」


3人は目を凝らす。

「ここはどういうスペースなんですか?」


「ああ、ちょっと待ってね」


徹也はスマホを取り出してなにやら指示を出す。

次々に照明が点灯し、そのスペースの全貌が露になった。


「わぁ! 思ったよりずっと広い!」


「ガラスの壁に沿って大きな植物を植えてあるから、外から見たら本当に植物園みたいに見えるだろうけどね。まだ工事中だけどさ、多目的に使えるように真ん中はフラットにして、イベントスペースにするつもりなんだ。さぁ! 君たちなら、何に使う?」


3人は顔を見合わせる。

「それこそ……ねぇ?」

「ああ! たしかにここなら」


口々に話す彼女らに、徹也は興味深く尋ねる。

「なに?」


「あ……いくつも浮かんじゃって」


「え?」


「そうですね、私たちなら……まずはショーを……」


「ショー? ファッションショー?」


「ええ。さっき話してたのはブライダルショーなんです。つまりウェディングドレスとタキシードのファッションショー」


「ほぉ! ()()()()()()だな。それで?」


3人が寄り添うように話し始めた。

「この広さなら色々なブースが作れそうだから……人前式や疑似チャペルのウェディングのコーナーなんかはどうかな?」


「そうね。それにお料理の試食、披露宴の装飾物の展示も必要よね? 余興のバリエーションもいるわね……例えば生演奏とか、二次会も含めた歓談の間のゲームのアイデアとか?」


「うん。そしてメインは何組かの男女モデルによるブライダルファッションショーね。実際気に入ったらその場でそのドレスを予約することもできるとか」


「ならもう、見積もりやプランを相談できるブースもつくちゃえばいいんじゃない?」


「だったら、レストランウェディングを正式に申し込んだカップルには特典を作るのも面白いかも!」


徹也が拍手を送る。

「いやぁ……素晴らしいね。君たちはいつもそうやって決めてるの?」


「ええ、3人のアイデアをひとつも漏らすことなく出しあってから、案をブラッシュアップするっていうのが、私たちのやり方なんです」


「そっか、すごいな……もう早速ひとつのプランが出来ちまった。全く、君たちは実にファビュラスだな」


「え……ファビュラスですか?」


徹也はは頷く。

「ああ、なんか、君たちにピッタリくる言葉だと思った」


「ファビュラスか……素敵な響き!」



徹也は満足そうに3人を見渡し、気取った口調で言った。

「では、そんな()()()()()()()お嬢さん(がた)、正式にオファーさせてもらいたいので、企画書を『LBフロンティア(鴻上家所有の大企業)(あて)に作成して頂けますか?」


3人は顔を明るくする。

「はい! ありがとうございます!」


「こちらこそ。ああ、東雲会長(かれんの父)のゴーサインも忘れないでよ? 大まかな見積もりもね。モデルを含めた人員確保と装飾、美術系は東雲さんの方で担当してもらって、音響機材と映像の演出においては『forms(俺の) Fireworks(会社)』が担当させてもらう」


「ええっ! 『Eternal(エターナル) Boy's(ボーイズ) Life(ライフ)』や『Splash(スプラッシュ)Fantasia(ファンタジア)』をプロデュースする精鋭(せいえい)クリエイターと、コラボ企画だなんて!」


相澤(由夏)さん、持ち上げるねぇ」


「なら、広報も『東雲』に任せてもらえますか?」


「さすが! よく勉強してる。すぐにでも起業できそうだ」


更にかれんが畳みかける。

「そうですか? じゃあ起業したら、『forms fireworks』さんには、私たちの会社にお仕事を回していただけます?」


徹也は愉快そうに笑う。

「お! 新社長は営業力にも()けてるなぁ。君らみたいな計り知れない若い才能とは絶対ライバルにはなりたくないからさ、大いに手を組んでWin Winの関係でいたいもんだよ」


「よかった!」

3人は飛び跳ねるように手を取り合った。



「なんか(うらや)ましい関係性だよなぁ。でも白石くん? 君はこっち(わが社)の所属でもあるってことを忘れないでよ?」


かれんが葉月の肩を持って、徹也の方にグッと差し出した。

「どうぞ! ウチの精鋭を派遣しますので、いかようにもお使いください」


「ちょっとかれん!」

葉月が抗議する。


橋渡(はしわた)しって意味よ! そのとおりでしょ?」


徹也ががっかりした様子で肩をすくめた。

「なぁんだ、生け贄(いけにえ)を送ってくれるんじゃないのか……」


「こ、鴻上さんまで!!」


葉月が眉をつり上げるのを見て、徹也は豪快に笑った。

「あはは。ヤベっ、今夜は楽しいな」


徹也は満足そうに入口を指差す。

「今夜は大収穫だった。ありがとう。お礼を込めて、とっておきのデザートを振る舞うよ。さぁ、行こう!」



第180話『Business partnership』業務提携 - 終 -

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