ティルラちゃんとラーレを発見しました
数分も経たないくらいで、はっきりと覚えている場所……ディームを捕まえた広場のような場所へと出る。
視界を遮る建物がなくなった瞬間、ラーレの大きな体が見えた。
ラーレはこちらに背を向けており、翼も広げているので広場がどうなっているかはわからない。
「ワフ!」
「ラーレ!」
「ティルラ、いるの!?」
「ティルラお姉ちゃーん!」
レオが鳴くのと一緒に、俺やクレアもラーレに向かって声をかける。
「キィ、キィ?」
俺達の声に気付いたラーレが、首だけでこちらを向いて、首を傾げた。
どうしてここにいるの? とか言いたそうだ。
「ワフ」
「ありがとう、レオ。――ラーレ、ティルラちゃんは……」
「あ、タクミさんです! どうしてここに……?」
「ティルラ!」
「ね、姉様……えっと……わぷ!」
「もうティルラ! どうして一人でこんなところに来たりしたの!!」
ラーレのすぐ後ろでレオが止まり、お礼を言ってティルラちゃんの事を聞こうと声をかける。
どこに……と言おうとした俺の言葉を遮るように、ラーレのお腹の方からひょっこりとティルラちゃんが顔をのぞかせた。
キョトンとしている表情からは、怪我をして痛みを感じていたりと言った様子は感じられない……良かった。
ホッと息を吐こうとした瞬間、レオの後ろに止まったフェリーから声を出すクレア。
戸惑った様子を見せたティルラちゃんは、すぐにフェリーから飛び降りて全力で駆け寄ったクレアに、抱き締められた。
すぐに叱るようなクレアの声……まぁ、心配していたし突然の行動だったから、これは仕方ないな。
「グルルルゥ」
「キ、キィ……」
ラーレはレオに唸られ、広げていた翼を閉じて首を縮こまらせた。
まぁ、ラーレの方はティルラちゃんに言われて飛んだだけだろうから、程々にな?
「ラーレがいるからって、誰にも相談せずに屋敷を抜け出して! どれだけ皆が心配したと思っているの!?」
「ね、姉しゃま……く、くるしいでしゅ……」
「あー、クレア……強く抱きしめ過ぎて息ができないようだから、ちょっと緩めた方が……」
なおも言い募るクレアだが、力いっぱい抱き締めているせいでティルラちゃんが苦しそうだ。
叱るのはいいとしても、さすがにこのままじゃティルラちゃんが話を聞けそうにないので、レオから降りてクレアの肩に手を置き、少し落ち着くように声をかける。
さすがというか、エッケンハルトさんの娘なだけあって、こういう時はパワフルだなぁ。
「はっ! ごめんなさいティルラ……」
「ゴホッ、はぁ……ふぅ……姉様、凄く苦しかったです……」
「はぁ、まったくティルラは……」
「まぁまぁ、今はとりあえず落ち着いて。叱るのは後でもできるから」
ようやくティルラちゃんの様子に気付いたクレアが、慌てて体を離す。
咳き込みながらも、呼吸ができるようになったティルラちゃんに、溜め息を吐くクレア。
色々言いたい事があるのはわかるけど、とりあえずそれらは後回しだ。
「ピピ!」
「ピピィ!」
「……何人か倒れているのは、ラーレがやったのか? 羽がそこらに落ちているし……で、なんでコッカーとトリースが勝ち誇っているんだ?」
レオに睨まれているラーレの前に出ると、数人の男女が仰向けなりうつ伏せなりで倒れており、周囲にはラーレの物と思われる銅色の羽が散乱していた。
倒れている人達は、呼吸している様子だし大きな外傷はこちらから見る限りなさそうなので、多分大丈夫そうだ。
何をしたかはわからないが、ラーレがやったんだろう。
それはともかく、倒れた人達にそれぞれ乗っかって鳩胸を張り、勝ち誇ったように翼を広げて鳴き声を上げるコッカーとトリースは何がしたいのか……。
「キィ!」
「ワウ!」
「キィ……」
自分がやったと主張するようなラーレの鳴き声に、レオが窘めるように吠える。
「ティルラ、これは一体どういう事なの?」
「えっと……た、タクミさん……?」
「とりあえず説明してくれない事には、状況がわからないからね。教えてくれるかい、ティルラちゃん」
「……わかりました」
人が倒れているだけで、派手に物が壊れたりとかはしていない様子なのを確認し、ティルラちゃんの前にしゃがんで声をかけるクレア。
内緒でここまで来たのにクレアに話すのは躊躇われるのか、目を泳がせるティルラちゃんは、俺と目が合って縋るように呼ばれた。
とはいえ、俺も状況がわからないのはクレアと一緒だし、庇ってあげる事もできないだろう。
とにかく話をしてくれるよう俺からも言うと、ティルラちゃんは観念したように頷いた。
「その……昨日姉様とタクミさんが、スラム? の事を話しているのを聞いていました。それで、姉様がなんだか元気がなくなって……シェリーのおかげで、姉様は元気になりましたし、一緒に遊べましたけど……」
「ティルラ……」
ティルラちゃんはリーザの言っていた通り、スラムに関しての相談をしていたのをしっかり聞いていたらしい。
そして、クレアがシェリーに励まされる程に、落ち込んだ様子を見せたのが気になっていたようだ……あれはスラムの事が原因だけど、俺の提案とクレア自身の提案を比べてなんだがなぁ。
ティルラちゃんには、スラムが原因で大好きなお姉さんの元気がなくなった、と思い込んだらしい。
それと、ティルラちゃんはまだ勉強中なのもあって、スラムがどういう場所かはなんとなく危険かな? くらいにしか考えていなかったらしい。
ラクトスにあるとわかっていても、どこにあるかまでは知らなかったが、ラーレに頼んで飛んでもらった後場所を教えられたとか。
ラーレは、ラクトス北の山に住んでいて、人間に見つからないよう空から見ていた事もあるらしく、一番人間同士が喧嘩をしたりしている場所を知っていて、もしかしたら? という感覚だったとも。
ティルラちゃんはスラムがどういう場所かよくわからず、ラーレは治安が一番悪い場所としか認識していない……という、両方スラムを正しく認識していなかった。
それでもちゃんとスラムに降りられたのは、運がいいと言えるのか逆に悪いと言った方がいいのか……。
別な場所に行っていたら、もっと大きな騒ぎになっていたり発見が遅れたかもしれないから、良かった……のかな?
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