枝を投げる練習をしました
「や、やります! えーい!」
意気込み、枝を持って振りかぶって投げるクレア。
その枝の行き先は……。
「……まだ、少し手を離すのが遅かったかな?」
「うぅ……」
「ワフ……」
「キャゥ……」
「クレアお姉ちゃん、取って来たよ!」
「……ありがとうございます、リーザちゃん」
枝は放物線を描く事なく、クレアの右斜め前へ直線で飛んで一メートルくらい先で落下。
さっきより遠くまで投げられているから、上達と言えば上達だけど、離れた地面に枝が向かっていたから、失敗なのは間違いない。
レオなら追い付いて咥える事もできただろうけど、想像と違っていたためか、その場にお座りしてシェリーと一緒に溜め息……いつでも走り出す体勢を解いてしまった。
唯一、リーザだけが枝を追いかけて拾い、嬉しそうに渡すのがさらにクレアに追い打ちをかけていた。
「タクミさーん……」
「うーん……」
リーザから枝を受けとって俺を見るクレアは、顔を赤くする余裕もなくなったのか、目が潤んでいる。
体力は問題ないはずだし、やっぱりちょっと体を動かす感覚がずれているだけだと思うんだよなぁ。
「よし、こうなったらレオ達と遊べるまで、頑張って練習しよう!」
「私にできるでしょうか……?」
「大丈夫、さっきよりは遠くまで枝を投げられたんだから。あとは、何度か練習すれば上手くいくって」
「クレアお姉ちゃん頑張って! リーザもっとやりたい!」
「姉様、頑張ってください……」
意地になったわけではないけど、クレアが枝をちゃんと投げられるようにすると決意。
落ち込んで、自信をなくしたクレアを見ていると、このままじゃいけない気がするからな。
励ます俺に、リーザやティルラちゃんが応援……リーザはさっきまでのでも面白かったのか、遊びたいだけっぽいけど。
そうして、遊びは急遽クレアの枝投げを練習する方向へと変わった――。
「行きます! はい!」
「……っと」
何回か……いや、何十回かの試行錯誤を経て、無事緩やかな放物線を描いて枝を投げられるようになったクレア。
投げる事に全力で、数歩分の助走を付けて投げる程にまでなっているんだけど、最適な場所で手を離すのに意識が向き過ぎるのか、一度地面に転びそうになったので、俺が支える役目。
動かす箇所のどこかに意識が行くと、そこばかりに集中するせいで、足下や他が疎かになるらしい。
多分、これがちぐはぐになったり、動作が上手くいかない原因だと思われる。
慣れている動きや、無意識でもなんとかなる動作なら問題ないようだけど、新しく始めた事に対してはそうなってしまうようだ。
「ワフー!」
「ママはやーい!」
「キャゥー!」
クレアが投げた枝は、スタートダッシュが早いレオがキャッチし、咥えたまま戻る。
やっているうちにどうしたらいいのかがわかったのか、フェリー達もちゃんと参加している。
ただ、今のところレオにまったく勝てないのは、リーザを弾き飛ばしてしまわないように気を遣ってくれているからだろう。
そのレオは、スタートダッシュでリーザを突き放すので体に触れる心配はないし、何度か加減をしてリーザを先に行かせたりしていた。
シェリーはリーザとあまり変わらない速度だから、そちらはいい勝負になっていたりする。
「ありがとうございます、タクミさん。すみません何度も支えて頂いて……」
「いえいえ……これくらい大した事ないからね」
「はい……役得と思っていいのかしら?」
「ん?」
「いえ、何でもありません!」
尻尾を振るレオから枝を受け取りつつ、俺に感謝や謝罪をしながら体を離すクレア。
リーザ程ではないのは当然だけど、クレアは軽いからこれくらいどうって事はない……これでダイエットをしたいと思う必要があるのか不思議なくらいだ。
笑いかける俺から視線を外し、何やら呟くクレア……口の中でモゴモゴと言っていたので、よく聞こえなかったけど、俺が首を傾げると大きく顔を何度も横に振って誤魔化された。
うーん……まさかクレアが俺みたいに役得だとか考えているわけ、ないよなぁ……。
気になる女性の体を支える……まぁ、どうしたって距離が近くなって、体に触る必要があるんだから、男にとっては大変喜ばしい事であるのは間違いない。
さすがに、顔に出さないようにしているけど、少し頬に熱を感じたり心臓が跳ねたりはするが、バレてないと思おう。
ちなみに、俺達の様子を見守っているセバスチャンさんは満面の笑みだ……あっちにはバレバレだろうなぁ。
ライラさんは、クレアが枝を投げるたびに体勢を崩すので、ハラハラとして見ていたり、俺が支えてホッとしていたりするけど……うん、邪な事を考えているのは、俺とセバスチャンさんだけだな。
「キィ、キィー!」
「ワフ?」
「ラーレも一緒に遊びたいんですか?」
「キィ!」
「わかりました! 姉様、タクミさん。ラーレも一緒に皆と遊びたいみたいなんですけど……」
「ラーレも? どうしましょう、タクミさん?」
「うーん、そうだね……」
何度も繰り返し枝を投げて取って来る、というのを繰り返していると、屋根の上に止まって裏庭の様子を見守っていたラーレが降りて来て鳴いた。
ティルラちゃんの通訳によると、ラーレも一緒に混じって遊びたいらしい。
楽しそうに見えたのかもしれないし、実際リーザやレオは楽しんでいたからな……シェリー以外のフェンリル達は、まだ一回も枝を咥えられていないけど。
「ピピ!」
「ピピィ!」
「ん? もしかしてコッカーとトリースもなのか?」
「「ピ!」」
ラーレは飛べるけど、地上での速さをレオ達と競うのは違うだろうし、どうしたものかと考えていると、ラーレの肩……というか翼に止まっていたコッカーとトリースも、羽を広げてアピール。
どうやら一緒に遊びたいらしい。
高い場所にラーレが連れて行って、地上の見下ろし方とかを教えていたはずなんだが……コッカー達はまだ子供だから、楽しそうな様子に参加したくなったのかもな。
……ラーレは子供じゃないけど、初めて見る遊びに興味を持ったんだと思う。
「んー……レオ達と一緒にっていうのは、ちょっと難しそうだなぁ。枝が飛んでいる最中なら、ラーレ達に有利だし、地面に落ちた後ならレオ達が有利だ。なら、俺がラーレとコッカー達と遊ぶかな」
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