リーザにお小遣いを渡しました
クレアが本当に人を見る目があるのかどうか、まだ俺ははっきり実感はできていないけど……それでも、クレアが見て雇った人達は確かな働きをしているらしいから、間違いないんだろう。
孤児院には様々な孤児がいるのもわかるし、自分を売り込む商人とか、買い物客を見る以外に得られるものがあったのかもしれない。
素質に加えて、公爵家の教育、クレアの性格などが合わさってってとこかな。
「よし、決めた。っと、ちょうど到着したね」
さすがに、リーザが物を買う以外でお金を使わなさそうだし……とか、色々考えているうちに、ハインさんの雑貨屋に到着。
相変わらず、周囲の建物よりも大きな建物と門が、お客さんを受け入れている。
「タクミさんと話していると、移動する時間も短く感じますね」
「ははは……」
クレアの言葉に、楽しいと言われているような気がして、ちょっと気恥しくなりながら、門の前でヨハンナさんと一緒にレオに待機してもらい、店の中へ。
ヨハンナさんは、待機中にレオを撫でるのが楽しいようで、嬉しそうにしている。
シェリーは、レオの背中でお昼寝の体制だった。
「ようこそいらっしゃいました、クレア様。タクミ様やセバスチャンさん方も」
「ハイン、お世話になるわね」
「はい、今日もよろしくお願いします」
店の中では、店主のハインさんを含め、五人程の店員さんが待ち受けていた。
レオがいて目立つからか、俺達が入って来るのに気付いていたようだ……まぁ、窓から外を見ればすぐにわかるしな。
「それでは、こちらに……」
「あ、すみません、ちょっと待って下さい。――リーザ?」
「なぁに、パパ?」
俺達に店の中を案内しようとするハインさんに、少しだけ待ってもらいリーザに声をかける。
以前にも来た事があるが、その時以上に目を輝かせながら、入り口から見える商品を見ているリーザ……やっぱり、何か欲しい物があるのかもな。
「ちょっと手を出して? ……これ、お小遣いだ。足りなくなったら、俺が買ってあげるけど……できるだけ、それで買える物を買うんだぞ?」
リーザの手に、銀貨一枚を握らせる。
色々考えたけど、結局小遣いは銀貨一枚に決めた。
ちょっと多いかもしれないけど、リーザなら無駄遣いしないだろうと信用してだ。
むしろ、遠慮しがちなリーザにはちょっと無駄遣いをするくらいが、ちょうどいいのかもしれない。
「……いいの、パパ?」
「あぁ、もちろんだ。リーザだって自由にお金を使って、自分が買いたい物を買って欲しいからな」
「うん……ありがとう。……リーザ、銀貨なんて初めて持った」
手の中に収まった銀貨を見て、俺を見上げるリーザに頷く。
両手で銀貨を持ち、小さく呟く……予想外の反応だけど、二本の尻尾が激しく揺られているので、喜んでいるのは間違いなさそうだ。
「あとは……すみません」
「はい、なんでしょうか?」
「リーザについてやって、色々品物を見せてあげてもらえますか? さすがに、一人で見て回ってもわからないと思うので」
迎えてくれた店員さんの中から、女性に声をかける。
俺達がいるとリーザは遠慮しそうだし、こういうのは自由に見て買う物を選んだ方が良さそうだからな。
「畏まりました。では、私が付かせて頂きます」
「私も、リーザ様に付かせて頂きます」
「タクミさん、私もリーザちゃんと行っていいですか?」
「うん、大丈夫だよ。――お願いします……ほら、リーザ?」
承諾してくれた女性店員さんと、ライラさんも一緒について回ってもらう事に決まった。
さらにティルラちゃんも立候補……仲のいいティルラちゃんがいれば、リーザも楽しいだろう。
ティルラちゃんに頷き、女性店員さんとライラさんに頭を下げ、まだジッと手の中の銀貨を見ているリーザの背中を押す。
「あ……パパは一緒じゃないの?」
「今回は、リーザが一人で……いや、店員さんとライラさんがいるけど。好きな物を見て、好きな物を買うといいぞ? それはリーザのお金だからな。欲しい物を買っていいんだ」
こちらを窺うリーザは、少し不安そうな表情。
俺がいたら、遠慮したりリーザが本当に見たいものが見れないかもしれないからなぁ。
俺とクレアは、セバスチャンさんと一緒に新しい家に関する物の相談をしながらだろうし、リーザが欲しがるような物とは違うだろう。
「好きな物を見て買う……うん、わかった……」
なんとなく、よくわかっていないような呟きの後、頷いてティルラちゃん達と一緒に、店の奥へ行くリーザ。
「……ちょっと、急すぎたかな?」
「きっと、大丈夫ですよ」
俯き気味なリーザを見送って、急に湧き上がる不安感。
リーザのためと考えて、すぐに実行したけど……ちょっと急ぎすぎたかもしれない、なんて考えも浮かんでくる。
そっと隣に来てくれたクレアが、微笑みながら肯定してくれて、あまり心配し過ぎてはいけないと思う事にした。
多分、リーザは遠慮とかがなければもっと活発な子な気がするから、俺なりに遠慮せず自由に行動できるよう考えているつもりだけど……。
七歳くらいの子が、大人の顔色を窺ったり、遠慮して過ごして欲しくないからなぁ……これまでの経緯で、そうなるのも仕方ないとわかっていてもだ。
「では、私達は……」
「はい。ハインさん、よろしくお願いします。今日は……」
セバスチャンさんに促されて、本来の目的に戻るためハインさんとの相談を始める。
リーザの事をあれこれ考え過ぎてもいけないからな――。
目的が目的なため、店内の商品をゆっくり見ながらという話ではないので、普段はお客さんを入れないようにしている部屋に通され、テーブルについての話し合い。
一応、ハインさんの店で扱っている商品などは、寸法や用途などの詳細が書かれた物がまとめられているので、それを見ながらだ。
約一時間程度、ハインさんと相談して色々な品物の購入を決める。
各部屋に置く時計や食器、小物入れ等がメインだな。
その他には……。
「ベッドなどの大きな物については、別の商店の者と相談して仕入れさせて頂きます」
「はい、よろしくお願いします」
「お願いするわね、ハイン」
大体の事を決め、請け負ってくれたハインさんに頭を下げて改めてお願いした――。
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