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第131話『Talking To You After A While』久しぶりの会話

「うわ………葉月ちゃん、酔ってんの? 顔、めちゃめちゃ真っ赤だけど?」


葉月は隆二にそう言われて、閉口しながら思わず裕貴の方を見た。

まさか『エタボ』のベーシストのトーマと生電話して上気してしまって真っ赤になっているなんて、口が裂けても言えない。

隆二本人は、自分が関わる大きな動きがあることをまだ知らないのだから……


犠牲になって隆二に叱られた裕貴に向かって、葉月は隆二の背後から両手を合わせて謝った。


くるっと振り返った隆二が、スッと手を出して葉月の頬に触れる。

「ほら! 熱っつ熱じゃん!」

またドキッとしたような顔をする葉月を見て、裕貴が後ろで静かに笑いを噛み殺していた。


「リュウジさん、そんなことしたら余計に葉月が茹で上がりますよ!」

そう言いながら、裕貴は団体席の後片付けをかって出て、奥へ消えていった。


隆二はカウンターにゆっくりと回り込んで、葉月の前に肘をついた。

「なんかさ……こういうの、久しぶりじゃない?」

「あ……そうですね。ここしばらくは賑やかでしたから」


そう言いながら顔を上げると、すぐ近くに隆二の顔があって、思わず息をのむ。


「ゆっくり話したのっていつだろ? バスケの時も、君は徹也と先に帰ったしな」

「ええ」

「じゃあ……俺が葉月ちゃんと話したのって? ん? バースデーパーティーより前か……」

「ええ、多分……私がここで寝ちゃった日かなと……思います」

「ああ! 奥のソファーで?」

「はい。鴻上さんが……その……連れて帰ってくれた日……」


隆二は体を起こしながら笑った。

「あはは。白雪姫をドS大魔王(徹也)が連行していった日だな!」


「あ……まぁ……」

葉月は恥ずかしそうに俯く。


「しかし、大変だな。睡眠削ってまで企画書上げろとか、ドS上司炸裂だよな。なのに王子になりたがるなんて、徹也のヤツ、虫が良すぎるだろ!」

「いえ、私が手こずってただけなので……」


そう弁解する葉月の目を、隆二は優しい表情で覗き込んだ。


「あんまり根詰めちゃダメだよ。期待に応えたいって気持ちはわかるけど、葉月ちゃん真面目だからさ、ハードルをあげていけばどんどん自分を追い込んじまうタイプだろ?」

「あ……そうですね。加減がわからなくて」


隆二はフッと笑いながら溜め息をつく。

「ホント、なにかとスキルは高いのにそれもちっとも自覚してないし、無理ばっかりするし。それも不器用っていうのかな」


隆二は葉月の頭にポンと手を置いてから、葉月の空のグラスを引いた。

背を向けて、グラスとレシピをチョイスしながら隆二は、その日より更に数日前に葉月と立ち寄った夜の海のことを思い出していた。


『Eternal Boy's Life』のマネージャーである香澄が葉月に “した事” が信じられなくて、その事実が受け入れられなくて、自分らしさを失っていたあの日。

感情をコントロールできなくて、思わず彼女に踏み込み過ぎたことを……

思い出すだけで、舌打ちしたくなるような気持ちになる。

あの日から、ろくに話も出来ていなかった。

イベント続きだったせいもあるがむしろそれに助けられているような感覚で、ヒリヒリした気持ちを押さえていたように思う。

いや、彼女が眠りこけている顔を見て魔が差したのだから、押さえきれてはいないか。


後ろから葉月の声がした。

「あの日……私、結構飲んじゃって……何言ってたかあんまり覚えてないんです。変なこと……言ってませんでしたか?」


隆二は表情を作り替えてくるっと振り返ると、悪戯な笑みを浮かべた。

「え、変なことばっかりいってたけど? そんなに覚えてないんだ?」

「え!」


葉月の驚いた顔を見て、隆二はまた笑いだす。

「あはは、ウソウソ。ただ、 “3杯目を飲ませてほしい ” って。めちゃくちゃ疲れてたからだろうな。なんせ大学生のクセに、がむしゃらに仕事してた訳だからさ」

「まぁ……なんか夢中になっちゃってて」

「それで、飲んだら急に昏睡状態になるんだからビビったよ。もうその椅子からもずり落ちそうな勢いでさ……だから奥に運んで……」

「え? ちょっと待ってください! “運んで” って? 私、自分で歩いて行ったんじゃないんですか!」

「うわ……そんなに記憶ないんだ? 俺が抱き上げて連れて行ったんだけど? 覚えてないの、白雪姫?」

「あー、それで白雪姫……」

「厳密に言えば、徹也がやって来て、いくら突っついても起きない君に命名したんだけどさ。もしかして今、繋がったとか?」

「あ……はい」

葉月はまた恥ずかしそうに下を向いた。


「あはは。まあ仕方ないよ、ドS上司にしごかれてたんだから?」

「ええ……まあ」

「そのドS大魔王が葉月ちゃんを連行した辺りは覚えてるの?」

「はい、びっくりして目が覚めましたから」

「あはは、なるほどね。実はあの時、俺もびっくりしたんだよ。徹也のあの風貌、初めて見たから」

「え? そうでしたっけ?」

「うん。俺が個展に行った時もアイツ、不在だったろう? よくよく考えたら野音フェスから一回も会ってなかったんだよ。いや、マジでびっくりしたわ。なんであんなことになったんだ?」

「私も初めて『form Fireworks』に出社する日に、駅前で鴻上さんと待ち合わせしてたんですけど、本当に目の前に立っているのに気付かなくて……その前に立ってる人を邪魔だなぁって思いながら、向こう側をずっとキョロキョロして鴻上さんを探してたんです」

「あははは! それマジ傑作(けっさく)だな! それで? ドS大魔神はブチギレたの?」

「怒りはしないですけど、皮肉は言われましたよ。 “結構長くここに立ってるんだけど ” みたいな」

「あはは、アイツらしいな、その白々しい感じ」

「私だってめちゃめちゃびっくりしましたよ。だってそれまでにここで会って話していた鴻上さんと180度、違う人種に見えましたし」

「そりゃそうだな! なんせ、銀色の頭なんだから」

「その時はもう服装も凄くて。靴までバッチリ決まっちゃってて、道行く人がみんな振り返るみたいな」

「それって、イケてるっていう意味で?」

「ええ、すごくセンスが良くて」

「ふーん、そうなんだ」

「それで、どうしてそうなったのか聞いたんです」

「へぇ、俺もそれ、興味あるわ」


またカウンターに前のめりに体を寄せた隆二に、葉月は少しもったいをつけたように言った。


「アレックスさんなんです」

「は? なんでアレクが?」

隆二は驚いて体を起こす。


「アレックスさん、フェスの本番前日に鴻上さんと会ったんですって。ああ……私たちが中庭でバスケしてた日ですね。その時にアレックスさんが、鴻上さんに “ スーパークリエイターのくせに地味だ ” って言ったらしくて」

「あはは! アレクも容赦ねぇからな」

「それで会社立ち上げの日に合わせて、頭をド派手にしてやろうって思ったらしくて……」

「なんだそれ? それがクリエイターの発想か?」

「そしたらアレックスさんからお祝いの大きな箱が届いて、その中に服と靴の一式が……ほら、私の誕生日パーティーの時も、アレックスさんがドレスアップフルセットのコーディネートされたアイテムを送ってくれたじゃないですか? あんな感じで鴻上さんにもプレゼントが届いたそうなんです」

「なるほどな、アレクはやることがやっぱいきだな」

「そのフルセットにシルバーのヘアースタイルで……それで駅で待ってるんですよ! 早朝に! 視界に入ったときはちょっと怖い人かと思っちゃったんで、絶対目を合わせちゃダメだ! って思ってて」

「あはは! その光景も傑作だな」

「それに、そこからその “派手な人” に連行されたビルが、あの花火大会で屋上に連れて行ってもらったビルだったことにも、驚いて」

「ああ、君を抱き上げて屋上まで行ったってやつね? あの時はまだ工事中だったからな。だからか」

「すごく斬新な外観になってて、もうびっくりすることばっかりで……」

「そうだなあ」


そう言いながら、隆二は少し言葉を詰まらせた。

彼女の顔が輝いていた。

そういった驚きにもわくわくしただろうし、きっと彼女はあの会社で毎日充実しながら過ごしているのだろう。

徹也に憧れの念を抱きながら……


「アイツは今どこに? 会社来てるのか?」

「今日からまた福岡みたいです。何か大きなプロジェクトがあるらしくて」

「相変わらず飛び回ってんな、いつも」

「本当に。すごいですよね鴻上さんは。まあ、あれだけの素晴らしい作品を作る人ですから、引っ張りだこなのも納得です。ホント……一所ひとところには、いない人ですね」  


何かに思いを馳せたような葉月の表情を、隆二はじっと見つめていた。


「あのさぁ、その “憧れの人” にバースデーディナーに誘われた感想は?」


葉月の表情が一変した。

思わず突いて出た自分の言葉が、皮肉を含んだニュアンスだったことに驚きながらも、隆二は後戻りできない感情が湧いてくるのを感じた。


「……何か意味ありげな言い方ですね」


隆二は葉月から視線をそらすようにさっと後ろの棚に体を向けると、意味もなくリキュールボトルに手を伸ばし、その間隔を変えながら言った。


「いや、別に。大事そうにベンチにまで、そのカバンを持ってきたりしてたからさ」

 

葉月がバッグに視線を落とす。

「あ……これ……ですか?」

「徹也からもらったんだろ? でっかいケーキと豪華な花束に『ギャレットソリアーノ』ときたか。アイツも決めてきたな。本格的なデートコースじゃん? 普通ならプロポーズかってとこだぜ? それでいて仕事の話ナンテ、しないでしょ? 普通」


隆二は、そうまくし立ててながら葉月を振り返る。

そして自分のなかで、ヤケになって発しているであろうそれらの言葉に辟易(へきえき)としていた。


第131話 『Talking To You After A While』久しぶりの会話 ー終ー


※ 読者様へ

  いつも読んで下さって、本当にありがとうございます。

  この連載はまだまだ続きますが、並行して新連載が始まります!

  年代違いですが同じキャストも登場するチェーンストーリー★



「事件の謎~その先にあるもの

    《傍らに奏でるラブストーリー》」


見目麗しき天才『来栖 零』が、警察をも動かして犯罪に挑み、推理していく。

そんな彼に翻弄されながらも魅了されていく主人公。

幾重の困難に巻き込まれ、傷ついた彼女を救えるのは?

そして真実の愛にたどり着くのは?…

多くの謎を理論的に解明しながら、犯人を追い詰め事件を紐解く、本格ミステリー&ラブストーリー★


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