想像以上にちゃんとした考えがあったようでした
「家が作れたら、ずっと働けるとも思ったんですけど……駄目でした」
「うん?」
「ティルラ、今なんて?」
「え……家を作れれば、その時は皆働いている事にならないですか? そうすれば、他で働く場所を探さないでもいいですし、もしかしたらここ以外で家を作るのを手伝ったりするようになるかもしれません」
「……クレア、これって?」
「驚きました、ティルラがそこまで考えているなんて。いえ、考え自体はまだまだですけど、まさか今後の雇用まで考えているとは……」
ティルラちゃんが考えていた事、家を作る事から今後も建築方面で仕事とできないか……という、継続雇用につながる考えだ。
まぁ、さすがに自分の家を自分で作るのに、元々が費用の節約目的だから給金が発生せず、雇用とは言えないだろうが、根本的なところでは働けない人達を働けるように、という考えに繋がっている。
ティルラちゃんの考えに驚いて、思わずクレアと顔を見合わせた。
「姉様達は、安心して寝られる場所とも言っていました。暖かくして寝るのは、すごく気持ちいいですから……レオ様と一緒に寝る時のように。だから、そうすれば皆ニコニコと楽しく笑って、働けるのかなって思って……それで、ラーレと一緒に話に来たんです」
「ティルラちゃんは、皆が笑って生活できたらって考えたんだね」
「はい……」
レオに包まれて寝たり、ベッドで毛布をかぶって寝たり、寒さに震える事なく安心して寝られるのは確かにいい事だ。
ティルラちゃんの考えは奥底に、皆が笑っていられたらという優しい気持ちがあるんだろう。
「……スラムにいる人達が、一部は聞いてくれるとしても全員が話をしてくれるわけではないのよ。ティルラの気持ちや考えはわかったけれど……はぁ」
ちゃんとお互い話せて、歩み寄れるような人達であれば、スラムの人達はもっと少ないだろうし治安もそこまで悪くはならないだろうからなぁ。
穿った見方をすれば、ちゃんと暮らせるように考えたと言っても、安穏と暮らしている子が来て上から目線で偉そうな世迷言を言い放っている……なんて思われてもおかしくない。
優しさから出た言葉でも、届かない、届きづらい人だっているから。
「何事にも順序が大事……かな? ティルラちゃんだって、急にエッケンハルトさんが来て本邸で働いてもらうから、今いる屋敷から連れて帰るって言われても、すぐに納得できないでしょ?」
「父様がですか? それは困ります。でも、うーん……父様は変な事を突然言ったりしますけど、私や姉様を無理やり連れて帰ったりしませんよ?」
「お父様はあれでも、私達が考えている事を尊重してくれているのよ。でも、急に言われたら驚くし、すぐには納得できないでしょ?」
「それは……はい、そうです……」
例えが正しいかはわからないけど、誰だって急に何かをしろと言われて、すぐに納得できるかは微妙なところだ。
とりあえず、クレアもティルラちゃんもエッケンハルトさんに対して高いような低いような……微妙な評価なのは置いておいて、理由も言わずに強制されたら納得できるとは限らない。
まぁ、クレア達なら反発は少ないだろうけど。
「だから、ティルラちゃんが考えた事を実行するにしても、いきなりここまでラーレで来るんじゃなくて、よく考えて相手に伝わるようにする必要があるんだ。セバスチャンさんとかクレアとかに相談すれば、もしかしたらもっといい案になるかもしれない。それに、話せる準備とか代わりにちゃんと聞いてくれるよう伝えてくれたりもするかもしれないからね」
今回、ティルラちゃんは俺やクレアが考えているよりも、ちゃんと真剣に考えていたようだけど……不十分なところが多い。
それは子供だからであって、知識が足りないとか経験が足りないとも言えるんだろう。
とはいえ、大人だからって全てを完璧にこなせるわけじゃない……だからこそ、それを補佐するために執事さんとかがいるわけだしな。
一人でなんでも完璧にできる人間なんていない……と思う、多分。
「そうなんですね……私は、話せばわかってくれると思っていました……」
「公爵家の娘であるティルラからの話なら、無碍に扱わない人は多いわ。でもそれは、ティルラ本人ではなく、公爵家だからなのよ。それに、通じない相手もいるのは当然ね。だから、一人で考えずに相談する相手が必要だし、間に入る人も必要なの」
「……タクミさんは、私が話したら相談に乗ってくれましたか?」
「俺? もちろん、相談に乗るよ。だってそれは、ティルラちゃんが真剣に考えた事だからね。いい案が出せたりするかはわからないけど……」
クレアのフォローもあって、一番の間違いは誰にも相談しなかった事だと理解し始めている様子のティルラちゃん。
なぜか、クレアではなく俺に相談をと聞かれる。
相談する相手としては、俺よりもセバスチャンさんとかの方が適任な気がするけどなぁ……。
「私ではなく、タクミさんなのが気になりますが……タクミさんのおかげで最近はティルラの考えがわかってきました。そうなるのも無理はないのでしょうね。ティルラは本当にタクミさんを信頼しているのね」
「はい! タクミさんは、いつも私の話を笑わずに聞いてくれますから!」
「ははは……まぁ、俺の場合は話を聞いて妥協点を探る、という事の方が多いけどね」
事なかれ主義とも言えるのだろうか……ティルラちゃんが駄目と言われている事でも、クレアが妥協できる範囲で話をする事が多かったように思う。
それが、ティルラちゃんにとっては頭ごなしに否定されなかったので、良かったのかもしれない。
「はぁ……でも、ティルラがここまで考えているなんて。怒るに怒れないわね」
「ほっ……」
溜め息を一つ吐いて呟くクレア。
考えていたよりもしっかりと目的があったため、ティルラちゃんを叱るのは難しい……クレアだって、叱りたくて叱っているわけではないしな。
ティルラちゃんは、クレアの呟きを聞いてホッとした様子……だけど。
「だからと言って、何も言わないわけではないわよ? ティルラの考えはわかりました。ちゃんと考えていた事も。でも、それを誰にも相談せず、無断でラーレに乗ってここまで来た事は別よ?」
「え……そんなぁ……」
読んで下さった方、皆様に感謝を。
別作品も連載投稿しております。
作品ページへはページ下部にリンクがありますのでそちらからお願いします。
面白いな、続きが読みたいな、と思われた方はページ下部から評価の方をお願いします。
また、ブックマークも是非お願い致します







