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第110話『Belonged To The Club Of Basketball』バスケ部

翌日も『form Fireworks』の個展は大盛況で、取材や中継が入る中、葉月も大いに貢献した。

山場やまばであるこの二日目の終盤になって、主役の鴻上こうがみ徹也がまたもや別件で中座してしまい、なんとか気を張っていた葉月も閉会の頃にはヘトヘトになっていた。


隆二とバスケチームの待つ体育館へ行く約束をしていたことで、早めに葉月を迎えに来ていた裕貴がその状況を見かねて琉佳ルカに申し出て、後片付けを手伝った。


「葉月、その大きな花台はボクが運ぶから、そっちのアレンジメントの方を持っていって。ねぇ、本当はかなり疲れてるんでしょ? ホントに大丈夫? 今からバスケなんか出来んの?」

「うん。高校の時のハードな部活のことを思えば、これくらい全然平気」

「そう? ならいいけど、昨日あれからどうせ真っ直ぐ帰ってないだろうから、寝不足になってたりしないかなーと思ってさ」


葉月がバッと裕貴を見た。


「出た! 過剰反応。……聞いちゃっていいのかな? 聞かないで欲しい?」


葉月は視線を手元に戻して言った。

「別に……聞かれても、何も」


「ふーん。そうか」

裕貴は意味深な顔で、葉月をじろじろ見た。


「感じ悪いな」

葉月が睨む。


「居心地が悪いだけでしょう? 嘘が苦手の葉月サン!」

「なんだかムカつく……ユウキ、今日は絶対に手加減しないからね!」

「お! 望むところだ! 今回はフェスのリベンジしなきゃね!」



「今日は来場者数、さすがに凄かったんじゃないの?」

琉佳ルカが姉の美波みなみと話していた。


「そうね。初日に遠慮して来なかった割と近しい人たちが2日目にドッと来たから、総合的に見たら2日目の方が多いかも。ねぇ琉佳、ところであそこにいる彼は?」 


葉月と親しげに話ながら作業をしている裕貴に目をやった。 


「ああ、リュウジさんの付き人だって。ドラムやってる男の子。白石さんとも仲いいんだよ、今日もこれからリュウジさんのバスケットのクラブチームの練習に行くんだってさ。それで白石さんも連れて行くためにリュウジさんの付き人が彼女を迎えに来てるって言うわけ」


「へぇ、そうなんだ。水嶋先輩、バスケもまだやってるのか……」

「姉ちゃん、顔ニヤついてる」

「うるさいわね! 私だってね、本当は昨日会いに行きたかったんだから!」

「いや、なまリュウジ、めちゃめちゃ カッコよかったぞ!」

「やっぱり!? 昔から本当カッコいい人でさぁ、全然気取らないし気さくだけど、なんか近寄りがたいオーラがあって……もうダメだわ、あのインスタ見て、またやられちゃった!」

「あのさ……姉ちゃん、今彼氏いないからってあんまり恥ずかしいことすんなよ!」

「ちょっと、なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!

「おいおい! 僕のこと、敵に回さない方がいいよ。もうすっかりリュウジさんとも仲良くなったんだから!」

「ほんとあんたって子は、私の前をチョロチョロして、うっとおしいわね! 子供の頃と何ら変わんないわ。あ! そうだ。ちゃんと言っとかなきゃって思ってたんだけど、あんたさ、白石さんに手ぇ出したりしないでよね!」

「それがさあ……」

「なによ」

「白石さんさ、僕はてっきり "徹也さん枠" だと思ってたんだけど……どうもなんかね、リュウジさんとも怪しいんだ」

「えー! 何それ? どういうこと!」

「やけに食いつくじゃん?」

「うるさいなあ! さっさと教えなさいよ!」

「昨日もさあ、リュウジさん、わざわざ酒も飲まないで、車で送って帰ったんだよ。それもなんか…… 多分最初はあの付き人の子が送るはずだったんじゃないかな? なのに気遣ってか、彼がわざと酒飲んだような気がして……それで結局リュウジさんが送るしかないから、みたいな形で二人で帰って行ったんだ」

「もしかして……付き合ってるとか?」

「あー、そんな感じは全然なかったね。白石さんの方はリュウジさんにはしっかり敬語だし、ちゃんとこう、敬意を持った態度で接してたし。あ……姉ちゃん、気にしてんだ?」

「いちいちうるさい!」

「大丈夫だって。リュウジさんは姉ちゃんと付き合ったりしないよ」

「あんたね! ホント一回ぶち殺すわよ!」

「わあ怖い怖い! ねぇ、ある程度落ち着いたら、彼も手伝ってくれたことだし、白石さんを解放してあげようと思って。いいだろ?」

「そうね今回は白石さん、大活躍だったからね」

「昨日話し聞いてたら、彼女って体育会女子みたいだよ。バスケ部だって。しかも、何だっけな? 高校はすごい強い女バス所属って……」

「すごい強いって言ったら、この辺だと麗神学園(れいじんがくえん)とか?」

「そうそうそれそれ! インターハイにも出場したって言ってた」

「え! 本当なの! アスリート級よ? そんな風には見えない穏やかさがあるわね、彼女には」

「確かに。天然キャラだからか、スポーツすらしなさそうに見えるもんな」

「そっか……今から練習なんだ。私も行きたいなぁ……」

「なにそれ? 僕に言ってるの?」

「だってさ、水嶋先輩のバスケがまた見られるわけでしょう……あ、ヤバい! めちゃめちゃ行きたくなってきた!」

「えー僕がここ仕切るの……ん……どうしよっかなー」

「琉佳! お願い!」

「もう! まあいいや、とりあえず明日からは落ち着くだろうし、ユウキくんに手伝ってもらったから大分進んだし……じゃあ白石さんに言ってくれば?」

「サンキュー琉佳!」


美波は早速、裕貴に挨拶をしに行った。


「昨日聞きました、マネージャーさんなんですってね? リュウジさん、しっかり覚えてましたよ!」

「ホント! 嬉しい! 水嶋先輩のバスケ見られると思ったら、ちょっとヤバいわ、私!」


葉月も嬉しそうに笑った。


「後はうちの弟に任せて、じゃあ早速上がっちゃいましょう! 白石さん、着替えに行こう。ちょっと待っててね、大浜さん」

「あ、 “ユウキ” でいいです」

「了解! じゃあ待ってて! ユウキくん」 



裕貴の運転する Range Roverに乗り込んで、三人で体育館へ向かう。

後部座席に並んで座った女子の話が弾み、裕貴はルームミラーでそれを微笑ましげに見ていた。


「白石さん、麗神学園の女バスだったって、本当!」

「はい。そんなに身長はないので、外からのシューターですけど」

「でもインターハイは行ったんでしょ?」

「はい」

「すごいわね! 今、現役でやってないんだよね? すごいもったいないじゃない?」


運転しながら裕貴も参戦した。

「この前のフェスで、ボクも葉月のプレー見てそう思いました。バスケで大学行けたんじゃないって思いましたし」

「そういう道は考えなかったの?」

「そうですね、少し名残惜しい気持ちはありましたけど、それよりも、スポーツも含めたイベントプロデュースをするような仕事に就きたいって、思うようになって」

「そっか、それで大学の専攻が現代ビジネスなのね。経営学か。そこまでちゃんと履歴書は見てたのに麗神学園は見落としてたな。私も一端いっぱしのバスケ関係者だったのに、不覚だわ」

そう言って美波は肩をすくめた。


「白石さんは、ゆくゆくは何を目指してるの?」

「まだ具体的にはないんですけど、今、親友のお父さんが経営している大手のイベント会社で、プランニングの勉強させてもらってるんです」

「あら、その話は徹也も知ってる?」

「ええ多分……」

「多分?」

「いや……私、鴻上さんとお話する時、たいがい運悪く酔ってる時なんですよね……今回のこの個展のお手伝いするお話も、私がこれまでに最高に泥酔してた時に、なんか怒られながら依頼されたような……実はあんまり覚えてなくて。その時はようやく名刺を渡してくれましたが、鴻上さんって連絡先も教えてくれなかったんです」

「なになに、その面白い話! 今度ゆっくり聞かせてもらおう! 私も琉佳もオープンなんだけど、徹也はなんとなくプライベートを明かさないからね。秘密主義なのよ」 


運転席の裕貴が笑った。

「そこは親友同士、うちの師匠(隆二)とも似てるかもしれませんね。こっちのボスも秘密主義ですから。ただ詰めが甘くて、ボクには何でもバレバレなんですけど」


ルームミラーで目があった葉月は、スッと視線をそらす。

裕貴は深く溜め息をついた。


「へぇ、ユウキくんはなかなか鋭いお弟子さんなのね」

「世話がかかる師匠なもので」


葉月が少し下を向く姿がミラーに映ったのを、眉毛をあげて見ていた。



体育館ではもうすでに練習は始まっていた。

遠目に見ても隆二の姿はすぐわかる。

久しぶりに隆二の練習着姿を見て、そのほとばしる汗に少しドキッとする。


ふと、となりに居るの美波を見ると、もう目がハートになっていた。


「美波さん、ボク達、着替えてきますね。先に中に入ってて下さい」

そう言って裕貴が美波を体育館の方へ送り出した。


「ユウキもやるんだね?」

「まぁ一応。美波さんと一緒に見ててもいいんだけどさ、どうせリュウジさんにやれって言われると思うから」

「ははは。そうね」



着替えて体育館に降りると、隆二と美波がフレンドリーに話している。

一瞬にして高校の時代の感覚に戻れるんだろうなと思った。

自分も高校の時のチームメイトに会うと今でもあの頃のようにキャッキャ言いながら盛り上がってしまうので、美波の気持ちがよくわかる。

そう微笑ましく思いながらフッと二人の方へ目をやったとき、隆二と視線が合った。

葉月の中に心臓を掴まれたような衝撃が走る。

昨夜の事が断片的に頭の中に浮かんで、葉月の鼓動を少しずつあげていく。

となりにいる裕貴にその息遣いを気付かれまいと慎重に呼吸しながら、とりあえずそっちは邪魔しないように、チームメイトに裕貴を紹介した。


遅刻して残り時間があまりないので、アップもそこそこにゲームをする。

いつもなら3on3しかできないところが、ギリギリ10人いるので、2チームに分かれての試合形式で行うことになった。

隆二のチームには裕貴が、葉月のチームにはアキラが入った。

そして葉月のディフェンスには裕貴がついている。


急遽、美波が審判兼点数係として参加することになった。


数々の攻防戦を経て、葉月の外からのシュートと晃の高さで葉月のチームが勝利した。

ハイタッチをして喜ぶ葉月と晃を忌々しげに見る隆二に、裕貴は諭すように言った。


「そう怒んないでくださいよ。晃さんも嬉しそうだし、美波さんも嬉しそうだし。リュウジさんも葉月が来て嬉しいでしょ?」

「俺はどうも葉月ちゃんと対決すると負けるらしい。やっぱり一緒のチームでやんないとな。 そうだ! 今日こそは正式加入登録してもらうからな」

「燃えてますね、リュウジさん」



終わってからは、またいつしかのように、食事がてら体育館の近くのファミレスに大所帯で押し掛けた。    


美波は隆二以外にも知った顔が何人かいたようで、隆二を囲んで高校の時の懐かしい話をしているのか、話を弾ませていた。


それを微笑ましげに見つつも、葉月は今近くに隆二がいないことに、少しだけホッとしている 自分に気が付いていた。


バスケが始まっていたことをいいことに、あまり視線を合わせず、自然な態度をとることが出来たものの、昨夜のあのシチュエーションを思い出すとドキドキしてしまって顔が赤くなっていくのを感じる。


それに加え、さっきから妙に裕貴の視線が気になっていた。


「なに? ユウキ。じっと見て」

「いや、葉月がリュウジさんにマーキングされてないかなぁと思ってさ」


葉月は飲みかけていたアイスティーのストローごと吹き出しそうになった。

むせて裕貴にトントンと背中を叩いてもらうハメになる。


「ちょっと! 変なこと言わないでよ」

「思いっきり動揺してるように見えるけど?」

「何もないよ。本当に……」

「まぁ、ボクもそう思ったけどね。でないとさ、バスケ来るのも躊躇うでしょ」

「だったら変なこと言わないで!」


勘のいい裕貴に気付かれまいと、そこからはずっと平常心を心がけた。


ドリンクバーで鉢合わせた隆二に、裕貴が言った。

「えらく盛り上がってるじゃないですか? まるで同窓会ですね」

「ああ、そうだな。忘れてたようなエピソードとか色々思い出せて面白いよ」

「それは良かったですけど、今日は全然葉月と会話してませんね。昨日話し過ぎてネタ切れだったとか?」

「何が言いたいんだ?」

「昨夜はあれから奥に団体さんが来て、ボクと晃さんは遅くまで『Blue Stone』開けてたんですよ。ボクも帰るのが遅くなりましたけど、リュウジさんが帰宅したのも、ホントはボクが帰る直前だったのでは?」

「やめろよな! お前のそういう推理めいた圧力……マジで末恐ろしいわ。それで?  また今日も晃のグラスを間違えて飲む気か?」

「間違えた方がいいなら、そう言って下さいよ」

「お前なぁ……」

「一応葉月にも聞いたら、何もないって言いましたけど。ちゃんと話し合わせといてもらわないと、ボクもやりづらいんで」


隆二はため息をついた。


「リュウジさん、まさか……葉月に振られたりしました?」

そう笑いながら言った裕貴が、その“間”に真顔になった。


「え! マジで振られたんですか?」


隆二は裕貴の顔を忌々しげに睨んだ。

「うるせえな! 振られるわけないだろ!  タイミングを……間違えただけだ」

「なんですかその面白い話! 聞かせてくださいよ!」

「バカかお前は! 言うわけないだろ!」

「じゃあ、葉月に聞きますけどね! いいんですか?」

「お前! 師匠を脅迫する気か!」  

「滅相もない。何か協力ができないかなと思ってるだけです」


「……食えない奴め……」


第110話 『Belonged To The Club Of Basketball』バスケ部 ー終ー

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